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六 |
| こつこつこつ… 俺たちは慎重に慎重を重ね、神経を尖らせながら宮殿の奥へと進んでいく。 中も暗い上に、この静けさもまた不気味さをかもし出している。 一刻も早く珠喬と合流してフォーティタを退治しないと!! 「誰だい?僕を倒そうとかふざけたことを言っている奴は……」 『?!』 俺の心を見透かしたようにどこからともなく声が響く、俺たちの心臓は跳ね上がり、条件反射的に臨戦体制になる。 「ふぅん。結構骨のある奴がいるっていうからどんな奴かと思ったら……。異国の神々かぁ……」 と嬉しそうな声で言うのだ。そして、俺達の前に一見ほっそりとした男性に見える魔物が出現する。 「……………フォーティタ」 安曇が低い声で呟く。その声にぴくりとフォーティタという人型の魔物は反応した。 「ふぅん。ザガルのいい思い出だけが集まっただけの集合体がなんでここにいる?君は僕を怖がってさっさととんずらしたじゃない……。 今もそうなんだろう?できそこないが……。今ココで無に返してあげるよ…。僕は親切だからね……」 フォーティタはそう言うなり、手の平に魔力を溜めて一気に俺らを巻き添えにして重力魔法を放つ。俺たちは咄嗟に四方八方に散り、魔法の餌食にならずに済んだが、本来俺たちがいた場所は重力魔法によって無残に黒い穴だけが残る。 「な…っ!!」 「おまえ、同じ同胞までも殺す気か?!」 「同胞ぉ〜〜???こんな出来損ないと一緒にしないでくれる?異国の神々さんたちよ」 と鼻で笑うフォーティタだったが、一度目をつぶってこちらを見たときには表情が怒りに満ちた顔だった。 「そんな胸糞悪い輩と一緒にするな!!反吐が出る!!」 そう言うなり、重力魔法を四方八方に連発しする。俺たちは個々に分かれて宙に浮く。 「へぇ…。異国では誰でも空を飛べるんだ……。いいねぇ……」 と先程のへらへらとした表情になり、くくくくっと笑い出す。 「空を飛ぶハエの如く……踏み潰してあげるよ……。僕の力は無限大なんだ……。 人は愚かだからね。こっちが頼んでもいないのに動力源である負の力を増大に出してくれる…。 ほらぁ…。こんなふうにね……」 と手を広げる。 おおおおおおおおおおおおおおおおお……っ とどす黒い負のオーラが悲鳴と共に濃い霧のように集まり、フォーティタの体の中に吸収されていく。 「まさに……破壊神………」 「そうだよ……。僕は神すら恐れる破壊の使者。誰に求めることができないんだ……」 そう言って高笑いをしだすフォーティタ。 「可笑しい!!なんて可笑しいんだ!!異国の神々は僕にすらひれ伏す!!ファルドのくそじじぃも僕を恐れて召喚をやめた!!世は僕の成すがままだ!!あははははははっ!!」 とフォーティタは狂ったように高笑いをすると同時に重力魔法をまたしても連発してくる!! 「さあ、異国の神々よ!僕を敬いひれ伏せ!!そして僕を神として奉るんだ!!祝宴を開け!!」 そう言って更に重力魔法を放つ。 ちぃ……っ!!俺はあいつに対抗できるほどの重力魔法を使うことができない……!! 俺が舌打ちしていると、フォーティタの周りに浮く重力魔法の塊の一つが音を立てて破裂した。その音に俺たちもだが、フォーティタが一番驚いていた。 「僕の力が何かの力と相殺した……」 「いい気になるなよ……。魔物ふぜいが……!!」 そう言ったのは北都だった。 そうか!!相殺させたのは北都の重力神の力!! …………って。北都…もしかしてかなり切れてますこと???? 「君はなんだい……?僕の力を指一本で壊すなんて……」 「俺は重力神……別の名を火竜王という……」 と北都は目を据わらせたままそう名乗った。それに対してフォーティタは少し顔を強張らせたのである。 「へ…へぇ……。異国の神もなかなかやるじゃないの……」 ばしゅぅっ!! 「ひぃ…っ!!」 と北都が指をぱちんっと鳴らせた途端、フォーティタの傍にあった重力の玉も破裂する音にフォーティタはまるで子供のように身を縮ませた。一方俺たちは北都が切れたこととその力にただ唖然となって見守ることしかできなかった。 「…………なんだ。これしきのことでビビるなんて、大したことないな。破壊神の名が廃る……」 そう言いながら、北都は床に着地する。フォーティタは未だビビったまま。 「火竜王は凄い力の持ち主なんですね……」 と唖然となりながら安曇は感想を述べた。俺もまた北都の力が凄まじいと思った。 噂でこんなことを聞いたことがある。北都の逆鱗触れた者はあっさりと生きて帰れない…って。それはなんでか分からなかったけど、これを目の当たりにすれば誰だってビビるわな……。 