| 弐 |
| 魔導士捕獲の仕事も一段落をして俺と北都は俺達が所属している部署がある刑部省本部に帰って来た。 刑部省は王国でも随一の繁華街でもあり、首都でもあるアニムスの都の中心にある。 俺達は帰って来た早々特殊先発攻撃部隊の棟梁の伝達係を任されている朧から俺宛の手紙を受け取った。 手紙の内容は新しい仕事の依頼と個人的な話だそうだ。 しっかし、帰って来た早々にじーさんに呼び出しを食らう羽目になったのはちとうんざりしていた。 個人的な話……イヤな響きだ。 俺はしぶしぶ、じーさん…じゃなく、棟梁の部屋に向かった。 「失礼しまーす。」 「遅い!」 「うおぉっ?!」 俺はドアのノブを回し中に入ると、椅子に腰を掛け、顔の前で手を組み、物凄い剣幕でこちらを睨み付けている棟梁・叉玖磨がいた。 俺はいきなりのことだったので、後ろに飛んだ。 「……なんじゃ。 そこまで驚くことはないだろうに。」 棟梁はけろりと表情を変え、元のにこにことしたじーさんになった。 棟梁は初老に入った方で、白髪混じりの髪に碧の瞳、そして刑部省が特定の人物のみ義務づけられた式服を着ていた。 特定の人物というのは各部隊の棟梁と省庁長のことを指す。 「な…ななななななな……! いきなりなにするんだよぉっ?!」 あまりにもびっくりしたため、言葉があやふやになっている。そんな、俺を見て棟梁は呆れながら言った。 「おんやぁ? ちと刺激が強すぎたかのぅ。 まぁいい。仕事だ。 ある薬の薬草を取りに行く職員を護衛しろ。」 「なんでまた?」 俺は眉をひそめて棟梁に尋ねた。 すると棟梁は困った顔をして答えた。 「う〜む。ちと、困ったことになってな。 ある薬物の解毒剤が消えて大変な騒ぎになっているんじゃよ。」 「なんの薬?」 俺は再び問い返す。 「麻薬に近い『クルトゥスの実』だ。 ある魔導士に盗まれたうえ、その実を式部省に撒き散らしたもんだから大騒ぎになってな。 職員が次々と中毒症状に陥っている。 そこでだ、これから薬物専門の職員が解毒剤の材料を取りに行くのだが、洸琉と北都で解毒剤として使われている『ミアティスの実』をきちんと取るまで護衛して欲しい。 もちろん、おまえらが見分けがつくとは限らないからちゃんとした薬物専門の職員が同行するから安心しろ。」 「『安心しろ』って俺達じゃなくてもその薬物専門の職員だけで十分じゃん。 なんで、俺達まで出てくるわけ?」 「ぎく……っ! じ……実はな……そのミアティスの実は第一級危険区域のみにしか咲かないものでな……。 職員も戦闘能力はあまりないらしくてな、依頼してきたんだ……。 報酬もいつもの倍以上払われる。なにがなんでも受けてくれるな?」 「いやなこった」 俺はあっさり断った。 冗談じゃない。第一級危険地域と言ったら一歩入れば命の保証がないと言われているところだゾ! 「……洸琉。 おまえいつからそんなに反抗的になったんだ?」 「たった今v」 ひくひくと口を引きつけながらにっこりと笑う棟梁に俺も笑顔で答えた。 し〜んっ! 笑顔のまま長い沈黙が走る。 我慢比べってところだろう。 沈黙が走って約10分。 まだ笑顔のまま沈黙が続いている。 「洸琉ちゃぁんっ!任務終わったのねェ〜♪」 俺達の沈黙を破ったのは、棟梁補佐官を務めている瞳姐さんの声と勢い良く開けたドアの音だった。 そして、瞳姐さんは棟梁を無視して俺に抱きついてきた。 露出度の高い服を着て、ウェーブが入った黒髪に青い瞳の瞳姐さん。 毎度の事ながら抱きつくのは止めてくれ……。 「あはっ!任務ご苦労様〜v お姐さん心配してたんだからねェ〜v あれ?棟梁いたの?」 俺にじゃれてきた瞳姐さんはやっと棟梁の存在に気がついた。 毎度のこととはいえ、棟梁も呆れている。 「今、任務の説明をしていたんだが……」 「え〜っ!もしかしてぇ、第一級危険地域の遠征のことぉ? 洸琉ちゃんにはちょっと危なすぎるよぉ〜!」 「これも修行のうちだから平気だろう。 それに依頼主もエリートだからなんとかフォロー入れてくれるだろ。」 「でもぉ〜いくらあっちがエリートでもこっちには手が回らないと思うのよぉ〜。 それだったら朧ちゃんや瑠璃ちゃんに任せた方がいいと思うなぁ〜。 そんでもってぇ〜洸琉ちゃんは私と一緒に遊ぶの!いい考えでしょ? うんっ!そうしよ!ね!」 「あほかぁぁぁぁぁっ!」 すぱぁぁぁぁんっ! 