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壱 |
| ……ヒマだ。ヒマすぎる。 東宮御所での生活になって早三日。東宮御所に移ってからというものの刑部省の仕事は一切やらしてもらえない。そのせいで毎日ヒマでたまらない。 唯一の楽しみといったら東宮御所内にある書庫で本を読むことぐらい。 さすが東宮御所だけに俺が今まで読んだことがない魔導書や武術法の本が山のようにある。 今日読んでいるのは、「御魂発揮法」という本だ。 なんでも魔力とは全く異なる力を使って術を発動する方法らしい。 しかしよくよく読んでみるとこれは術者を簡単に兵器にする方法が載っているだけだった。 でも、これを使えばもっと強くなれるかもしれない。 明日から確か武術を教えてくれるといってたな。その時に教えてもらえるよう頼んでみよう。 しっかし、今まで仕事慣れをしていたせいか体が怠け始めてるぞ。 ピピピッ 電気音が書庫内に響く。 どうやら誰か入ってきたらしい。 「御子様」 と俺のことを呼び、俺の元に近づいてきたのは俺と同じ琥珀色の腰近くある長髪、青い瞳に十二単を纏った俺の世話役の女房・少納言だった。少納言は俺と同じ新羅一門出身で外見からは分からないが武術を一通りできる。 少納言は新羅一門の当主の命令で俺の世話役として参内した。 ちなみに少納言というのは内裏内でしか使わない仮名である。女房となった者は皆仮名を使っている。まあ内裏にはIDカードがないとは入れないから内裏に入る時は本名を使っているがそれ以外は本名を明かさないのが普通である。 その内裏には洋風と和風と中国風の三種類があって今上帝好む所で政治をやるので、政治を行う場所がよく変わる。それに振り回される役人はたまったもんじゃない。その場所に応じて正装が全く異なるからである。 因みに今の今上帝は洋風を好み、俺と先帝は和風を好む。 だから俺が今いる御所も服装も全て和風に仕立てられている。 「御子様。皇后様のご伝言で今からこちらに参るとのことです。」 「わかった。」 俺は本を閉じて書庫から出て御所内にある謁見の間に移動した。少納言も俺の後に続く。 謁見の間に移動して俺はすぐに座り脇息に寄りかかると、少納言がタイミングよく茶を出してくれた。 「御子様。もうすぐ御子様をお守りする護衛が参るそうですよ。皇后様はその方たちも参加させるとのことです。」 「護衛って確か刑部省と中務省から二人ずつ来るんだよね?」 「ええ、そうですよ。」 茶をすすりながら尋ねる俺に少納言は優しく答えた。 「失礼します。」 俺たちのところに別の女房が入ってきた。その女房はブラウンの瞳に少納言と同じ長さの黒い髪と同じ十二単を着て、桐の扇を開いて口元を隠していた。 「まあ、夕霧さん。」 夕霧という女房が入ってきたのに驚いた少納言は檜の扇を開いた。 その夕霧はというと驚く少納言など眼中になく、俺の元にやってきた。 「申し上げます。只今護衛の者が参内いたしました。」 「ここにつれてきて。」 「いえ……もうすでにここに来ているんです。」 「は?」 俺は夕霧の言葉に目が点となった。 もうすでにここにいる? 『はぁ〜いっ!!』 ガタガタガタッ!! 俺は目の前に現れた護衛を見て俺は脇息からずり落ちた。 護衛として来たのは北都、瞳姐さん、由紀さん、それと理由はわからんが彰兄貴だった。 四人とも護衛用の全身黒の正装を着ている。 「な…なんで北都たちがここにいる訳?」 俺は鯉みたく口をパクパクして驚いた。 「さぁ。俺たちはただ宮様に指名されただけだからなぁ……。」 北都は目を泳がし、頬を掻きながら言葉を濁した。 「少納言。こいつらだけで話がしたい。」 