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四 |
| 「王子様。気をつけて。相手の数が僕らよりはるかに多い」 「殺気で分かるよ。こりゃ、すんなり倒れてくれなさそうだね」 と俺達は落ちながら状況を把握しあっていた。すると、目の前に暗闇の中無数の光が現れる。 あれは魔物の眼。飢えに耐えて、今にも襲わんばかりの凶暴な眼だ。 こりゃ迂闊に前に出て倒すなんて無理かも…。北都たちの状況も把握しきれてないし、しようにも情報があまりにも少なすぎる。 そう思いながら、腰に携えたポシェットに手を滑らせ、手に取ったのは、クナイであった。それを暗闇に目掛けて投げると――――…。 「い゛っでぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 と誰か悲鳴が暗闇から聞こえてきた。どうやら俺が投げたクナイが誰かのどっかに刺さったらしい…。 こ…この声わ……。 俺は声の主が聞き覚えがあるので、少々焦った。 ど…どうしよう……。絶対ぶん殴られる…。 そう思った矢先、暗闇から左肩から血を流した北都が物凄い勢いと剣幕でこちらに飛んできた。 でたぁ…。やっぱり北都だしぃ…。 そう思った矢先、北都は怪我しているはずの左肩で落ちかけている俺の首根っこを掴み、物凄い剣幕で吠えた。 「てんめぇ〜〜〜!!俺に攻撃するなんていい度胸してるじゃねぇ〜か!!人が気絶してるっていうのに…っ!!」 「うわ〜〜〜〜!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!どれぐらい敵がいるか把握したかっただけで、北都目掛けて攻撃したわけじゃないんだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 「それでも許さん!!」 ごすっ!! 「あ゙ゔ……っ」 「うわぁ…っ!!いい音ぉ〜〜〜♪」 北都は容赦なく俺の頭をぶん殴ったものだから、いい音が響き、その音にケイトはにこにこしながら喜んでいた。 「ったく…。ん???あんたケシュトリアの軍人か???」 とようやく冷静さを保った北都はケイトの存在に気づいた。ケイトはにこっと微笑んで、自己紹介を始めた。 「初めまして、火竜王サマ。僕はケイト。地竜王の記憶を持っているものだよ。ヨロシクね♪」 「よろしく…」 「………ところで、火竜王サマ。怪我治さなくていいの?血が噴水のように噴出してるけど…」 「ぅえ?!………なはぁ?!」 と怪我の部分を指差しているカイトに北都は意味不明な言葉を発し、慌てて回復魔法を施すと、あっという間に傷は消えていく。 「北都、下はどうなってるの?」 「ああ。魔物がはびこりまくりだ。怒り任せ出来たが、結界札置いて二人を守ってある。当分の間はなんとかもつだろう」 「ふぅん。その結界もいつまでもつかだよね」 「まあな」 そう言って俺達は何も言わないまま、浮遊呪文を解除して一気に落下していく。すると、また何かの風景が再生され、通り過ぎていく。 「これは都市全体が記憶装置なのかな?」 「そうかもしれないね。この都市には一体何が隠されてるんだろう…」 「さあな。俺とて見当がつかん。だが、一つだけ言えるのは早急に対処した方がいいということだ。あまりにも魔物がはびこりすぎる!!」 「るあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 と北都が叫ぶなり、上から人型の魔物が襲い掛かってくる!! ちぃっ!!まだいたのか!! 舌打ちしてると、カイトの髪がふわっと緑色に一瞬だけ変化し、目もネコ目のようになり―― 「業火烈滅!!」 ごおぉぉぉぉぉぉぉっ!! 口から炎を吐いて、目の前の敵を炎の渦に静める!! 「おおっ!!さっすが火竜族!!」 「えっへん!!」 「でもさ、このあとどーすんの?落ちちゃったけど…」 「そりゃぁ…他の魔物もどかぁ〜んっと!!」 「そこに総老師や安曇が取り残されてるんだけど?」 「あ……っ」 と俺と北都のツッコミにカイトも冷や汗を一筋流す。そして、流れるのは沈黙。 「ヤバイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 と口火を切ったのは、炎を吐いたカイト。半泣きになり、落下速度だけでは急げないので、加速魔法をかけて一気に下に落ちていく。俺達もそのあとを慌てて追いかけた。 「うわぁ〜んっ!!総老師様ぁ〜〜〜!!許して〜〜〜〜〜〜〜!! 僕はあなたを殺そうとしてるわけじゃないんですぅ〜〜〜!! アニマの教えに賭けて誓いますぅ〜〜〜〜〜〜!!」 と本人いないのに弁明するカイト。 なるほど。カイトは熱心な信者か…。 