泣き続けた俺はいつの間にか記憶の水の中で寝ていた。
 …………ル………カル…………
 ダレ?誰かが俺を呼んでいる?
 ……ヒカル……起きろ……
 ダレ?
「でぇ〜いっ!!さっさと起きんかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ばしゃっ!!
「うぷっ?!」
 寝ていた俺に誰かが水をかけて俺は思わず飛び起きた。
 その時―――
 がんっ!!
『あだっ?!』
 起きたとたん何かに当たり俺と誰かが同時に悲鳴をあげた。
 恐らく今の激突で頭にこぶができているだろう……。
「あたたたた……。誰だよ、もう〜……。」
「そりゃぁ、こっちのセリフだ!!」
 この殺気と声は……
 俺は頭をさすった格好のまま恐る恐る目線を上げてみると、目くじらを立てている北都が立っていた。北都のあごは何故か真っ赤になっている。
 ということは、どうやら俺の頭は北都のあごに激突したらしい。
「ほ…ほほほほほほ北都?!なんか目が据わってるんだけどぉ!!」
「あったり前じゃ!!宰相さんの術によって眠ったおまえの体を誰が支えてやったと思っているんだ!!
 その恩を仇で返しやがって!!」
 北都は手をポキポキ鳴らしてこっちに近づいてくる。そして、俺は逆に後退していく。
 わわわわわ………な……殴られるぅ〜……!!
「洸琉、覚悟はいいよなぁ〜?」
「できてない!!できてない!!全然できてないぃぃぃ!!」
「問答無用!!」
 ごすっ!!
 北都はひるむこともなく俺の脳天を思いっきり殴ると、見事に俺の頭には二つ目のこぶができていた。
 う〜…いひゃい………。
 俺は半泣き状態で頭をさすっていると、自分がさっき天成帝がいた場所から自分の寝所に移動していることに気づいた。
 ???
 まだ状況が飲み込めていない俺のところに俺に睡眠を促す針を刺した張本人、宰相が俺のとなりにちょんっと座るといきなり土下座をした。
「先程は、手荒なまねをして申し訳ありませんでした。」
「いいよ、別に。
 アンタのおかげで真実を見ることができたんだから。」
「では…。アレを見たんですね?」
 宰相に尋ねられ、俺は無言のまま頷いた。
 それを見た宰相は胸を撫で下ろした。
「宰相、親父は?」
「はい。先程治りまして洸琉様のおそばにいらっしゃいますよ。」
 ホントだ。宰相に言われるまで全然気がつかなかったよ。
「洸琉……。」
「親父たちが計画していること俺も参加するよ。」
『?!』
 俺の言葉に宰相と天成帝は意外だと言わんばかりに目を丸くして驚いた。
 しかし、俺はそれを気にせずに話を続けた。
「さっき親父の過去を見た。俺を守るために中宮を迎え入れたことも、今も進行している計画のことも全部見た。だから…その……」
 俺は途中で当てはまる言葉が見つからなくなって言葉を濁した。
 しかし、親父はそんな俺を見てただ微笑んだだけだった。
「……親父……皇子としてここにいることはできない……けど、計画のことは仕事をこなしながらサポートする。
 俺は刑部省の仕事がやりたいんだよ。
 この仕事をすることで視野が広がると思うから……」
「……いいよ。」
 口ごもる俺に親父は追求もせず許可を下ろした。
 そのことに宰相は驚き――
「何を申しますか!!次期帝というお方を野放しにするなど……!!」
「野放しはしないよ。
 洸琉、私が出す条件を飲むことができるのならおまえのやりたいようにするがいい。
 でも、私が出す条件に飲めないと言うのならこのことはナシとする。」
「その条件って?」
「一つはこの東宮御所から刑部省に通うこと。
 もう一つは東宮の教育の授業を週二日で受けること。
 以上の条件だ。」
「いいよ。」
 俺は親父が出した条件をあっさり飲んだ。
 すると、親父は俺の返事を聞いて苦笑した。
「やっぱり…摩耶に似ているな……。」
 親父……?
 一瞬親父が悲しそうに見えたのは俺だけだろうか……。
 そう思ったその時、親父はすくっと立ち上がり、勝ち誇ったように叫んだ。
「さぁて!!父上に勝ったと言うことを報告せねばな!!」
 はい?
 どうやらおれの見間違えらしい。
「親父…じじ様に勝ったって…?」
「ああ!実はな、今日中に洸琉が私のことを父と呼ばなければ、今日の夕飯ナシだったんだ。
 いや〜…よかった、よかった。はっはっはっ!!」
「………ふぅ〜んっ。勝ててよかったねぇ〜……」
 俺は立ち上がり、右手に魔力をこめて親父に近づいた。
「ちょ…?!洸琉、どうしたの?!」
「俺を賭け事の道具にするなぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ちゅっどぉぉぉぉぉんっ!!
「ぎゃぁ〜!!」
 このあと、親父をぼこぼこにしたのは言うまでもなかろう。
 ったく、何でいつも俺を賭けに使うんだ!!

<< END >>

 

前の章に戻ります。

メインメニューに戻ります。 ちびガキメニューに戻ります。