Sana

第一話 タロウの憂鬱 1

 僕の名前は山田太郎、23歳 独身、なんかどっかの記入例に使われていそうな名前だけど、これが実名なんです。僕は着ぐるみが好きで、そのなかでも美少女系のかわいい着ぐるみが大好きなんです。一目惚れと言うのでしょうか、僕の心は彼女たちにくぎづけです。

 

 ネットでは最近、着ぐるみ美少女アイドルなるものが流行ってきていて、いろんな人、団体がよりすぐりのかわいい着ぐるみを出してきています。着ぐるみは話せないと言う障害はもうこの世界にはありません。いまや着ぐるみネットアイドルは一大ムーブメントとして世間からも評価されているのです。

 

 声はプロの声優さんに頼んで吹き込んでもらったりする団体もありますが、それだと割高になってしまう。人気声優はやはりギャラも高いので、そこに目をつけた、企業がもっと安価で声をあてられるシステムを市場にだしました。一流まではいかなくても、声優志望の見習い生や役者になる人の技術向上のためとして、わりと安価で声を一般むけに提供できるようになりました。

  

 そんな中で僕が一番好きな着ぐるみネットアイドル(着グネル)が恋愛ナースのSanaちゃんだ。ホワイトピンクのナース服、お姉さん系と妹系のいいとこ取りの女の子です。恋と言う人間のもとからある心の病を不思議な聴診器(ラブシンキ)と男も女も今ひとつ勇気がだせない人のために元気と勇気を注入する注射器(ラブチュー)を持つ女の子で、設定は恋愛天使で神界ヴァルハラからつかわされたという設定である。

 

 毎日、更新されるHPに僕は目を奪われる。ビデオメッセージなんかも、毎月抽選で、メールで届いたりもする。僕はすでに3回もそのビデオメッセージが来た。恋愛下手な僕はいままで彼女なんてできたことないけど、もう現実の女性など、このSanaちゃんの前ではどうでもいいのだ。僕のフェチが彼女には多く詰まっている。

 

 まず、半そでミニスカで、長いオーバーニーソ、色は看護婦らしく白がメインだが、時々色が変わることもある長い手足。細からず太からず、僕の好きな感じになっているのだ。ミニスカとオーバーニーソの間の絶対領域もしっかりあるのがいい。

 

 声も、またかわいい。胸もいい感じだし、恋愛ナースに恋をしてしまった、あわれな若者だと笑ってもらってもいいけど、とにかくSanaちゃんはかわいいのだ。ビデオメッセージでも、しぐさ一つとってもどれも萌えだ、まさに理想の女性そのものである。

 

 彼女はコスプレイベントなどには一切出ないのだ。まあ、秘密が多いのがこの着ッドルなわけだが、着ぐるみアイドル・・・やはり、着ぐるみであるからには認めたくない事実が存在する。中に人が入っているのだ。あの体もかわいい顔も、それを覆うものの内側にはまぎれもなく僕と同じ人間の存在があるわけで、24時間365日着ぐるみでいられるわけがなく、普通の人になって生活を送っている人が存在するのだ。

 

 あのプロポーションを維持する、中身の人間はきっと女性だ、と思うけど、違うかもしれない。女性だとうれしいのだが、その逆だと・・・複雑な気分である。もし、仮に中身が男性であるなら、僕はSanaちゃんに入っている同じ男性に激しく嫉妬する。僕が毎日見続けている彼女に化けている人に嫉妬と憧れの念ばかりが日に日に積もっていく。前にSanaちゃんファンクラブでも中身の人間の存在について話しているし、公式HPでも毎日のように話題になっている。果たして中の人はどうゆう人なのだろうか。誰も生でSanaちゃんを見たことがない。女性であるとか男性であるとか中身なんてどうでもいい。とにかくSanaちゃんにひとめ会いたい、ファンクラブの連中はそう思ってる。

 

 今度の日曜にファンクラブのメンツだけでの緊急集会が行われることになった。毎日チャットで話しているが、実際に顔を見るのはこれが始めてだ。ハンドルネーム厳守、立ち入ったことは一切聞かない、そうゆうルールで日曜に主なメンバー数人とあうことになった。

 

 日曜日

 

 都内のとあるホテルの一室でその緊急集会は行われた。メンバーも自分以外の連中が一体どういう奴なのか、わからない。緊張と不安をいだきながら一人、また一人と部屋に入って来た。ちなみに僕のHNはタロウだ。なんのひねりもないく単純だが覚えやすいからそうした。

 

 ドアをノックする・・・コンコン

A「どなたですが?」

タロウ「えっと、タロウです。」

A「あ、はい、タロウさんですね、お待ちしておりました。すぐに開けます。」

 

