SRIシリーズ
新・怪奇大作戦
提供・よしおか薬局
第一話「魂抜け男」
世界の恋人と言われている美人女優、ジュディ・マーガレットの訪日の記者会見が今まさに、始まろうとしていた、その時、あふれんばかりのマスコミ陣の前で、ゲストに来ていた日本の美人女優が、マーガレットを人質にした。その暴漢は、彼女の白く美しい首筋に手を回し、彼女を誘拐した。
その場に居合わせたものは全て、自分の目を疑った。そして、警備についていた警察は、その暴挙を、阻止する事もできずに、為すがままになるしかなかった。
後日、警察の無能さを非難する人もいたが、その場にいたものには、警察を非難する事はできなかった。なぜならば、その行為があまりにも突然だったからだ。後ろに警備のための立っていた私服警官の拳銃を奪うと、彼女の通訳をはねのけ、マーガレットの首を、うしろから絞め上げ、近寄ろうとするものたちに拳銃をふり回して脅しながら、その場を逃走した。そして、彼女の身代金が、彼女のマネージャーのところに、要求された。その金は、誘拐した女優の所属事務所と、両親が用立てたが、犯人の指定通りにマーガレットのマネージャーが、指定されたところに身代金を持っていったが、犯人は現れなかった。だが、張り巡らされた警備網の中、身代金だけが忽然と消えていた。勿論、マネージャーが疑われたが、彼女が、奪う事は考えられなかった。なぜなら、その場につくまで、金は、警察に警備され、その場で、彼女に渡されたからだ。
だが、今回の事件では、マーガレットは、無事保護され、犯人の女優もそばで、気を失っているのを発見された。しかし、犯人は、犯行のことは一切覚えておらず、逆行催眠なども行われたが、あの記者会見場にいて、犯行が始まる寸前までの記憶しかなかった。事件は、暗礁に、乗り上げてしまった。
このような事件は、これだけではなく、同じような事件が、いたるところで発生した。突然、犯行を行い、その間の記憶がない犯人達に、警察も、困惑していた。知らぬふりをしているのなら、まだ、やりようがあるのだが、犯人達は、犯行自体をまったく記憶しておらず、動機などの立証が困難だからだ。その上、証拠たる盗難品などはようとしてわからなかった。警察は、バックに別の容疑者の影を感じていたが、その立証もままならなかった。そして、それらの犯行後には、『怪人アリババ』という人物の犯行声明分が、マスコミに送られた。
郊外の高台に、鉄筋三階建ての建物がある。その建物へと続く道の門柱に金属版のネームプレートが、はめ込まれていた。
S R I
科学捜査研究所
SRIとは、元・警視庁鑑識課長をしていた初代・所長 的矢 忠氏が、複雑化していく犯罪、それも、進化しつづける科学を利用した犯罪を究明するために作った研究所で、組織化し、柔軟性に欠けた警察機構では対応できない犯罪を、外部の立場から捜査していく組織として、かなりの成果を上げていた。そして、現在、6代目所長の元に、最先端科学の俊英たちが集まっていた。
3階の、窓際の暖かな陽射しの中、すやすやと、安眠をする、赤毛のうら若く美しい女性こそ、六代目所長 久遠寺若菜(WAKANA・QUONZI)嬢だった。18歳にして、筑波学園都市の中でも5本の指に入るTS大学の大学院に進み、22歳で、博士号を数種取り、25歳で、教授になるが、一年後、先代の所長に請われて、SRIの所長に就任し、初の女性所長となった。
「所長、たいへんです。」
ドアを壊さんばかりに、勢いよく、5分刈りのスポーツマンヘアをした、痩せた、どことなくイデラッキョに似た男が飛び込んできた。
「うるさいわね。高君。瞑想の邪魔ですわよ。」
高と呼ばれた男は、その場に、立ちすくんでしまった。この男、高 慎二(SINZI・TAKA)は、久遠寺所長が、教授をしていたTS大学近くの某体育大学の学生で、こっそりと遠くからあこがれていた彼女が、ここの所長に就任が決まると、大学を中退し、押しかけ見習い所員になったのだった。
「ス、ス、すみません。所長。」
「まあいいわ。どうしたの。でも、あまりくだらない事なら、許しません事よ。」
「は、はい。」
高が、答えられずに押し黙っていると。後から、甲高いかわいい笑い声がした。