『御意』 少納言と夕霧は俺に一礼するとさっさと退出していった。 「ふぅん。東宮として結構様になっているじゃないか。」 少納言たちが退出していくのを見て、北都は俺に感心した。 その言葉に瞳姐さんは自慢そうに言った。 「当たり前じゃないのぉ。この私がちゃぁ〜んと教育したんだからぁ。」 『してないって』 瞳姐さんに俺たちはズバッとツッコミを入れると、瞳姐さんはぷーっと風船のように頬を膨らませた。 「なによぉ。皆して私の実績を否定するのぉ。ひどいわ、ひどいわ〜!!もう瞳ちゃんの心はズタズタですぅ〜!!」 「あ〜だったらその体もズタズタにしてあげましょうかねぇ〜。」 泣き喚く瞳姐さんに由紀さんは冗談半分なのかは分からないが、鞭を構えた。それを見て、瞳姐さんはぴたっと泣き止み―― 「の…ノーサンキュー………」 と大人しくなった。 それを見て由紀さんは鞭を元の場所に閉まった。 「まったく。自分が責められるとすぐに被害妄想に入るのは瞳の悪いクセだわ。」 「悪いクセじゃないわよぉ。立派な自己防衛よぉ。」 「どこが?!ただのバカじゃない!!」 「ひゃはははははっ!!バカばっか。ひゃはははははっ!!」 し―――――んっ 笑いながらさりげなくしゃれを言う彰兄貴に俺たちは凍った。 さ…寒い………。 「あっれぇ〜?!おもしろくなかったぁ?」 「あんたが口開くと寒くなるから黙ってなさい!!」 がすっ!! 由紀さんは笑っている彰兄貴にゲンコツを食らわせると、彰兄貴はこぶをつけ静かになった。 「ったく。話がそれちゃったけど、今日から私たちはあなたの元で終夜共にしてあなたを守ることにっているの。 もちろん、そこにいる瞳はあなたからできるだけ遠ざけておくから安心して。」 「え〜っ?!一緒になれると思ったから即OKしたのにぃ〜!!」 「お黙り!!」 「……はい。」 由紀さんに睨みつけられ、文句を言っていた瞳姐さんはびびってあっさり静かになった。 な…なんか由紀さんって女番長な気がする。 …ドドドドドドド 『ん?』 何かが近づいてくる音に俺たちは動きを止めた。 その瞬間!! 『洸琉ぅ――――っ!!』 「い?!」 いきなり、物凄い勢いでじじ様と天成帝がお互い競うように部屋に入ってきた。 俺は条件反射的に上にとび北都たちは左右に分かれた。 「ど…どうしたんですか?!」 今上帝が来ただけに、由紀さんたちはちゃんと膝をつきつつ驚きを隠せない。 「洸琉ぅぅぅぅっ!!」 「はいぃぃっ?!」 いきなり肩をつかまれ、物凄い剣幕で顔を近づけてきたじじ様に俺はびびって泣きながら返事をした。 こ…怖いんですけどぉ……!! 「私のことはいつもなんて呼んでおる?!」 は…? じじ様の予想外の質問に俺は目が点になった。 「じ…じじ様……だけど?」 「そうか。じゃあそこで息を切らせている男はなんと呼ぶ?」 「変態」 俺は何の迷いもなく言い切ると、じじ様の後ろで息を切らしている天成帝はモロにショックを受けていた。 「ふぉ〜っほっほっほ!!主上、まだ父とも認められてはないではないか!! 私のことはちゃぁ〜んと『じじ様』と呼んでくれておるぞ!!」 扇を開き、高笑いをしながら天成帝に自慢しまくるじじ様と地団駄を踏んで口惜しがる天成帝。 全然状況がつかめないんだけど……。 「父上!!今の言葉は失礼極まりないですよ!!洸琉は私の可愛い息子です!!」 「何を言うか!!私は事実を言ったまでじゃ!!そちは息子にも父として認められてはいないではないか!!」 お互い一歩も譲らない様子で言い争っている。 ついには―― 『洸琉をかけて勝負!!』 『えええええええええええええっ?!』 じじ様と天成帝の爆弾発言にその場にいた俺たち全員が驚愕の声を上げた。 なんで俺を賭けてをバトルなのぉぉぉぉぉぉぉぉっ?! |