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壱 |
| 双子の満月が赤く染まり、今にも重なろうとしている。 俺たちはそれを見上げながら『玉座の祭壇』と呼ばれる宝珠が安置されている部屋で武器を携えていた。ここには俺と北都、珠喬の竜王三人、レスカと総老師がいる。 「もうすぐだな…」 月を見ながら北都がぼそりと呟いた。そしてそれに俺たちは無言で頷く。 「双子の月が重なりしとき異界の門が解き放たれる…。いよいよだ…」 俺は本を開きながらそう言うと、外の月の光がいっそう強くなる。月が重なった証拠だ。その月の光が俺たちがいる部屋の中に差し込んでくると、窓の一部が凹凸になっていて光が屈折し、ちょうどいい具合に宝珠に当たる。すると、宝珠は眩い光を放ち、一筋のまるでレーザーで焼くように安置されている宝珠を中心にして、周りの床に魔法陣が描いていく。その魔法陣は今まで見たことがない形だった。そしてその光は床だけではなく、壁にも描かれ、俺たちもまたその光の餌食になりそうになり、慌てて外へ出る。 「な…何が起きるんだ?!」 その光景を見て北都は驚愕の声をあげる。 俺だってビックリしている。今目の前で起こる光景はまぎれない事実だけど、どこか夢を見ている気分になる。 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ… 金属音が響き渡り、あの光はついに部屋中を書き尽くした。そして書く場所がなり、その光はそのままあの宝珠の元に行き、宝珠を指した。すると、その宝珠は瞬く間に形を変化させ、巨大な門になったのである。 「こ…これは………」 その門を見て俺たちは更に驚愕した。 「鳥居?」 そう。その門は洋風の門というより、日本でいう鳥居のような形をしていたのである。そして参道に繋がっていると思われる空間は黒くどよんでいた。 「これが…異次元と繋ぐ門…」 俺はそう言いながら部屋に入ると、足元がぽうっと光りだし、それが口火となり床が次々に光りだす。 「何?」 「洸琉、それ以上動くな!!」 と北都が静止するよう叫ぶ。俺は言われたとおりにその場で立ち尽くすが、その光景は止まない。 「一体何が起きたんだ」 「これは…」 と突然俺の横から圭咒が現れた。 「圭咒!!」 「なにやらマスターが騒いでいるから出てきたのじゃが…。何ゆえ玉座の祭壇にいる?」 「これから異次元に行くんだよ。ってその前にこれは何??」 と俺は圭咒に詳しく状況を説明しないで、尋ねると圭咒は一度目をつぶり、語りだした。 「これは竜王と門が共鳴しているのじゃ。だが、竜王と共鳴しきれておらぬ」 「なんで?」 「それはこの門の状態が不安定なのじゃ…。空間と空間を繋ぐ天竜王、時間を統べる水竜王までは完璧に揃っておるのじゃが…。肝心の具現化をするにのには火竜王のみでは足りぬのじゃ。もう一人の重力神とも言える地竜王がおらぬ」 「そういえばまだ地竜王だけは見つかっておりませんわねぇ…」 と珠喬もふむっと考え込んでしまったのである。 「ってことは地竜王が揃わなくちゃこの門の中には入れないってこと?」 「そうなるのぉ…」 「じゃあ無駄足になるなぁ、完璧…」 「やかましいっ!!」 どがすっ!! とレスカが肩をすくめて言うのに俺はちょっとムッとなり、レスカの元に近づき飛び蹴りを食らわしたのだが、そのときタイミング悪くレスカは玉座の祭壇の部屋に倒れこんでしまったのである。 「うげ…っ!!」 俺はまずいことをしたと思った。たださえ未知数の部屋なのに無謀にもまた入れてしまったのである。 しかし――――― ぽう… と急にレスカの体が薄緑色に光りだしたのである。 「え?!何?!どうしたの?!」 俺は慌ててレスカに近寄り身体をさするが、レスカは気を失っていた。それでも体が放つ薄緑色の光はやまない。 「もしや…」 圭咒はレスカの体を見て驚きを隠せない。すると、北都の鈴咒、珠喬の庵咒までも出てきて驚愕する。 「どうしたの?」 「こんなことがあったなんて…」 と鈴咒はすっかり動揺してしまっている。 「ねえ、圭咒。どうしたの?」 「ち…地竜王が……」 「地竜王が?」 と俺はその言葉に眉をひそめる。そのときレスカの服が透け、浮き彫りになった体から不気味な文字というか法術陣が無数に書かれていたのである。 「これは?!」 「地竜王が…目覚める……」 『なっ?!』 と庵咒の言葉に俺たちは動揺が隠せなかった。 レスカが地竜王?! 「出てくるよ!!」 と急に庵咒が叫ぶと、守り人三人は俺とレスカを中心にして三角形に広がり、そして手を交差させ、印を結ぶ。 「天竜王様!!レスカの中から地竜王の守り人が出てきます!!それを出すのを手伝ってください!!」 と鈴咒が叫ぶ。俺はわけ分からないまま、その守り人が出てくるのを手伝うことになった。 