「ここは魔物だけじゃなくて、秘宝までも眠ってるの?!」
 俺は安曇の言葉に思わずオウム返しに尋ねた。安曇はきょとんとしたまま頷いた。
「ええ。ファルド様がどこかに隠したと住民達は言っていたよ」
「まあ、秘宝があるかどうかはさておき。先に住民達とそのファルドっていう人の生の未練や執着を解いて昇華してあげることが先決だな」
 と北都はそう言って、最優先の目的を提示する。それには俺は反論するつもりもないし、安曇はむしろ歓迎しているようだと思う。
 でも…安曇は住民が昇華したらどうなるんだろう?住民と一緒に溶けて消えていってしまうのだろうか…。
 ずどぉぉぉぉんっ!!
 そう思っている矢先に俺達の前に血塗れになって倒されたビーストハウンドが落ちてきた。そしてその上から総老師が血塗れの槍と苦戦したような風格で降りてきた。
「あ。総老師!!」
「お。これは、これは火竜王様と皇子様。この老いぼれも老いたものですなぁ…。たかがビーストハウンドごときにここまで苦戦を強いられるとは…」
 ごときってあんた…そーゆーことを笑顔でさらりと言うかね…。この総老師は一体昔何をやっていたんだ…?
「水竜王様と地竜王様は新たに出た魔物どもと戦っておりますぞ。
 その前にその少女は一体何者ですかな???体が透けておりまするな。明らかに生者ではありませんな。
 もしや…ここの住民が思いを集めて作り上げた集合体ですかな???」
 とさっきの笑顔が消え、鋭い視線で安曇を見て、ずばっと言い当てる。
 さっすが総老師の地位にいるだけはあるな。勘が鋭い。
「まあ、思いの集合体であろうとも我らの味方であればなんでも構いませんがな…。
 ですが…」
 ひゅっ
 空を切って、総老師は槍を回転させ、安曇の喉仏に槍の先端を当てる。前触れも無い出来事なので、俺も北都も、やられた当の本人の安曇もぴくりとも反応することが出来なかった。
 そして、総老師は鋭い眼光のまま静かに言った…。
「そちがどんな目的であれ、我らの目的を邪魔するのであれば容赦は致しませんぞ」
 その言葉に俺らも安曇も凍りついた。
 総老師の厳格な雰囲気が一気に出てきたような気がする。
 ずぅぅんっ
 そこに遠くのほうから地響きの音が響いてきて、俺らがいるところも微妙に揺れる。
「珠喬たち大丈夫かな?」
「どうだろうな?あの地響きは戦闘によるものなのか、それとも風化によって建物が崩れただけなのか見当がつかん」
「だね」
 と俺と北都が言っていると、急に足元から殺気が漲ってくる。
 もしかして…
「みんな、飛べ〜〜〜〜〜〜〜!!」
 俺の叫びに北都たちははっと気づいて、俺に従うように飛ぶと、タイミングが合ったように地面から外見はまるで人型をした魔物が数体俺達に向かって襲い掛かってきたのである。
「え?!人間?!」
「いいえ、違うわ!!姿形は人間でも理性を失って魔物同然よ!!生への執着が強い住民が生み出した魔物よ!!」
 驚く俺らに宙に浮きながら安曇が説明する。
 その魔物は逃がした俺達を諦めず、更に飛んで襲い掛かってくる。
「ちぃっ!!しつこい!!」
 俺はくるりと回転して後ろに後退する。それに習うかのように他の三人も後退して着地する。
「ぐるるるるるる…」
 魔物は人間では出しようもない低い声で唸り、こちらを凝視し、しばし睨み合いとなる。
 確かに人間らしさがまったく感じられない…。まるで人間の皮をかぶった魔物のようだ。
「る゙あ゙ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 と魔物が俺達に再度襲い掛かる。すると、総老師は何を考えたのか、槍を俺に渡し、俺達の前に出る。
「皇子様、お下がりください!!」
 そう叫ぶなり、裾を捲り上げ、左腕にベルトで巻きつけられた6つの吹き矢を自分の顔の前に出し、吹き矢から伸びる紐をパンパンに張る位引っ張り、瞬時に構え、即座に右手を離す!!すると、吹き矢がいっせいに魔物たちに飛んでいき、見事腕に、顔に命中する。すると、たちまち魔物たちは苦しみだして倒れた。
「やったぁ!!」
「………………吹き矢に毒を仕込ませたな」
 と喜ぶ俺の横で北都が渋い顔で言った。
 ?