中に入ると数人の男性が椅子に座っていた、オタク系の太い奴から、ほっそい男までいろいろだ。

タロウ「はじめまして、タロウです。」

男「おお、あなたがタロウさんですか、思っていたより小柄な人だね。」

ロレーヌ「そうだね、あ、僕がロレーヌです。タロウさんはチャットでもいろいろ話しするけど、僕なんか入室するけど、あんまり話せないまま寝落ちちゃうんだよね。」

タロウ「あなたが、ロレーヌさんですか、すげ〜感激ですよ、僕より前にファンクラブに入っている人だし。」

 

ロレーヌさんは、いわばこのサークルでも大御所で、Sanaちゃんファンクラブの1番である、体格は太めの人だ

ロレーヌ「じゃあ、一通りのメンバーが揃ったわけだね、じゃあ、はじめようか。」

 

男「はい、では、第一回恋愛ナースSanaちゃんファンクラブ緊急集会をはじめたいと思います、では、最初にロレーヌさんから挨拶を。」

ロレーヌ「じゃあ、第一回集会をはじめます、みんな初めて顔を見る訳だけど、とりあえず自己紹介から。まず先に僕から、僕はロレーヌ、会員番号1番だけど、チャットでは、あんまり話さない。まあ、これからもこういうことあると思うんで、よろしく。」

男「では、僕は木製人です、いわゆるニートです!親に喰わせて貰ってて、でも、ある日ネットでSanaちゃんを見て、体に電撃が走りました。で、すぐ調べて会員になりました。今日は司会を勤めさせていただきます。」

 

木製人さん、わりと冷静なイメージ、背は僕より高く、一見するとエリートサラリーマン?風の男性だ。

 

男「じゃあ、次は僕がでるよ。僕はワッキー、Sanaちゃんのことなら僕になんでも聞いてくれたまえ。僕は表では医療の仕事をしてるんだ。彼女の身長体重もぼくにかかればすぐわかる。ってそれはプロフに書いてるけど、僕は彼女の中に興味があるのさ。ま、これはあとあと話すことになるからここではあまりいわないでおくよ。」

 

ワッキーさん、ちょっとキザなセリフで周りを黙らせる

 

木製人「では、ミハルさん。」

ミハル「はい、えーと、みなさん男性ばかりでなんか緊張・・・だけど、いっつも話してるみんなだし信用してます。ミハルです。Sanaちゃんは、私の憧れの女の子です。Sanaちゃんって女の私からみても、強くてかっこよくてかわいい、そんなSanaちゃんが大好きです。みなさん、よろしくお願いしますね。」

 

ミハルさん、本日集まったメンバーで紅一点、丸メガネと、三つ編み、頬にはちょっとそばかす、いかにもって感じの子である。

 

木製人「では、最後にタロウさんどうぞ。」

タロウ「はい、えっと、タロウです。チャットでは、いつもがんがん話してるけど、普段はおとなしいオタクです。Sanaちゃんには1年前にネットで見てひとめ惚れしました。ここにいる誰よりもSanaちゃんへの愛情は負けないつもりです。」

ロレーヌ「さすが、タロウさんwこのメンバーがいる中でよく言うね。でも、きみには負けられないな、なあ、みんな?」

ワッキー「心外だな、きみはSanaちゃんのなにを知っていると言うんだい?ま、それも素人のきみらしいけど、フフフ。」

ミハル「私だって、私だって、タロウさんに負けないくらいSanaちゃんが好きだよ〜。」

木製人「僕もさ。じゃあ、ここで、自慢のSanaちゃんグッズの好評会に移りたいと思います、各々よろしいでしょうか?」

 

ロレーヌ「じゃあ、僕から、僕は期間限定販売だった、Sanaちゃん目覚まし時計さ。しかも、直筆サインで僕の名前もいれてもらってるのさ、フフン。」

木製人「おおーっと、いきなり、激レアアイテム登場だ〜期間限定Sanaちゃん目覚ましサインつき。これはほしいぞ〜」

ロレーヌ「これは、僕だけのもの、Sanaちゃんが毎朝僕の名前を呼んで起こしてくれるのさ〜。」

ワッキー「さすが、ロレーヌさん、いきなりそれをだすとは、ならばならば、僕はこれだ、限定レアアイテムSanaちゃん、実寸代ラブシンキアンドラブチューセットだ。まいったか」

木製人「これまた、激レアアイテムだ。Sanaちゃんを代表するアイテムラブシンキとラブチューのペアセット。しかもしかも、Sanaちゃんが生まれた年のクリスマス限定バージョンで現存はこれ一つだといわれてる激レアアイテム。」

ミハル「わー、それってそれって、かなりレアじゃないですか〜いいですね〜。」

タロウ「さがっすね、ワッキーさん。」

 

ミハル「じゃあ、今度は私。私は買った物じゃないんだけど、Sanaちゃん誕生1周年のときにSanaちゃんが着ていたプレミアムナース服。私が半年かけてレストアさせたんです。」

