|
九 |
| 「はあっ!!」 ごしゅっ!! 敵を致命傷には至らないほど傷を作って水路の奥へ進むたびに敵の出現率が多くなった。恐らく、シュンっていう夢見が傘下にいるおかげで、こちらの動きを見越して行動しているのだからだと思う。 「ちぃ…っ。思ったより向こうも早く手を打ってきたみたいだね…」 と柳さんは舌打ちをしながら、奥へ走っていくのだが、ぼそっと 「う〜ん…。しっかし、こうも自分の足で走ったのって何年前だったかなぁ…???」 ずるるるるる…っ おいおい…。確かに死んだのは結構前だけどさぁ…。まあ、一応元おうぢ様だもんねぇ…。俺と違って王宮で静かに暮らしている方が普通なのかな? と呟いたことに呆れていると、目の前に明かりが見える。出口か?! 「いんや。アレは罠だよ…。と言っても対魔族用だけど…」 [よく知ってますね…] 「…作ったの僕だって言ったでしょ?」 [………………………………そうだった] と柳さんが言ったことをすっかり忘れてた俺は、柳さんのマジツッコミに深く反省した。 柳さんのツッコミ……何気に怖い…。 「天竜王!!ここからどうするんだ?!」 「このままつっこむよ…。恐らく罠は発動しないと思うけど、記憶が曖昧なところがあるからなぁ…」 『え゛っ?!』 柳さんの一言に俺も含めて全員の表情が固まって引いた。 ……………今…記憶が曖昧って言わなかった??? 「し…シヴァさん……」 「あ…ああ…。俺もそんな不安があったことにはあったんだが…。まあ…500年近くも昔だから記憶が曖昧になっちゃってもしょうがない」 「しょうがなくないっ!!」 ぽりぽりと頬を掻きながら言うシヴァさんの言い訳というかフォローに思わずツッコミを入れてしまった俺…。 「火竜王…一応鈴咒を自分の身から切り離して」 「え?」 「もし対魔族用のトラップなら…魔族と同じ媒体をしている鈴咒たちはタダでは済まない。ここに置いて寺院に引き返させるんだ。 じゃないと…鈴咒だけじゃなくそなたにまで害を及ぼすことになる。いくら火竜王の後を継いで再生能力が並みの人間以上に早くてもそう楽なものではないからね」 「………………………分かりました」 と苦渋な顔で、北都は答えた。そして一呼吸を置いて 「鈴咒」 「はい…」 虚空からりんっと鈴の音と共に鈴咒が現れた。 「お呼びでしょうか。主上…。あら?お久しゅうございます、柳様」 と気配だけで、鈴咒は柳さんだと分かり、北都たちが走っているのにも関わらず、宙を浮きながらスカートを軽くつまんで一礼する。 「鈴咒、今からここ脱出し、ティーラ寺院に戻れ!!」 「ええ?!そんなことをしたら主上の御身が…」 「鈴咒。これは僕が頼んだことなんだ。素直に命令に従いなさい。それが君にとって一番安全なことなんだ」 と、慌てふためく鈴咒に対して柳さんが静かになだめると、鈴咒は「でもぉ…」と納得していないようだった。 「鈴咒。圭咒の成れ果てを見ただろう…。そなたもああなってしまうよ」 「それでも主上の御身は私がお守り致しませんと…。それが我ら守人の役目…」 「火竜王のことは僕に任せなさい。今は役目も何も言っている場合じゃない。一刻を争うんだ。早く寺院へ。そして、寺院に変化があった場合はテレパシーを使って火竜王に連絡しなさい。寺院を守れるのは…鈴咒。君しかいないんだよ」 と強くも優しく言う柳さんに心を動かされたのか、鈴咒は意を決してこくりと頷いた。 「分かりました。では、主上ご武運を…」 そう言って、後ろに振り返り出口の方へ向かって行ったのであった。 「ふぅ…。これで心置きなくあの中へ入って戦うことができる」 「そんなことを言って…あまり戦いたくないのでは?」 「まあ…当たってるし、外れてもいるね」 と呆れてつっこむ北都に柳さんは笑顔で流した。