| 壱 |
| 双子の満月が出ている夜、とある王国の摩天楼の都の真上で、ニつの影が宙を舞い、激しく剣が交わり、火柱が飛び交う。 しかし、ニつとも動きが速すぎて、目を凝らして見ていないと見失ってしまうほどの速さだ。 その様子を一番高い建物の上で望遠鏡で見ている少年がいた。 年のころなら10か11。一瞬誰もが美女と勘違いするほどの容姿に、まるで瑠璃色の夜空を石にして磨きあげたような綺麗な蒼の瞳。そして、真っ白いチャイナ服の上着に黒のズボンとブーツを履いていて、琥珀色の長い髪を首の辺りで一つに結っていた。 |
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「うわぁ〜、北都のヤツ暴れまくっているな〜! そこまでしなくても敵は逃げやしないのに………」 俺、洸琉=新羅は建物の上で望遠鏡を見ながら正直な感想を述べた。 俺と北都はこの地域を任された特殊先発攻撃部隊の隊員である。 特殊先発攻撃部隊というのは一応王国の刑部省の一つに所属してるんだけど、その名の通り、普通の警備隊では捜査ができない事件などを受け持ち解決させるのを目的とした特別チーム。 警備隊が捜査できない事件というのは、『魔術(魔法)』を駆使する『魔導士』と呼ばれる人々が起こす事とその『魔導士』が造った『魔道具』と呼ばれる道具を使った事件である。 普通の検非違使はただの傷害事件とかテロの時しか役に立たないんだよね。 他の麻薬とかの薬物モノはほとんどこっちにまわってくるし………。 そんな事件を解決させる特殊部隊は年齢制限なく全員が『魔導士』の資格を持っている。 持ってなかったら、解決することができないし、命がいくつあっても足りない仕事なのだ。 まあ、この部隊は『魔導士』の資格を持っていても、武器を使う接近戦が必ずあるから大半が魔術と剣術両方を扱える『魔法騎士』がほとんどと言った方正しい。 この部隊は年齢制限はないので年齢層が幅広いが、入る為に必要とされる『魔導士』と『魔法騎士』のランクが非常に高いことで有名で、結構名の知れた部隊でもある。 って説明している間に北都たちを見失ってしまった。 俺の目の前にはただ風がなびいて揺れる看板しかなかった。 俺は慌てて望遠鏡を上下左右に動かして探したが、どこにもいない。 はて?ここにいないってことは…………上か!! 俺はがばっと上に顔を上げると案の定二人は俺の真上で剣を交えていた。 俺は望遠鏡を手から外し今度はそこらへんに散乱していた武器の一つの弓を構えた。 きゅりりりり…… 一点に集中して矢を引く。 的は北都と交戦している黒いフードをかぶったへんてくりんの魔導士のみ! ひゅっ! 「のわっ?!」 俺は矢を放つと、矢が行った方向は北都と魔導士の真ん中を見事に割って入り、二人は左右に分かれた。 あちゃぁ………また失敗………。 俺はぺろっと舌を出して反省した。 どーも俺の弓はいざ戦いになると外れることが多い。 ま、相棒の当たらなかったからよしとするか。 「『よし』とするんじゃないぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」 北都が怒りまくっている声で叫んできた。 あ、バレてたの? 「おまえも、そこで観戦してないで参戦しろ!」 「はいはい………。 浮かべ!」 俺はやる気のない返事をしながら印を組み、呪文を唱えると俺の体は宙に浮いた。 仕方がない。参戦する気はないけどやるっきゃないか………。 俺は逃げようと思ったが、逃げることを素直にあきらめた。 逃げたら逃げたで後で北都に十字固めを食らわされるに決まってる。 それを考えたらまだ参戦した方がマシであろう。 「さぁっ!これで2対1になったぞ! 観念しておとなしく捕まりな!」 勝ち誇ったように北都は魔導士に言った。 しかし、魔導士の方は諦めた気配が全くない。それどころか不敵の笑みをこぼしている。 俺はとりあえず用心して随分と前から拾っておいた握り拳ほどの大きさの石を手に隠した。 「観念しろだと? それはこっちのセリフだ。」 ふぉぉぉぉぉぉぉぉ…… 魔導士の手のひらに魔力が集結する。 攻撃魔法か………。 俺は瞬時にヤツの攻撃魔法を見切った。 「食らえぇぇっ!」 「だっれが! 観念したくないやいっ!」 ごすっ! 「あ゛う゛っ!」 魔導士が魔力を投げると同時に俺が手に隠していた石を力ずくで投げると、鈍い音を立てて魔導士の脳天に直撃した。 「お……おのれぇ………我ら全ての………」 「じゃあかしいわっ!」 べひっ! 悪あがきをする魔導士だったが、北都の鉄拳が魔導士の頭に炸裂して、魔導士は撃沈した。 それをすかさず俺がヤツの腕を引っつかみ、捕まえた。 「きゅう………」 魔導士は完璧に気を失って目を回している。 ………なんともあっけない捕獲劇だなぁ。 俺は呆気に取られながら心からそう思った。 しかし、この捕獲劇はこれから始まる大事件のほんの序曲でしかなかった。 |