80年代の痕跡


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 おっかなびっくり手にしてみたのだが、これは当たりだった。何せ、ケビン・ヘイズというピアニストは始めてだと思いこんでいた。ところが探してみれば以前聴いていたのだ。ともかく始めてだと思っていたから、かなり躊躇したのだが、Steeplechaseのものだというのが背中を押した。古くは、ジャッキー・マクリーンやデクスター・ゴードン、それにデューク・ジョーダン等が70年代にアルバムを残したヨーロッパのブルーノートと言われたこのレーベル。フュージョンが席巻した70年代に、彼らが本国アメリカを離れて活動の場を得たのには致し方なかったとは言え、ヨーロッパの地に残した足跡は少なくないだろう。それらがどんな経緯で今に至っているかは知らない。
 だが、このケビン・ヘイズのようなあまりヨーロッパ臭のしないピアニストが排出したのは、70年代のそんな背景を引き継いでいるように思う。さっき言ったヘイズが参加しているアルバムとは、CRISS CROSSであるからいみじくもという気がする。CHRIS POTTERのSUNDIATAである。このアルバムなどは、80年代のマルサリス兄弟等の影を強く落としていて、ヘイズなどはケニー・カークランドを思い起こす弾きっぷりだ。しかし、アル・フォースターがあまりよくてヘイズのことは、あまり良く聴いていなかったようだ。このヘイズ盤でも、やっぱりジョー・チェンバースが良いということになってしまうのは、致し方ない。
 さてこのアルバムの冒頭のNEPTUNEを始め大方は、80年代マルサリス兄弟を主軸とする所謂新主流派なぞとよばれていた流れを引き継いだ趣があってアルトのヴィンセント・ハーリングにせよケニー・ギャレットなどが思い浮かぶのもさもありなんと言うべきか。NEPTUNEは中盤からフリー・インプロバイズを挟んでいるあたりヘイズの工夫であろうか、これはこれで聴き応えがある。ジョー・チェンバースの抑揚を効かせた巧妙なドラム・ソロが良い。
 2曲目のヘイズのオリジナルから4曲目のハーリングのものなどは、一時代新主流派的なものは聴きすぎたせいもあってあまり聴く欲求を起こさないが、こういうものよりヘイズをメインとするピアノ・トリオの演奏を堪能させてくれる、YOU AND THE NIGHT AND THE MUSICあたりからが今時のものに繋がるという意味では、評価が高い。モーダルな手法でアドリブを弾くヘイズ、しなやかなベースソロを聴かせるジェームズ・ジーナス、ジョー・チェンバースとの掛け合いや、続くBEATRICEで聴かせるヘンダーソン、ハーリングの圧倒的なソロなど聴きごたえ満点である。
 幻想的なシルバーのLONLY WOMANでのヘイズのソロの透明感のある弾き方には感心した。記憶に留めておきたいピアニストである。
 アグレッシブな最後のJUDGMENTはまっていたジョー・チェンバースの出番を感じさせる。はち切れるフロントのソロを切り裂くようなチェンバースの重量感のある一撃が良い。中盤でのソロが嬉しい。乱拍子的な迫力。これは良い。

KEVIN HAYS / SWEETEAR

KEVIN HAYS:p
VINCENT HERRING:as,ss
EDDIDE HENDERSON:tp
JAMES GENUS:b
JOE CHAMBERS:ds
Jan 1991
Steeplechase
1.NEPTUNE
2.SWEETEAR
3.FUN
4.ALMOST ALWAYS
5.YOU AND THE NIGHT AND THE MUSIC
6.BEATRICE
7.LONLY WOMAN
8.JUDGMENT