プロジェクトRINA

第一章 起動

某秘密研究所特殊実験室

D
.カイザ「ははは、とうとうできたぞ。我が人生をかけた最高傑作が、さっそく起動開始じゃ」
助手1「やりましたね。しかし、Dr.カイザ。まだ、実験段階です」
Dr.
カイザ「それはそうだな。では、早速、実験開始じゃ、準備せい」
助手1「はい、ただいま」
助手は電話でどこかに連絡をする
助手1「Drカイザ、大変です」
D
.カイザ「なにごとじゃ?」
助手1「実験体がいないそうです」
D
.カイザ「なんじゃと、それでは実験ができないじゃないか」
助手1「我が研究所の極秘ネットワークを使って実験体を募集しましょうか」
D
.カイザ「うーん、じゃが、わしも年じゃ。この研究が最後になるじゃろう。少しでも早くこの研究を成功させないと時間がないのじゃ」
助手1「D.カイザ、なにを弱気な。あなたはまだまだ現役です」
D
.カイザ「いや、わしにはわかる。わしはもう長くない。その前にこの研究を成功させなければならないんだ」
助手1「どうします?実験体がいないとどうしようもないですしね」
Dr.
カイザ「いや、実験体はいる。いるじゃないか」
助手1「といいますと?」

D.カイザ「きみはわしのことをどう思っているのね?」
助手1「それはもう、偉大なる発明家だと思います、すごく尊敬もしています」
D
.カイザ「そうか、じゃったら、それを態度で示してみい。実験体はお前だ」
助手「え?そ、そんなDr.カイザ。私がですか」
D
.カイザ「そうじゃ。このDrカイザの発明の実験体になれること、光栄に思うがいい」
助手1「わ、わかりました」
 Dr.カイザの実験していたものとは、人工的に皮膚を形成し、意のままに状態を変化させることが可能な特殊スーツだった。準備ができた助手がくる。全身にローションのようなものを塗る。すべりをよくしているのである。
助手1「Drカイザ、準備できました」
Dr.
カイザ「うむ、では、装着せよ」
助手1「はい」
 助手は特殊ゴムスーツを全身にまとう。しかし、この状態では顔のないのっぺらぼうのままの銀色の全身タイツのようなものだ。ここからは、意思の力を増幅させる力をもった秘石エネミーストーンが埋め込まれた腕輪、ピアス、脚輪をつける。
Dr.
カイザ「早速、実験開始じゃ。変身開始」
 エネミーストーンが光を放つ。ピアスは頭部を、腕輪は上半身を、脚輪は下半身を変化させる特殊ゴムスーツと石が反応する。筋肉を収縮させ変化させる。助手の身体はみるみる女性のものへと変化する。

青く長い髪が形成される。のっぺらぼうだった顔が若い女性の顔に変化する。そして身体はなだらかな曲線をえがき変化していく。
D
.カイザ「おおおお、す、すごい、すごいぞ、わしのイメージ通りだ」
 そこには、美しく若い女性がたっていた
女「わ、私は・・」
 しげしげと自分の身体をみる。
Dr.
カイザ「おお、実験は成功じゃ。やったな」
女「あなた、だれ?」
Dr.
カイザ「なに?なにをいっとる。わしがわからんのか。Drカイザの顔を忘れたか」
女「しらない人・・」
D
.カイザ「なんじゃと、記憶がないのか。これは誤算じゃった」
女「私はだれなの?」
D
.カイザ「お前はわしの娘にそっくりだ。そうか、あいつ(助手)はこの前、わしの娘にあったのじゃった。無意識にわしの娘をイメージしたんじゃな。           まったく」
女「私は一体?」
D
.カイザ「お前はリナ。はは、やった、やったぞ」
 すると、リナの身体から火花がでている
リナ「私、壊れる・・」
D
.カイザ「なんじゃと?」
 次の瞬間、研究室に光がはなつ、大爆発がおきる

彼の名は北沢俊介(きたざわしゅんすけ)。ごく平凡な学生だ。そんな彼に突然不思議な出来事がおこった。俊介は特殊工学を専行する理科大学の学生である。性格は真面目だが女関係にはあまり進展がない。23にもなって彼女もいない。
 朝、ふとラジオをつけるとニュースが流れてくる。
 ラジオ「昨夜、未明。都内の研究施設で原因不明の爆発がありました。この爆発による死傷者は1名、Drカイザ特殊工学博士だけでした。この研究所には他2名。助手らしき人物が存在していたようですが、行方がわかっていません。なお、警察と消防で爆発の原因究明にとりかかるとのことです」
 俊介は寝ぼけまなこをこすりながら洗面所にむかう。顔を洗い、軽く歯にブラシをかける。ランニングシャツを着き、タオルを肩にぶら下げる。
 俊介「へー、謎の大爆発か。世の中物騒だな。ま、俺には関係ないや。それより急がないと学校に遅れるよ」
 着替えを終えて、10分もしないうちにアパートを飛び出ていった。階段を駆け下りて自転車に乗り込む。
 俊介「さ、いくぜ」
PM
:17:00
 俊介がかえってくる。季節は冬。5時にもなると、薄暗い。俊介は車庫に自転車を止める。ガタン すると車庫の奥から物音がする。
 