 毒を仕込むぐらい、いいんじゃないのか?戦闘において卑怯もへっちゃくれもないと思うんだけど…。
 そう思う俺をよそに北都は表情を変えぬまま、総老師に近づき、低い声で言った。
「その毒…。今じゃ使用禁止になった即死効果のある猛毒だな…」
『え?』
 北都の言葉に俺と安曇は目が点になった。そして総老師も諦めたかのように頷いた。
「ええ。購入したときがちょうど使用禁止になった年から3年前でございました。そして、使用しないまま月日が経ち、今日使用したのでござます」
 使用することが無かったって…。なんでまたんな危険な物を買ったんだ???
「だが、この場ではしょうがないことか。ここには万と魔物がいそうだし…。あと何発使える?」
「は。100発でございます…」
 と総老師は吹き矢に矢を仕込みながら淡々と答えたので、俺達はしばし硬直した。
「そ…そんなに買ってたの……???」
「いやぁ…。腕に装着式のが一つ400ピコルの大安売りでして〜。おまけに矢も10ピコルでしたので買わずにはいられなかったのですよ〜〜〜。はっはっはっはっ!!」
 とけらけら笑いながら言うので、俺達は更に脱力した。
 即死効果のある矢が10ピコル…。安すぎ…。駄菓子屋で売ってる飴玉と同じ値段じゃん。そしてそれに手を出す総老師も物凄い変かも…。
 がご…っ
 しまった!!さっき魔物が地下から這い出てきたからその影響で地盤が…っ!!
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
 そう思っていると足元が急に崩れ、俺達は真っ逆さまに落ちていった。そして、そのあと何が起こったのかは意識からブラックアウトしてしまったので、分からなかった。

 ぴちょん…っ
「う……っ」
 俺の額に雫が落ちる。その冷たさで俺は目が覚めた。目の前にはぽっかり穴が開いた道だった部分が天井となって見える。俺は瓦礫の上で横になっていたのである。しばらくぼーっとして状況把握に努めたが、落ちたところまでしか覚えていない。
 俺…落ちた後ずっとここで気絶してたのかな…???その間に魔物には襲われなかったのかな???
「うん…。襲われてないよ。僕がいるからね」
 と俺の心情を読み取ったかのように女の声が俺の耳に入ってきたので、俺はがばっと起き上がった。すると、目の前には見知らぬ女性っぽい人がちょこんっとまるで電柱のような瓦礫の上で座っていた。その人は右側は耳まで、左側は肩の下あたりと斜めに切ったストレートの深紅の髪、翡翠の瞳。そしてある国の軍服を着ていたのである。
 この容姿と軍服は……。
「その軍服は…ケシュトリアの……!!」
「そう。初めまして。帝国の王子様。僕はケイト=マクデリア。ケシュトリアの軍人さ」
「その髪の色と瞳はただの人間じゃないな。火竜族だろ?」
 俺は真剣な顔で言うと、ケイトはひゅぅっと口笛を鳴らし、感心して言った。
「へぇ!!さっすが帝国の王子様。外見で一発で見分けるとはさっすがぁ〜〜!!」
「その容姿でケシュトリアと言ったら火竜族しかいないだろ」
 と俺がツッコむと、ケイトはん〜っと口を尖らせてしばし考え込むが、すぐに笑顔になって言った。
「そーだったね♪ケシュトリアの住民の7割方は我ら火竜族だもんね〜。国を統制してるのも、住民も火竜族だったもの…」
「君は誰?なんでこの廃墟にいる?」
 俺は警戒しながら尋ねると、ケイトはきょとんっとなりながら言った。
「あれれ???知らないの?僕、地竜王の記憶を持った片割れだよ」
「は???」
 と俺はケイトの言葉に目が点になって警戒心が一気に飛んだ。
「じゃああのゲートをまさか…」
「そ♪履歴なんかをちょこちょこっと調べて解析データ侵入して自分の能力を合わせて再度こじ開けたってワケ♪
 いやぁ〜。結構の賭けだったのよ〜。場合によってはザガルとは全く違う異世界に飛ばされる可能性もあったんだから♪」
