クケケケケ……
 アニムスの都を離れてから約30分、俺達は第一級危険地帯に指定されているペルソナの森にやってきた。
 ところが、来た早々俺はこの森の光景を見て絶句した。
 見るからにモンスターや奇妙な植物がうっそうとしている感じだ。ある意味一種の密林と言った方がいいかもしれない。
 覚悟はしていたが、まさかここまで凄いとは思ってもみなかった。
「ひゃ〜さっすが第一級に指定されただけはアルなっ!
 ここはあたしの腕の見せ所ネ!」
「見せるって何を?」
「何言うか、北都!
 あたしの腕の見せ所と言ったら、薬と失敗作の実験動物に決まってるアル!」
『あー…っそ。』
 力いっぱい堂々と言う白兎に俺と北都は呆れた。
 ったく、これだから薬物マニアは………
「そこっ!今、あたしの悪口言ったアルね!」
 ぎくっ!
 どーして、自分の悪口になると超能力者の様に心を見透かすんだ?!
「ふっふっふっふっ!
 あたしの悪口を言ったお仕置きアル〜♪
 新しく造ったこの『暴露糖衣αくん1号』を飲んでもらうネ!」
 そう言うと、彼女はどこからともなくでんっとビンを取り出した。
 げげげげっ!何が何でも飲ませるつもりだ!
「さぁ〜早く飲むよろしぃ〜!効力が気になるアル〜♪」
「本当の目的はそっちだろ?!」
「気にしないアルよ。ささっ一気に飲むよろし。」
「飲みたくないわ!」
「嫌がっても無駄ネ。
 君はこの実験薬を飲まなくてはならない運命アルよ。まさに運命的ネ。
 ま、結果オーライで許すよろし。早く飲むネ。」
「だっれが飲むか!
 それに、俺以外にも実験台になってくれるヤツが目の前にいるジャン!」
「目の前?目の前と言ったら洸琉しかいないアル。」
「俺じゃなくて、北都だってばぁっ!」
「えええっ?!俺?!洸琉厄介なものをこっちに振るな!」
「こーなったら道連れだ!北都も一緒に飲むんだよ!」
 俺は北都の服のすそをむんずっと掴んだ。
「こらっ!離せ!あ〜っもうっ!いい加減にしろ!
 怒り降り注げ雷雲よ!
 ばちばちばちっ!
 北都の声と共に一面の空を雷雲が覆うなり、一気に俺達の下に雷が降り注ぐ。
 俺は慌てて身を伏せて難を逃れたが、白兎のほうはモロに直撃して真っ黒焦げになっていた。
「あ……あたしの……薬が………」
 ぽて……っ
 黒焦げになった白兎は呆然としたまま後ろにひっくり返り、そのまま失神していた。
「どうする?これ……」
「………洸琉。」
「ん?」
 絞り出したような声で北都は俺に声をかけてきた。
 ???
「白兎が一番弱いモノって言ったらなんだ?」
「えっ?唐突に言われても……白兎の好きなもの、好きなもの………あ゛っ!かわいいウサギのぬいぐるみ!」
「えっ?!どこどこっ?!」
 俺がでかい声で言うなり、失神していた白兎は飛び起きた。
 ………をい………
「ね、どこにウサギのぬいぐるみがあるネ?!」
「ないよ。」
 北都があっさり言うと白兎は脱力して肩を落とした。
「そうアルね〜。こんなところに
I LOVE ラビットがいるわけないアルね。残……ん?」
 がっくりしていた白兎が急に表情を変えて顔を上げた。
 ぴりぴり……
 これは……?
 俺も白兎に遅れて、気がついた。
「敵だな。数は6……いや……10はいるな……。」
「気配だけでそれだけわかるとはさすがアルな〜」
 北都の言葉に感心する白兎。
 ホント北都は気配だけは人一倍鋭いもんな〜。
「おいっ!隠れてないで、出てきたらどうだ?こっちは逃げも隠れもしないぜ!」
 北都が姿を消し、気配だけを残している奴らに向かって挑発する。
 すると、茂みの中から真っ黒いフードを鼻の近くまですっぽり被った十数人のが一声に出てきた。
「囲まれたアルな……。どーするよ、北都。」
「『どーする』って言われても……。強行突破するっきゃないだろ……。」
「それしかないアルね。
 でも相手が悪すぎる……。向こうには剣闘士と魔導士が両方いるネ。」
『何?!』
 俺達は白兎の言葉に耳を疑い、辺りを見渡した。
 本当だ。両方ともいやがる!
「気づいているアルか?あいつらはぐれ魔導士ネ。」
 白兎が俺と北都の間に入るなり耳元で囁いた。
 はぐれ魔導士って確か、<覇竜の陣>や魔導庁のどれにも属さず、魔導士の証も持っていない半ば暗殺者と同じ扱いをされている魔導士のコトだっけ。
 今回の騒動も確か魔導士がらみ……。こいつら……まさか……!
 俺がそう思っていると、目の前のヤツが口を開いた。
「お初にお目にかかります。冥府八人衆の北都殿、洸琉殿。そして、化学捜査班一の秀才・白兎殿。
 私の名は露玖那。私の両隣にいるのは私の忠実な部下、孟螺と邪鬼羅と申します。」
「はぁ?ろくなもんじゃねぇ?」
 ぴしぃっ!
 北都のとんでもない聞き間違いによって緊迫していた空気が一気に凍った。
 名乗る方も名乗る方だけど、聞き間違いをする北都も北都だ。
「……………………」
 この凍った空気にすっかり困り果てている露玖那。
「………あんたらの目的一体何アルか?」
 その空気を破ったのは白兎の一言だった。
 それに露玖那は待ってましたと言わんばかりに声を喜ばせた。
「そうっ!そうなんですよ!よくぞ聞いてくださいました!
 私達の目的はですね、あなた達の足ど………」
燃えろ!
 めらめらぼうぼう
「ぅあっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
 言い終わらないうちに俺はぱちんと指を鳴らして術を発動させると、手のひらサイズの火があっという間に露玖那のマントに燃え広がる。
 それに驚いた露玖那は右往左往に逃げ回る。その時に火の粉が舞い上がり、仲間どもにも燃え移ったものだから、今度は仲間達が逃げ回る。
 な……なんて情けない………。
「……火、止めなくていいアルか?」
「敵に塩をまいてどーすんのさ。
 このパニックを利用してさっさと森の中に入っちまおう!」
 呆気に取られている白兎に北都は厳しい一言で返した。
 そして、俺達は逃げ惑う奴らを尻目に森の中へと消えていった。

 

前の章に戻ります。

メインメニューに戻ります。 ちびガキメニューに戻ります。 次の章に進みます。