ちゅんちゅん…っ
 ぴちちちちち…
 あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…。外では陽気に小鳥が鳴いている…。
 俺と北都と言ったら、いくら神さまの頼みとはいえ、3週間も仕事をサボった罰としてしばらくの間、溜まった仕事の書類の後始末やら、資料探し…etc事務的なことばかりさせられるハメになった。
 元はと言えば、天竜王のせいでもあるんだけどね…。
 しかし、まだ10代ぴっちぴちの遊び盛りをこんな狭く、むさ苦しいところに押しやるなんて…。なんてヒドイ上司なんだ!!
「誰がヒドイ上司だって?」
「うひゃっ!!」
 どんがらがっしゃぁぁぁぁぁぁんっ
 いきなり俺達がいる部屋に棟梁が入ってきたので、俺は思わず椅子からひっくり返ってしまった。
「…………………随分とリアクションが豊富になったもんだな」
「………お褒めに預かり光栄デス」
 と一応褒め言葉として受け取った俺であった。一方、棟梁はこほんっと一つ咳払いをすると
「仕事中に悪いが、北都、洸琉、刑部卿から指令だ」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜?!まだ始末書書き終わってないのに〜〜〜〜〜〜〜?!」
「つべこべ言わない!!刑部卿の命令とあらば文句を言わず行ってこんか!!」
 とぶーたれている俺たちに対して、棟梁は物凄い剣幕で言ってきたのには俺たちはさすがにビビって、今までやっていた仕事をほったらかしにして、棟梁に言われたとおり任務に行くことになった。
 仕事の内容は刑部省庁から出て行く際に、朧から指令の内容のファイルをもらってきた。



 俺達が目指す場所は地下の都・ティーラ。首都アニムスから浮遊魔法ハイスピードで行くと、約4時間ほどで行ける距離だ。だけど、そんな時間をかけなくても、特急ラクリマっていう首都から12都市全て回る特急を使えば魔法の半分以下である2時間ほどで到着する。
 その電車に俺たちは乗り込み、窓から吹き流れる心地よい風に癒されながら座席に座って窓を眺めていた。
「ふにゃぁ…。風が気持ちいぃぃ〜〜〜〜〜…」
 と列車の窓を開けて吹き込んでくる風にとろけている俺だった。一方北都は意外に渋く、本を読んでいた……って!!
 げげげっ!!それ、始末書ジャン!!ちゃっかり持ってきてやがる!!
 ううむ…。俺も持ってくればよかったなぁ…。でも、列車に乗ってるときぐらい仕事を忘れてたいや…。
 と後悔しつつもどうにでもなると思って、再び窓の外を眺めてとろけていたのであった。


