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七 |
| びゅおぉぉぉぉぉぉ… 風がまるで何か嫌なことを予兆するかのように荒れていた。 「だあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 とレスカが宙に浮きながら、頭を抱えて叫んだ。他の奴はただ何も言わず困り果てていた。 なんで、こんな状態になっているかというと、ミスト宮殿って簡単に見つかると思っていたら、見つからないのだ。安曇の記憶を頼りに行ってみたら、建物の存在すらなかったのである。おかげで、俺たちは珠喬とミスト宮殿を同時に探さなければならないという状況に置かれたのである。 「…………………………………………………」 カイトは何かを決心したような瞳で、何も言わず黙っていた。 おかしいな。こんな暗いムードになったら、いつものへらへらした笑いを飛ばしてにぎやかにするのに…。 そう思っていたら、カイトは何かを決心したらしく、レスカに近づいた。 「ねえ…」 「ん?」 「僕達は地竜王の半分コなんだよね」 「ん…?ああ。そうなるな」 「だったら、ここで決着をつけようよ。どちらが地竜王の資格を得るのか……」 「はぁ???」 とカイトから発せられた意外な言葉にレスカは素っ頓狂な声をあげた。 「何を言い出すのかと思ったら、何を言い出すんだよ!!」 とレスカは半切れで怒鳴った。だけど、カイトは意志を曲げずに言い返した。 「だって、僕達半分コのままじゃ王子様達の足手まといになっちゃうよ!!いくら僕らの術が魔導士Aランク並に使いこなせても、今度の敵は未知数で予測できないんだよ!!それならあるべきものはきちんとあるべき場所に還らなきゃダメなんだ!!」 「おまえ、自分が言っていること分かってるのか?!どちらかが地竜王と決まった途端どちらかは消えるんだぞ!!」 「分かってるよ!!だけど、それでこの世界が救えるなら喜んでこの命をくれてやる!!」 とカイトは既に意を決めていたのである。その眼差しにレスカは何も言えなかった。 「僕は消える覚悟はある。それが運命だと思えば消して怖くない。闇竜王の暖かき懐に還るだけだ」 とアニマを信じる者らしい考えを出すのである。その言葉に反応してレスカは黙り、総老師は感心したかのように、顎鬚を撫でた。しばらく黙った後、レスカは深い溜め息をついて根負けしたように言った。 「…………………分かったよ。俺も覚悟を決めて、地竜王の資格がどちらかあるのか試してやるよ」 「うん」 そう言うと、カイトは俺たちをぐるっと見渡した後、手を差し出した。その手にレスカは握った。すると、二人の体から嵐咒と静咒が出てきたのである。 へぇ…。嵐咒は寄生タイプだと分かっていたけど、静咒も嵐咒同じ寄生タイプのガーディアンなんだ。 そう思った矢先、カイトの動きに変化があった!!がくんっと背中が後ろにそり気絶しているような行動になった。 それを見て俺の耳元に威輝さんの声が響いてきた!! [まずい!!洸琉!!地竜王を置いてここから皆を連れて逃げなさい!!できるだけ物陰に隠れるように!!] え?!なんで?! [いいから!!] と切羽詰った声で威輝さんは言ったのである。俺は仕方がなく、威輝さんの指示に従い、総老師、北都、安曇の服をつかんでできるだけ物陰に隠れるような場所に…。 「一体なんなんだよ!!」 状況が掴めない北都は物陰に隠れた途端そう叫んだ。 そりゃそうだ。説明ナシに俺が引っ張って連れてきたんだもんなぁ…。 「4代前の天竜王が逃げろって言ってきたんだ。あの二人を置いて逃げろって」 「なんで逃げなきゃいけないんだ?」 