「珠喬とレスカはどっちなの?!」
 気絶していた安曇と総老師を無理矢理根性で叩き起こし、安曇を除く全員が浮遊呪文を唱えて、庵咒の連絡を受け取った静咒を筆頭にレスカと珠喬がいる場所に向かう。ちなみに安曇はカイトの腰に手を回して飛んでいる。カイト曰く、
『幽霊に近い存在だから羽のように軽くて楽だよ☆』
 だそうだ。
 それを聞いた安曇は何気にショックを言われてへこんでいた。
 こーゆー体質でも一応体重は気にしてるんだな…。←かなり失礼…

「あっちでしっ!!」
 と静咒は前を指して更にスピードを上げて突き進む。俺とカイトも後を追おうとするが、北都に止められた。
「洸琉、カイト」
『ん?』
「感じないか?」
『何を?』
 と二人揃って首を傾げると、北都は溜め息をついて脱力した。
「だ〜か〜ら〜〜〜…。殺気だよ、殺気」
「殺気?」
「そう。殺気と言うか敵意だな。こりゃ。すげー波動だぞ」
「もしかしてファルド?」
「分からん」
 と北都も苦渋の色を見せる。
 しかし、ここでカイトはお決まりのお気楽モードで
「だぁ〜いじょうぶだよぉ〜〜〜!!まだその親玉と決まったわけじゃないし、二人からの連絡だと『奇妙な神殿を見つけた』っていうだけでしょぉ〜〜〜???」
「まあ…そうだけど……」
「ねえ、安曇」
 といきなり、一応ここの住民である安曇にカイトは話し掛けたので、安曇はビビる。
「は…はい……っ!!」
「その二人が言っていた『奇妙な神殿』って何だか分かる?」
「え…っと……」
「早く言わないとココから突き落とすよ☆」
 と笑顔でカイトはいきなり安曇の手を離して脅すのである。
 いくら仲間だとは思ってはないとはいえ、やりすぎ…。
「い…言います!!たぶんそれはファルド様たち死者が召還した魔物を安置するグルグ宮殿だと思います!!」
「かくなるその根拠は?」
「その奇妙ってところです!!あの宮殿は奇妙な形をしているので!!」
「なるほどね☆てことはまず先にそっちを片付けなきゃいけないわけだ」
 とカイトはウインクをしながら舌打ちをする。
 どーやら足踏みに近い状態らしいね。
「その魔物の力はどれぐらいなんだろうな」
「そのへんは分かってないんでしょ?」
「重力を操る巨大な魔物…。あらゆるものを飲み込んで消えてしまいたいと願う魔物……」
 と安曇は恐怖に満ちた顔で語り始めたのである。
 安曇の話をまとめると、その魔物はフォーティタ。重力魔法を得意としつつも四大魔法を操る上に攻撃力、防御力ともに長けているということらしい。かなり厄介な魔物だな。
「お願い。もしフォーティタが暴走しているなら早く止めてあげて。これ以上住民を苦しめないで」
「苦しめる?自分たちで召喚したのに?」
 と懇願する安曇に俺は素朴な疑問をぶつけた。安曇は目をそらし、しばし迷うが、意を決して話し始めた。
「あの魔物は甚大なる失敗作なの。滅びという思いが強すぎて負の心を死者となった住民に求めるの。負の心を求めて住民のかすかな人の思いを搾取していってしまうの。
 これ以上住民を苦しめたらあのフォーティタは何をしでかすか分からない!!私にも止められなくなってしまう!!
 異国の神にこんなことを言えた義理ではないのだけど、お願い!!あの魔物を倒して!!私やファルド様を含めてこの都市の人たちを助けて!!」
「任せておいて。俺たちはこの都市の人たちを助けるためにここに来たんだから。
 てなわけで……。全員そのグルグ宮殿を針路にめざし、そこにいるフォーティタを倒すよ!!」
『お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!』
 と俺の掛け声に合わせて一致団結しているところに遠くから悲鳴がこちらに近づいてくる。
「ぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ん?」
 と俺が前を向くと目の前から見覚えのある背中がこちらに迫ってくる。
 も…もしかして……
 ゴッ
「ぐ…っ」
 俺は避ける余裕がなく、そのままその背中を受け止める形になったが、向こうの力が強すぎて俺もまた後ろに後退する。
「洸琉!!」
 パンパンッ
 北都は俺の名を呼びながら、何故か手を叩いたのである。すると、急に俺らが吹き飛ぶ力が弱まり、静止した。
「ふぅ…」
 と北都は左手でおでこの汗を拭う。
 もしかして、吹き飛ぶ俺らの重力の力を調節して、止めてくれたのか…。
「あたたたた……」
 と吹き飛んできた主は頭を抑え、声をあげた。
『レスカ!!』
 そう。俺に突進してきたのは別行動をしていた(俺がならざるを得ない行動しちゃったわけだが…)レスカだったのである。
「あらら?皆さんおそろいで……」
「おそろいではともかく、どーしたの?いきなり吹っ飛んでくるなんて……」
「いやぁ…。奇妙な神殿を見つけて警戒したつもりで入ったんだけど、入るなりドデカイ魔物と遭遇しちゃってさ…。いきなり重力魔法連発されて俺はこのざまだ。珠喬のほうはどうなっているか分からない……」
「重力魔法を連発……。もしかして……っ!!」
 北都の言葉にレスカ以外の全員は頷いた。
 どーやらこの先にフォーティタがいるようだ。
「レスカ!!その奇妙な神殿ってところに案内して!!」
「合点!!」
 そう言うなり、レスカはさっさと行ってしまう。
 げげげっ!!さすが竜族!!スピードが速い!!ってそのスピードについてってるよ…カイト……。
「二人とも早いですなぁ……」
 と先に行っちゃった二人を見て総老師が感心する。
 そーゆーのほほん気分どころじゃないだろうが……。
 こつんっ
「ん?」
 急に俺の後頭部に何かが当たる。俺は後ろに振り返るが空中でもあるし、誰もいない。
 はて?気のせいかな……。
 俺はそう思いながら前を向きなおすと、耳元から
「うそつき……」
 と小さな男の子の声がしてきたのである。
「誰?!」
 俺は構えながら後ろを振り返るが、やはり誰もいない。
 一体何なんだ?いくら死者の都だからって……っ!!
「洸琉、何やってんだ?行くぞ」
「あ…。うん……」
 俺は北都に呼ばれ後ろを振り返りながら、カイトやレスカが行った方向へ飛んでいくのだった。
 しかし、その小さな男の子の声が後で惨劇をもたらすとは誰も思ってもみなかった。