俊介「誰だ?」

しかし、反応がない。俊介は懐中電灯をとりだすと音のする方向へむける。

俊介「誰かいるのか?」

少しずつ前進する。すると車庫の薄暗い壁に脚のようなものが見える。そこに電灯を向ける。黒い影が動く。光をあてると、まぶしいのか、顔を手でかくす。
 
俊介「な、なんだ?」

そこには、若い女の子が座っていた。しかも、衣服は身に着けていない。
俊介「おわ、なんだ。なんでこんなところに女の子がいるんだ。しかも・・う」

リナを直視できない、鼻血がふきでる
  リナ「あなた、だれ?」
  俊介「あ、お、俺は北沢俊介。きみは?なぜこんなところにいるの?」
  リナ「私はリナ。それ以外覚えてない」
  俊介「リナ・・いい名前だね。他はわからないのかい?」
  リナ「わからない・・」

リナは頭をかかえ苦しみだす
  俊介「ごめん。無理にはいわなくてもいいよ」
  リナ「さ、寒い・・」
  俊介「そんなかっこじゃ、寒いのはあたり前だよ」

俊介は自分が羽織っていたダウンジャケットをリナにきせる。
  俊介「ここは寒いし、とりあえず俺の部屋においでよ」

俊介はリナを抱きかかえ、部屋に戻る。ポケットから鍵を取り出しドアをあけ、リナをおろして靴をシューズボックスにいれる。部屋の電気をつけるとさっきは薄暗くてよく見えなかったが、そこで彼女は普通の人間ではない青く長い髪、耳についた左右のピアス、皮膚は人間ではありえないマーキングが要所にほどこされていた。両手首にはピアスと同じ石が埋め込まれた腕輪がはめてあった。少し銀色っぽい体、脚にも脚輪がつけられている。ジャケットを羽織っているとはいえ、ほとんどは生身の女性の身体だ。しかし、リナは隠そうともせず、俊介のほうを不思議そうに見ている。スラット伸びた長い足が俊介を魅了する。
 俊介「な、なんか着るものとかないかな」
 そういって俊介は自分の洋服から彼女に似合いそうな服をさがす。しかし、俊介は男。女性の服があろうはずがない。
 俊介「これどうかな、俺のだけど、いいかな」
 リナは小さくうなずく。ジーンズに長袖の白いYシャツ、女の子だから男ものの服はサイズにあわないのか手が袖に半分隠れている。少し大きめの服をまとった女の子は異常にかわいい。
 リナ「ありがとう」
 俊介はその吸い込まれそうな瞳に魅了される。
 俊介「なんか、食べる?」

するとリナは小ぶりに首をふる
 リナ「私、食べれない」
 そう、特殊ゴムスーツでは食料の摂取は不可能なのだ。では内部の人間はどのようにして栄養を体内に取り込むのか。身体の要所にあるエネミーストーンにある程度のエネルギーは貯蓄されているため、しばらくは石の力で生命を維持できる。しかし、もともと長期にわたっての着用を目的として設計されていないため、エネルギーはもって一週間。それを超えると装着者の体内のエネルギーを吸収してしまい、最大8日で活動限界をむかえる。なお7日以降の内部の人間の生命は保証できないのだ。それを防ぎ内部の人間を救出する方法は、外部からスーツ活動を停止させる。スーツ自体がプロトタイプなので内部の人間が自らスーツを脱ぐことはできない。外部からスーツの切れ目を開くとゆう方法でしか内部の人間を救い出す方法はないのだ。
 俊介「そっか、食欲ないんだ。あーでも、俺は腹減ってんだ。近くのコンビニに買いにいってくるから、ちょっと待ってて。俺がいない間に電話とかかかってきても応答しなくていいよ」
 リナ「わかった、待ってる」
 俊介「いい子だ、じゃあな」
 急ぐように靴を履いて玄関のドアを開けて外にかけだしていく。俊介が出て行った後、開けっ放しになっていたドアを閉めるリナ。すると電話の呼び出し音が部屋中に響き渡った。
 リナ「どうしよう、俊介さんは対応しなくていいと言ってた」
 すると留守番電話にきりかわる

男「あっしは匿名希望サンダーラットでやんす。北沢俊介くん家でやんすね。ずっと探してたでやんす。あっしは俊介くんのこと好きでやんす。今日は思い切って告白したでやんす。あっしはずっと俊介くんのこと見てるでやんす」
 メッセージを聞き終えたリナはいまいち彼のいっていることが理解できなかった。リナは喋ることができる。今のところ内部の人間がリナの意識を操っているが、スーツの人工知能が暴走し内部の人間の意識は全体の30%も満たない。声は人工声帯で、変化した人間の性別や年齢に応じて変化することになっている。しばらくして俊介が帰ってきた
 俊介「ただいま、リナ、遅くなってごめん」
 右手には買い物袋にはお酒が入っていた。あとはつまみらしき食料が入っていた
 リナ「俊介さん・・あの」
 俊介「なんだいリナ、僕の留守の間になんかあったの?」
 皿とコップを出して机の上に置く
 リナ「いや、たいしたことじゃないんだけど」
 俊介「まだリナのことわからないし、なんかあったんなら話してよ」
 リナ「俊介さんは・・あの、男にもてるんですね」
 笑いだす俊介
 俊介「ははは、そうなんだ。もてるんだよ。男にも・・って、男」