それに対して、北都は複雑な表情をしている。 そう言っている間に、明かりの元である眩い膜の中にいつの間にか突っ込んで、通り抜けていた。 「ほら。僕の言ったとおり、人間には害はないでしょ?」 「……………確かに。だけど、さっき記憶が曖昧って…」 「ああ。アレはね、ほんの戯言だよ、ざ・れ・ご・と♪」 しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…っ 笑顔を振り撒いて言う柳さんの周りと俺とシヴァさんは沈黙に包まれて固まる。 ……りゅ…柳さんって……………………こんなにおちゃめな人だっけ??? とまずつっこんだのはそこだった。何故自分がここをつっこんだのかは未だわからないけど…。 だけど…戯言言って周りの反応を楽しんでいたなんて…。柳さんらしいというか…飄々としているというか…。はぁ…。 「まあ、とりあえず先に行けば…っと。言ってる間に上に繋がる出口見つけたよ」 と柳さんはにやりと不敵の笑みを浮かべて足をとめて上を見た。他の人たちもつられるように足を止め、上を見入る。そこには、いかにも頑丈そうでなかなか簡単に開きそうもない取っ手がぶら下がっていて、壁沿いにハシゴがかけられていた。 「さて、僕は天竜王の力を使えるからいいとして、君らは空間を突き破って別のところになんて神業できっこないよねぇ???」 『できるわけないでしょ!!』 と柳さんの言葉に見事ハモってつっこむ暗部と北都。一方俺とシヴァさんは異界でスライディングしかけた。 柳さん…ボケすぎ…。 「さてと、じゃあ僕が先に言って突破口を開く。君らは…そうだね。この出口を吹き飛ばして侵入しなよ」 「しかし、それでは重要文化財が…」 「そんなの大丈夫だよ。こちらには重力神がおられる、ねぇ」 と心配する暗部をよそに、柳さんは片目をつむりながら北都に目をやると、北都は肩をすくませて「やれやれ…」と言わんばかりに複雑な表情をした。それを目にやった後、柳さんは静かに目を閉じ、右手を前に掲げて静かに言った。 「風神楽第七帖・移(うつし)」 ぶぅん… 言った途端、目の前が暗い地下水路から明るくいかにも部屋と思われるところに移動した。周りは質素ではあるが、それなりに機能を働かせているようで武器や資料がびっしり詰まれていた。そして、目の前には首謀者と思われる者が座るように用意されたそれなりに豪華な椅子が二つ横並びに置いてあった。その椅子には両方とも人が座っていた。右側に座っているのは日焼けした褐色の肌に黒い無精ひげを生やし、髪も短いが、手入れをしていない為、無造作になっている。服装もベージュの武装シャツの袖をじ自分で破いて、ズボンも薄汚れた迷彩柄のズボンで、いかにも武道系な体型をした図体共にデカイ男がどかっと座っており、左側の方は真っ白いベールをかぶってこちらからは口元が見えるのがやっとだったが、か細く、武道とは無縁そうな感じだった。ベールの仕方から褐色な肌が見えていた。服装の方は巡回僧と言ったカンジの服装で、白で統一されている。 これが…首謀者…。 しかし、俺の肉体の方は首謀者だけではなく、その部下もざっと10人ほどいて、いきなり現れた柳さんの姿に慌てふためいている。それは武道系の首謀者も同じだった。だが、ベールをかぶった者は違う。いかにも予想をしていたかのように動揺をするどころか、ぴくりとも体を動かさないのである。ただ、口元はにやりと笑みを浮かべていた。 「き…貴様何者だ?!」 とお決まりのセリフを吐いたのは部下の一人だった。それを聞いた柳さんはゴーグルを外し、にやりと笑みを浮かべて答えた。 「神威大帝国第一皇子・洸琉」 と俺の口調を真似て名乗ると、部下たちは更にざわめいた。 