 クリスタルでできた宮殿。壊滅前は恐らく神々しく光を放っていただろうと推測できるが、その宮殿は不気味な色で光を放っていた。まるで、強力な魔物がいるぞと警告しているかのように…。その宮殿は殆ど崩れ落ち、かろうじて本殿が残っていた。
「これがフォーティタが住処にしているグルグ神殿……」
 俺たちは崩れながらも聳え立つ宮殿に息を飲んだ。そこにまたしても俺の頭に何かが当たる。
 ったく…。またしても俺かよ……。
 俺は嫌々ながらも後ろに振り向くと、今度はクマのぬいぐるみを左手に持ち、俺より年下の小さな男の子。ラフな格好をしているが、黒い髪や裾などはボロボロで、裸足でこちらを遭われむような目で見つめていた。
「君は…………」
「始まるよ…。真実と絶望の扉が今開かれる……」
「何言ってるんだよ……。 ?!」
 俺はその子に近づこうとした途端、周りのときが止まっていることに気づく。傍にいる北都も総老師も、カイトも、レスカも皆止まっている。
「時が…っ!!」
「真実に目を背けないで……」
「え……?」
「二つの異なる世界の真実が津波のように押し寄せてくる……」
「え?」
「どちらが本当のウソツキなんだろうね…」
 不気味な笑みを浮かべてそう言うと、その男の子は消えてしまった。それと同時に時が動き始める。
「あれ???」
「洸琉、何やってんだ。さっさと行くぞ」
「あ、うん……」
 俺は北都に促されて神殿の奥へと進んでいくのだった。

 

続く→

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