ず…… レスカの背中の陣が割れ、そこから真新しい背中が見えてくる。 『オン ミカリソワカ…オン スワリソワカ……っ!!』 見えてくるなり、三人は不思議な呪文を唱え始めた。 するとそこからまるでさなぎから蝶が出るかのように一人の少年らしき者が出てこようとしているが、体がつっかえてなかなか出れそうにない。俺はその人の腹に手を回し、出そうとした。するとそこからようやく出てきたのはやはり少年だった。その少年は庵咒達より少し年上で紫のショートの髪、金目だった。そして出てくるなり、庵咒と同じ格好の服に身に纏う。 「……………………………」 少年は立ち上がるが、そのまま後ろに座り込んでしまった。しかし、何事もなかったようにぼーっとしている。一方レスカの方は先ほどとは大して変わっておらず、ずっと薄緑色に光っているままだ。 「……………嵐咒(らんじゅ)」 と庵咒はその嵐咒という少年を凝視していていると、今までぼーっとしていた。俺はたまたま傍にいた庵咒に尋ねた。 「ねえ、これが地竜王の守り人?」 「うん。この子は嵐咒っていうんだ。地竜王を守る者でありながら地竜王の生まれ変わりに取り憑いく性質を持つ異形の守り人」 と言った瞬間、ぼーっとしていた嵐咒が動いた!! ひゅっ!! 「………………久々似合うかと思ったら随分手厚いご挨拶だねぇ」 と突然攻撃してきた嵐咒をすれすれでかわし、不敵な笑みで庵咒は言った。すると、嵐咒もまた笑みを浮かべた。 「そっちこそ…相変わらず皮肉たっぷりの挨拶だな」 「ふん…っ」 と庵咒は鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。 「ってそれよりレスカは!!」 「大丈夫だよ、天竜王様」 と慌ててる俺に嵐咒は冷静に言った。 「え…?」 「今…地竜王の力を継承してる。でも今回はちょっとヤバイかもね……」 「ヤバイって?」 「地竜王の力と記憶が綺麗に半分に分かれちゃったんだ。僕は力の方しか持っていない。地竜王は不安定な竜王なんダヨ。 重力、時間、空間の三つの反作用をすべて受け止める竜王。不安定なだけに守り人は二人なんダヨ。もしかしたら別のモノが記憶と静咒(せいじゅ)を持ってるだろうね」 「そうなの?」 「……うん。どちらが本物の地竜王となるか分からないけどね」 「もし地竜王に選ばれなかったら?」 「その人の存在が消える」 と俺の質問に嵐咒は残酷な答えをさらっと言うので俺たちは何も言えなかった。それを知ってか知らないでか 「さぁて…そろそろ地竜王様のお目覚めだよ」 と嵐咒はにまぁと笑い、レスカの方を見ると、レスカは意識を取り戻し、さっきまで光っていた身体も元通りになり、むくりと起き上がった。 「レスカ!!」 「あ…洸琉………おはよう…」 「お…おはよう…」 とろ〜んとして寝起きだと言わんばかりの表情に俺は少し動揺した。 こんなとろ〜んとしたレスカ初めて見た……。 「俺……ずっと水竜だと思ってたけど……実は地竜王の力を持っていたんだね……」 「うん…」 「さっき地竜王の力の源に触れた。でも、力を得ただけで記憶だけは無理だった」 「しょうだないよ、地竜王様。記憶の方はもう一人が持ってるんだから…」 「君は?」 と嵐咒の存在にレスカは小首を傾げた。すると、嵐咒は一瞬きょとんとなるが、すぐに苦笑いをして言った。 「そっか…。記憶がないから俺のこと覚えていないんだね。俺は嵐咒。地竜王様の守り人の一人。よろしくね」 「よろしく…」 「まあこれで一応四竜王全員揃ったことだし…、微妙に不安定だけど門を通ることができるよ」 そう言って嵐咒は門を指したのである。俺たちはそれに従うように目をやると、確かに先ほどとはうって変わって黒から薄い水色になっていた。 この光景を見て、北都は唾をごくりと飲み込み呟いた。 「これが…ザガルへ通じる門か……。ホントに行けるのか?」 「たぶんね…。でも行かないことには先に進めないよ」 「そうだな…」 「うん…」 俺たちは門を再び見て改めて不安に刈られる。 「さあ…行きましょう。この門は翌日の夜までしか開いておりませんわ」 と珠喬は行くよう促す。それに俺たちは頷き前に進みだした。すると、足元がぐにゃりと歪み、空間が変化する。 もう異次元へと移動したのか?! 俺たちはあちこち目をやりながら見回していると、目の前に電子的な機械都市が広がり、まるでテレビのチャンネルを変えるかのようにあれこれ場所が変わる。 「これって…」 「もしかしたらザガルの記憶かもしれない」 『…………………………………………』 と俺たちが喋っている横で守り人四人は顔をしかめて黙っていた。 あの四人は何か知っているのか? 『……………来テシマッタ』 と急に誰かが呟いた。お互い見合わせるが、誰が発したか分からない。結局そのままその空間の流れに従うことになったのであった。 |
| 続く→ |