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弐 |
| ぶぅぅぅぅぅぅん… 俺達は異次元の門をくぐり異次元の都・ザガルへ向かっている。正確には宙に浮いてその道の流れに流されていると言った方が正しい。その都は今までにない危険と未知に満ち溢れているところだ。何事も気を引き締めないとこちらがやられるだろう…。 しかし――― 「なぁ…。本っ当にこの道はザガルへ向かっているのか?」 と流され、腕を組みながら顔をしかめて北都が呟いた。その途端その場にいた全員が不満そうな顔で北都を睨んだ。 「え?ええ??」 「おまえな…。こっちだって分からないのに…んなこと聞くなよ」 「そうですわ。誰もが思っているような不安を口に出して欲しくないですわ」 と俺と珠喬は溜め息をつきながら言った。それを見て北都は慌てて弁解した。 「わ…悪かったよ!!でもさ、この道がザガルに着かなかったらどうするのかなぁって思って皆の意見を取り入れようとしてたわけで……」 「皆のねぇ…」 「意見をねぇ…」 「あ〜〜っ!!信じてねぇな!!二人とも〜〜〜!!酷い〜〜〜!」 と信用してない俺と珠喬に北都は余計困る。そこにレスカが何かに気がついた。 「おいっ!!目の前に出口が見えるゾ!!」 『?!』 レスカに言われ反射的に前を見ると、まだ遠くだが、確かに道の最終点と思わせる黒い穴が見える。 「あれがザナルへ行く出口!!」 「どれぐらいの敵がいるのか分からないゾ!!皆気を緩むなよ!!」 「分かっております!!なぁに老いぼれといえどもこの現役の槍術で蹴散らしてやりますじゃ!!」 と総老師はどこかわくわくした口調で言う。それと同時に遠かったはずの出口が目と鼻の先にいつのまにか近づいていて、俺達は一気に外に出た。 「いっ?!」 出された場所を見て俺は絶句した。なんと、出口は地上ではなく、空中にだったのである。そのまま俺達は地上に落下していく。 げげげげっ!! 『我とともに舞い上がれ!!』 慌てて俺たち全員は浮遊呪文を唱え、地面との衝突は免れた。 そして、俺達は改めてその飛ばされた場所を見渡した。その場所はまさに廃墟と化した都だった。高くそびえ立っていたはずの建物は無惨に崩れ、風化した建物が無数に立ち並ぶ、紛れもない都だった遺跡。戦争によって滅んだ都がここにある。 「これが……ザガル……」 俺達はその風景に息を呑んだ。想像していた以上に無惨で恐ろしい場所だった。 「ここが竜王たちが行きたがっていた場所…。ここには一体何があるんだ……」 『るおぉぉぉぉぉぉんっ!!』 『?!』 どこからともなく聞こえる雄叫びに俺達ははっとなったが、どこにもいない。一瞬気を緩んだそのとき、後ろから悪魔のような翼を生やし、身体は人間。しかし、顔は牛、ライオン、鷲の三つある魔物が数体現れ、俺たちに攻撃を仕掛けてきた!! 「な…何これ?!」 「ちぃっ!!ビーストハウンドか!!」 と北都が魔物を見て舌打ちした。 「ビーストハウンド?!何それ?!」 「攻撃パターンが多彩で厄介なんだよ!!しかも何種類の術をいっぺんに扱える高位の魔物だ!!」 「ええええ?!」 「来ますわよ!!」 と珠喬が叫ぶと同時にビーストハウンドの一匹が炎を吐いた!! 「氷の息吹よ!!」 ばしゅうっ!! 俺が放った氷の塵と炎がぶつかり合い、蒸発する。それを合図に俺達は分散して奴らを倒すことにした。 「こっちだよ〜!!」 と俺は一匹のビーストハウンドを後ろ向きになり、顔だけ振り返るなり舌を出し、あっかんべーをしながらお尻をぺんぺんっと叩いて挑発した。すると、本当に魔物かと思えるくらい挑発に乗ってきた。そして、一気に羽ばたいてこちらに迫ってくる。それを狙って俺は魔法を発動した。 