ロレーヌ「な、なんと、さすがミハルさん。俺たち男とは目のつけどころがちがうナリ。」

ワッキー「たしかに、衣装は、あんまり男は買わないし、そもそも売ってないから、それを自作で作るとは。」

ロレーヌ「それは、さっそく、これが終わったら、ミハルさんが着てみてほしいよね〜。」

ミハル「え〜そんな〜恥ずかしいですよ〜。」

ワッキー「とかなんとかいいながら〜、自分サイズに作って、ここでしっかり見せびらかすために持ってきてたんじゃないの?」

ロレーヌ「みんな、見たいよね?」

木製人「僕も見たいな〜、ワッキーさん、タロウさんは?」

ワッキー「見たいな。」

タロウ「見たいです。」

ロレーヌ「みんなも、こう言ってることだし、お願いしますミハルさん。」

 

ミハル「うーん、でもでも、私が着ても、やっぱ、Sanaちゃんに見劣りするしな〜。」

ロレーヌ「そんなことはないよ、みんなミハルちゃんのSanaちゃんコスが見たいんだ。」

ワッキー「そうだよ、変な意味じゃなくて。」

木製人「ワッキーさん、ロレーヌさんと同じです。」

タロウ「僕はまだ、コスプレは見たことないし、ぜひ見てみたいです。」

ロレーヌ「ほら、みんなもこう言ってるし、頼むよミハルさん。」

 

ワッキー「でもでも、これってすごくないか?」

ロレーヌ「なにが?」

ワッキー「着ぐるみコスしてる人にあこがれて、コスしてる人のコスするなんて。」

ロレーヌ「過去に前例がなかったわけじゃないけど、珍しい例だよね。」

タロウ「そうなんですか。」

 

ミハル「みんながそこまで言うなら、わかりました〜、じゃあ、あっちの部屋で着替えてきますから、ちょっと待っててくださいね、覗いちゃいやですよ。」

ロレーヌ「ダレもそんなことしないナリ。」

ワッキー「期待してなさ。」

ミハル「それって、どうゆう意味ですか〜プンプン。」

ロレーヌ「みんな、ミハルさんのコス見るのはこれがはじめてだし、期待してるのさ。」

タロウ「ミハルさんて、普通でもコスしてるんですか?」

ロレーヌ「そうだよ、タロウさんはまだ、ここ来てあまり時間もたってないから知らないと思うけど、ミハルさんは会員ナンバー2なんだ。つまり僕の次に古株ってことさ。」

ミハル「もう、ロレーヌさん、そんなこと言ったら、私が年みいたいに思えるじゃないですか〜w。」

ロレーヌ「あはは、すまそん、もうじゃあ、お願いします、ほら、みんなもミハル姉さん、お願いだ。」

ワッキー、木製人、タロウ「お願いします。」

ミハル「もう、やめてよ〜w、わかったから〜。」

と、そのまま、となりの部屋に入っていった。

 

ミハルが別室で着替えている間、男4人はSanaについて話していた。

タロウ「みなさん、やっぱ、着ぐるみに興味あるんですよね?」

ワッキー「オフコース、なければ、ここにはいないよ。」

ロレーヌ「そうだね、でも、Sanaちゃんは、着ぐるみといって普通のじゃないしね。僕はSanaちゃんはSanaちゃんとしてみたいね。」

木製人「うん、着ぐるみって感じしないもんね。確かに、中に人が入っていると考えるけど、Sanaちゃんは、あれでSanaちゃんだし。僕はSanaちゃんが好きなんだ。」

タロウ「じゃあ、僕だけなんですね、中身が気になってるのは。」

ロレーヌ「僕も最初は気になってたけど、今はそうでもないな。」

タロウ「みなさん、気にならないんですか?Sanaちゃんの中って・・・。」

ワッキー「僕は医学的に気になるけどね。あんなスーツで内部の体温とか、どうなってるんだろうって。」

木製人「うーん、気にしてたら、きりがないしね。」

ロレーヌ「ここだけの話しなんだけど・・・Sanaちゃんのなか・・・」

ガチャ

ミハル「お待たせ〜どう?」

ロレーヌ「おお、まさに、あの幻の衣装だね。すばらしいよミハルさん。」

ワッキー「それよりもさ、ミハルさん。意外とスタイルいいんだね。本物のSanaちゃんにかなり近いね。」

木製人「うん、いいね〜。」

タロウ「感激っす。写真とってもいいですか?」

ミハル「なんか、恥ずかしいな〜。でも、この感覚が好きでコスやってるくらいだし、写真バシバシとって〜。カメラがオーバーヒートするくらい。」

そのまま、ミハルさんのコスプレ写真会になってしまい、この日の集会は終了した。

 

 

二話