どばあぁぁぁぁぁっ!!
 敵陣から地下水路に逆戻りをした俺の体はシュン共々貯水庫らしきところにダイブし、水しぶきがあがる。
「ぷはっ!!………………あり???」
 冷たい…っ!!
 なんと俺の意識はいつの間にか自分の肉体に戻っていたのだ。水面に浮上し、それに驚いていると、耳元で威輝さんが騒いでいた。
[あ〜んっ!!衝撃のおかげで元に戻っちゃったじゃないの〜〜〜〜〜!!折角暴れると思ったのに〜〜〜〜〜〜!!]
[威輝。おまえは暴れすぎじゃ!!]
[どこがよ!!まだまだ暴れたりないわ!!]
 とシヴァさんと威輝さんは口喧嘩を始めてしまうのであった。五月蝿いなぁ…。
 そう思いながらぷかぷか浮いていたが、シュンが上がってこない。
 ひょっとしてカナヅチなのか???
 ぞく…っ
「?!」
 冷たい視線が後ろから注がれ、背筋がぞっとなる。恐る恐る振り返ってみると、その光景に絶句した。
 壁際に人が浮いていた。ぱっと見たかんじは、シュンと一緒。唯一違うのは、シュンはベールをすっぽりかぶっているが、この人はベールをすっぽりかぶらず、頭にのせているだけで、顔の表情が明らかだった。別にその光景は恐ろしくもない。俺がぞっとなったのは、その人の状態にある。首は右に傾き、手と足は力なくぶらんっとぶら下がっている。その首もとを壁から突き破る鉄骨二本が首を支えるように突き出ている。そして、口は半開きで、目は細く微笑んだ状態からぴくりとも動かない。その視線は俺にきていた。
 しかし…これだけは言える。あの首は折れている…。明らかにアレは死んでいてもおかしくない折れ方だ…。
 それが分かってぞっとなった。あの人はいつからああなっていたのだろう…。神魔戦争から?それとももっと最近?
 とりあえず水場は何かとマズイ!!離れないと!!いつシュンが襲ってくるか分からない。
 ふわ…っ
 俺は宙に浮き、水面から出ると、俺の左足に絡み付いているものに更にぞっとなった。それはベールをかぶっているシュンだった。
 ずっと俺のところに引っ付いてたのか?!
 そう思ったが、その矢先にシュンの足元を見て驚いた。先程あった足がなくなっているのだ。その代わり、鱗が生え、まるで蛇のようにぬめぬめとして光沢があるものが見える。
「竜王の力…きらきらしてて綺麗……俺も欲しい……俺にちょうだい……」
 ぞ…っ
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!来るなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 俺はシュンの狂った言葉に恐怖を覚え、逃れるために、空いている右足でシュンの顔面を蹴った。すると、シュンは悲鳴をあげて、俺から手を離し、水の中へ落ちていく。
「はぁ…はぁ…はぁ…っ」
 全身から脂汗が吹き出る。ここまで恐ろしいと思ったのは珍しいかもしれない…。
 怖い…っ
 その言葉が全身に駆け巡る。恐怖が体を硬直させる。だけど、水面下ではシュンがゆらゆらと水の中を泳いでいる。
 ここから逃げなきゃダメだ…
 どうにかそれだけ判断することが出来、俺は逃げることを決心した。味方が少しでもいれば…なんとかなるかもしれない。
 だけど、その希望さえもシュンは奪おうとしていた。
「竜王の力ちょうだい〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 ごばぁっ!!
 逃げるのがバレ、シュンは水面から勢いよく飛び出て、俺に迫ってきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 思わず悲鳴をあげて逃げようとするが、シュンは凄い速度で追っかけてきた!!しかも、そのおかげか知らないが、シュンの全貌が明らかになった。
 うへぇ…。上半身は人間で下半身は蛇と魚の合体したものだったのか!!
「………………………………しい」
「?!」
 逃げまくっていると、再びあの微かな声が聞こえてきた。さっきとは同じ言葉だけど…何を言いたいのか分からない。
 ってそれより、少しはあいつとの距離を離さないと…っ!!
 俺はスピードを上げるのと同時に弱小魔法を先に唱え、そのあとにかなりの強力な破壊力を持つ呪文を唱えることにした。
 後者の術で上に影響がなきゃいいけど…。
 一抹の不安がよぎるが、今の状況ではそうも言ってられない。少しでも時間稼ぎをしないと…っ!!