「帝の御子が自ら動かれただと?!」 「夢見様の予見とは違うではないか!!」 「やめいっ!!」 そう次々とざわめく部下を一括したのは首謀者の武道系の男だった。その男の声が鶴の一声のようで、部下はぴたっと止まる。それを見やって、柳さんが静かに口を開いた。 「……………おまえが首謀者の莱明か?」 「いかにも…。次期帝であらせられる皇子様直々いらっしゃるとは光栄に至り…。これも我らの神・タウラ様のご加護があってのこと…」 「悪いが、俺はタウラになんぞ興味はない。 それにいい加減動いたらどうだい?夢見・シュン」 柳さんの発言に部下たちが騒ぎ出した。そして、今まで静かに傍観していたベールをかぶった首謀者がぴくりと初めて動いた。 あれが…シュン……。 そう思っていると、そのシュンと呼ばれたやつはすくっと立ち上がり、こつこつと柳さんに向かって歩いて近づいてきた。 しかし、その歩き方が妙に粘着質があって不気味なのだ。 「へぇ…。俺のことを知ってるなんて、皇子様も夢見だったんだ…。そうには感じられず、俺がぴったりくっついてたことも気づいてなかったのはわざと?」 「皇子自身には夢見の力はない。だが、皇子を加護する竜王の中に歴代屈指の夢見がいる」 「なるほどね。じゃあ、今皇子様の体を使ってるのは、俺の夢のとおり3代前ぐらいの竜王様が使ってるわけだね」 ざざざっ シュンの言葉に部下がいっせいに身構えた。どうやら敵と判断したらしい。しかし、柳さんは動揺しないで、続けて言った。 「君が異界を覗き見をしようとしたんだね」 「それも知ってるなんて、夢見として凄い力を持ってるんだね」 「そりゃどうも。僕は君より夢見の力は長けているよ。君は僕の存在に気づかなかったのだろう?それが格下だということの証拠さ」 「ぐ…っ」 柳さんに痛いところを突かれて、たじろくシュン。それに対して更に追い討ちをかけるように柳さんが更に言った。 「夢見は自分より下の力を持った夢見の夢を渡って覗き見ることは出来ても、上になると渡ることをすらできない」 柳さんはそう言うと、くつくつと笑い出した。 「?何が可笑しい?」 「ああ。可笑しいよ。君の力はかなりの力だと見てあげてたけど、どうやらそれは見当違いのようだ。君の力は凡人並しかない」 かぁぁっ と柳さんの一言にかっと頭にきたシュンは近くにいた部下の武器をぶん取って、襲い掛かった。 しかし、襲い掛かってもベールがはだけないっていうのが凄いよなぁ…と別の意味で感心中。 「あ〜あ。しらけちゃった…。君みたいなのが夢見だなんて残念だなぁ…」 と柳さんははぁっと溜め息1つつくと、目を閉じて何かを念じてる。 「死ねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 「やめろ、竣(シュン)!!皇子に手を出すな!!」 シュンと首謀者の莱明の声が重なるが、シュンは聞き入れるつもりはないらしい。武器を振り上げ、柳さんに迫っていく。 「威輝、あとは頼んだよ」 そう言うと、俺の体から柳さんの気配が消え、目を開いたときには威輝さんの気配に摩り替わっていた。 「ふぅ…」 「わぁっ!!」 と柳さんが現世で気配が消えた代わりに、こちら側にすでに登場したのに俺はビックリして後ろに引いた。 「そこまで驚かなくてもいいじゃないか…」 「ご…ごめんなさい…。いきなり現世からこっちに戻ってるなんて…」 「ん〜…。まあ、そうだね。僕は戦闘にどちらかというと不向きだし、威輝が出せ出せ五月蝿かったから、あのピンチに譲ってあげたよ」 「なるほど…」 「うわぉおっ!!」 と柳さんが説明してる間に威輝さんの驚きの声が聞こえてくる。慌てて目をやってみると、威輝さんが俺が腰に携えていた刀を引き抜き、シュンの攻撃に耐えてるところだった。 