 がたがたがた…っ
 ぼきん…っ
「…………?」
 電車や号車別の扉の開く音とは別の物音に俺と北都は同時に気づいた。
 今の音はどー聞いてもモノを運ぶような音じゃない。テロか…???
 そう感ずいていた矢先、俺達が乗っている号車に、いかにもテロリストですと言わんばかりに武装しまくっている巨漢たちが数人入ってきた。それを見て、乗客は案の定騒ぎ出した。
 ま。これが普通の反応だわな…。
 と俺は乗客の行動に客観的になって見ていた。すると――――
 ぱぁんっ!!
『?!』
 巨漢の一人が天井に向かって発砲し、乗客をビビらせた。そして、別の巨漢が大声を張り上げて叫んだ。
「たった今からこの列車は我々『
ラブリーピッグレジスタンス』が乗っ取ったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 し―――――――――――――――――――――――――んっ
 巨漢の言葉に俺達がいる車両に沈黙が走る。一方俺と北都は情けないレジスタンス名に深い溜め息と共に脱力してた。
 あああああ…。巨漢集団がなんてこんなアホ臭いレジスタンス名を名乗ってんだ…。バカじゃないの???
 だけど、この集団はレジスタンスと言うより、ギャング集団に近い。正式には『タウラス教』という宗派。アニマ教と真っ向から対立する宗派の一つで、過激派ぞろいの武装集団といっても過言ではない。対抗する理由のもっともの理由は祭り上げている神さまに問題がある。祭り上げているが『豚』と『羊』だからビックリですよ。たぶん、初代が聞いたら驚くと思うけど、動物と人間を一緒にされちゃって、国の守り神として崇められているアニマ教も対立心バリバリ。結構前にはテロ攻撃し合いが酷くて、俺達刑部省の中でも報復テロを恐れて警戒していた方なのだが…。
 まあ、爆破テロより、ハイジャックの方がまだ死亡率が下がっていいかもね…。
 しかし、この収拾どうしようかねぇ…。あんま大騒ぎすると、何の罪も無い乗客に怪我人が出る可能性も…。かといって、これを放置するわけにも行かないし…。
 俺は北都にアイコンタクトを送ると、向こうも同じ考えを持っていたらしく、本を閉じて、身をかがめた。
「どうする???」
 小声で北都はちらっとテロリストの方を見るために体を起こし、再び身をかがめると、小声で返した。
「敵の数は4、5人ちょっと…。強行突破するのもいいが…あれは絶対首謀者の部下だと思う。アレを静かに潰して、首謀者と何が目的なのか聞きだすしかないだろうなぁ…」
「静かって無理そうじゃない???」
「まあな…。どこにテロリストがいるのか状況把握できてないから無闇に動けないな…」
「うん…」
「とりあえず…しばらく大人しくしてよう……。目的なら向こうが勝手にぺらぺらと喋ってくれるはずだからな。言われた後にでもゆっくり作戦会議としよう」
「そうだね」
 と目的が一致したところで、再び俺たちは普通に座って、何事もなく座って景色を眺めたりしていた。しかし、そんな行動をしつつも、俺はこっそり式神の札を取り出し、『特急列車乗っ取られ候』と書いて窓から飛ばしていたりする。
 その矢先、一人の巨漢が大声を張り上げて叫んだ。
「我々は王室に対し、『アニマ教』を廃止し、『タウラス教』を国の教えと定めるよう要求する!!」
 かく…っ
 俺はテロリストの目的を聞いて思わず脱落…。
 それと同時にタウラス教になった国のことを想像してしまい、更に脱力。
 アニマ教を廃止するだぁ…。俺はタウラス教を国の神として崇める方がもっとヤダ!!おまけに俺の中には一応神さまがいるし…。
「どーやら、向こうの目的はハイジャックを起こして、王室に抗議するつもりのようだな…。これほどまで需要がある列車はこれしかないし、かっこうの宣伝にもなるしな…」
 と本を開いたまま、向こうの様子を伺いながら北都は小声で言った。そして、ふぅっと一つ小さな溜め息をつきながら、本を閉じると、真剣な眼差しで
「てなわけで…重力とか使ってさっさと潰して首謀者の下へ行きますか」
「どーするわけ???」
「それは…」
 と北都が話そうとした途端、テロリストの巨漢の一人が、俺たちにというか北都に親しげに声をかけてきた。
「よぉ…
嬢ちゃん。弟君を連れて旅とは偉いもんだなぁ…。きっとタウラ様もお褒めになってくださるぞ。だから、タウラスの教えを信じろや」
 ぷち…っ
 あ…。北都の堪忍袋の緒が切れた音が聞こえた。こりゃマズイ…。
 まあ…北都は顔立ちが女の子に近い美形だから、よく間違えられることがあるが、本人としてはえらい迷惑なことらしく、コンプレックスになってるんだよね。だから、間違われるたんびに機嫌が物凄い悪い。おまけにテロリストの方も北都が男だっていうのは、未だ気づいておらず…。笑いながら、北都の背中をばしばし叩いて続けて言った。
「おまえさんのようなお嬢ちゃんがタウラ様の元におくだりになれば、きっとタウラ様もお喜びなるぞ、うん」
 ごごごごごごごご…っ
 北都が殺気立っているのが、誰の目から見ても丸分かりなのに、このおっさん全然気づいてない。それどころかさっきよりべたべたくっついてないか???
 ああああ…。し〜らない…し〜らない…。俺は何にもし〜らない…っと。
 俺はそう思いながら忍び足でその場から離れようとした…。そのとき
「どぅわれが女だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 
ばきべこどすんっ!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 北都がついに堪忍袋の緒を切らせ、べたべたひっついてくるテロリストを窓側の壁を突き破って吹き飛ばし、お星様になるテロリストのおっさん。
 お〜〜〜…。結構飛んだねぇ…。南無南無…。
 と俺は、思わず手を合わせて見事に吹き飛んだ窓際を見てしまう。一方残されたテロリストは北都の予想外の行動に、口をあんぐり開けたまま唖然呆然となって固まっていた。その隙を狙って俺はテロリストが持っている銃を奪い取った。
「な?!」
 俺に銃口を向けられ、テロリスト達は手を上げて、降伏のサインを出した。俺はそれで縄を縛って情報を手に入れようとしたのだが…。
「だぁれがオカマじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 べきっ!!
「うわぁぁぁぁ!!そんなことは言ってないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「ひ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!お助けをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 と暴れる北都にテロリスト達はぼっこぼこにされてしまうのであった。
 あ〜あ。怒りの矛先がいなくなったからって仲間にまで向けるとは…。哀れなり…。