「きゃはははは、所長。聞いてくださいよ。高君たら、遅刻しそうだからって、玄関の階段を駆け上がっていたのですけど、段を踏み外して・・・。」
「ミンレイちゃん、それは、言わない約束だよ。」
「わしをこんな目に合わしといて、黙っているつもりかね。」
ミンレイと呼ばれたその子の口から、どすの利いた男の声が飛び出した。高は、わが目を疑った。小柄とはいえ、ナイスバディを、ブルーのラメのはいったチャイナドレスに身を包んだ、御団子頭のこの美少女の口から男の声が出てくるなんて、そんなばかな。
いつもは、男と女の入替りとか、女の身体に憑依したりして、とか考えているのに、いざ目の前で起こると信じられないものだ。高は、自分のほほをつねった。
「何、馬鹿な事をやっているのだ。ミンレイ君の後ろだ。」
チャイナの美少女の後ろには、泥まみれの背広を来たがっしりとした身体の中背の男が立っていた。少し、白髪が混じりだした頭は、ぼさぼさに乱れ、ほこりがまみれていた。
「徳田警部。」
高は、その格好に噴出しそうになる自分を抑えるのに必死になった。
徳田則彦は、そんな、高をあきれたような目で見つめていた。
徳田則彦、彼は、交通網と情報機器の発達により広域化する犯罪に対するため、管理部門であった警察庁内に、広域犯罪部門として、発足した実働捜査部門の広域犯罪捜査課(そのままなのがお役所らしい)の捜査主任だった。そして、警察機構とSRIとのパイプラインの役目もしていた。
「お、ミンレイちゃん、気が利くねえ。」
そう言うと、徳田警部は、ミンレイがはこんでいたトレイの上のコーヒーカップを皿ごと両手に持つと、口に運んだ。
「うわっち、ミンレイちゃんが入れてくれたコーヒーは一段とうまいねえ。」
「それ、所長のですけど。」
「え?」
コーヒーを持つ徳田警部を、久遠寺所長は、その綺麗な目で、鋭く睨んでいた。いまさら返すわけにもいかず、警部は、所長に背を向け、ソファーに座って、コーヒーを飲み始めた。コーヒーを運んできた少女は、明 眠鈴(MINREI MIN)といい、中国の誇る世界的脳性理学博士明 京明(KEIMIN MIN)の孫娘で、所長秘書をしていた。
「警部この貸しは、大きくてよ。わたくし専用の特性コーヒーを飲んだのですからね。」
その声に、警部の首は3センチほどちぢんだ。
「所長、そんなに警部をいじめるものではありませんよ。警部は事件の捜査を依頼にいらしたのですから。ねえ、警部。」
その救いの声は、事務所の横にある研究室へのドアのほうからした。そこには、白衣を来た二人の青年が立っていた。
一人は、痩せ型で、長身の神経質そうな青年で、彼の名は、藤崎 獏(BAKU FUZISAKI)。今のSRIの頭脳というべき存在で、もう一人は、中肉中背のがっしりした身体をした精悍なスポーツマンタイプで、虎野祐雪(SUKEYUKI TORANO)行動担当だった。
「確かに先輩の言うとおりですが、いつもとなるとねえ、警部。」
そういわれて、警部の首はさらに短くなった。
「そんな事より、警部。依頼の事件は、これですね。」
先輩と呼ばれた長身の青年が、一部の新聞を、警部の前に差し出した。
そこには、『またまた大失態 警察、怪盗に宝石を与える。』というおおきな見出しが載っていた。
警部は、藤崎の差し出した新聞を見ると頭を抱えてしまった。
警部を悩ませるその事件とは、立て続けに起こる盗難事件と誘拐事件、その犯人と思しき人物の犯行を立証するのが困難なのだ。たとえ、それが、現行犯逮捕だとしても・・・・
その記事には、こう続いていた。『犯人と思しき人物は、警備の警官。しかし、犯行を否認。盗難にあった宝石も発見されず。』
そうなのだ。容疑者は、犯行を否認するばかりではなく、犯行の動機もわからないのだ。なぜなら、どんな治療をしても、容疑者は、犯行当時の記憶を思い出すことはなかった。いや、彼らは犯行当時の記憶を持っていなかった。
犯行時の心神喪失という事になる。だが、どう見ても、正常としか見えない行動と、蘇らない犯行記憶。そして、発見できない盗難品と物的証拠。これらが、警部の心労を強くしていた。
その上、『怪人アリババ』は、不敵にも犯行予告をマスコミに送りつけるようになっていた。
「彼ら憑つかれているのじゃないですか。」
高が、無責任な事を呟いた。
