「な……なんアルか……この森はぁ……」
 森に入ってさほどの時間が経っていないのに俺達はすっかり息があがっていた。
 何故かというと、入った早々ポスポスの集団に追っかけまわされたからである。
 で、なんとか奴らから振り切って今に至るのである。
「でも……あいつらまだ諦めたとは限らないよ。」
「ゼェー…確かにね、ポスポスもあるけどもう一つ厄介なのがいると思うぞ。」
 なんとか呼吸の乱れを戻し、付け加える北都。
「もう一つの厄介なものと言ったら、さっきの森の入り口に出てきた奴らのことアルか?」
「あ〜いたね〜、そんな奴。
 でも、来たら来たで、魔法で吹っ飛ばせばいいじゃん。」
 俺の言葉に北都は首を横に振る。
「吹っ飛ばせたらの話だろ。
 でも、あっちには俺達の魔術を相殺できる魔導士が控えているし、数で勝てるかどうかわからないゾ。」
「確かにそれも一理アルな。
 でもそれはあっちがお前らより魔力所有量が上じゃなければダメアルよ。」
『はぁ〜…』
 俺達は同時にため息をつく。
 がさがさがさ……
『?!』
 茂みの音に俺達は日頃の訓練のせいか構えた。すると、茂みの中からは俺達の背丈より数倍近くもあるでっかいウサギが出てきた。
 真っ白い毛にくりくりとした赤い瞳、まさにウサギそのものである。
「こ……これ……ウサギだよな……?」
「かわいいウサギと言いたいところだけど、ちっともかわいげがないアル……」
 白兎がウサギを見てげっそりとした顔で俺に答えた。
「くきゅぅ?」
 ウサギは俺達のことを不思議そうにくりくりした目でじーっと見ている。
 へぇ〜…ウサギって鳴くんだ……。
「な…なんか俺達のこと見てない?」
「完っ璧に見てるな。」
「くきゅう♪」
『え゛っ?!』
 ウサギはいきなり喜んでどっすんどっすん地響きをたてながら俺達に突進してきた。
「ひえぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 俺達も踏まれまいと必死で逃げる。
「なぁぁぁぁっ!波状攻撃アルぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
 追っかけまわされながら泣く白兎。
「もしかして、俺達のこと新しいおもちゃと勘違いしてるんじゃ……」
「それともおもちゃじゃなくて食い物だったりして……」
「どっちもイヤアルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「こーなったら!」
 走りながら北都は術を唱え始めた。
 ひょっとして、まさかあの術?!
汝の癒しの眠りを誘え!
 北都は眠りを誘う術をウサギにかけると、ウサギの動きがぴたっと止まる。
 しかし―
「くきゅうぅっ!」
 動きが止まったのはほんの一瞬で、ウサギはさっきより更に元気になって俺達に突進してくる。
「うわぁぁぁっ!効いちゃねぇぇぇぇぇっ!!」
「あっれぇ〜?なーんで効かないんだぁ???」
 再び逃げる俺達だが、北都は走りながら聞かない理由を考えてる。
「あ、ひょっとして威力が弱かったとか!」
「違うアルね!その術は元々術をかけられたフツーの動物には効かないアルよ!」
「あれがフツーの動物なのか?!」
「………正確に言うと、あれは化学捜査班が対魔術用に開発した実験動物アル。
 普通の動物にも効かないアルがあれは全ての魔法を無効にする力がついてるネ。」
『なにぃぃっ?!』
 冷や汗をかきながら言う白兎に、俺と北都はハモった。
「どーゆー意味だよ!!」
「今の今まで忘れてたアルよ。この森は元々化学捜査班が買い取った所有地アル。
 だから、この森には実験で使用された動物が万と住んでいるネ。二人とも気を引き締めて挑むよろし。」
『そーゆーことは、早く言えぇぇぇぇっ!』
 げすっ!
「あうっ!」
 俺と北都が放った掃い蹴りは見事に白兎の足に命中し、後ろに飛んでいく。
「きゅうっ!」
 それをすかさずキャッチするデカウサギ(俺が今、命名)。
「きゅうぅっ!」
 
ばきべきぼき…
「ぐあぁぁぁ……」
 デカウサギの抱きしめる(絞めつける)力に白兎の骨のきしむ音がこっちまで聞こえてくる。
「な……なんか……生き別れの涙の再会って感じの雰囲気じゃない?」
「…一方的だけどな。」
「二人ともぉぉっ!眺めてないで助けるよろしぃぃぃぃっ!」
「くきゅうっ!」
 俺達はデカウサギと白兎のやりとりにただただ呆気に取られているだけだった。

 

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