リナ「さっき、電話あったんだけど」

リナはおそるおそる電話機を指差す。電話機の留守録ランプが点滅していた。
 俊介「なんだ、電話に留守録入っているみたいだ」
 そして録音されていた例のメッセージを聞く。
 俊介心の声(そっか、リナ、これ聞いて誤解したんだ)
 俊介「ご誤解だよ。これは最近はやりのイタズラなんだ」
 俊介はおそるおそるカーテンの隙間からそっと外を見る。すると、目の前の電柱になにやら怪しい人影が見える。ロングコートに帽子とサングラスとマスクで顔をかくしている。
 俊介「あいつか、まったくなんて怪しいんだ。不審者まるだしのカッコしやがって」
 次の瞬間、男がこっちをみる。目があう
 俊介「うわ、やばい。目があった」
 リナ「大丈夫?汗が出てる。はい、ふきん」
 リナが汗をふくための布きんらしきものを持ってくる。
 俊介「ありがとうリナ・・って、これ台拭きだよ。おわ、汚い」
 俊介は台拭きを地面にたたきつける。
 リナ「ご、ごめんなさい。かわりにこれ使って」
 俊介「ありがとう」
 ザリッ 俊介の頬に血がにじむ
 俊介「うわああ、リナこれ、金タワシだよ。しかも、ご丁寧に洗剤までついているし」
 リナ「ごめん・・なさい」

俊介の頬の傷の手当てをする。
 リナ「痛かった?」
 頬の傷をさする。
 俊介「いいよ、おかげでひげを剃る手間がはぶけたよ」
 俊介は押入れから布団をだす。そして居間に布団を敷く
 俊介「さ、今日はもう遅いから、後のことは明日考えよう」
 すると、リナがなにやらもじもじしている。
 俊介「どうしたの?」
 リナ「私、どうなるの?」
 俊介「そうだな、とりあえず警察にいこう。捜索願がでていないか探そう」
 リナ「私、警察、嫌い」
 俊介「そんなこといってもなー。困ったなー。あ、そうだ。リナの知り合いとかいないの?」
 リナ「Dr・・カ・イ・ザ」
 俊介「え、Drカイザって・・・あれ、その名前どっかで聞いたことあるな。なんだっけ」
 するとリナはそのまま力なく座り込んでしまう
 俊介「どうした、リナ」
 リナ「怖い・・Dr・カイザ・彼は」
 俊介「ごめん、無理に思い出さなくていいよ。さ、今はゆっくり身体を休めるんだ」
 リナ「一人は嫌、怖い、ずっとそばにいて」
 俊介「え?」

俊介「そ、それはまずいよ」
リナ「なんで?」
俊介「いや、あの・・ほら、俺は男でリナは女じゃないか。まずいよ」
リナ「お願い。今夜だけでいいから私のそばにいてほしいの」
 そういってリナは俊介にだきつく。俊介はいままで女性に抱きつかれたことがないため、もう心臓が爆発するくらい鼓動を刻んでいた。
リナ「ダメ?」
俊介「仕方ない、今日だけだよ」
 そういって俊介はパジャマに着替える。電気をけし、その日を終えることになった。しかし、俊介はそれどころではない。年頃の
若い女性が目の前で寝ていることが今でも信じられないでいる。
俊介心の声(だめだ、とても眠れる状態ではない)
リナ「う、Drカイザ」
 リナが寝返りをうつと、リナの青い髪からはあまい香りがする。するとリナの身体が突然まばゆい光につつまれる。
俊介「な、なんだ、なにが起こったんだ」
 リナの身体の要所にマーキングされたラインの色が変化する。リナの身体にほどこされたマーキングはリナの寿命を意味するものである。赤、           黄色、青、緑、紫、茶色、黒と変化し、七日目の黒がマーキングされると24時間以内に変身を解除しなければ装着しているものの生命の保証ができない。

しばらくするとリナの発光が収まる、俊介は状況が飲み込めない。
俊介「な、なにが、どうなったんだ」
 するとリナが寝返りをうちこっちを向くと、胸元の衣服がはだけ、胸がみえる。
俊介「ぐ、や、やばい」
 すると、胸元のマーキングが黄色に変化している。
俊介「あれ、ここの模様さっきとちがうような」
 しかし、俊介はこのシグナルサインの意味がわからない。するとリナのうなじがみえる。なにやら薄い切れ目のようなものがみえる
俊介「なんだ、これ?」
 俊介はおそるおそる、手を差し伸べて見る。するとリナがこっちをむく。
リナ「なにをしているんですか?さ、寝ましょ」
俊介「いや、リナの後ろの切れ目みたいなものなにかなって」
 笑うリナ。
リナ「ふふ、切れ目って、そんなのあるわけないじゃない」
俊介「でも・・」
リナ「そんなこと気にすることないわ。俊介疲れているのよ」
俊介「そうかな」
リナ「私、これからずっと、俊介のそばにいたいな。俊介もずっと私のそばにいてね」
俊介「わかった」
リナ「約束よ」