「そうなのだ。彼らは、くちをそろえてそういうのだ。まるで誰かに憑つかれたようだ。とね。」
「そんなばかな。憑つくなんて。そんな事はありませんよ。霊は存在してないのですから。」
「祐さん、そうとはいえないぞ。」
「先輩、霊を信じているのですか。」
「あるともいないとも、証明されていないと言っているのだよ。それに、これは、何らかの方法でマインドコントロールが行われていたとしたら。どうだ。」
「本人は、知らないうちに犯罪を手伝わされる。そして、立証できない犯罪が起こる。主犯は、捕まる事はない。」
「そういうことだ。」
「でも、先輩。洗脳を立証するのは困難なのでは・・・」
「それを、暴くのが、我々の仕事だよ。」
「そうね。藤崎君は、容疑者にあって洗脳の可能性を、虎野君は、意識障害の可能性をあたって。」
「所長、ぼくは?」
「あ、高くんか。」
「ぼうやは、お前の好きな憑依の可能性を調べるのだな。」
虎野は、そう言うと、高の五分刈りの頭を平手で叩いた。
藤崎は、容疑者(現行犯逮捕されてはいるが)を、一人一人、検査してみたが、誰も洗脳された形跡はなかった。どんなにうまくやったとしても、どこかにその形跡が残っているはずなのだが、それすらも発見できなかった。
虎野は、彼らを診察した医師を尋ね、彼らに意識障害があった形跡あるか、薬物による痕跡を尋ねたがそれも否定された。彼らは、洗脳の可能性を否定しただけだった。
虎野にからかわれた高は、有名な霊能力者たちを訪ねたが、思うような成果は得られなかった。そんなとき、所長秘書のミンレイが、高にある情報を持ってきた。
「高君、寺野教授って知っている?」
「寺野教授?あの、TS大学憑依学部名誉教授の。」
「そうよ。あの人は、憑依研究では日本でも有数の人よ。」
「でも、会うには、それなりのコネがないと。」
「わたしたちは、SRIよ。それに、彼は、わたしの、おじいちゃまの教え子なの。だから、もう、アポはとってあるわ。」
高は、ミンレイの行動力に引きずられるようにして、筑波学園都市にあるTS大学筑波キャンパスに向かった。寺野教授の研究室は、すぐに見つかった。それだけ教授が有名だという事だろう。
寺野教授は、長身で、顔の堀も深く、紳士然としたひとだった。だが、かなり気さくな人で、ミンレイの日本での身元引受人の一人なのだそうだ。
「ミンちゃんの頼みとあらば、断れないだろう。しかし、3時間後には、ニュージャージーの学会に行かなければならないので、ゆっくりとは、二人の話を聴いているわけにはいかないがね。」
「それでもいいわ。チラノのおじさま。」
「チラノのおじさま?」
「そう、チラノザウルスに名前が似ているし、こう見えてもかなりエネルギッシュなのよ。このおじさま。」
「まあまあ、それはさておき、質問の憑依だが、可能ともいえるし、不可能ともいえるな。」
「あの、それは、どういうことですか。」
珍しく、高はまじめな顔をして、寺野教授に尋ねた。
「それはだな、君達が考えているような憑依は、行われないという事だ。ただし、今の段階ではだがな。」
「はあ?」
「ミンちゃん、本当に彼は、SRIの所員なのかね。いいかね、憑依というのは魂が憑つくのではなくて、簡単に言うと、ラジオコントロールされることなのだよ。」
「はあ?」
「つまり、誰かの意志の力で、誘導されるという事でしょう。」
「さすが、ミンちゃん。そのとおりだよ。つまり、波長のあった意思力。つまり、テレパシーだな。それが、脳に作用して、他人の身体をコントロールするという事だ。だから、コントロールはできるが、相手の感覚の把握はできない。」
「つまり、人間ラジコン化ってことなの。」
「そういうことだ。さすが、ミンちゃんだね。」
「きゃはははは。ほめられちゃった。」
「ふん。それで、それならば、誰でも操られるのですか。」
「君は、なにを聞いているのだね。ラジコンと同じといっているだろう。」
「つまり、波長の合う人間しか操れないのね。」
「そういうことだ。この波長が合う可能性は、きわめて低い。」
「どれくらいなの。」
「そう、1/200000000の確立だろう。」
「2、2億分の1の確立!それじゃあ、あの事件は・・・」
「そう、成り立たないわ。」
「どうしたのかね。あの事件とは?」