「炎よ!!疾風よ!!」
 俺は適当に呪文を繰り出し、攻撃していくが、向こうにはちっとも効かない。
 ならば――――
 俺はすっと腰に携えてあるポシェットに手を突っ込み、クナイを何本も抜き出し
「はぁぁぁぁっ!!」
 クナイを勢いよく投げるが、殆どが避けられてしまう。それでも俺はスピードを上げ、後ろを見ながらクナイを投げつづける。
「ちょうだい…ちょうだい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 うわぁっ!!目がイっちゃってるよ、ヤバイよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 恐ろしさのあまり、クナイの数を考えないで、とにかく投げまくる。そしたらそのうち一本がシュンの鱗に運良く刺さった。そして、そこからおびただしい量の血が流れ出る。さすがに、これにはシュンは苦渋の色を見せたが、いっこうに突っ込んでくる。
 どっしぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!しつこい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
 もう俺は泣きたくて仕方がない。この仕事が終わったら御所でしばらく大人しくするぅ〜〜〜〜〜〜〜っ!!
 そう思っていた矢先、目の前に壁に宙ぶらりんになっている人がこちらをやはり見ていた。
 何を楽しそうに見てやがる!!
 そう舌打ちし、くるりとシュンがいる方向に向き直ると、両手をかざして、力のある言葉を唱えた。
「我は滅する!!凶(まが)なる亡者!!」
 ごがっ!!
 俺が放った術はシュンを四散させたが、シュンは滅ばず声が響いた。
「欲しい…竜王の力……。なんで俺にくれないんだ………?
 憎い…竜王が……。でも…きらきら光ってて綺麗……欲しいよ……欲しい……」
 うへぇ…。体がばらばらになってもこんなこと言ってる…。気持ち悪いぃ〜〜〜〜〜…。
 そう思っていると、シュンの散った体が1つずつ丸くなってふわふわと宝珠になって浮遊する。
 これって…一体…。
 そう思っていると、耳元から柳さんの焦った声が響いてきた。
[まずい!!このままだと厄が!!]
 え?!
[洸琉!!1つだけでもいいから飛ばすな!!]
 え?!えええ?!
 柳さんの言葉に我が耳を疑ったが、そうも言ってられないので、慌てて近くにあった宝珠を二つ掴んだ。
「ずるい…ずるい……ずるい………」
「欲しい…欲しい……欲しい………」
 次々にシュンが言葉を放つ。
「だから…この世界に七つの災いを……………」
 そう言い放つと、7つ…正確には5つの宝珠がひゅんひゅんっと音を立てて蜘蛛の子に散って消えてしまった。残った二つは俺が何とか捕まえてたので、飛ばされずに済んだのだが…。
 七つの災いって一体…。
[やっぱりこうなっちゃったか…。まあある程度は夢見で予測してたけど……]
 と柳さんが溜め息交じりで耳元で呟いた。
「やっぱりってことは…ある程度夢見で見てたわけだね?どーしてもっと早く教えてくれなかったわけ?」
[未来を言っちゃうと、それはそれで違う未来になってしまうんだ。だから、言うのも断片的にしか言えないし、夢見や時間神って結構大変なんだよ]
「ふ〜ん…。これからどーなるのかな…???」
[たぶん竣の分身が災いをもたらすだろう…。この国だけじゃない。他の国にまで影響をもたらすだろうな…」
「竣って…一体何者………?」
 俺は虚空を眺めながら尋ねると、柳さんは一息ふぅっとつくと、語りだした。
[あれはね。死人だよ。思いが強すぎて肉体は死んでるのに意思だけ一人歩きしてるんだ。
 竜王になれなかった強い恨みが彼をこの世に残している。せめて、その思いが断ち切ることが出来たら、昇天できるのにね…。
 彼は…ずっとずぅっと昔に死んでる人なんだ。シヴァが思い出してくれた。シヴァが言うには、天竜王の選者に選ばれることなく、その力を時の王が恐れて地下水路に封印という形で幽閉されたらしいよ]
 じゃああそこにぶらさがってる死体は…
[恐らく彼のだろうね。何故ああなっているのかはまだ見てないから分からないけど…。とりあえず洸琉に襲った暗殺者は竣に操られたレジスタンスの幹部だったようだよ。
 夢見に触れるなっていうのは…災いを予見して忠告してたんだ。彼もそれなりに先天的な夢見の力はあったみたいだけど目覚めることが無かったんだね]
 そう…なんだ……。
[竜王はこーゆーことによく直面する。何故1000年以上もたっているのに他の竜王が気づかなかったなのはあまりにも情けないけど…。
 たぶん…洸琉には災いを消す“光”があるんだと思う。だから、こうやって災いが集って助けを求めてくるんだ。
 これは決められたことなんかじゃなくて、君が望んでいるんだ。全ての闇を消し去りたいっていう思いが洸琉の知らない奥底で叫んでいるんだよ]
 柳さんに言われて俺は今までの記憶を遡ってみると、悪い結果ばかりじゃないけど、悪い出来事が寄ってきては解決する。それが俺の転生からの定めなのかな…。それなら…その定めを受け入れてやる。
[まあ、今の火竜王がトラブルメーカーなのもあるけど…。それもいい具合に中和されてるからいいんじゃない?]
 ………………………………………………………確かに。
 ごごごごごごごごごごごっ!!