2日目
  昨日、あんなことがあったことが嘘のようだった。しかしいつのまにか寝ていた。俊介はリナの存在を忘れていた。ゆっくり目を開けると見知らぬ女が隣で寝ているではないか。
 俊介「おわ、なんだ、・・あ、そうか昨日」
  するとリナの目が開く。しかしまだ眠そうだ。
 リナ「あ・・おはよう、俊介さん」
 俊介「あ、お、おはよう」
 リナ「寒いよ。俊介」
  季節は冬、朝も気温が下がっている。
 俊介「わかった、今、ストーブつけるよ」
  俊介は起き上がり、隅においてあるストーブに火を付け、やかんを上におく。俊介の習慣で、いつものようにラジオをつける。
 ラジオ「昨日お伝えししました原因不明の爆発事故の続報です。Drカイザ博士には専属の助手が存在していたもよう。爆発現場からは助手の遺体は発見されておらず、いぜん行方はわかっておりません」
 俊介「え、Drカイザって、まさか」
  それは昨日、リナがつぶやいていた人間の名前だ。
 俊介「助手が行方不明っていっていたよな。まさか」
 ラジオ「なお、現場では髪の長い女性が目撃されており、現在も都内のどこかに潜伏しているもよう。警察はこの不審人物を重要参考人として捜 索する模様」

それをリナも聞いていたのか震えている
 リナ「怖い、Drカイザ」
 俊介「リナはDrカイザとどんな関係なんだ」 
 リナ「私はDrカイザの助手」
 俊介「え、じゃあ、目撃された女性ってリナのことだったのか」
 俊介心の声(まいったなーこれはややこしいことになったな)
  やかんのお湯がわいたのでコーヒーをいれる。
 俊介「で、リナは研究所爆破のときどうしていたの?」
 リナ「知らない。私が、気がついたら博士も研究所もなくなっていた」
 俊介「そっか。Drカイザ博士はいなくなる前になんかいってなかった?」
  リナは首を横に振る
 リナ「ううん、覚えてない」
  俊介は洗面所で顔をあらって軽く歯にブラシをかけて、白いシャツを着る。
 俊介「まいったなー、どうやら警察にも追われているみたいだし、リナは表にだせないな」
 リナ「そんな、外にでてみたいよ」
 俊介「だめだよ。俺、ちょっとでかけてくるから、外にでちゃだめだよ」
 リナ「どこにいくの?さみしいよ」
 俊介「学校だよ。あとリナの服とかも買ってくるからさ」 
 リナ「早く帰ってきてね」
 俊介はリナの言葉を聴いてから部屋をでる。

俊介は、学校が終わると、衣料品店に出向いた。
 俊介「なんだか恥ずかしいな。こうところは。男の俺がはいるのは」
   まずは下着だ。しかし、店の前でたちすくんでしまう。
 俊介「やっぱりまずいよ、とても入れない」
   そんな俺を見て周りの女性がひそひそ話をしたり、笑いながら走り去っていく。こんな女性の下着売り場の前で男がたっていたら誰でも怪しいと思うのは当然である。
 男「ちょっとキミいいかな」
   と俊介の肩をたたく
 警官「キミ。なんでこんなところでなにしているの?ちょっと近くの交番まで来てくれるかな」
 俊介「え?いや、あの、その、俺はなにも怪しくないです」
 警察「いや、十分怪しいから」
 俊介「いや、ちょっとここに用事があってですね」
 警官「ここって、この店にかい?キミ。ここどうゆう店か知ってていってるの?」
 俊介「ええ、まあ」
 警官「キミはなにかね、こっちの気があるのかな」
 俊介「いや、そうゆうわけじゃないんですが、彼女にプレゼントするんです」
 警官「いやーそうか、プレゼントか。にしてもつらい選択だな。勇気いるだろう。男でこうゆうところに一人じゃ入れないだろ」

警官「ま、がんばれよ。青年」
 そういって警官はいなくなる。
俊介「よーし、俺も腹をくくってはいるぞ。リナのためだ」
 ガチャン ドアを開ける。
店員「いらしゃいま・・・せ」
 いきなり男の来店で戸惑う店員。店内には、色とりどりの下着が展示してある。
店員「なにを・・お探しですか?」
俊介「え〜と、その、なんてゆうのかな。彼女にプレゼントするんです」
店員「そうですか、ところでその方のサイズはおわかりですか?」
俊介「え?やっぱりサイズがわかんないとダメっすか?」
店員「そうですね。サイズにあったものとかのほうがいいでしょうから」
俊介「フリーサイズのやつとかないんですか?」
店員「残念ながらございません」
 こまったように頭をかく。
俊介「そういえばサイズとか聞くのを忘れていたな」
店員「当店としましてもお客様にあったものを提供したいので、よろしければその方もご一緒にご来店くださいませ」
俊介「そうするよ。じゃあ、また」