ミンレイは、寺野教授に、あの事件のあらましを話した。
「そうか、確かに可能性はあるが、それを行うのはむずかしいな。わたしの甥が作った薬でも、それまでの事をするのは不可能だ。」
「甥が作った薬って?」
「ああ、さっきも言ったが、コントロールできる確立を高めたのだ。それを使えば、コントロールできる確立は、1/1000にあがる。」
「それなら、可能じゃないですか。」
高は、あきれた顔をして、教授を睨んだ。
「だが、そのためには、対象の人物ガ、意識がなく、5メートル以内にコントロールする者は居なければならず、その間、コントロールする者は意識がなくなっているのだ。これは、犯罪を行う上ではかなり危険だと思うがね。」
確かに教授が言う事は一理あった。だが、それを何らかの方法で可能にしたものがいたとしたら、この犯罪は、成立する事になる。
「で、教授その薬は?」
「ここに閉まってある。PPZ−4086という薬だが。」
そう言いながら、教授は、カギが掛かった薬品棚を開けた。だが、そのとき、教授の言葉は止まった。
「おじさまどうしたの?」
「ない、薬がない。」
「PPZ−4086が?」
「それを強力にしたPPZ−4089もない。」
「強力にしたって、教授、どれだけ強力になったのですか。」
「コントロールの可能性が、1/30に跳ね上がるのだ。しかし、そのために。使用者の脳は・・・」
寺野教授は言いよどんでしまった。
「おじさま、どうなるの。」
「強力になった分、脳への負担も大きくなり、継続して使用すれば、脳は極度の疲労から細胞結合を解いてしまう。」
「つまり・・・」
「脳の液状化だ。早く捕まえないと、犯人は死んでしまうぞ。」
ミンレイと高は、あまりの異常さに言葉を失ってしまった。
高とミンレイから連絡を受けて、事務所には、虎野や徳田警部が集まっていた。
「ということなのです。」
高は、寺野教授からの情報を報告し終えたところだった。
「それなら、その薬を使えば、まさに、マインドコントロールが可能というわけか。」
「それじゃあ、犯人が特定できないじゃないか。」
徳田警部は、頭を抱え込んでしまった。と、そのとき、事務所のドアが開き、藤崎が、入ってきた。
「そうでもありませんよ、警部。所長、遅れて申し訳ありません。」
「それより、例の件はどうでしたの。」
「やはり、予想通りでした。」
「それでは、あれは。」
「はい、寺野教授の協力で、あと少しで、完成です。」
「よかったわ。」
「藤崎さん、なんのことです。」
「高、わからないか。お前の報告にあった。」
「あ、コントロールする相手は・・・」
「限定される。」
藤崎、所長、ミンレイ、虎野たちの会話を、理解しきれない高は、ただ、呆然と彼らの会話を聞いているだけだった。
「ということは、藤崎君、犯人の特定は・・・」
「できます。立証は、むずかしいですが、犯行を止める事は、可能です。」
「それでいい。藤崎君、たのむ。」
「時間がないわ。犯罪者とはいえ、相手も人間です。藤崎君、装置の完成を急いで、警部は、犯行の予告に注意して、虎野君は、藤崎君たちを手伝って。それと、ミンちゃんは、コーヒーお願い。」
状況の理解できない高は、ただ、呆然と立っていた。
「なにやっているの高君。あなたは、いつでも出動できるように準備していて。」
それから、SRIのメンバーと寺野教授達研究室のスタッフは、日夜、遅くまでかかって探査機の開発を急いだ。
そして、ついに探査機は完成した。
時を同じくして、『怪人アリババ』から、犯行予告がマスコミに送られて来た。
所員がくつろぐ事務所に、徳田警部が、飛び込んできた。
「今度は、帝国歌劇団で上演される『怪盗・紅蜥蜴』で、歌劇団OGの神埼スミレ夫人のコレクションを頂くといってきた。」
「まあ、あの方、まだご存命でしたの。」
「ああ、他の創立時のメンバーも元気だそうだ。ひさしぶりの『怪盗・紅蜥蜴』の公演に、全員集まるらしい。」
「まあ、わたくし、神崎すみれ様のファンですの。当時の記録映像でしか見れませんが。お〜ほほほほほ。」
その笑い声を聞きながら、納得する警部と所員一同であった。
予告当日、探知機を持った私服の警官をあちらこちらに配備して、徳田警部は、犯行を待った。コントロールを開始しないと探知できないので、探知機が、反応を始めるまでの時間が、永遠のものに思えてきた。