「雷鳴召喚っ!!」 ばちばちばちぃっ!! 俺はデカイ界雷を召喚してビーストハウンドを攻撃するが、あんまり効いていなかったようだ。 さすが高位魔物だけある…。すんなり勝たせてくれないか…。 俺は舌打ちをし、構えるとビーストハウンドは再び吠えた。すると、空間から青白い矢がいくつも出現し、俺に向かって襲い掛かってくるが、俺はくるりと回転して全ての矢をよける。そして、目標物を失った矢は風化した建物に次々に刺さり、建物が音を立てて崩れていった。 うわ〜っ。むちゃくちゃ脆い…。こりゃ相当の年月で脆くなってるわ……。 そう思っていると、ビーストハウンドは波状攻撃を仕掛けてくる。それも遠距離重視の魔法攻撃ではない、接近戦で。 「わわわっ!!ビーストハウンドって接近戦もできるわけ?!」 と俺はそう叫びつつもしっかり避けて攻撃していたりする。空を蹴り走り、相手の後ろに回り、蹴りをかます。そしてすぐさま反撃されないよう波状攻撃を仕掛けた。蹴りやパンチ、魔法を何通りの方法でぶつけていく。すると、どんどん下へ行ってしまい、気づいたときには繁華街跡地のようなところまで落ちていた。 「とどめだぁぁぁぁっ!!」 俺はそう叫び、印を結び術を唱える。そのとき俺の上から北都の声が響いた。 「爆縮!!」 グシャッ!! 超重力により、ビーストハウンドは形を留めず、その重力に吸い込まれ消えていった。 これが……重力神ならではの力なのか……。 俺はその力に驚いていると、俺の傍に北都が降りてきた。 「おまえな…。攻撃に集中しすぎて下に落ちていくなよ。ここは何が起こるか分からないんだから…」 「ゴメン…」 俺は北都の正論に言い返すことも出来ず、素直に謝った。北都は溜め息を一つついて辺りを見渡し、驚いた。 「おいおいおいおい……」 「どうしたの?」 「どうやら竜王たちが言っていたこと本当みたいだぞ……」 そう言って目の前を指差す。俺はその指の方向に視線を動かして見ると、その目の前にある光景に愕然となって後ろに数歩下がった。 目の前には…天竜王が言ってた無数の人が壁に埋もれていたのである。老若男女を問わず、その中には顔が見れないものや見えても悲痛な表情しかなかった。 「これは……この都に住んでいた人間か?」 「たぶん。でもこの人たちってもう何億年もこのままなんでしょ?未だに原形を留めてるなんて…」 『来てしまった…』 『滅びにきてしまった…』 『我らと同じようになりにきてしまった』 とどこからともなく声が響いてくる。 「な…なんだ……???」 俺達は辺りをきょろきょろと見渡した。しかし、そこには俺達以外生きた人間はいない。いるとしても死んで壁に埋もれた人だった人。すると、目の前に一人の女性が生前の姿で現れたのである。年は北都と同じぐらい。灰色の肩ぐらいの髪にゆったりとしたボーイッシュの格好をした人間であった。しかし、よく見ると体が透けている。 「異国の人ですね…?」 とぽつりの少女は口を開いた。俺たちは警戒心を解かず、構えたまま頷いた。 「やはり…。また私たちを滅ぼしに来たの?」 『滅ぼす???』 少女の言葉に俺達は揃って首を傾げると、少女は「え?」と驚いていた。 「俺達は滅ぼしに来たんじゃない。ある人に頼まれて、この都に閉じ込められている人たちを昇華しに来たんだ。大体この都は術に失敗して滅んだんじゃないのか?」 「そうよ。でも…その発端を作ったのは異国の神だったわ」 「そうだけど…。って君は?」 「私は安曇(あずみ)。ここの閉じ込められた人たちの思いから出来上がった…ファルド様とは異なった意思を持つ者」 「人の思いが君を作ったってこと?」 俺の質問に安曇は頷いて言った。 「そう。私はここに埋め込まれて昇華できずに嘆く哀れな人たちから生まれたの。