俺と枕は北都に言われた通りに薬草をハームスの周りにある森を徹底的に探したが、全然見つからなかった。
「枕。見つかったか?」
 と二手に分かれて探していたところでばったり出会い、俺は枕に尋ねると、枕は首を横に振った。
「これでクルデンの森もなしか。北都に連絡とっても本人が忘れているから聞きようがないしなぁ〜」
「こうなったら第一級危険地域であるフキュラの森に行くっきゃないな」
 と俺に対してさっきとうって変わってタメで意見を出す枕。俺はその点にだけ少し評価を上げてあげた。
「良い事言ったな。そういう判断がいい結果に繋がるんだよ。んじゃフキュラの森にLet's go!!」
 俺はそう叫び、浮遊呪文を唱え、枕と共に第一級危険地域であるフキュラの森に飛び立った。フキュラの森に着くなり、森に住む生物達の手厚い歓迎を受けた。俺と枕は攻撃呪文を唱えつつ奥へと進んでいったのである。
「はぁ…はぁ…。ここまでくれば何とかなるかな」
 俺と枕は木の上に避難して、乱れる息を整えようと一休みした。
「……洸琉」
 と休憩中に沈んでいる枕。
「僕…北都の目から見たらどんな風に映っているんだろう」
「……わがまま息子じゃないの?」
「な?!」
 と俺の一言に驚く枕。
「だってそうだろ。おまえは親の脛を頼りにしてるんだから、そう見えてもおかしくないって」
「……そう…ですか」
 と更に沈む枕。
 ありゃりゃ。ちょっと言い過ぎたかなぁ……。
 うぃぃぃぃぃ……
『?!』
 そのときだった。本来ならありえないはずなのに森の中から金属音が響き渡り、俺達に緊張が走る。
「……洸琉」
「おまえも気づいたか。体勢を低くして行ってみるよ」
 俺はそう言うと、木の上から飛び降り、身を低くして草木を分けて金属音がするほうに走っていく。その後に慌てて枕も続いてくる。
 その音のする先には見覚えのある人形と見たことがない、そしてかなり古い建物が森の中にひっそりとあった。
 あれは殺人人形(キラードール)!!
 俺は建物の前で作業する人形に驚愕した。
 殺人人形というのは古代どういう方法で作ったか分からないが、その時代では作りきることができない色々な道具や文献を作り出し、一瞬の内に滅んだという竜神人(りゅうじんびと)と呼ばれる人々が作った人形の一つである。その人形は色々な文字を組み立てて目の前に現れた敵に向かってまるで人間の魔導士と同じように魔法を使って攻撃してくる人形で、まともに相手にできないほど強い。彼らはだいたい門番として使われていることが最近の調査で分かっているそうだ。しかし、時と場合によっては暗殺者として兵器にしているのもある。何故使うのか。それは撃退法があまりないからである。
 俺だって彼らの撃退法を知らない。しかし、弱点はひとつだけ知っている。一体だけなら何とかして破壊できるかもしれない。でも、今回は一体だけじゃない。何十体もいる。
 俺はそれを見て舌打ちした。しかしその一方で枕は興味津々に殺人人形の様子を見ていた。
「ほへ〜っ!!こんなところに『竜神の遺跡』があるなんて北都が言ってたの本当なんだ」
「おまえな、感心してどうするんだよ。『竜神の遺跡』ほど厄介なモンはないだぞ!!」
 そう。『竜神の遺跡』ほど厄介なものはない。『竜神の遺跡』は人形の他にも未知な鉱物や魔法が沢山ある。その全てが厄介なものなのだ。ごくたまに役に立って厄介ではないものもあるけどさ……。
「洸琉!!中に入ってみようよ!!もしかしたらカトラの書があるかもしれないよ!!」
 と茂みを割って遺跡の中に入ろうとする。
「ちょ…殺人人形がいるんだから危ないぞ!!」
「平気だって。すぐさま中に入っていけば攻撃してきませんよ」
 と彼はそう言いながらずかずかと先へ進んでいく。そして案の定―――
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 とまあ、殺人人形にいっせい攻撃される枕であった。
 ったく、もうちょい頭使えよなぁ。殺人人形の弱点は自分の視野の中に入ってきたものしか攻撃しない。だったら、視野の範囲外である空中からあの入り口に入ればいいこと。
 俺はそう思いながら浮遊呪文を唱え、空中に舞い上がり、竜のレリーフで囲まれた遺跡の入り口に舞い降りたのだった。その光景を見て、逃げながら大声で