「うわ〜…。ちょっとピンチ???」 「かなりピンチかと…」 とちょっと申し訳ないように見入る柳さんに俺は容赦なくツッコミを入れた。一方威輝さんは少し後ろに後退した。どうやら、シュンの押し出す力に後ろに後退するしかなかったようだ。 「俺は最強の夢見なんだよ!!凡人なんかと一緒にすんな!!」 「こんのぉ…。なぁにが最強の夢見よ!!柳の動きに翻弄されてたくせに!!」 ごっ!! 「ぐあっ!!」 そう威輝さんは叫ぶと、いきなり腕の力を緩ませ、身長差を上手く利用して、相手の懐に入り、柄頭で、相手の顎を殴る。その行動が掴めなかったシュンは悲鳴をあげ、顎を抑えて数歩後退する。抑えた隙間から真っ赤な血が滴り落ちる。どうやら、口の中を切ったらしい。 「おのれぇ…」 予想外だったらしく、憤慨するシュン。それに対し、威輝さんはふんぞり返って威張りながら言った。 「柳が言ってたけど、夢見っていうのは寝てないと未来を先読みできないんですってね。それが夢見の欠点よ!!」 そう言いながら、反撃をせんばかりに威輝さんが攻撃を仕掛けていった。 「はぁっ!!」 ごすっ!! 威輝さんの攻撃は虚しくもかわされてしまったが、攻撃の激しさは攻撃後を見て誰もが息を飲んだ。攻撃された場所はアリ地獄のように陥没し、壁にまで亀裂が走っていた。 「まだよ!!」 ぎぃぃんっ!! 「うわぁぁっ!!」 俺の刀が、シュンが持っていた武器を破壊した。その痛みに、今度は手を抑えるシュン。 「火竜王達はまだあの出口でてこずってるのかしら…?こちらとしても一人で時間稼ぎしてるのはかなりきついわ…」 と小声で呟く威輝さん。だけど、そう言いながらも、刀を振り回してシュンに襲い掛かる。 しかし―――――――― ごっ!! 部下の一人が間に入って威輝の刀を受ける。そして大声を張り上げて叫んだ。 「皇子様!!ご自重を!!竣様を傷つけてはなりませぬ!!」 「何よ!!竜王と皇子に楯突く気?!ならば…っ」 「皇子を傷つけるつもりはございません!!どうか話を聞いて…」 「敵陣の戯言を聞くつもりなんてない!!」 そう叫んだ矢先 ごしゅぅっ!! 地が下から突き破り、大きな穴が出来上がる。その穴から暗部と北都が顔を出してきた。 「北都!!」 「遅いっ!!」 俺の声と威輝さんの声が重なった。しかし、それと同時に莱明がいる方とは逆の方からざわめきが起る。そして、ドアが突き破られ、精鋭部隊の一部が流れ込んできた。 「莱明とその部下を捕らえよ!!」 『はっ!!』 暗部は威輝さんとシュンがにらみ合っている間、瞬く間に莱明と部下を捕らえた。それを見たシュンは舌打ちをした。 「ちぃ…っ。もっと詳しく夢見をしていれば…っ!!」 そう言うと、目の前から消えてしまったのである。しかし、声だけは響いた。 「今回はこれで済ませてあげるよ。だけど、次に会うときはタダじゃおかない!!竜王への復讐はこれからだ!!」 と言うが、威輝さんは静かにクナイをポシェットから出し、壁に向かって投げると、悲鳴と共に壁が剥れ、そこからシュンが現れた。 「逃げたつもりでしょうけど、こちらは戦闘のプロよ。甘く見るな」 「ちぃ…っ!!ならば道連れにするまでだ!!」 そう言うと、手を地に置いた。すると、威輝さんとシュンの周りだけ地がなくなる。威輝さんは慌てて浮遊しようとするが、シュンが止め、俺の体もろともまっ逆さまに落ちていったのであった。 ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜!!俺の体は一体どーなっちゃうのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?! |
| 続く→ |