「だから、この列車以降は監視役が一人ずついて、最前車両にボスと味方が5人いるって言ってるだろう」
 と北都にぼこぼこにされたテロリストの一人が、俺に縄で縛られ動けない体をそのままにしながら、吐き捨てるように言った。それに対して俺は笑顔のまま武器を取り出して脅し口調で言った。
「ほんとかなぁ…。嘘ついてると、このクナイがあんたの喉仏を貫通するよぉ〜〜〜〜〜???」
「うわぁっ!!本当だ!!それ以外の仲間はいないっ!!」
「ホント???」
「ホントだ!!」
「ホントにホント???」
「ホントにホント!!」
「ホントに本っ当にホント???」
「だから、ホントだってば!!」
「あ〜っそ…。わかった…。そんじゃオヤスミ…」
『?!』
 俺がそう言った途端、俺と北都はテロリスト全員の首筋に末端に即効性があり、持続性がある睡眠薬を刺すと、テロリストは声をあげずにそのまま倒れこんで、気持ちよく夢の世界へ旅立った。
「はい。一ちょあがり…」
 と溜め息交じりで俺が言うと、やっと冷静さを戻した北都は言った。
「じゃあ俺は後ろの方を潰していくから、おまえは上を伝って先頭車両の制圧を頼むわ」
「え〜〜〜〜〜〜〜っ?!この上って風圧が……」
「あの力を使えば何とかなるだろ!!あと、小柄の方が何かと動きやすいしな…」
「わかったよぉ…」
 と俺はしぶしぶ承諾して、北都が壊した窓から上に上がることにしたのだが…
 びゅひゅおぉぉぉぉぉぉぉっ!!
 と突風が凄くて、俺は吹き飛ばされそうになる。北都は慌てて俺の手を掴んで
「なんて情けない!!」
「しょうがないじゃん、この風圧じゃぁぁぁぁっ!!」
「おまえ、軽すぎるんだよ!!」
「うっさいなぁ!!」
 と、言い争いをしつつ、俺は北都の手を借りてぴょんっと車両の天井に上った。
 しかし、天井も風圧が凄い。いくらなんでも、吹き飛ぶ可能性もあるが、ここには誰もいないから天竜王の力を思う存分使うことができる。
「風無(ふうむ)……」
 と呟いた途端、俺の周りの風圧が軽くなり、吹き飛ばされることもなくなった。
「さあて。じゃあちょっくら親玉潰しといきましょか!!!」

 

続く→

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