「あ〜〜っ!ずっるぅ〜いっ!!一人だけ楽するなんて!!」
「だったらさっさとこっちにくればいいだろ。どうやらそいつらは入口を攻撃しないように設定されているみたいだからね」
「あ。なるほど」
 と納得する枕は俺の言われたとおり、素早く俺がいるほうに来た。そして俺の思惑通り、奴らは俺たちに対して攻撃してこなかったのである。
 俺達はそれを尻目に入り口の門に手をかけ、押して開けてみて驚愕した。門を開けた先には天井にトイレがある部屋だった。
「と…トイレ……?」
「天井にトイレか。充実した設備だこと」
 と俺は半分呆れてしまった。
 そして、次のドアが開いた先には動力室らしき広い部屋に繋がっていたものだから、さらに俺たちは度肝を抜かれされた。
「な…なんだなんだ入口に入ったとたんトイレに繋がっているわ、今度は動力室みたいなところかよ」
「こんな変な構造した遺跡今まで見たことないぞ」
 俺たちはそう言いながら更に奥へと進んでいく。しかし、あまりにも中は暗かったので、俺と枕は補助魔法を唱え、拳サイズの明かり(ライト)を召喚した。そして次に待っていたのはキッチンみたいな部屋だった。
 ん〜おかしい。いつもだったらこのくらいの時間が経ったあたりに罠が発動するはずなんだけど……。
 そう思いながら次のドアを開けてみると、そこは先にあるドアが見えないほどの長い通路だった。
 もしかしたらこの辺で……。
「枕。おまえ親父さんより有名になりたいってぼやいてたよな?」
「ふぇ?そうだけど?」
「おまえ。先に行けよ。もしかしたら世紀の大発見があるかもしれないぞ。そしたらおまえは第一発見者になるわけだから親父さんより有名になれるかもしれないぞ」
 俺がそう言うと、枕は人の話が言い終わる前に一目散に走っていき、そして案の定罠が発動し
「ひえぇぇぇぇぇっ!!」
 と悲鳴をあげながらすれすれで迫りゆく罠を避けていく枕だった。
 お〜っ。お見事、お見事。これだったら溶岩の中に入れても大丈夫そうだな。
 それを見て、俺は枕に向かって拍手を送ってやりたいほど感嘆した。しかし枕は―――…
「ひ〜か〜る〜〜〜っ!!」
 と目を据わらせて俺を睨みつけるのだった。
 そのとき、俺のポシェットにしまってあったカードサイズほどの大きさの端末手帳の通信着信音が部屋中に響き渡った。俺は慌てて端末手帳を取り出し、スイッチを入れると、画面には髪がぼさぼさになり、顔中生傷だらけの北都が映し出された。
『北都?!』
「二人ともまだ薬草は見つからないのかよー?!」
「まだだよ。今、『竜神の遺跡』を見つけてそれどころじゃないんだ。もしかしたらこの遺跡の中にカトラの書があるかもしれない」
「そんなことどーでもいいから、さっさと薬草を見つけて帰ってきてくれ!!こっちのほうは奴がどんどんでかくなって手がつけられない状況なんだ!!しかも凶暴性が増して……うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ぷつんっ
 つーつーつー……
 と断末魔の悲鳴とともに画面が真っ暗になり、通信が切れてしまった。
「な…なんか向こうでは大変なことになってるみたいだね」
「そうみたい。でも、今更引き返すのもなんだし、奥に進もうか」
「そうだね」
 と俺たちは北都の安否を心配しつつも遺跡の奥へと進んで行った。次に通された部屋は巨大なホールで部屋の大きさはざっと見繕って20畳ほどもあるデカイ部屋だった。そして壁伝いにいくつものドアが設置してあり、中心部には石盤みたいなのが10体ほどが綺麗に安置されていた。
 謁見の間か?あの石板は何だろう。
 俺は興味本位で中心部にある石板に近づいた。その石板は俺の背丈より少し下ぐらいで、石板全てに文字が所せましに彫られてあった。その文字は俺たちがあまり読むことができない文字で書かれていた。
 竜神人が使っていた竜天(りゅうてん)文字か。
 俺はそう思いつつ、明かりを近づけその文字を朗読し始めた。
「『天と地の理を現し、我が明星の下……』これってカトラの書の最初のフレーズ!!もしかして、これってカトラの書の原版?!なんでこんな所に?!」
 俺はそう叫びつつ、我が目を疑いながらその書に目を通したが、その石板に彫られた内容は紛れもなくカトラの書の内容だった。
 もしかしてカトラの書は元々この遺跡にあった物なのか?あれ?