「ん???」
 俺の周りで地響きがするのに、はた俺たちは目が点になる。
[あ。言うの忘れてた。洸琉が放った魔法の効果が強すぎて、ここ崩れるよ…って]
「言うの遅すぎ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 俺はそうツッコミながら、落ちたところから上に戻っていく。もちろん、捕まえた二つの宝珠を抱えて―――――
 俺が放った白魔術と呼ばれる対魔族用の術は滅ぼす対象にも絶大な効果をもたらすが、物質にも大被害を与えるちょっと厄介な術。しかも破壊力もかなりあるものだから、さっき心配してたのはこーゆー理由でもあったりする…。
 そしたら、案の定亀裂入りまくりで今にも崩れそうだし…って崩れるし……。
 崩れていく瓦礫を掻き分けて、上に上がるとき、一瞬だけ竣の遺体だと思われる死体に目をやると、笑顔がなくなり、安らかに眠るように目を閉じていた。そして――――――――
「迷惑をかけてゴメンね……」
 と先程からはっきり聞こえなかった声の主の言葉がそれだけはっきり聞こえた。
 今の声は…生前の竣…なのかな???



「到着っ!!」
 勢いよく落ちた穴から飛び出ると、北都が心配した顔で俺を見ていた。
「洸琉!!」
「北都!!感動の再会は今のほほんとやっている暇はない!!説明は後!!地下水路が崩れる!!」
『なにぃ?!』
 俺の言葉に誰もが驚いた。とりあえず犯人を捕まえたまま、精鋭部隊、敵軍もろともいっせいに逃げ出した。
 ごごごごごごごごごご…っ
 俺たちが出た途端、タイミングよく防空壕は地下水路崩壊により、地盤沈下し、防空壕もろとも音を立てて崩壊したのであった。
「ふーーーっ。間一髪…」
 崩れていく防空壕を眺め、北都は汗を拭いながらそう呟いたが、すぐに俺に視線を落とす。
「で?一体あのあと何があったわけ?しかも、何、その宝珠は…」
「これには深海よりもふっかぁ〜〜〜〜〜いっワケがあって……」
「ほうほう。そのワケとは?」
「また…竜王関係にトラブルです……」
「……………………………………………確かに。深海よりも深そうな事情だな」
 と嫌な顔をしながら北都は納得した。
「御子!!」
 そこにタイミングがいいのか悪いのか知らないが、來羅さんが俺たちに駆け寄ってくる。
「御子!!首謀者は……っ!!」
「ああ…。そこに……」
 と少し離れたところで捕らえられて事情聴取されている莱明を指差すと、來羅さんは俺たちに一礼して、その莱明に駆け寄っていく。
「ありぃ???なんで敵方のレジスタンスに來羅さん駆け寄るんだろう…???」
「ああ…。それはな……」
 と事情を知ってそうな北都が言いかけたとき――――
 ぱしぃんっ!!
 いきなり來羅さんが莱明の頬を引っぱたいて叫んだ。
「莱明!!あんたって子は世間様になんて迷惑かけてるんだいっ!!」
「かーちゃん、痛いよぉ…!!」
 か…かーちゃん?!
 俺は莱明の言葉に耳を疑った。
 今、來羅さんの事かーちゃんって…。も…もしかして……
「軍事作戦を考え中に來羅さんの身元も調べさせてもらったんだけどな、來羅さんの三男がちょうどあのレジスタンスの首謀者だって分かったんだけどね…。ちなみにあんなナリだけど、莱明は16だそうだ」
「ええええええっ?!」
「……………………俺からすればすんげーショックだけどな」
 北都の説明に心底驚いている俺とショックを受けている北都の横で、來羅さんの説教は続く。
「何、泣き言言ってるんだい!!世間様に散々迷惑かけて!!挙句の果てには刑部省の皆様にまで迷惑をかけて!!
 分かってるのかい?!ラブリーピッグレジスタンスが暴れたって世間様はね、悪者にしか見えないときだってあるんだよ!!」
「だからってかーちゃん…殴らなくてもいいじゃんかよぉ…。かーちゃんがお小遣いを文句言わずに上げてくれればこんなことはしないよぉ…っ」
「何言ってるんだい!!もういい年なんだから、自分で稼ぎな!!寺院の賽銭を盗んだりするのを目をつぶってあげていたのは誰のおかげなんだい!!」
「こ…小遣い……」
 俺たちは莱明の言葉とやりとりに呆れた。絶句しながら俺は北都に声をかけた。
「ねぇ…北都……」
「なんだ。洸琉……」
「もしかして………今回の依頼って……大半があの親子喧嘩が原因だったりして……………」
「ああ…。俺もそう思った…………………」
「じゃあ…あの喧嘩の為だけにこれだけの部隊が動いたってこと…?」
「そうなるな……
 お互い深い溜め息をついてハモって言った。
『ぶっちゃけ……くだらねぇ…………』
 って思うのが普通だろ???

 

<END>                     

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