『ぜぇー…はぁー…』
 俺達は一目散に寿さんの家に戻ってくると、すぐさまドアに鍵をしめて、肩で息をしていた。その光景を見て、寿さんはとても不安そうに俺達を見ていた。
「あの……二人とも大丈夫ですか……?」
『な…なんとか……』
 と肩で息をしながら俺達は返事した。もー二人とも力を使い果たした兵って感じになっている。もっとも枕のほうが俺より疲れていないんだけどね。
「ほ…北都は……?」
 と俺は肩で息をしながら寿さんに尋ねると、寿参は不安そうに答えた。
「それが、先程大きな音と共に北都さんの悲鳴があがったんですが、それきり静まり返ってしまって……。呼んでも応答がないし、鍵も開かないんです」
「応答がない?」
 俺はオウム返しで尋ねると寿さんは不安そうな表情のまま頷いた。俺と枕は不安になって北都がいるはずの蜜柑ちゃんの部屋へ向かったが、部屋のドアは開かないどころかぴくりとも動かない。俺と枕はお互い顔を見合って頷くと、枕が俺より前に出て、印を組み、呪文を唱え始めた。
 お手並み拝見といきますか。
「吹き飛べ!!」
 い゛っ?!それ呪文じゃないじゃん!!
 俺は枕の口から出た言葉に驚愕するが、魔法のほうはちゃんと発動し、突風でドアを吹き飛ばした。
「いぇ〜いっ!!」
 な…なんちゅう強引さというか呪文省略……。
 俺は枕の行動に呆然となった。一方枕はずかずかと部屋の中に入っていく。そのとき
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
 と入るなり枕の悲鳴があがった。俺が慌てて中に入ると、そこにはでかけるときよりさらに大きくなった蜜柑ちゃんが座ってこちらを見ている。その一方で枕は腰を抜かしてしまっていた。
「一体何がどうなってんだよ?!」
「わからないよ!!入ったら突然こんなふうになってたんだから!!」
「北都はどこいった?!」
 と俺はあたりを見渡し北都を探す。しかし、北都の姿は見る限りどこにもない。
「え?!え?!もしかして蜜柑ちゃんの胃袋の中?」
「そんなまさか。相手はまだ赤ちゃんだよ。人間を丸呑みなんてできるわけ……」
「いんにゃ。あのデカさなら大丈夫!!」
「人を勝手に殺すなぁっ!!」
 と俺が言い切ると、クッションの山から北都が這い出てきた。
「おんや。北都。無事だったの」
「無事だったよ。おまえが来るまで失神してたけど」
 と乱れきった髪を整えながら北都は言った。そして、ぴょんと宙に舞い上がり、俺の元に舞い降りたのである。
「で。肝心の薬草はどうしたの?」
「薬草は見つからなかったんだけど。カトラの書の原板を見つけてきた」
「原板を?!」
 と俺の言葉に目を丸くする北都。
「それは本当なのか?」
「本当だよ。ちゃんとその原板の写真を撮ってきたんだから。カトラの書は今まで俺達が生み出したものだと思ってたけど、実は竜神人が作り出した書だったんだね。どーりで行方不明になるわけだ。ハームスの周りにある第一級危険地域内に『竜神の遺跡』を発見し、その内部にその原板が安置されていたよ」
「へぇ〜。そうだったんだ。俺も知らなかったよ」
「ところでなんで蜜柑ちゃんはこんなに大きくなってるのさ?」
「俺にも分からない。急に大きくなってそれと同時に凶暴さが増して俺を攻撃してきたんだ。今は俺が召喚した空気の球で機嫌を直しているんだけど……」
「それも時間の問題なんだね。早くカトラの書を読んであげてよ」
 俺はそう言いながら遺跡で撮った写真を北都に手渡すと、北都は嫌々そうに言った。
「え〜っ?!俺が読むのぉ〜?!」
「あったりまえじゃん。魔法騎士の中で一番トップクラスなのは北都なんだよ。北都はAAクラスだけど俺、まだAクラスだし……」
「そうそう。僕なんて魔法騎士見習いなんだから無理だって」
 そりゃそうだ。おまえの場合は読めんだろーが。
「……分かったよ。読めばいいんだろ。読めば」
 としぶしぶ北都は蜜柑ちゃんの前に進んで出た。そして、恭しくお辞儀をし、カトラの書の最初のフレーズを読み始めた。
 カトラの書は最初のフレーズを読み、それからそれぞれの章を読むことになっている。そうでもないと、その効力が発動しないように仕組まれているらしい。
天と地の理を現し、我が明星の下、カフテの名のもとに我汝に願わくは詔を申し上げる次第なり
 そう言い、再び一礼し、続けて言った。
カトラの書第八章 解毒の章
 汝は呪われし書、術を受けし哀れな子羊。わが書を持って汝の哀れの姿から解き放たん……

 とまあうんぬんかんぬんと北都はカトラの書を読んでいくと、蜜柑ちゃんは次第に小さくなっていく。そして最後のフレーズを読むころにはすっかり元の赤ちゃんサイズに戻っていたのだった。
 そして今回の任務も無事終わり、報酬も減給されずにもらうことができた。その一方枕の魔法騎士昇進の試験結果はというと、俺は結構いい点数をつけてやったのだが、北都は相変わらずの辛口採点でとりあえず魔法騎士昇進補欠となったのであった。その結果を聞いて、枕はショックのあまり寝込んでしまったのは言うまでもなかろう。

≪THE  END≫

 

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