 俺は石板の後ろに人影を見つけた。俺はゆっくり近づくと、そこには椅子に寄りかかっている人がいた。そして椅子の隣にはこの遺跡には不釣合いな木でできた丸テーブルがあった。そのテーブルの上には飲みかけのワインボトルとワイングラスと写真たてがいくつも置かれていた。
「あのぉ〜ここの遺跡の管理者ですか?」
 俺は警戒しながらその人に尋ねてみるが、その人は返事をするどころか、ぴくりとも動かなかった。俺は疑問に思い、その人の顔を覗き込んでみると、どうして反応しなかったのかを理解することができた。その人は既に死んでいたのだ。その骸がこの椅子の上にミイラ化して座っていた。
「どうやったら、こんなことになるのやら。よっぽど悪い奴らに追われたみたいな雰囲気だな」
 俺はそう言いながらその人のぶら下がった手を膝の上に乗せると、その拍子にその人の膝の上に置いてあった本が床に落ち、その衝撃で本のページ間からディスクがこぼれた。
 ……日記?ディスク?
 俺はそう思いながら日記を読み始めた。
「『恐らくこれが最後のページになるだろう。もう私は長くない。だが、これでいいのだ。あの発掘に立会い、あのお方から命が下ったときからこうなる運命は分かっていた。』
 あの発掘?あのお方?」
 俺は疑問になりながらもテーブルの上に置かれた写真に目をやった。そこには竜神の遺跡をバックにした若い男女数人が映った写真が何枚もあった。そして俺は続けて読んだ。
「『あれは確かに世紀の大発見だ。しかし、奴らはこの遺跡の力を使ってこの世を地獄と化そうと目論んでいる。私はその力を使わせないようにこの遺跡を守りつづけてきたが、もうその力は残っていないようだ。だから、私はここに今までの私の経験とこの遺跡の構造、そして遺跡物の詳細をこのディスクに残しておく。せめてこのディスクが奴らではなく、できれば東宮自身に発見してもらうことを願って……。 高雅39年9月24日 紅=三郷』
 奴ら?奴らっていったい……」
 俺はそう呟きながら紅さんの日記とディスクをポシェットの中にしまった。
「一応東宮の俺で勘弁してよね」
 俺はそう言うと、紅さんに背を向け、石盤に書かれている内容を手のひらサイズより一回り大きな超軽量で薄型、しかも折畳式でパズルのように組み立てるノートパソコンをポシェットの中から取り出し、それと同時に小型のデジタルカメラも取り出し、デジタルカメラの先端に付いているコードをパソコンに接続し、すべて撮影した。
 ん〜っ。これで何とかなるかなぁ。
 と思った矢先、タイミングよく(?)枕の呼び叫ぶ声がした。
「おお〜いっ!!こっちに凄い物があるぞ〜!!」
 俺はその声を頼りに枕の元に行くと、枕がいた部屋には高さが30cmほどの見たこともない組み合わせでできた透き通った石が安置されていた。
「あれ、綺麗だと思わない?」
「確かに綺麗だけど、迂闊に近づくなよ。もしかしたら罠かもしれない」
「そんなまさか。あんなに綺麗なんだから罠じゃないよ」
「おまえ…見た目で判断するなよ。とりあえず俺が先に調べるから」
 俺はそう言いながら、ポシェットの中から先程のノートパソコンと『ルーパス』と呼ばれる白くて棒状の物を取り出した。ルーパスは物質の成分を調べるための道具で、主に捜査などをする刑部省職員は全員所持することが義務付けられている。俺はルーパスの先端にあるコードを先程と同じようにノートパソコンに取り付け、両方にスイッチを入れ、その石の構造に沿って動かすと、ノートパソコンの画面にその石の全体図と成分が表示された。
「…危険性はないみたい。材質はアルクゼルクを主成分としたクロピスタン結晶鉱石の告知……。へぇ〜、これ未知の分子構造だよ」
「未知?!未知の鉱石を俺が発見したんだ!!この遺跡で一番最初に見つけたんだ!!だったらこの石を命名できるっていうわけだから…う〜んっ。あっ!!枕石!!」
「まんまかよ!!」