ともっともらしい反応が返ってくる。それに俺は答えることができなかった。 そんなこと言われたって…。 [じゃあ、説明してあげるから、しばらく体を借りるわよ」 そう言うなり、俺の意識は飛び、気づいたときには幽霊のように異界の花畑にいて、俺の肉体を水晶で見るようなカンジになっていた。 「あ…あれれれ……???」 「よぉ。洸琉か」 とそう言って俺の隣に座っていたのは、シヴァさんだった。 「な…なんでここに……?!」 「そりゃこっちのセリフだ。威輝に体を預けたのだろうが」 「威輝さん?!そういえば……」 俺ははっとして水晶を見やった。そこには俺の体を乗っ取った威輝さんがちょうど真実を語り始めようとしていた。 「あ…あなたは……」 「私は威輝。洸琉が言っていた4代前の天竜王の依り代。 貴方達が納得していないことを全部語ってあげる。 地竜王を置いて何故逃げたのか。 その一。あの場に居れば地竜王の御力によって五体吹っ飛ぶ可能性があるからよ。それだけ甚大な力だということ。 その二。あの場はちょうどミスト宮殿の上空だから。どっちか依り代のなくしたらフォルトっていう神がどちらか肉体を乗っ取るから時間稼ぎをするため」 『な?!』 威輝さんの衝撃的な言葉に俺を含め全員が叫んだ。シヴァさんのほうは前から予測していたかのように何の反応もナシ。 「シヴァさん!!」 俺はシヴァさんに詰め寄った。すると、シヴァさんは俺の頭を撫でながら真剣な瞳で言ったのである。 「洸琉。これが運命なんだ。片方はただの地竜王の力を安定するまでの捨て駒であって、生きる道はもうない。魂は異界に導かれ死んだときの姿を留めるだろう」 「だけど!!」 「それが……ずっと昔から地竜王を受け継ぐ者達の逃れることができない定めなんだ。 どちらかが受け継ぐか見定められたとき、資格を失った者は自然と宝玉となり、竜子の間で御神体となる」 「じゃあ…」 「どちらか片方は御神体になる前に神と同等のフォルトという人物に体を乗っ取られる。御魂は異界に先に来るがな」 とシヴァさんはさらっと言い放つ。一方威輝さんは紙と筆と絵の具一式をどこからともなく出し、クナイで俺の人差し指を軽く切り、15色の絵の具がパレットの上に乗っている一つ一つに俺の血を落としていく。 「我は洸琉。我は全ての風を司りし神。全ての世界に存在せし御魂の導きに従い、我ここに願い奉る」 と絵の具を筆につけながら、威輝さんはそう言った。 「其は獣。片方は熱き炎を抱き、片方は凍える息吹。だが崩れぬ思いの御魂が在りし者。空を駆け巡り我を助ける力と化せ」 そう言いながら威輝さんの魂が宿る俺の指先は筆を手にしてしゅるりしゅるりと一件大きな狼にも見え、薄い水色の毛並みに銀の瞳、額には同色の銀色の一角をはやしている獣と赤い毛並みに金色の瞳、額には金色の一角をはやしている獣の二頭の姿を描いていく。 「血魔具の力により、其に力と姿を与えん」 ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 「画料転移!!実質転換!!我が命の下其に魂を吹き入れん!!」 そう叫ぶと獣が書かれた紙がふわっと何もしてないのに持ち上がり、風が集まる。 「我は求めん!!其はなんぞ?!」 『我は水鬼(みずき)…』 『我は炎鬼(えんき)…』 と威輝さんの問いかけに双方の獣はすっと瞳を開いて応えた。 『我らは我らを産みし汝に盟約を結ぶ。真に我らが必要なとき我らを呼びたまえ…』 そう言って二頭は跪いて消えたのである。それを威輝さんは大事そうに丸めて紐で括った。 「さて、これで洸琉も召喚士の仲間入りになったわね」 『は???』 