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七 |
| 「はっ!!」 悪夢に魘されたように俺は來羅さんが用意してくれた部屋で寝ていた布団から飛び起きた。俺の横では北都が気持ちよさ層に寝ている。脂汗が、体中を伝い、ねっとりと粘着質にへばりつくようで気持ち悪い…。俺は半袖の袖で軽く額の汗を拭い、布団から出て、つたつたと裸足のままドアに近づき、ドアノブに手をかけ、外に出た。 すると、出た途端、涼しい風が熱気が纏わりつく汗を一気に涼しくした。その風に身を当てながらしばらく立ちすくむ。 その風と共に風の精霊が俺に呼びかけ去っていく。その風の精霊たちは皆―――― 「…………怯えてる?」 風の精霊がこんなにも怯えてるなんておかしい…。体にあたる風がまるで俺の後ろに隠れるように過ぎていく。 まさか――――― そう思いながら、俺は右に向いて歩いていき、風呂場というか…沐浴専用の水浴び場がある温室に向かっていった。そして、來羅さんから用意してもらった白いTシャツとハーフパンツを脱ぎ払い、水風呂の中に浸かった…。 言っておくけど、中にはちゃんと海パンはいてるからね!! 「うはぁ…っ」 水の心地よさが気持ちよくて、思わず俺は声をあげた。 そして、一旦水の中に潜り、しばし無心になっていたが、柳さんの言葉が頭から離れず、苛立ちと共に勢いよく顔を水面から出した。 「ふぅ…っ」 ダメだ…。俺の中でもやもやが消えない…。 俺にひっついている夢見は何が目的なんだ…?それに別れ際の柳さんのあの言葉…。夢見って一体…。 ちゃぽ…っ 俺は口元まで水に浸かり考え込んだ。 「―――――――――−?!」 水に浸かってる以外に俺は背筋がぞっとなった。誰かの視線が俺を見てる。その視線は禍々しく痛々しい…。 視線の方向からすると建物の中からかぁ…。迂闊に動いたら向こうに勘付かれて逃げちゃうだろうし…。 ひゅっ!! げっ?! いきなり、視線の方向から鋭い武器が投げられてきた。恐らくクナイとかの投げる武器であろう。予想外な動きに俺は慌てて水中に潜って武器の軌道から何を逃れた。 一体誰が?!仮にもここは神聖なる寺院内だぞ!! ひゅんっひゅんっ!! そう思っていても、向こうの攻撃は止まない…。俺が水の中にいようが、いまいがお構いなしに投げてくる。俺は水の抵抗に苦戦しながらも何とかかわしていく。 このままじゃ、息がもたない。いつまでこの中に入れるかどうか…。 『あと一分我慢して…。攻撃が止むかもしれない…』 と、頭の中から柳さんの声が響く。 一分かぁ…。それぐらいだったらもつかなぁ…。 そう思いながら水の中にいると、本当に一分後に攻撃が止んだ。攻撃が止んだのを見計らって、俺は顔を水面にあげると、そこにはやはり誰もいなかった。 「?」 俺は疑問になりつつも警戒しながら湯船からゆっくり出た。そのとき目の前にクナイが迫ってきた!! 「うおっ!!」 俺は条件反射で右手でクナイを掴んだ。そのとき、クナイの刃が俺の右手を抉ったのが分かった。右手に痛みがほとばしるが、そんなことを言ってる暇はない。 「どこだ?!隠れてないで出て来い!!」 掴んでいたクナイを捨て、上着を着て、臨戦体勢を構えると、茂みの置くから暗殺者と思える黒装束の集団が現れた。 だが、その黒装束を見て、俺は一発で人間ではないと確信した。 目に見えないほどの細い糸が奴らに絡まっているのが月の光の反射で見える。奴らは操り人形だ!!ということは、術者もこの近くにいる。 操り人形は殺人人形などと違って遠隔操作ができない。糸を張り巡らせて術者が操るのだ。だが、操り人形の最大の欠点は術者がいざ戦闘に入ると、術者は手足を操り人形に徹してしまうため、隙だらけになってしまうのである。 それなのに…この数をいっぺんに操るということはそれなりの技量があると見える。 俺はクナイを掴んでいる手を動かし、虚空の彼方に向かってクナイを投げた。 がっ!! クナイは鈍い音発した。つまり、何かに当たったということになる。しかし、それが口火となり、操り人形がいっせいに俺に向かって襲い掛かる。 ちぃ…っ!!神聖な場所でも襲う気か?! 俺はそう舌打ちしながら地を蹴って、宙を飛んだ。すると、後を追うように、人形たちも地を蹴って追いかけてきたのである。 「ちぃっ!!