「重力っていうのはなぁ……!!こうやって使うんだよ!!」 そう言って北都は人差し指を振り上げ、一気に振り下ろすと、フォーティタの周りが一気に凹む。 「ひ……っ!!」 小さく悲鳴をあげるフォーティタに北都は不敵の笑みを浮かべて近づいていく。一方フォーティタは腰を抜かして座り込むが、器用に後ろに後退していく。 「今のは手加減して重力10倍でやってやったんだよ」 そう言いながら北都は胸の前で手を組みぽきぽきっと骨を鳴らす。そして、不敵の笑みのまま呟いた。 「次はこの倍の100倍をお見舞いしてあげるよ……」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 とフォーティタは精神的に耐えることができず、狂ったように悲鳴をあげ、宮殿の奥へ逃げ腰のまま走って逃げていく。 「あ!!待て!!」 と俺たちも慌てて追いかける。 「はあ…はあ…。どこへ逃げたんだ!!」 と俺たちは走りながらフォーティタを探す。何故走っているのかというと、魔力の温存のためである。体力もそこそこ温存させておきたいところなのだが、奴はどうやら魔法でしか効かなそうという判断でこーゆーことになったわけである。まあ…誰か一人回復系に回って回復させればいいことなんだけど……。 「……ったく。破壊神だの、敬えだの、好き勝手言っておいて逃げるなんて!!」 と十字路に差し掛かったところで足を止め、一番ビビらせた原因を作った北都が汗を拭いながら言った。そして、安曇に目をやり 「安曇。フォーティタと初めて対面したときどこで会った?」 「え…っと……」 「ゆっくり…確実に思い出せ。おまえの言葉がここにいる全員の戦陣の運命を左右させる」 「はい……」 そう言って安曇は思い出そうと必死になって目をつぶる。そして、目を開き、左を指差し… 「あっち!!あっちにフォーティタを奉る祭壇が……!!」 「らじゃ!!」 と俺たちは再び走り出した。その後ろにあの男の子がいることにも気づかずに…。 「フォーティタ!!出て来い!!」 祭壇に着くなり、北都は大声で叫ぶが、フォーティタの存在はどこにもなかった。ただ不気味な光が俺たちを照らしている。 「ちぃ…っ!!どこに行った!!」 「いつもならここにいるはずなのに……」 「それはね……ファルガが詠んだから……」 とあの男の子の声がしてきたのである。今度ばかりは時間は止まらなかった。そして、俺達の前にあの男の子が姿を現す。皆初めて見たと言わんばかりに驚いている。特に安曇が驚いていた。 「初めましてかな?ようこそザガルを助けに来た英雄よ。ここでこの街自身である僕が真実を見せてあげる」 「そんな……私以外に集合体がいるなんて……」 と安曇は言葉を失う。それに対して男の子はくすっと笑った。 「違うよ。僕は都市に刻まれた残留思念なんだ。君とは違う。君が生まれるずっとずっと昔からここにいる」 「え………?」 「僕を生んだのは人の思い出だから……」 と寂しそうに男の子は笑ったのだ。 「君たちは真実の扉を明けに来た。悠久の時を超えて、神の力を受け継いだのがその証拠。君たちは神々の戦いの知る資格がある」 「真実……?」 「そう。何故二つの神がぶつかったのか教えてあげる」 『二つの神?』 と俺たちは首を傾げると、男の子は頷き、顔を見上げる。すると、空間が捻じ曲げられて、先程の宮殿ではなく、廃墟となる前の風景が広がる。 「ザガルには神がいたんだ。君たちの体に宿る竜神人の神と同じように、故郷を残そうとした竜神人の神が一人ね。名はフォルト」 「フォルト……?」 「そう。フォルト。本来なら竜王と同じように竜王を名乗るはずだった女。荒狂う風や水を鎮め、人を束ねることを夢見た竜神人。自分は選ばれた者だと思い込み神になるのを心待ちにしていた。だけど――――」 「…………選ばれなかったんだね」 俺が静かに言うと、男の子は黙って頷いた。 「フォルトは絶望して竜王とは別の世界を自分一人で作ったの。 だけど、一人で作ったから都市の存在自体があやふやな存在になってしまった。それだけだったら時間をかけて直せばいい。この都市は時空と空間の狭間でしか、存在が保てないんだ」 「じゃあ月読が来るときにあの世界と繋がるのは……」 「月読の存在が偶然にも空間干渉を起こして都市を一時的に地上に君たちの世界に現れるんだ。昔の人たちは『空間都市・アルブス』って呼んでいたけど……」 「質問。なんでザガルと呼ばれるようになったんだ?」 と北都が男の子の言葉に口をはさんだ。すると、男の子は悲しそうな顔で続けて言った。 「ザガルと呼ばれるようになったのは……百蘭戦争が絡んでるんだ」 「百蘭……戦争……???」 