思いが一つとなって私をここに存在させる」 「そうなんだ。 ファルドってもしかしてここの支配者だった人?生きているの?」 「肉体は生きてはいないわ。あのお方もここの民と同様壁に埋められてしまっているもの…。でも…思いだけは生きていらっしゃる。例えそれが人外の存在に成り果ててしまっていても…」 「人外……?」 「そう…あのお方はもう…人でもない。神でもない。ただの化け物よ。 ただ滅びる前のときに戻りたいだけなの……。あのお方の願いを邪魔する者はどんな事情であれ排除する!!」 そう言うなり、安曇は構えたので、俺たちも条件反射で同じように戦闘体制になる。 「悪く思わないで…。私は…ファルド様のために……」 「俺達だってここの民を思ってわざわざ異国から出向いたんだからね」 と双方の睨み合いは続く。じりじりと間合いを取り、お互いの動きを見合う。一方で俺と北都は目線で作戦を伝え合い、徐々にその陣形になる。いつ戦いになってもおかしくない状態である。 ちりん…っ 緊迫した中で建物の一部が落ちて音が鳴る。それと同時に三人が動いた! 「はぁっ!!」 ごっ!! 北都の蹴りが安曇の顔面に炸裂するが、安曇は腕でガードする。その隙を突いて俺が蹴りを安曇の首に炸裂させる。 「ぐっ!!」 安曇はバランスを崩すが、向こうも反撃してくる。俺に裏鉄建をかまし、なんとか俺は腕でガードして避ける。そして俺を見送らないで北都に殴ってきた。北都もパンチを全て受け止め、逆に安曇の顔に手を伸ばして掴み、腹に蹴りを入れる。 「げほ…っ」 むせて動きを止まったところを北都は腕を背中に回し、地面に叩きつける。 「………………くっ」 「……勝負あったな」 と悔しそうな安曇に対して、北都は余裕綽々で言ったのである。 ……………もしかして、あんまり俺出番ナシ??? 「さあて、ここの状況を詳しく教えてもらおうか?未知の世界に来ていきなり邪魔者扱いされて攻撃されたもんじゃたまったもんじゃないもんなぁ…」 「く…っ」 「説明してくれるよな?じゃなきゃこの手を折る」 と北都は安曇に脅しをかける。安曇は言葉には出さず降参の意を示した。それを見て北都は力を入れていた手を緩ませ、安曇の上からどいて服についた埃をはたいた。 「さあて、状況を説明してもらおうか。この世界を…」 「……分かったわ。この都市はもう人が住めるところじゃない。人や世界を恨む気持ちがいっぱいで…思いが魔物を呼び出し作り出したの」 「人の思い…?」 「埋もれ死んでいった人達の思い。人だった頃を夢見て思いを募らせるの」 「じゃああんな凶悪な魔物も…」 「そうよ。あれも人が思いから作られた魔物…。ここにいる魔物は理性がない」 そう安曇が言った瞬間、魔物が建物を壊して出てきた。 「があぁぁぁっ!!」 と魔物はここの唯一の住人であるはずの安曇に襲い掛かってきたのである。 やっぱりここの魔物は理性がないのだ!! 俺は魔物に蹴り、吹き飛ばす。 「ホントにここの魔物は理性がない!!」 「だから言ったでしょ!!理性がないって!!ここの魔物は生きている全てを食い尽くすのよ!!」 「聖者と成す裁きよ!!」 どぉぉぉぉんっ!! 北都が放った真っ白い炎が魔物に直撃し、青白く変化して燃え盛る!北都が放った術は負の感情を放つ魔物やゾンビなどを一撃で滅ぼすことが出来る高度な術である。魔物は直撃して一瞬のうちに滅びたのであった。 「ふぅ…っ。ホントに理性ナシってやつだね…。これじゃあ街の人たちを昇華しようと術を発動する前に魔物が反応して攻撃されそうだな」 と北都はあっさり分析するのである。安曇は複雑な表情で言った。 「ここは魔物が巣食うだけじゃないのよ。ここには秘宝がある……」 秘宝?!それって竜王たちが探してるモノ?! |
| 続く→ |