瞳姐さんの提案に棟梁は机の上にあったファイルで瞳姐さんの頭をひっぱたいた。 「いったぁ〜いっ! いきなり殴らなくてもいいじゃないのよぉ〜!」 「やかましいっ! おまえは煩悩の塊か?! 今回の任務は洸琉と北都に指名されているんだから変えられないぞ!」 って指名されているんですかい! 俺は棟梁の話を聞いて思わずツッコミを入れてしまったがそれと同時に納得した。 なるほど……指名されちゃぁ断れないわな……。 しっかし、指名されるほど他人からの依頼はあんまりないのになぁ……いったい誰が依頼したんだ? 「とにかくっ!洸琉は北都と共に依頼主との待ち合わせ場所、王立自然公園に行ってこい! 待ち合わせ時間はa.m2:00だ。」 「棟梁ぉ〜! あと一分で二時だよぉ?」 「なにぃ?!あそこまで行くのには走っても5分かかる!こうなったら……」 棟梁はそう言うなり、俺の襟首を引っつかんだ。 「も……もしかして……。」 「安心しろ。 北都の方にはちゃんと手紙で命令しといた。 待ち合わせ場所でちゃんと合流しろよ。 健闘を祈る。」 「えっ?ちょ……っ!」 「うらぁっ!飛んで行ってこーいっ!!!」 「うわぁぁぁぁぁぁっ!棟梁のばっきゃろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」 吹き飛ばされながら俺は叫んだ。 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」 ざざざっ! 俺は公園の一角にある茂みの中に落ちた。 くっそー!後で覚えてろよ! 俺は心の中で叫び、次の行動に出た 早く行かないと依頼主を待たせることになる。 俺は駆け足で依頼主を探した。 そーいえば、依頼主の特徴を聞いてなかったなぁ。まぁいいか、北都が目印になるだろう。 公園を半周してみると、噴水の前で北都と依頼主らしき人物が座って待っていた。 北都はちょっと女っぽい顔に青い瞳。肩より少し下の銀髪を首のところで結い、服は日本の平安の上着に白いズボンと黒いブーツを履いている。 もう一人の方は黒い丸ぶちメガネをかけているので顔はわからないが、白衣を着て、黒い髪を前で一本の三つ網に結っている。 なんか……丸ぶちメガネの人、見覚えがあるんだけど………。まさか……ね…… 「お〜いっ!洸琉っ!こっちだ!」 俺に気づいた北都は俺に向かって手を振る。 俺は急いで北都のもとに駆け寄った。 「遅いぞ、洸琉。」 「しゃーないじゃん。瞳姐さんに足止めされてたんだから。 今回の依頼主はこの……人……?」 俺は依頼主の顔を見て青ざめた。 「ニーハオあるvこの間の実験謝々な。」 「うっぎゃぁぁぁぁぁぁっ!! やっぱり、白兎ぉ?!」 俺は白兎本人に向かって指を指した。 白兎は同じ刑部省の管轄内にある化学捜査班に所属している。 白兎はその化学捜査班の中でも有能で、お偉いさんたちから実績を認められているほど。 しかし、その実績の裏で尊い犠牲がはらわれているのである。 白兎は実験の為ならいかなる手段も選ばない。そのため、自分の部下を平気で実験台に使うほど。時には親友でもある瞳姐さんに頼んでこっちの方から何人か実験台をつれてくるまでしてくる。 俺もその実験台にされた一人。 あの時の実験はあまりにも恐ろしくてトラウマになったほど。 その時以来、俺は白兎とは関わりたくはなかった。 「ひょっとして今回の依頼者って………白兎?」 「そうアル〜♪何せ今回のことは私らにも責任があるよろし。 しかも、解毒剤の薬草が第一級危険地帯ときたネ。 瞳や棟梁はあまり戦闘能力が低いからあんたら2人を指名したよ。」 「というわけだ。報酬もいつもより倍だから俺は構わないよ。」 「俺はヤダ。」 「それは無理ネ。 もう契約金前払いしちゃったアルよ。後戻りできないネ。 危険地帯での活躍期待するヨ。」 「ちょっとまて。聞いてないぞ、そんなこと。」 「そりゃ、今話したからしょうがないネ。諦めるよろし。」 「だから、イヤだってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 白兎は俺の腕を引っつかみ、嫌がる俺を無視して公園を後にした。 誰でもいいから助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! |