第二幕の舞踏会のシーンが始まり、当時、神崎すみれ夫人が演じた紅蜥蜴・夢野日名子が、舞踏会に登場するシーンで、現在のトップスターが、神崎すみれ夫人から借りたダイヤの首飾りをして登場した。
そのきらびやかさは日本の、いや、世界のトップコンツェルン、神埼コンツェルン総裁の神埼すみれ夫人のコレクションだ。紅蜥蜴と、探偵の小次郎とのダンスのシーンが、突如、犯行現場と化した。小次郎を演じる女優が、突然、紅蜥蜴のダイヤの首飾りを奪い、逃走した。観客は、それも、帝劇名物のアクシデントと思って見ていた。
探知機は、そのとき鳴り出して、警部たちは、探知機の指し示す方向に向かった。そして、一方では、操られた女優を保護した。
探知機が示す先は、一階客席の前方右側にある婦人用トイレから反応があった。だが、不思議な事に、劇場の外からも反応があった。そして、婦人用トイレからは、意識不明の女性が発見された。だが、外からの反応は、源を探し出す前に消えていた。
無事、首飾りの盗難は防げたが、トイレから発見された女性からは、PPZ−4086は、わずかしか発見されなかった。これだけの犯行を行ったものとしては、残留量が少なかった。そして、彼女は、この帝劇の従業員で、いままでの犯行のときのアリバイもしっかりしたものがあった。
「結局、主犯は捕まらなかったわね。」
「そう、彼は、PPZ−4086を使ってリレーポイントを作って自分の居場所を隠すなんて、かなりの知能犯であり、この薬を知り尽くしたものですね。」
徳田警部は、久遠寺所長と藤崎の会話を聞きながら浮かない顔をしていた。虎野や高も、犯人を保護できなかったふがいなさを感じていた。
「また、犯行が起こっても、犯人を逮捕する事はできないのか。」
「いえ、もう犯行は行われないでしょう。」
「藤崎君、それは、どういうわけだね。」
「つまり、薬を使えるタイムリミットってわけね。」
「そうです、教授の話によると、これだけの犯行を行うために必要な薬と使用量を考えると、PPZ−4089の限界量をとっくに越しているということです。」
「だが、誰か、ほかのものにやらしていたのかもしれないだろう。」
「それは、考えられません。自分が、操られる危険を犯すとは考えられません。」
そのときドアが開き、ミンレイが、トレイ一杯にコーヒーが注がれたカップをのせて事務所の中に入ってきた。
「さあ、コーヒーをどうぞ。」
「ミンレイちゃん、ありがとう。」
そういうと、所長は、カップをひとつてにとって、口に運んだ。
「あ〜〜あ、それは警部用の、ゴールドブレンドですよ。所長ちゃまったら。きゃはははは。」
「え〜〜、これいります。警部。」
そういわれた警部は、鼻の下を伸ばし、頷きかけて、周りのキツイ視線に気づいて、あわててやめた。
そして、ミンレイの笑いに誘われるように、事務所の中に笑いの輪が広がった。
数日後、警部からある報告が、SRIに持たされた。それは、脳が、まったく消え失せた変死体が、発見されたというのだ。そして、その死体は、寺野教授の研究室の元・研究員だった。ただ、不思議な事に、液状化した脳細胞は、彼の周りのどこからも発見されなかった。
次回予告 襲い来る妖しげな蛾。それには恐ろしい秘密が隠されていた・・・・
次回の「人変え蛾」をおたのしみに
あとがき
虎之助さんの「ウルトラQ」シリーズに触発されて、一番好きな作品で書いてみました。登場人物の紹介編みたいになり、納得がいくほど、活躍してもらえませんでした。次回は、活躍してもらうつもりです。(次回があればですが)
モデルになっていただいた。
W・Q嬢、みんみん嬢、徳則理事長、たかしんにさん、虎之助さん、 tiraさん(PPZ−4086の名前の使用を許可いただきありがとうございました。)、それと、連絡が取れなかったので、無断使用させていただいたBAFさん、皆様に感謝と、つたない作品ですが、捧げさせて頂きます。
なお、この作品の無断転載や無断使用はおやめください。(する物好きはいないと思いますが)かなりの方に、ご迷惑をおかけするのでおやめください。
それでは、あるかないかわからない次回作は「人変え蛾」です。それでは、また。