(俊介の部屋)
リナ「いっちゃた・・」
 俊介の部屋を徘徊してみる。テーブルには片付けていない朝食が残っていた。
リナ「せっかくだから片付けてあげる」
 食器を一通り洗浄して片付ける。
リナ「あれ?この押入れはなんでしょう」
 と押入れを開けようとするがなにかが挟まっているのか開かない。
リナ「うーん、なかなか開かないわね。よいしょ。きゃー」
 かませていたものがはずれたのか、いっきに開く。すると中から未処理の洗濯物がなだれ落ちてくる。
リナ「なによ、俊介さん洗濯物ためこんでいるの。これも処理ね」
 リナは一通り洗濯物をとりまとめて表の洗濯機にむかう。
大家「あら?みかけない顔ね。どなた」
リナ「私はリナ。俊介さんの友達」
大家「俊介?北沢さんのこと?まあ、あのコも隅におけないわね。こんなかわいい女の子をつれこむなんてね」
 食器を片付け、洗濯物を処理して部屋に掃除機をかける。そしてさっき洗濯物を押し込んでいた押入れを整理すると、俊介が隠していたいかがわしい本が数冊出てきた。
リナ「あれ?これってまさか」
 掃除機をとめて、しばらく眺める。

リナ「まだ、他になんかないかな?」
   と押入れを探し始める。すると、学校の教科書や参考書などがでてくるがそれ以外にはでてこない。押入れの上の段は探しつくし、下の段を探しはじめた。壊れたラジカセやビデオデッキなどがでてくる。
 リナ「どうして男の人の部屋って機械が多いのかしら」
  しばらくすると、アルバムがでてくる。俊介の幼い頃の写真がある。
 リナ「あらあら、俊介さんかわいい」
  洗面台を洗おうとする
 リナ「あ、でも、ちょっと身体でも洗おうかな」
  そういってリナはするすると身につけていた服を脱ぎはじめる。そうして身になにもつけない状態になったリナはバスルームにはいる。
  さらさらと身体を流し、髪を洗う。しかしリナは自分のうなじに手をかけるとなにやら切れ目のようなものに触れる。
 リナ「あら、これなにかしら」
  リナはふと自分の身体の異変に気がつく。少し皮膚がたるんでいるのだ。
 リナ「なにこれ、私どうなっているの?」
  リナは自分の身体を押して見る。すると、皮膚の内側に、別の皮膚の感触がある。
 リナ「私の中に誰かいる?私は誰かに着られているってゆうの?」

自分の身体の異常に気がつくとそのショックで座り込んでしまう。
 リナ「なに?なんなの?私の中に誰かいる・・嘘」
  しかし、自分ではスーツは脱ぐことはできない。するといままでゆるんでいた皮膚がひきしまる。だが、リナの不安は拭いさることはできない。すぐにバスルームをでる。するといきなり、ピアスが光だした。
 謎の声「不要なデータを処理します」
  リナの頭に激痛がはしる。これにはリナもたまらず頭を抱え膝間づく。
 リナ「きゃ、頭が割れそう」
  10秒ほどすると頭痛も治まる。
 謎の声「データ、処理完了」
 リナ「あ、頭痛くなくなった、あれ?私なにをしているんだろ」
  するといきなりドアをたたく音がする。
 声「すいません、シロネコヤマトです。お荷物お届けにまいりました」
 リナ「はーい」
  ドアを開ける。
 宅配の男「こんちは、ここにハンコを・・う、失礼しました」
  そう、リナはバスルームからあがったままで、なにも衣服を身につけていないのだ。
 リナ「なに?どしたの?」
 宅配の男「あの、だから、・・その・服・服を」
 リナ「服って?・・・きゃ」

リナはバスルームからあがってからいろいろあったので、服を着ていなかった。いいものを見せてもらった宅配業者。リナは涙ぐんでバスタオルで胸を隠す。
 宅配の男「あ、あの、とりあえずここにサインお願いします」
 リナ「サイン書くからちょっとあっちを向いていて」
  さらさらサインをしてつき渡す。
 リナ「はい、用が済んだら出てって」
 サインと箱を交換する。
 宅配の男「ありがとうございました(別の意味でも)」
 リナは箱を眺める。差出人は北沢直子と書かれていた。
 リナ「北沢、直子?誰かしら」
 北沢直子とは俊介の母のことである。
リナはすこし退屈になってきた。
リナ「あーもう、退屈。外にでたいよー・・でも俊介さんがでちゃいけないっていってたしなー」
窓から外を見るとすごく天気がいい。女子高生が笑いながら歩いている。紺色のカーデガンにチェックのスカート、黒いハイソックスにローファを履   いている。
リナ「かわいいーあれ着たら俊介さん喜ぶかな」
リナは、すぐその女子高生のところに走っていった。
リナ「ねえねえ、その服かわいいね、私にも着せてよ?」
女子高生「え?あなた誰」