虚空よ唸れ!!」 ごっ!! 俺は短縮魔法である術を唱え、衝撃波を放つと、人形が破裂する。俺はそれを見てすぐに戦いは終わったと安堵したが、それが間違えだった。 ひゅっ!! 「?!」 急に宙の上で糸が四方八方から俺の体に絡みつき、俺の体の自由が奪われた。 きりりりり…っ 糸の締め付けが徐々に強くなる。首にすら糸が絡みつき、どんどん締め上げていく。 「かは…っ!!」 マズイ…っ!!このままじゃ…。 手足の動きがままらないのは分かっていることなので、印は組めない。ならば… 「ふぅ…ざん……」 ばしゅぅっ!! 俺が片言で言葉を呟くと、糸がいっせいに吹き飛び、俺は地に崩れるように落ちた。 「ふうざん」と呟いたがこれはテキトーに呟いたもの。まあ、風の精霊が俺の言霊に従って俺の体を自由にしてくれたってわけ。 「はぁ…はぁ…っ」 肩で息をして、俺は地を見つめた。右手はまだ治癒魔法をかけていないので怪我をしたまま。しかし、向こうはこっちの休む暇さえ与えてはくれなかった。 ざっ!! いきなり術者と思える黒装束がこちらに向かって突進してきたのだ。俺は地を蹴って後ろに後退したが、向こうは刃を出してこちらに向かってくる。 ちぃ…っ!!間に合うか?! 「風神楽第七帖・移(うつし)!!」 ぶぅんっ!! 「?!」 俺の周りに風の結界出来ると同時に、俺はその場から消えた。その消えるときに見たのは驚く術者。 まあ、この技は圭咒から教えてもらったんだけど、瞬間的に術者つまり天竜王の受け継いだ者のみ意思で好きな場所に移動することが可能な技なんだって。 こーゆーときに限って天竜王には感謝だよ。こんな便利な技を作ってくれるんだから。 これは天竜王以外の者は誰も使えないんだって。だから、これを使えるということは真なる天竜王の証でもあるそうだ。 ちなみに俺が念じたのは北都がいる部屋。ぶんっと音とともに、俺は用意されていた部屋に戻った。着くなり、危うく北都の頭に着地するところだったが、やったら怒られるのが分かっているので、着地地点を魔法でわざわざ変えて、地に着いた。 「北都!!起きろ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 「むにゃ…。もうたびらりなぁ〜い…っ」 「たびらりなぁ〜いぢゃないわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 と、俺ががくがくと体を揺らしているのにも関わらず、北都は気持ちよさそうにヨダレを垂らしながら寝言を呟く。 がごんっ そう叫んでいると、ドアの吹き飛ぶ音が聞こえてきた。はっとドアがあるほうを見てみると、そこにはさっき襲ってきた奴が仁王立ちになってこちらを見ていた。 ヤバイ…。このままじゃ…っ 「覚悟ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 「北都起きろぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 奴の声と俺の声が重なった。だけど、起きる気配が… ずぅぅぅぅんっ といきなり、奴の周りに重力が上から押し潰すように圧力がかかった。奴は短い悲鳴をあげて、その重圧に耐えていた。 一体どーなってんだ?! 「もぉ…。こっちが気持ちよく寝てるっていうのに…なんなんだよ…」 と眠気眼で目をこすりながら、北都が言った。 「もしかして、今の重力かけてるの北都?」 「いちおーね…。なんか…ヤバイ雰囲気だったからさ…。向こうの周りの重圧をちょいちょいっと変えてみた…」 「北都エライ!!よくやった!!」 「そう言っててもいいけど、所詮アレも一時凌ぎダヨ…」 「それでも何とかなるでしょ?」 「まあね…。ところで…アレ…誰???」 「それはこっちも聞きたいセリフ…。いきなり襲ってきたもんだから、怪我を治す暇もありゃしない…」 「うおっ?!ホントだ!!俺の服が血まみれ!!」 とようやく、俺の血に気づいた北都。気づくの遅すぎ…。 そう思っていると、奴が苦痛の声を洩らした。 「夢見には……触れ…る……な……」 そう言って、奴はぴくりと動かなくなった。北都が慌てて、術を解除して近寄るが、既に絶命していた。それが後日來羅さんにどえらい怒られる事は言うまでもなかろう…。 |
| 続く→ |