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十二 |
| 「だぁ〜…。なんで俺がこんなことせにゃならんのだ〜……」 と俺は今やっていることに不満を漏らしながら作業していた。 俺は今宮中の校書殿(宮中で必要な書物や全国で出版されている貴重な書物を置いているところ)にいたりする。 何故ヴェーリタ-スにいたのにこっちにいるかというと珠喬の頼みでアニムスに戻ってきたのだ。 その頼みと言うのは…… 「申し訳ありませんが、皇子様。校書殿に行って月読様の資料をありってけ持ってきて欲しいんですの」 というものだった。 ったく…校書殿は皇族や大臣並みの階級の者のみしか入れないように仕掛けてあるからって…。 そう思いながら俺はこうしてしぶしぶその資料を探していた。 月読といったら結構有名なものだからあっさりすぐに集まると思っていた。だが、それに関しての資料は少なかった。ざっと探したところでも10冊ちょっと。それも全て納得できるような資料ではなかった。 だから俺は逆に月読という枠を取り外し、古代から伝わる書物を中心に探し始めたのである。そしたら今度は膨大な量になってしまったというわけである。 「やっぱやらなきゃよかったかなぁ〜〜…」 とちょっと後悔する俺だったが、今更辞めるわけにもいかないのでこのまま続行している。 「これも違うかなぁ……」 と溜め息交じりで立ち上がったり、しゃがんだりして古代書物を探すのだった。そのとき―― じゅる… と何か粘着質な音が俺の耳に入ってきた。 なんだ? 俺は反射的にあたりを見渡し、腰に携えている刀に手をかけ、鯉口をきる。 ずる…ずるずる…… 音は止む気配もなく、連動的に起きている。俺の中で更に緊張が走る。 どこだ?!ここには俺しかいないはず!! ずごんっ!! そのとき俺の頭に衝撃がのしかかっていた。その衝撃に耐えられず俺はそのまま倒れ伏せる。 え…?!一体何が……? と困惑が隠せない。だが、それ以上の攻撃はない。俺はゆっくり起き上がってみると理由が分かった。 「なんだよ〜…。敵じゃなくて、本棚の上のほうにあった本が一冊ずり落ちてきただけかよ〜……」 と俺は安堵の息を漏らした。 そう。俺の頭上から衝撃が来たのは、たまたま上にあった本が単に落ちてきただけだったのだ。つまりさっきの粘着質の音は本と本との摩擦の音だったわけだ。その落ちてきた本はとても分厚く、枕にもできそうなぐらい厚い。表紙は深緑で飾られている。落ちた衝撃か本は開かれていた。その本に俺は警戒しないで、近づくとその開かれたページを見て驚愕し、触れるのを躊躇った。 「この本……」 その本は竜天文字で書かれていた書物だった。俺は少し躊躇いながらもその本を手にとり、その開かれたページを読んで、更に驚愕した。 これは単なる偶然……? その開かれたページには月読のこと、そして滅んだザガルのことがぎっしりと書かれていたのだ。 「これ……俺が一番探しているヤツだ!!」 俺はその本を無心で読んだ。時間はあっという間に過ぎてった。気づいたらもう夕方近く。急いでヴェーリタースに戻らなければ月読到来には間に合わない。 でも、この本が事実というと言うならば――ザガルへは行ってはならない。 それでも天竜王達が願ってる。でも、行きたくない。 その思いが交差しながら俺はいつの間にかヴェーリタースにその本を持っていたのである。 「おかえりなさい〜〜」 と複雑な思いを胸に戻ると、珠喬のお気楽な声で出迎えられた。 「ただいま……」 「例のモノは見つかりましたか?」 「一応ね……。でも、この本が言うことが本当ならザガルには行かない方がいいかもしれない……」 『?!』 と俺の言葉に総老師を含めた一同が驚愕した。 「行かない方がよいというのは……?」 と総老師が恐る恐る尋ねる。俺は先程見つけた本をカバンから取り出し、皆に見せた。 「この本……分かる?」 「それは……『天神の書』でございますな」 「そう。これは竜神人が滅び、竜王が統制していた頃を記した書物・『天神の書』だ。そこにザガルことが事細かに書かれていたんだ」 「マジか?」 と北都も驚きを隠せず尋ねる。俺は頷き続けて言った。 「この書物にはザガルはとても危険な都と記されている。何故なら…ザガルはこの世界自体に存在しないから」 『な?!』 と俺の言葉に更に驚愕の声をあげる一同。 「存在しない?!どういうことなんだ?!」 