リナ「私、リナ、その服着せて」
女子高生「は?なにいっての。なんであなたに私の服を着せなきゃなんないのよ」
リナ「じゃあ、触るだけでいいから」
女子高生「しょうがないわね。ちょっとだけよ」
 そういってリナは服にさわる。スリスリしてみる。
 女子高生「ちょっとなにしてんのよ」
 リナ「ごめんなさい、でも」
 女子高生「でも、なに?」
 すると、ピアスと左右の腕輪と脚の脚輪が光る。
 謎の声「物質コピー完了」
  リナの服が女子高生の服にかわる。
 女子高生「なに?なんで私と同じ服なの」
 リナ「あらら、かわっちゃった」
 イメージを力とし物質を変化させるエネミーストーンは装着者のイメージを投影させて自らの衣服を自由に変化させることができるのだ。
 女子高生「あなたいったい何者?ってゆうか人間?」
 リナ「あはは、この服かわいい。ねえ、一緒に遊ぼうよ」
 女子高生「え?あなたといたら面白そうだし。私、高司綾(たかつかさあや)。よろしく」
 そうしてリナと綾はどこかへ出かけてしまった。

2日目 PM:19:00

 俊介が帰ってくる。ドアをあけてみたら、部屋が綺麗に片付いていた。しかし、リナの姿はない。
 俊介「あれ、リナ。リーナー?いないのか?」
 部屋は静まり返っていた。いつもの誰もいない部屋だ。
 俊介「はあー、どっかいちゃったのかな。せっかくいい感じになってきたのになぁ」
 暗い部屋に電気をつける。コンビニで買ってきたカップラーメンにお湯を注ぐ。
 テーブルの上に自分宛ての小包が置いてあった。
 俊介「あれ、これ母さんからだ」
 小包には食料とお金と手紙が入っていた。
 俊介「しばらく実家に帰ってなかったもんなぁ。え、なに、近いうちに来るって、大変だ」
 ドアが開く。リナが帰ってきたのだ。
 リナ「ただいま」
 俊介「あ、おかえりリナ。どこいっていたの?心配していたんだよ」
 リナ「ちょっと、退屈になって、出ちゃった」
 俊介「出ちゃだめっていったでしょ。警察もまわっているんだし」
 リナ「ごめんなさい」
 俊介「ごめんですんだら、警察はいらないよ」
 泣きそうになるリナ。
 リナ「ごめんなさい・・」

俊介「ごめん、ちょっといいすぎた。ほら、ドア閉めて、寒いでしょ」
 泣きながら、うなずく。靴をぬいで上がる。
 俊介「ごめん、でも、俺はリナが本当に心配だからなんだ。俺、リナと離れたくない」
 リナ「私も」
 リナの服がかわっていることに気がつく。
 俊介「あれ?リナ、その服どうしたの?なんだか女子高生みたいだな」
 リナ「どう?似合う?」
 俊介「ああ、とってもかわいいよ」
 リナが急にだきつく
 リナ「ありがとー」
 俊介「で、どうしたの?」
 リナ「うーんと、ほしいなって思っていると、急に変化したんだ」
 俊介「へー、変化したって、どんなふうに?」
 リナ「じゃあ、俊介さん私に着せてみたい服とかある?」
 俊介「え?じゃじゃあ、これ」
 俊介は好きなゲームキャラクターの服をみせる。少し露出がある女の子キャラだ。
 リナ「俊介さん、こんなのいいんですか?」
 俊介「い、いいだろ。頼むよ」
 リナ「じゃあ、いきますよ」
 リナは写真に意識を集中させる。ピアスと腕輪と脚輪が光る。
 俊介「なんだ?」
 腕から変化して服が変化する。10秒ほどでリナの姿がかわる。
 俊介「おおーすげー」
 ちょっとポーズをきめてみるリナ。膝に片手をあて腰をおると胸元がみえた。
 俊介「そうだ、写真とっておこう」
 俊介はデジカメをとりだして、ひたすら連写する。等身大の着せ替え人形のごとく変化するリナ。
 リナ「俊介さん、リナ疲れちゃった」
 俊介「お、リナ、いつのまにか名乗りたガールになっているし」
 リナ「え?名乗りたガールって」
 俊介「自分を名前で呼ぶ女の子のこと」
 リナ「それは、いいとして、もう10時よ。寝ようよ」
 俊介「そうだな、シャワー浴びてきなよ」
 リナ「うん」
 そういってリナはバスルームにかけこむ。彼女のシルエットが見える。またリナの身体がひかると、リナはなにも服を着ていない状態になる。

俊介は今の幸せをかみしめていた。苦節二十余年、女の子に縁がなかったが、ちょっとかわってはいるが彼女ができたこがなによりもうれしかった。
  俊介「ああ、やっと俺にも彼女ができたんだなー。神様ありがとう」
  するとリナがバスルームからでてくる。白いバスローブを羽織っている。髪をバスタオルでもみながら言った。
  リナ「ねえ、俊介さん、ドライヤーないの?」
  俊介「あ、ドライヤーなら洗面台の下の戸棚にあるよ」
  しばらくするとドライヤーの音が鳴り止む。
  リナ「あがったよー。気持ちいいー。さ、次、俊介はいりなよ」
  俊介「あ、ああ、そうだな」
  リナと入れ替わりにバスルームにはいる。15分ほどであがると、腰にバスタオルを腰に巻いて、ドライヤーをかける。すると後ろから胸元に手が          のびてくる。
  リナ「うわー、俊介って、以外と細いねー。肋骨が洗濯板みたい。」
  俊介「もっと太りたいよ」
  リナ「ダーメ、できなくなっちゃう」
  俊介「え?なにが?」
  リナ「ううん、なんでもない。さ、寝ようよ」
  俊介の背中を押すように、布団につれこむ。
  リナ「おやすみ俊介さん」

