きゅるるんっ
「のあっ?!」
 鏡から勢いよく出ると、目の前に懐かしい風景が広がっていた。そこは古の都を一望できる、一族の長のみ生活が許されている屋敷の一部だった。
「奄師匠!!これは一体…」
「これより一ヶ月、竜王の御身は我ら黄金竜族が守護する。そのために連れてきた」
「連れてきたって、儀式もないなんて…っ!!」
「そうも言っている暇もなかったのだ。許せ」
 と俺の納得いかない様子に奄師匠はただそれだけ言ったのである。そのあと、俺たちは奄師匠が用意した部屋に移動した。その部屋は一見洋風のスィートルーム並の豪華な部屋で、大きな窓もついている。しかし、よくよく目を凝らして見てみると、いたるところに強力な結界文字と結界札が書かれていたり、貼られていた。
「これは…」
「そなたたちの部屋じゃ。そなたたちは一ヶ月寝起きをここでしていただく。あとはもう一部屋あるが、それは明日説明しよう」
「ちょっと待ってください。
 なんで俺たちは一ヶ月ここで暮らさなきゃいけないんスか?
 儀式も省略してまでここに連れてきたのだっておかしすぎるし、ただの式典まで逃げられては困るにしては、ここまで強力な結界を張る必要はないと思うんスけど?この結界は何か強い魔物から守ろうとする結界。何故?」
 と部屋の状態に眉をひそめながらレスカは奄師匠に説明を求めた。すると、最初は頑固たる姿勢を見せていたが、奄師匠はふぅっと深い溜め息をすると、部屋に入りながら説明した。
「洸琉よ」
「はい」
「おまえさん、災いに触れただろう?」
「…………………………もしや『七つの災い』ですか?」
「そうだ。その『七つの災い』のことは大臣から聞かされたときは、まさかそんなものが存在するとは思ってもみなかったが、主上までも同じ事まで言いおったからには信じずにはいられんだろうて。
 『七つの災い』とは、なにやら未来に不吉を呼ぶ存在だと大臣達は言っておったがの…。何故にそのような事態に陥った?
 おまえにはワシの技術全てを伝授したはず。それなのにそのような失態をかますとは考えられん」
「災いは元を正せば竜王に憧れ、死して尚羨む怨霊…。それが俺が放った術でバラバラになって…」
「なるほど。それで捕らえようとしている間に残りが逃げた、と。逃げられる前に何個捕らえた?」
「二つほど。『戦の災い』と『病の災い』を捕らえました」
「最悪なモノを二つは逃れたか…。それでも安心はできまい」
 と奄師匠は溜め息混じりで、部屋に用意されていた席につきながら言った。俺たちも奄師匠に追うように向かい合わせで席についた。
「大臣達が言うにはこの式典の準備期間中に災いの1つが襲い掛かってくるかもしれん。その厄を新たな竜王にかぶらせては元も子もないからの。こうして隔離させてもらった。
 なぁに。いざとなれば、我が一族で身を呈してそなたらを守り通すまでよ。それが師匠として、弟子にできることだろうて」
「奄師匠…」
「だが、タダではやらんぞ」
『は?』
 突然の奄師匠の発言に俺たちは目が点になる。すると、奄師匠は含み笑いをしながら言った。
「お主らにはこの一ヶ月の間修行をしてもらう」
『えええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ?!』
 俺たちは驚愕の声をあげると、外ではその声に驚いて鳥たちがばさばさと飛んでいく。一方奄師匠は俺たちの声に耳が痛かったらしく、両手で耳を抑えていた。
「修行って一体何の?!」
「あ〜…うっさいっ!!声がデカイわ!!お主らにやってもらう修行は己の精神力、体力強化じゃ!!」
「なんで今更?!」
「今のお主らはいくら鍛えられていても、精神力だけは弱すぎる!!精神力が弱くては諸刃の剣になってあの術には耐えられん!!蒼術に耐えられる強靭な精神力と体力を作ってもらわねば困るんだよ!!」
「術って何だよ!!」
「そなたたちには覚えてもらわねばならぬ術がある!!」
 と交互に責められて奄師匠は嫌々そうに叫んだ。その言葉に俺たちはきょとんとなった。
『覚えてもらわねばならない術???』
「そうだ。この術はAAAクラス以上の魔導士や魔法騎士しか取得資格がない術でな、ちょうど洸琉は魔法騎士はAAクラスだが、魔導士はAAAクラスだし、そっちの地竜王のクラスは知らんが、ある程度基本スペックがなっておるからの。この術を教えてやるわい」
 そう言いながら、俺たちに巻物を1つずつ手渡す。俺たちは受け取った巻物を開くと、そこには9種類の術が名を連なっていた。
「この術を覚えるの?」
「そうだ。その術は全て精神力が威力を増す原動力となる。魔力はそれに上乗せして突破口となり、体力がその術を支える柱と成す」
「この術らはそんなに高度なんですか?」
「高度というよりな、それらの術は竜王の力を魔導士でも使えるよう改良したが、それでも魔力や精神力をかなり食う。
 特に精神力がな。魔力以上に食われて、しばらくの間寝たきりになることが多い。それほどまで強力な術。
 つーわけだから。10分後には修行を始めっから、支度をしろ」
『………………………え゛っ?!もう???』
「当たり前だ。一ヶ月と言っても短いんだから使える時間をフルに使うんだよ」

 うげ〜〜〜…。どうやら俺の天竜王としての即位までは長そうである。

 

続く→

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