そう思っていると、目の前に業火に包まれ燃え盛る魔物たちが目に入ってきた。結界の方は――――無事だ!! 俺達はすとんっと瓦礫の上に着地し、様子を伺う。 「殆どの魔物は誰かさんのおかげで殆ど片づけられたけど…。肝心の二人を助けようにも炎に囲まれちゃってるからねぇ…」 と俺はカイトを見ながら言うと、カイトは申し訳なさそうに身を縮ませていた。 「どうする?」 「どうするって言われてもナぁ…。このまま炎を静まるのを放置しておくと、たださえ風化してる建物をあおって倒壊させる恐れもあるし、かと言って火を消すと、魔物が復活するかもしれないしなぁ〜…」 「かぁ〜っ!!いらいらするなぁ!!どっちかにしてよ!!」 「う〜ん…」 と怒る俺に対して、北都は腕を組んで悩む。すると、その横でカイトぽんっと手を打った。 「あ。そういえば火竜王サマ」 「あ?」 「火竜王サマは火属性の神様だよね?」 「まあな」 「だったら火を調節して道を作ることなんて容易い事なんじゃないの?」 『…………………………………………………』 カイトの一言に俺と北都は目が点になった。 そうだよ…。確かに北都は火属性の神だ。火を配下にして自由自在に操るなんて朝飯前のことじゃん。 「カイト!!よく言った!!」 「はぁ…。俺すっかり火竜王だったこと忘れてたわ」 『忘れるな!!』 と感心してる北都に俺とカイトはハモってツッコミを入れた。 ったく、この天然ボケあんぽんたんめ…。 そう思っている横で、北都は一呼吸を置いて―――― 「……………炎よ」 そう呼びかけると、燃え盛る炎は北都の目の前を真っ二つ割り、結界まで続く道を開いていった。 「ほ〜…。ホントに炎の精霊は火竜王に絶対服従なんだね」 「そりゃ、炎の精霊の王の中の王だぞ。炎の精霊の長よか偉いんだから」 「そういえば、以前炎の精霊の長が出てきたことあったけど、あっさり従ってたよね」 と俺は瓦礫から降りて記憶の断片を整理しながらぽそっと言うと、北都も思い出したかのようにさらっと答えた。 「ああ。アレな。あのときには火竜王として君臨してたし、長の条件にも勝ったしな」 「条件?」 と俺は道を歩きながら一緒に歩く北都に尋ねた。北都は、ズボンに手を突っ込みながら答えた。 「そ。火竜王としての条件は『思いの強さ』だったのさ」 『思い?』 俺とカイトはハモって北都の言葉をオウム返しする。すると、北都は苦笑しながら言った。 「思いの強さというのはね、執着心をも意味するんだって。思いの強さがなければ今後は従うつもりはないってね」 「へ〜」 「それとも長呼ぶ?」 『は?』 と予想外の北都の言葉に俺とカイトは足を止めて驚いた。 「呼べるの?」 「呼べるよ。俺の一言で来るんだから」 そう言いながら、北都はすたすたと総老師の元に行き、結界を解いて二人を自分の肩に乗せて助け出した。 「老師!!安曇!!」 「るがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 『?!』 呼びかけた矢先、炎に包まれた魔物が俺たちに襲い掛かってきた。 ちぃっ!!往生際の悪い!! 俺は構えて咄嗟に氷系の呪文を唱えた!すると、続けてカイトも同じ呪文を唱えたのには俺はビックリした。 え?!火竜族もできるの?! 『大地もろとも凍らす 凍てつく氷の怒りよ』 ぱきぱきぱきぱき…っ 俺たちが放った術は威力が二倍になり、魔物を一瞬に凍らせた。重力に逆らうことができない凍りついた魔物はそのまま地面に叩きつかれ、四方八方に砕け散る。 「やったね!!王子様!!さっすがぁ!!」 と本気で嬉しそうに言うカイトに、俺は複雑な表情でカイトを見た。 「んん???どーしたの?王子様」 「なんで…火竜族が反属性である氷魔法が使えるんだ?火竜族は反属性の氷魔法はどんなに頑張っても使えないはず……」 俺の質問にカイトはしばし考え、左腕の袖をめくり、右手で指差した。俺はその視線にあわせると、左腕につけられた銀の細工をされたアイテムがあった。 「それもしかして魔天具?!」 「ぴんぽ〜ん♪この魔天具は『氷の女王』っていうんだ。これはね、氷の術ならなんでも使えるし、これ特有の術もあるんだ。 このおかげで僕は反属性の魔法が使えるってわけ」 「なるほど…」 「カイト!!」 と俺たちの会話に割って入るように圭咒と鈴咒とそっくりな小さな女の子がカイトに駆け寄ってきた。 もしかして、これがカイトにくっついているガーディアンか? 「どーしたの?静咒」 「大変なの!!水竜王ともう一人の地竜王が!!」 「珠喬とレスカがどーしたの?!」 静咒の言葉に俺と二人をしょったままの北都は身を乗り出して尋ねた。それに静咒はちょっと身を引きつつも話した。 「庵咒から連絡があって二人が奇妙な神殿を見つけたって!!」 奇妙な神殿???もしかして、ファルドがいるのか?! |
| 続く→ |