じじ様たちが勝負宣言をした次の日、東宮御所では昨日のことがなかったようにいつもと変わらぬ朝を迎えた。
 俺も普通に起きて女官たちが用意した朝食を食べていた。
 今朝の朝食は少納言が気を使ってくれて俺が好きな中華料理にしてくれた。膳の上には餃子、チンジャオロース、えびのチリソース、フカヒレの煮物、桃饅頭、そして薄めの味に仕立てられた卵粥である。
 俺は少納言によそってもらった卵粥を啜っていると、北都たちと宮様が俺がいる部屋に入ってきた
「おはよう、洸琉。昨日は大変だったね。」
 宮様は座るなり、笑いながら言った。
 どこからその情報を手に入れたんだ?
「今日から武術を習うことになってるんだけど……。」
 と言葉を濁す宮様。
 ?
「実はね、洸琉―――」
「あ〜〜〜〜!!!!」
 宮様の言葉をかき消すように、女の叫び声がする。
 その声を聞いた北都は一気に顔の血の気が引いていった。
「この……おぞましい声は………」
「北都君みぃ〜っけたぁ!!」
 と近づいてきたのは巫女さん姿で緑の髪と瞳のエルフだった。
 北都の知り合い?
「き…きやがった〜〜〜っ!!」
 北都は青ざめたまま立ち上がるとタイミングよくエルフが動いた!
「北都くぅぅぅんっ!!会いたかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 は?
 さっきの微笑ましい笑顔ではなく物凄い剣幕で北都に近づいてくるエルフ。北都は北都で必死に逃げる。
「………宮様。あれ……ナニ?」
 呆然としながら俺は卵粥が入った椀を持ったまま宮様に尋ねると、宮様は頭を抑えた。
「あのエルフは君の武術を教えることになった命=清澤っていうんだけど、北都にゾッコンでね。北都がいるとああいう状態だから、しばらくの間武術は先送りで、先に作法と文学を習うことについさっき決まったんだよ。」
 あ…あれじゃぁ〜ねぇ……。
 命は逃げまくる北都の服の裾を引っつかみ――
「北都くぅぅんっ!!会いたかった!!会いたかったよぉ!!北都君に会えなくて寂しかったんだからぁ〜!!」
 会えたことに感激している声とは裏腹に体の方は北都を殴る蹴るのやりたい放題。
 そしてついには―――
「北都君のばかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 命の蹴りにより天井を突き破り吹っ飛んでいく北都。
「あれま、北都が」
「北都が飛んじゃったねぇ」
 宮様と瞳姐さんは完璧人事のように言う。
 ぴゅるるるるるるるるる……
「今度は落ちてきたわね。」
「にゃははははっ!!落ちてきたぁ!!」
 落ちてきた北都に馬鹿笑いする彰兄貴と動揺もしない由紀さん。
 大丈夫かなぁ〜?
「ああっ!!北都君が落ちてくるぅぅぅぅぅぅっ!危なぁぁい!!」
 自分で打ち上げといてよく言うよ……。
「おらぁ!ラブキャァァァッチ!!」
 命は見事北都をキャッチするが――
「ぐあぁぁぁ……」
 ばきぼきべき…っ!!
 抱きしめる命の腕力が凄いらしく、北都の骨がきしむ音がこちらまで聞こえてくる。
「真っ先に私の胸に帰ってきてくれるなんて…命嬉しい!!今日はずっと一緒にいられるね!!私の北都君vv」
「ぐ…ぐるしい……」
「というわけで洸琉。今日から文学を教えてくれる宰相という女房が来るからちゃんとするんだよ。」
 宮様は北都と命をほっといて俺に言う。
「……はい。」
 俺は一応生返事を返した。
 これから一体どうなることやら……。

 

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