「おいおい…」
「おまけにゲートの中はザガルの住民の怨みと悲しみで満ち溢れてどす暗い上に魔物まではびこってて倒すのにも一苦労したしねぇ〜…。
 で、着いたら着いたで迷子になっちゃって悲鳴が聞こえたからそっちの方に行ってみたら君が瓦礫の上で横たわってるのを見つけたんだ〜。あと火竜王と総老師と謎の少女?の姿もあったけど、三人ともこれよりももっと下に落ちちゃったから静咒に頼んで、そっちの方を任せてあるよ」
「下に?!これ以上下に何かあるの?!」
「さあね?僕にも分からない。穴がまた開いて三人とも気絶したまま落ちていっちゃったから…。君もすぐ動ける体じゃないのは百も承知でしょ?」
「な?!」
 指摘されて俺は思わず立ち上がろうとしたが、腹と足が激しく痛み、座り込んだ。
 く…っ。あばら数本と足の骨がいっちまってる…。確かにこいつの言ったとおりすぐに動ける体じゃないな…。
「でしょ?僕は回復魔法や再生魔法を使いこなすことが出来ないから回復させることが出来ないんだよね」
「なるほど…。だから俺が目覚めるのを待っていたわけか…」
「そーゆーこと♪君らには僕もたんまりと用があるんだ。ここで死なれちゃかなわないからね。とりあえず応急処置はしておいたよ♪」
「応急処置ねぇ…」
 ってどこにも処置された形跡無いんですけど…。
 俺はそう思いながら回復魔法の印を組み、まずはあばらを。そして次に足を直していった。
 とケイトはその作業を見守りながら、周りの警戒を怠らなかった。
 さっすが軍人。警戒を怠らないな。
「………王子様、回復するの早く出来ない?」
「一応やってる。これ以上は無理。たださえ怪我の状況がヤバイんだから……」
 しゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…っ
 回復魔法が俺の怪我した部分をどんどん治していくが、あばらの方はなかなか治らない。
 ちぃ…っ。治療系は魔力を消費するな…。
「なるべく早く治して。三人のほうがちょっとヤバイことになったみたい」
「え?!」
 ケイトの言葉に俺は驚き、思わず回復魔法を途中で止めてしまった。
「それってどーゆーこと?!」
「つまりはこの下に魔物がわんさかたかってるってこと。
 って回復魔法止めてないでさっさと治してよ」
「あ…」
 ケイトに指摘されて、俺は慌てて回復魔法を再度唱えて回復させていく。
 三人のところに魔物がいる!!早く行かないと!!
 そう焦るのか、魔法の方も力が上がり、あっという間にあばらが回復した。
「よしっ!!もう大丈夫!!」
「そう。じゃあ行こうか!!」
 そう言うなり、俺の手をがっと掴み、瓦礫の山の片方に大きく開いた穴に飛んで落ちていく。
 すると、この世界に入ってくるときと同じように何かの映像が俺達の前に流れていく。その映像は大勢の人が何かに対して願い集まっていたものだった。
「え?!今のは?!」
「どうやらザガルの記憶の断片ってところじゃないの?」
「……あの人たちは何を願っていたんだろう?」
「さあね。僕達は異国の神だから、こっちの文化なんて分からないでしょ」
「うん」
「でもね、地竜王の記憶の断片は言ってるよ。『ここは支配者こそ神に近い存在だ』って」
「支配者が神???それじゃあ……」
「もしかしたら汚職してる場合もあるんじゃない?人の欲望は時に暴走して悪い方向に行っちゃうこともあるからね」
 と二人で話していると殺気が俺達に襲い掛かる。
「どうやら僕達招かれざる客みたいだね…」
「そうみたいだね」
 こちらも真剣な表情になり、お互い武器を出して臨戦体勢となって敵の元に落ちていくのであった。

 

続く→

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