|
八 |
| 任務決行日の早朝…。空は空色と白い雲がいい具合に配置されて清々しいものだった。 だけど、ティーラ寺院の周りでは重々しい雰囲気が漂っていた。何故なら、寺院の前には中務卿宮様たちが選りすぐりの武装した精鋭部隊が陳列しているからである。 俺たちも宮様たちが用意したまた黒い革ジャン素材の上はタートルネックで、首にはデザインとして首にベルトがしていおり、下のズボンにもベルトの装飾がいくつもされている服を着て、腰に刀と、俺は武器多数のポシェット、北都は薬品が入ったポシェットの他に短刀を刀と一緒に携えた武装をしている。 「しかし…」 俺は精鋭部隊として送り込まれた兵士の姿を見て呆気にとられた。 というのも、送り出された精鋭部隊、どー見たって暗部ばかり。その証拠に暗部は面をかぶっているのである。暗部は各省庁に一つは存在する。大体暗部はその部署によって違うデザインの面をかぶっている。暗部の役目は裏切り者の始末や敵部隊の偵察を主な活動内容にしている。冥府八人衆とは異なった分野のエキスパートである。だが、暗部は剣闘士がメインで構成されており、異なった分野のエキスパートではあるものの、冥府八人衆に比べるとやや劣るものがある。 まさか暗部を出してくるとは思わなかったゾ…。まあ、暗殺術、拘束術は長けているには長けてるけど…。 「暗部を精鋭部隊にして送り込むということは…中務卿宮様はどうやら本気でレジスタンスの首謀者を潰すつもりでらっしゃるなぁ…」 と北都は腕を組みつつ、暗部の姿を見て呆れながら呟いた。 「そうみたいだね…。まさか…ここまでの数の暗部を揃えてくるとは思ってもみなかったよ…」 「まあな…。さて、これでおまえさんが言う夢見はどう動いてくるのかな???」 「夢見…」 そうだ…。俺たちにはレジスタンスのほかに俺の夢にひっついているという夢見の存在を明らかにしなきゃ…。 あの夢見は一体何を望んでいるんだ??? [洸琉……] と頭の中で威輝さんの声が響いてきた。 威輝さん?どーしたの??? そう問い掛けると、威輝さんは困った口調で応えた。 [柳が言ってたの。異界に会った夢見は貴方のすぐ傍に立っているって。その夢見には気をつけなきゃダメだって] それは一体どういうこと??? [夢見は…貴方の傍にいる。いつも目を光らせて貴方を見ている…って。夢見の望みを持っているのは貴方だから…って」 俺が持ってる??? [そう。何かわからないけど、とても危険な感じがするわ。いざとなったら、私かシヴァ、もしくは柳が入れ替わるかもしれないから先に言っておくわね」 え…柳さんまで入れ替わるかもしれないの〜〜〜??? とぼやいていると、威輝さんは子供を叱るような口調で強く言った。 [こら!!柳は私たちと違って夢見なのよ!!夢見が貴方を狙っているって言うのに、頼りにしなきゃいつでもその夢見に引っ張りまわされるかもしれないのに!!」 ………はいはい。分かりましたよぉ…。 とこちらが折れると、威輝さんは何も言わずに気配を消した。 …って言うことだけ言って消えるのやめてよ〜〜〜〜〜!! 「洸琉」 「ん?」 北都に声をかけられ、俺ははっと我に返る。すると、険しい表情で北都が言った。 「ぼ〜っとするなよ。俺の掛け声と同時にこの辺一帯は戦場となる。いくら暗部がいるからって気を抜けないんだぞ」 「分かってるよ。だけど、その目的地に辿り着くことができるかな?」 「できるんじゃなくてするんだよ」 そう言うと、北都は暗部の方に目をやり、大声で叫んだ。 「よぉしっ!!これより作戦を実行する。配置された各部隊は決められたポイントから侵入し、敵部隊の鎮圧せよ。なお、敵部隊の暗殺は最低限に抑えること!!あくまで首謀者確保を最優先とする。敵地確保した場合は通信球で俺に連絡せよ。 特殊結界部隊は白虎壕を中心に四方に分断し、一辺3キロずつ四囲結界を張り、外部と隔離し、民間人の被害を最小限に抑えよ!!いいな!!」 『はっ!!』 と、暗部たちは姿勢を正し、敬礼をする。それを見た北都は一度頷き、ばっと右手を前に突き出して 「かかれぇいっ!!」 と大声を張り上げて、号令を上げると、暗部たちはいっせいに動き出した。 きぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっ!! 暗部が散ってから1分も経たない内に耳鳴りと共に、俺たちの周りの空が一変する。どうやら特殊結界部隊は四囲結界を張り、外部との隔離に成功したようである。 それを見届けてから俺と北都と数名の暗部は白虎壕に向かって動き出した。目指すは來羅さんが言った旧地下水路。 とっ 軽く地を蹴り、俺たちは目的地を目指す。そして、來羅さんが言った、旧地下水路の入口に辿り着くと、俺たちに付き従っていた数名の暗部が先回りして入口に罠が張ってあるか確認し、入口の重く錆びきった門を開けると、門はぎぎぎぎっと鈍い音を立てながら何十年の時を経て、再び現代に昔の水路の姿を現した。 「こ…これが旧地下水路…」 「でか…っ」 俺たちは開かれた水路の大きさを見て唖然となった。それは、暗部も同じ。何せ、俺たちが予想してたのは人一人通れるぐらいの広さだと思っていたのだが、人一人以上は確実に通れる広さは約6メートル四方の煉瓦造りで、通路の真ん中には微かに水がまだ流れていて、水路の役目をまだ終えきっていない。 「これが神魔戦争の時に建設された…」 と暗部も驚きが隠せていない。 「と…とにかく行くぞ!!」 『おうっ!!』 と威勢良く俺たちは地下水路の中へと入っていった。 ぴちょん…っ 使われていない水路に天上を伝う水が雫となって滴り落ちる。その中を俺たちはサイバースコープを装着してライトナシに進んでいく。 今のところ罠や敵といったものは一切ナシかぁ…。 ごっ!! 急に俺たちの前に爆煙が広がり、襲い掛かる。思わず条件反射で左腕で顔をかばった。 「な…何だ…っ?!」 「どうやら上で戦闘を開始した模様!!通気穴を通って爆煙が!!」 と暗部の一人が叫んだ。 ちぃ…っ!!この爆煙の量だと相当な激しい戦いになってるんだろうな…。 ずずずずずずず…っ 爆煙のあとに地響きが響き渡る。 この音は…まさか……っ!! 「散れ!!この音は上から崩れる音だ!!」 俺は咄嗟に叫ぶと、暗部と北都は散り散りに散ると――― ごばぁっ!! タイミングよく上から土砂が崩れ落ち、水路が土砂で埋るものの、通路だけはかろうじて土ぼこりがかかる程度で、俺たちに誰も怪我人は出なかった。 「上の激戦の影響で地盤が耐えられなくなったのか…?」 「もしくはここ自体が今まで何十年も使われなかったがために、土を支えている壁が風化してるかもね…」 「よし…っ。とりあえずここは放置する。捕獲終了後、速やかに補強させるぞ」 『おうっ!』 北都の指示に従い、俺たちは土砂を無視して先に進もうとしたが――― 「国民の敵!!覚悟ぉ〜〜〜〜!!」 と埋もれた土砂から、数人のレジスタンスの信者と思われる武装した者が俺たちの後ろを衝いて飛び出てきた。 こちら側もその後ろを衝かれた事に少し焦ったが、さすが暗部。戦い慣れをしているため、後ろを衝かれた所で動揺もなく、冷静に武器を抜いて襲撃をかわしていく。 ひゅぅ…っ!!さっすがぁ〜♪ 「洸琉!!そっちに一匹行った!!」 「あいよ!!」 と返事をして構えようとした途端、暗部が先に動いて捉えてしまったのには、俺はしばし目が点。 る〜〜〜〜〜〜…。俺の活躍がぁ〜〜〜〜〜〜〜…。 「御子!!お怪我は?!」 とその捉えた暗部が尋ねてきたが、俺に対する呼び方に違和感が…。 御子って呼ぶのはまあ、大概宮中や中務省に勤務する人たちが呼ぶけど…。どーも慣れない…。 「縛っ!!」 北都が叫ぶと、敵全ての動きがぴたりと止まった。 「ふぅ…っ」 「さすが火竜王様。周りの重力と肉体の神経に命令を出して動きをぴたりと止める。いやはや神業に等しい」 と暗部が感心しながら口を開いた。 神業って…。北都一応神さまだけど…。 [………………しい……………] え?!今何か?! [洸琉…。悪いけど入れ替わるよ] と弱々しい声の後に柳さんが冷静に頭の中から語りだした。すると、途端に俺の意識は異界の柳さんがいた温室に向かい、肉体の方は柳さんが支配した。 「よぉ…。また会ったな」 と異界に着くなり、またしてもシヴァさんと一番最初に会うハメに…。 