3日目 AM:07:00

 俊介が先に目を覚ます。横にはリナがかわいい寝息をたてて、猫のように寝ている。ふと胸元がみえる。昨日まで黄色だった部分が青に変わっている。
 俊介「あれ?ここの色、昨日まで黄色じゃなかったっけ?」
 リナがすこし後ろをむく。うなじがみえる。そこにわずかだが切れ目のようなものがみえる。前にもそのことを聞こうと思っていたのだが、リナにはぐらかされたが、やはり気になる。俊介は一瞬、唾を飲み込む。おそるおそる手を伸ばしてみる。やっと手がリナの皮膚?らしきものに触れる。人工皮膚だが、かぎりなくエナメルビニールに似た感触だ。ちょっと押してみる。
 俊介「あれ?皮膚の中に別の感触がある」
 リナがいつ起きるかわからない。リナの秘密に触れてしまい、なんだかうしろめたいことをしている自分が悲しい。心臓の鼓動が早くなる。リナに聴こえるんじゃないかと思うくらい脈をうっている。
 俊介心の声(なんで、皮膚の中に別に感触があるんだ。誰かがリナを着ている?リナの中には俺の知らない誰かがいるのか。リナはなにも食べないしなぁ。人間じゃないって思っていたけどリナって誰かが中にいる着ぐるみなんだ)
 そんなことを考えると、自分のせがれも暴走しようとしていた。そんなせがれになにやら触った。リナの手がせがれに当てられているのだ。
 リナ「おはよう俊介さん、なーにー、朝から大事なとこが、あばれているじゃない」

俊介「お、おはようリナ。いや、これは、その、あの・・」
 リナはさらに体を俊介に密着させるようにすりよってくる。
 リナ「いいの、リナそんな俊介さんのこと大好きだから。」
 上目使いでみつめられる。なんともいえないかわいいしぐさに、俊介の理性も揺らいでいた。
 俊介「リナー。」
 そんな俊介のことを悟ったようにリナが抑える。
 リナ「だーめ、また、あとでね」
 とりあえず、俊介は布団からあがると、ラジオをつける。
 ラジオ「今日は一日中、晴れるでしょう。しかし、週末には天気もぐつつき、今週末には雨になるでしょう。」
 俊介「そっかー、週末は雨かー」
 リナも起きて来る。
 リナ「リナ、雨嫌い」
 俊介「そうだなー、あんまり好きな人はいないな」
 洗面所で顔を洗い、軽く歯にブラシをかける。
 俊介「さ、リナも顔洗いな」
 リナ「うん」
 白いランニグシャツを着ているとリナがでてくる。
 リナ「顔、あらったよー」
 俊介「まだ、朝の水がつめたいな」

 リナ「顔とーっても綺麗になった」
 俊介心の声(やっぱり、自分の皮膚ではないから、冷たいとゆう感覚がないんだな)
 とりあえず朝食の支度をする。冷蔵庫に保管してあるガーリックマーガリンがあった。
 俊介「あった、あった。俺はこれがいいんだよなー」
 トーストとコーヒー、ヨーグルトなどを次々とテーブルにだす。
 リナ「リナも手伝う」
 俊介の朝食の支度を手伝う、よくみるとリナの服が変わっていた。
 青い長袖に純白のエプロンのメイド服になっていた。
 リナ「はーい、俊介は椅子に座って」
 リナはさらさら支度をすませる、スクランブルエッグも作ってくれた
 リナ「はーい、ご主人様。朝食でございます。」
 俊介「いやーなんだか照れるな」
 リナ「いいの、いいの。これでも昨日黙って外出しちゃったから、お詫びにこうやって俊介にご奉仕しているのよ」
 そう言うとリナは俊介の反対側の席につく。
 俊介「なんか悪いよ。リナは食べれないんだろう」
 リナ「いいの、リナは食べなくても大丈夫なの。こうして俊介食べているところ見ているだけでいいの」
 俊介心の声(そりゃそうだよ。着ぐるみじゃ食べられないだろ、ってゆうか中の人ってほんとに大丈夫なのかな)

リナのエネルギーは身体に散りばめられたエネミーストーンとゆう特殊鉱石に蓄積されている。活動限界は7日間。現在、体内シグナルは青を示している。活動限界までのこり4日。

朝食も食べ終わる。リナが後片付けをする。
 俊介「リナ、今日は俺も休みだし。どっかいく?」
 炊事の手を止めて、こっちにくる。
 リナ「うれしー、でもいいの?」
 俊介「いいよ。リナも一日中部屋の中じゃ退屈だろ。天気もいいし、でかけよう」
 リナ「俊介大好き。じゃ、すぐ準備するね」
 そう言うと、リナはすばやく残りの片づけを済ませる。
 リナ「どこいくの?」
 俊介「リナはどこがいい?リナのいきたいところに行こう」
 リナ「うーんとね、リナ、火星に行きたい」
 俊介「うーん火星ね。どうやって行こうか?大気圏突入カプセルがないしな」
 リナ「火星人とかいるのかな?」
 俊介「どうかな?あれかな、たこみたいなのかな?」
 リナ「リナ、たこさんにあってみたい」
 俊介「そうだな、じゃあ行こうか」
 実際に火星にいくわけではない。巨大アミューズメントパーク、スペースランドだ。ここには火星探検のアトラクションがあるのだ。