と俺が首をかしげてオウム返しに尋ねると、男の子は答えた。 「そっちの世界で昔『蘭』という国があった。その国が戦争を吹っかけてきてザガルを含めて世界中の国が戦うことになったんだ。でも、ザガルがこの世界に留められるのは1週間。ザガルは早く終わらせようと自分たちが開発した魔法・ザガルテルトという巨大な重力魔法を駆使した。そしてそれがきっかけでその百蘭戦争は蘭国滅亡という結果を残して終結したんだ。 それからというもの、住民たちは僕たちを恐れて『絶望の都市・ザガル』って呼ぶようになったんだ」 「そのザガルテルトっていう術は今でも残ってるの?」 「フォーティタがさっき君たちに使っていた奴だよ」 あれがザガルテルトかぁ……。 「フォーティタが使っているのはまだ未完成の方なんだ。だけど、完成版を使ったら…。このザガルはなくなってしまう……」 「そんなに攻撃範囲が広いんだ」 「それだけじゃない。魔法使用量も半端じゃない。その術は何人かの人間を犠牲にして初めて成功するモノなんだ」 「ひえ〜〜〜〜〜〜〜…」 「じゃあもう一つ質問。ザガルと竜王たちは何故戦争になった?」 「正確にはいがみ合いの戦争じゃない。フォルトっていたでしょう?フォルトがファルドという街の指導者の精神を乗っ取ったんだ」 『乗っ取った?!』 とその事実に俺たちはビックリした。 「それ、どーゆーこと?!俺たちのように魂を同じ体に共有するってこと?!」 「違うよ。フォルトは自分の体を放棄して、魂と肉体を分離させ、ファルドという男の隙を見て乗っ取ったんだ」 「何故乗っ取る必要があったんだ?」 「それは……ファイガのほうが圧倒的に市民に支持され、フォルトよりも魔力、技術力と共に長けていたんだ。 それを嫉んだフォルトはファルドの体を乗っ取って、逆にファルドの体を自分の体に転移させて殺したんだ。 そして……その殺した矛先を竜王の使者だった人間に催眠をかけ、さもその使者が殺したように見せかけたんだよ。 フォルトは言ったんだ『神殺し』だって。それが戦争の発端」 「なんでまた戦争を……?」 「戦争を起こすことで、フォルトは自分を除外した竜王たちに復讐をするつもりだったんだよ。 最初は竜王たちも理由がわかっていて、でっちあげの情報による誤認だって。 だからそっちの世界は劣勢だった。だって竜王自身が出てこなかったから。竜王の加護なしの人間たちはばたばたとザガルの武器にやられて死んでいったんだよ。 それなのにフォルトは戦いを止めなかった。次第に市民の心も離れていったよ。この戦争は無意味だって分かり始めたから……」 「でも、その戦争からどうしてこのザガル滅亡に発展したんだ?俺達の世界は劣勢だったんだろ?」 「形勢逆転したのは、市民が戦争を放棄し始めたこと。それにより竜王たちが本腰を挙げて一気にザガルに攻めてきたんだ。首謀者であるフォルトを捕らえるために……。 竜王たちは死者をなるべく出さないようにと最善を尽くしてくれた。でもフォルトは歯向かい、ザガルテルトを発動したんだ」 「そしたら……?」 「術に失敗して、フォルトを含め、市民を巻き添えにして廃墟と化した。市民は空間に耐え切れなくて、壁や大地に埋め込まれてしまった。そして、苦痛と恨みだけが残って、その思いが魔物を呼んだ」 「つまり術に失敗したところは合ってるけど、月に逃げようとしたわけじゃないんだな」 と北都が納得したように言うと、男の子はきょとんっとした顔で言った。 「何言ってるの。たださえ不安定な世界が月なんて空気がないところにいけるわけないじゃない!!」 ごもっとも……。 俺も男の子の発言に脱力しながら納得した。 「で、そのファルドも埋め込まれたの?」 「肉体はね」 「というと?」 「魂は彷徨ってるよ。と言っても、ミスト宮殿でしか動き回ることができないけど…」 「そういえば、さっきフォーティタはファルドに呼ばれたって言ったよね」 とレスカが思い出したように口を開いた。それに対して男の子はこくんと頷いた。 「もし、フォーティタが呼ばれたと言うならフォーティタはここにはいないってこと?」 「そうなるな…」 「気をつけて……。フォルトとフォーティタがダックを組んだら最強に等しい…。僕たちを解放して……」 そう言うと、男の子は俺に何かを手放し、俺の手をぎゅっと握った。 「僕たちの思いが詰まったものだよ。赤いのはきっと君たちの役に立つはずだから……」 そう言うと、男の子は消えてしまった。俺はゆっくり手を開くと、そこには小さなペンダントが二つあった。一つは赤色の宝石が、もう一つは青色の宝石が埋め込まれていた。俺は二つを首にかけ、服の下にしまった。 ファルドとフォーティタを探そう!!そして、珠喬を!! |
| 続く→ |