 と俺は閃いた枕に対して思わずツッコミを入れた。
「んじゃ危険性がないことがわかったから、あとで刑部省に持ってって分析しよう」
「えーっ?いちいち分析しなくてもいいんじゃないんですか?」
「あのね、ちゃんと分析しないと考古学会では証明するどころか立証さえしてくれず、ただの持ち腐れになるだけだよ」
「……わかった。分析お願いします」
「素直でよろしい」
 と意見がまとまったところで、俺達はその鉱石を持ってこの遺跡から退散することにしたのだが、向こうはすんなりと見逃してはくれなかった。
「……見事に囲まれたわな」
 俺は出るなりしみじみに思った。中から出た先には既に殺人人形が待ち構えていたのだ。それだけならまだ何とかなるが、今回はよりもよって内部にも殺人人形を設置してあり、その殺人人形たちが動き出し、俺たちは逃げ場を失ったのである。
「どうするの〜?」
「どうするもこうするも強行突破しかないだろ。でも、その強行突破のタイミングがね〜。枕。俺が合図したら奴らの視野に入らないように身を低くして人形たちの間を縫ってこの中から出るんだ」
「えっ?!洸琉はどうするの?」
「俺はおまえが出たところを見計らって………」
 と言いかけたそのとき、殺人人形たちがいっせい射撃を始めたものだから、俺達は慌てふためいた。俺は咄嗟にポシェットに手を滑らし、北都から貰った魔法(マジック)カードを二枚取り出し、宙に投げた。
「ふ…フレイム(盾よ)!!」
 俺が叫ぶと、カードは地面に突き刺さり、それと同時に俺と枕を守るようにボール状のバリアができあがった。
「うひゃぁ〜っ。参った、参った。こちらの隙を与えないつもりか。人間の次の出方を最初からインプットされてるみたいだな」
「そーみたいだね。これじゃあ、やられるのは時間の問題だね」
「枕。そーやって悪い方向に考えるのはよくないと思うけど。きっと何かしら弱点があるはずなんだけど……あっ!!」
 俺はあることを思い出し、慌ててポシェットからノートパソコンと先程のディスクを取り出した。
 そーだよ。あの紅って人がここについてのことをこのディスクに入れたんじゃないか!!だったらこいつらの弱点も――…。
 と思う俺だったが、このときばかりは天は味方してくれず、そのディスクはむちゃくちゃ旧型で俺が使う新型では対応できなかった。それに対して俺は脱力した。
 そーだよな。あんなミイラ化したやつだし、高雅って言ったらじじ様が帝の位に就いてたときじゃん。俺が期待してたのが馬鹿だった。
 そう思っていたとき、枕が妙なことに気がついた。
「あれ?あの一体だけ腕がショートしてる」
 え?!
 俺は思わず枕が指差すほうに目をやってみると、そこには確かに一体だけ腕をショートして射撃してない殺人人形がいた。しかも、その殺人人形の腕には少量の水が付着している。
 もしかして……。こいつらの最大の弱点って……。
「枕。おまえいい所に気が付いた!そこの分だけプラスに評価してやるよ!!」
 俺はそう言いながら呪文を唱え始め、それと同時に枕に対して合図をしたら魔法カードを引き抜けと命じた。
「今だ!!枕抜け!!」
 俺が合図すると、枕はタイミングよくカードを引き抜いた。それと同時に俺は力のある言葉を叫んだ。
冷水よ!!
 叫ぶと同時に中から大量の水が滝のように殺人人形に襲い掛かる。その大量の水によって外にいた殺人人形は次々にショートし、その場に倒れた。
「きゃっほ〜!!さっすが洸琉!!」
「喜ぶのはまだ早いよ。まだ後ろの方は片付けきれてないんだから。というわけで」
「というわけで?」
 と俺の言葉に枕は鉱石を持ったまま首を傾げる。その枕に対して俺は高速の浮遊呪文を唱え
「とっととずらかる!!」
 と、枕の襟首を掴み、一目散でその場から立ち去ったのであった。

 

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