とシヴァさん以外で俺も含めた全員が素っ頓狂の声をあげた。 「?!?!?!」 俺は水晶を指差し、シヴァさんを見ながら口を金魚のようにぱくぱくさせた。シヴァさんは溜め息をついて----- 「……………仕方がない。なっちまったもんはしょうがないんだから立派な召喚士になれよ」 と肩を叩いて諦めろというカンジで言ってきたので、俺は灰になった…。 もしかして、かなりの勢いでいいように使われてる??? 「召喚士は己の血を盟約を交わすときの最低条件だしなぁ…」 「てか…。なんでまた威輝さんは俺の体を乗っ取ったの?」 とシヴァさんの話に割って入った。すると、シヴァさんは「え?知らないの?」と言わんばかりに目が点になった。 「そうか…。おまえ威輝から話を聞いてないのか……」 「なんのだよ?」 「威輝はな、一度ザガルを訪れたことがあるんだよ」 「は???」 来たことがある?! 「ってことは四大竜王勢ぞろいで?!」 「まあ、そうなるな。 あやつも初代様から命じられてな。行ったのはいいが、しくじって撤退するのを余儀なくされたんだよ。そのときは俺が力を貸したが、それでも力不足でなぁ…」 「じゃあ未練があったんだね」 「いや、『次に任せればいっか!』って軽く考えたぞ」 ずるるる…っ と俺はシヴァさんの意外な答えにその場で脱力した。 次に任すって…最初からやる気なかったんかい…っ!! 「来るよ!!」 何の前触れもなく、威輝さんが叫んだ。俺も含め全員はっとなると、一気に衝撃波が押し寄せ、威輝さん達に襲い掛かるが――― 「雲衝烈破(うんしょうれっぱ)!!」 と威輝さんが叫ぶと、衝撃波は威輝さんを中心にして左右に割れて過ぎていく。 皆無事だ…。今の術は一体……… 「衝撃波を破壊する天竜王独自の術…………」 ふと思い出したかのようにシヴァさんは呟いたのを俺は聞き逃さなかった。 これもまた天竜王の力・・・。 俺はその力を見て、改めて俺の力は無力だと感じた。 俺の体を乗っ取ったところでも、結局は天竜王の力に頼ってしまう。不甲斐ないと思ってしまう自分がいるんだ。 「前方に地竜王の力を確認した!!どうやら…うまく継承しあったようね……」 威輝さんはそう呟くと、一気に空に駆け抜けていこうとする。その際、残った全員に命令した。 「いいっ?!私が合図するまでそこで待機してなさい!!火竜王は6代前か18代前の火竜王に体を預けてまず水竜王の居場所を!!」 「分かった!!だけど……」 と北都は少し戸惑いを隠せない表情で威輝さんを見つめていた。が、言いづらそうに口を開いた。 「男の格好である洸琉の姿で女口調はまるでオカマみたいだぞ!!!」 ずべべべべべっ!! 北都のマジ顔で力いっぱい言う言葉に俺たちは何も考えずその場で思いっきりひっくり返ってしてしまった。 こ…こいつわ……。TPOっつーもんがないのか…。 「やれやれ…。今回の火竜王には緊張って言葉がないのか……」 と今回ばかりはすっ転ばずにはいられないシヴァさんは起き上がりながら呆れてた…。 「あ…あんたねぇ…」 と威輝さんは口元が引きつりながら怒りを必死に抑えている。 あああああ…。威輝さん、北都の性格知らないだっけぇ……。威輝さん大人なんだから穏便に済ませてくださいぃ…。 そう心の中で願っていると、威輝さんは深い溜め息をついて、 「今はそれどころじゃないから、あとで覚えておきなさいよ」 と冷静に言って再び飛び立ったのである。それに対して俺は胸を撫で下ろしたが―――――ー 「ああ。適度に忘れておきま〜〜〜〜〜すっ」 ぴしっ と北都は飄々と余計な一言を言ってくれたおかげで、その場の空気が一瞬に凍る。 ホントにこれで大丈夫なのか〜〜〜〜〜?! |
| 続く→ |