どーして毎回毎回異界に行くたびに一番最初に会うのはシヴァさんなんだろう…。 さすがにこうも会うとへこたれる自分がいたりする。そんなことは知るはずもなく、シヴァさんが静かに言った。 「柳が自ら率先と動こうとするなんて、珍しいものがあるな」 「ふえ???」 と俺はシヴァさんの言葉に小首を傾げると、シヴァさんは苦笑しながら答えてくれた。 「柳はな、普段は誰のためにも動かない。動くとしたら自分に利益があったりするときか、よほど大切なものじゃなければ頑として動かないんだ。 それなのに、出陣する前から俺と一緒におまえらの様子を見てて、ついさっきの微かな声に表情が変わって、いきなり動いた。これは何かがあるのかもしれん」 「夢見が関係しているとか?」 「無きにしにもあらずだな。俺は柳の動きは読めんわ」 「ふ〜ん…。威輝さん以外の他の歴代の方々はこーゆーことに興味は湧かないの?」 「興味はあることにはあるが、ここにはこれんよ」 「これない?なんで?」 「柳が拒んでるというのもあるが、ここは一応それなり力があるものしか入れない建物だからなぁ…。その者たちから許可が入れば、誰でも入れるが・・・ 歴代で入れるのは俺も入れて10人ほどしかおらん。威輝も柳もああいうナリだが、なんだかんだ言ってかなりの実力者だからなぁ…」 「そうなんだ…」 とシヴァさんの言葉に俺はしばし呆然となった。 あの二人結構力あったのね…。 そう俺たちがやりとりやっている間に、俺の体を支配した柳さんが静かに口を開いた。 「………火竜王。ここでの戦いは僕が預かる」 「は???僕…???」 と俺の口調の変化に、北都は物凄い目が点になっている。しかし、柳さんはそんなことを気にも留めずに続けて言った。 「今の天竜王は未熟。だから3代前の僕がこの戦いを指示する」 「おい…っ!!ここでは俺が軍師だ。何代前の天竜王か知らないが、人の戦いに口を出されちゃ……」 「この戦いは君らの領域を遥かに越えている。なにせ…この戦いには夢見が一枚噛んでいるからね」 「夢……見………?」 柳さんの言葉に北都も含めて暗部も驚きを隠せない。そんな様子を見て柳さんが溜め息交じりで言った。 「たださえ未知数な夢見相手に捕獲とか前線で戦うことをメインにした君らが敵いっこないのは歴然だろうに…。こーゆーときは年寄りの言うことは素直に聞くことだよ」 「じゃあ、尋ねるが、その夢見って…」 「………………………シュン」 「シュン?」 「そう。シュンっていう人物が夢見。どこから見ている。君ら全てを監視してる」 「監視って何故?」 「それはね……君らが神々に最も近い存在だから」 「は???」 柳さんの言葉に北都はきょとんとなる。だけど柳さんはそれを補うように言った。 「シュンって人はね…。神さまに……竜王になりたかった夢見だよ。 だけど、竜王はシュンを選ばなかった…。彼にはそれに見合う力量がなかったんだ。 それでも、夢見を甘く見ちゃいけないよ。彼の夢見の力は相当なものだ。僕の最盛期に詰め寄るぐらいの力だ。あの力なら過去現在未来以外にも未知の世界の夢をも渡れる」 「何故そこまで力がある夢見が俺たちを付け狙う?」 「言っただろ。君らが神々に最も近い存在だからって。彼はね、自分を選ばなかった神々に復讐しようと企ててるよ。まず、このレジスタンスの暴動をふっかけたのも彼。暴動から大戦争を起こそうと企てたみたいだよ。 だけど、それに行く前にそっちが彼が見た夢見の内容以上に早く動いちゃったおかげで夢見が外れて苛立ってるみたいだね」 と柳さんはシュンという人物が計画した事が失敗したことを告げると、くつくつと鈴を転がすように笑い出し、続けて彼らに尋ねた。 「さっき『………しい』って声聞こえたかい?」 「はい…。微かですが、聞こえました…」 と暗部の一人がかしこまった口調で答えた。 「あの弱々しい声は何を告げたかったのでしょう?」 「それは僕の口から語れない。語ってしまうと違う未来を呼んじゃうからね」 そう言いながら、柳さんは自分の人差し指を口元に軽く触れた。 「とりあえず言えることは、彼は首謀者の横に座っているよ。だから急ごう…」 『おうっ!!』 狭い通路の中で団結する声が響き渡った。 |
| 続く→ |