と納得がいかないレスカは俺に問い詰めた。 「そのまんまだよ。ザガルは元々この世界に存在しない。ザガルそのものが異次元の都なんだ」 「え……?」 「俺の推定なんだけど、ザガルは竜王に反旗を翻したんじゃなくて元々異世界の住民だから考え方が違うだけなんだと思う。それが戦争という形に発展して自ら竜王たちがいる世界から逃げようとしたんだけど、それに失敗して滅んだんだ。この書物にはその滅んだことも月読の存在のことも記されてる。『ザガルはまるで重力で捻じ曲げられてしまったように変形し、人々は建物に埋め込まれ悲鳴をあげていた。だが、抜け出すこともできずただ己の無謀な行為に呪い嘆いてた。その思いが一つとなり巨大で邪悪な魔物が誕生した』とね。 月読においては魔物を弱らすと力だけを放っているんじゃなくて異次元の世界の門を開く鍵の役目を担っていたんだ」 「じゃあ月読が現れるのは……」 「ここと異次元を繋げるための現象。ヴェーリタースは異世界の門を持ち合わせているんだ。その場所は…竜子の間中心にしたところなんだ」 「そんな神聖な場所が闇の都の出入り口になっていたなんて……」 と総老師はその場に崩れ、座り込んでしまった。 「総老師。あなたついさっきこう言ったよね。『竜子の間は竜王たちの意思を結び付け、異界へと導く秘術が施されている』って」 「……はい」 「どうもそれが異次元にとってここを繋げる標になっているっぽいんだよね〜…。場所は竜子の間と断定できないんだけど…。 総老師。ここに“玉座の祭壇”ってある?」 「………あります。それこそその秘術の中心部ですから」 「多分そこが本当の門だよ。それはどこにあるの?」 「竜子の間の反対の部屋です……」 「竜子の間が異次元の門……。やっぱりこの本どおりだ」 俺は総老師の話を聞いてこの本は事実を告げていることを確信した。 天竜王達はザガルについて何か隠している。いや…まるで自分達が企てた計画を実行させようとしてる。一体何をしようとしているんだ? 「ということは門も見つかり、ザガルや月読の詳細が掴むことが出来たということになりますわね。あとは門が開く時間―――つまりあと30分後月読が現れますわね」 「そうなると今のうちに武器とかの最終チェックをした方がよさそうだな」 と珠喬と北都は言い、準備にかかろうとするとにゅっと総老師が現れ、物凄いデカイ声で二人を静止させた。 「おまちなされいっ!!」 「ど…どしたの……?」 あまりにもデカイ声に二人ともビックリしている。一方総老師の方は久々にデカイ声を出したのか、ちょっと咳き込む。そして、咳が止まったところで、物凄いことを言い出した。 「竜王陛下。本当にそのザガルへ行くのでしたらこの私めも連れて行きなされ!!」 『はあ?!』 総老師の言葉に俺達は全員素っ頓狂な声をあげた。 「そ…そそそ総老師!!あんた今自分が言ったこと分かってるの?!」 と北都が先に我に返り総老師に問い詰める。しかし、総老師は物怖じせず頷いて言った。 「竜王陛下にもしものことがあったら大変ですからな。私も同伴させていただきますぞ。なぁに私とて老いぼれですが、昔槍術をたしなんでおります故。魔物ぐらいなんのこれしきですぞ」 「あ…あのねぇ……」 「それにもしかしたら私の知恵が役に立つかもしれませぬ。ですから私も同伴させてくだされ」 と総老師は俺達に懇願する。 う〜ん…頑固そうなじいさんだし…。おまけに武道もたしなんでるんだろ〜…。もし断ったら門が開くまでの間ず〜っとねちねちと言われるんだろうな〜…。そう思うと……OK出さざるを得ないよな〜〜…。 と俺はふと考え込んで脱力した。すると、北都も俺と同じことを考えたか、肩を落としながら総老師に言った。 「………分かった。そこまで言うならついてきていいよ。でも、相手は未知の世界だ。そっちまで防御できないかもしれないぞ?」 「そのことは既に承知の上でございます故。なぁに私とてただの連れ添いというわけでもござらん。いざとなればあの秘術を使えばいいだけのこと」 『秘術?』 と俺達は総老師の言葉に首を傾げたが、総老師は笑顔でそれ以上のことは語らなかったのである。 その秘術ってもしかして相当凄いものなのかな…。 そう思いつつ俺たちは月読が来るのを待つことにしたのであった。 |
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《未知とトイレの迷い道》 完 |