スペースランド
 電車を乗り継いで、一時間ぐらいでスペースランドにつく。
 リナ「あーついたね、ひろーい」
 子供のようにはしゃぐリナ。
 リナはみかけ通りの人間ではないが、意外と周りの人間は気がつかない。気がついても無視をする。チケットを買って、園内をまわることになる。
 さすがに遊園地だけあってマスコットの着ぐるみも出ている。
 リナ「見て、見て。かわいい、俊介写真とって」
 マスコットと腕を組んでVサインをする。リナは、日差しよけのつばの広い帽子を被っている。
 俊介心の声(なんか不思議な気分、マスコットも着ぐるみ。リナも多分着ぐるみ。面白いコラボだな)
 マスコット人形は男女ペアになっていて、今、俊介たちのそばにいるのは女の子のほうだ。スペースランドだけあって未来的な宇宙服っぽい衣装を着ている。着ぐるみだがおそろしく細いスタイルのデザインになっている。上着は肘まで袖がついている。肘から手首までは銀色のタイツらしきものがある。下半身は少しひらけたスカートをはいている。スカートの内側は股のあいだから膝までのスパッツのようなものでおおわれていて、膝から足首までは手を同じように銀色のタイツのようなもので覆われている。さすが大手のテーマパークだけあって、着ぐるみはよくできている。中の人間を感じさせない。操演者もプロだ。
 俊介心の声(かわいいな、どんな女の子がやっているんだろう。今日も暑いし、大変だろうな、ところでリナってどんな女の子がやっているんだろ)

一通り園内を見回って少し疲れてきたので少し休憩することにした。さすがのリナも疲れているようだ。ベンチに腰掛けて一休みすることにする。 
 俊介「悪い、ちょっと、トイレいってくるよ。そこから動いちゃだめだよ」
 リナ「うん、リナここにいるよ」
 そういって俊介はトイレに向かった。だだっぴろい園内をまわりトイレを探す。すると看板がかかげられている。
 俊介「あっちか」
 用を済ませて、トイレからでてきた俊介に声をかけてくる人物がいる。最初はだれか別の人を呼んでいるのではないかと思い、まわりをきょろきょろみまわる。
 女「俊介くん、こっちよ」
 俊介は背後からの呼びかけにこたえるように振り向くと、そこには俊介より頭一つ小さい女の子が立っていた。
 俊介「キミはだれ?どうして俺の名前を知っているんだ?」

女「私よ。ほら、中学校まで一緒のクラスだった、神崎霞(かんざきかすみ)よ」
 俊介「え?あ・・ああ、え?霞ちゃんか。すげー懐かしいな」
 神埼「そうね、俊介くん今日はどうしたの?デート?」
 俊介「うーん、まあ、そんなところかな。霞ちゃんこそどうして?」
 神埼「私はー・・ここじゃ、まずいからこっちに来て」
 神埼は、人目をさけるように、俊介の腕をもち、足早に従業員専用の通用口に連れ込む。
 俊介「まずいよ。ここ、従業員入り口じゃないか。見つかったらやばいよ」
 神埼「いいの。私、ここで働いているの」
 俊介「え?霞ちゃんここで働いているの?これはおどろいたな」
 ドアが見える。札にはマスコット準備室と書いてある。急に霞がたちどまる。そして俊介のほうを見る。
 神埼「俊介くん、ちょっとここで待っててね」
 そういって神埼は、ドアの向こうに入ってしまった。しばらくして神崎がドアからでてくる。
 神埼「さ、いいわ。入って。」

俊介「入って、って、ここはやばいでしょ」
 神埼「いいから、私がいいっていったらいいの」
 神崎に言われるままに、マスコット準備室にはいる。中には文字どおり、このランドのマスコットがいる。すると、さっき見たマスコットの着ぐるみが抜け殻のようにおいてある。
 俊介「あ、これさっき、俺が見たやつだ」
 神埼「やっぱりね。俊介くんじゃないかなって思っていたの」
 俊介「俺じゃないか、って思っていたってことは、もしかして、あれに入っていたの霞ちゃん?」
 神埼「そ、驚いたようね。で、一緒にいたの、彼女?」
 俊介「まあ、そんなところかな」
 部屋には俊介と神埼しかいない。俊介もこんなところを見られる機会もめったにないため、珍しいのかきょろきょろしている。
 神埼「俊介くん、着ぐるみやったことないんだ。やらせてあげようか?」
 俊介「え、いや、そんなことは・・」
 神埼「嘘、俊介くん子供のときからそうだった。嘘つくとき左眉が動くのよ。それに、下半身の俊介くんは、正直なんだから。」

神埼は、俊介に抱きつくと、下半身をからませる。神埼は息子に手をそえている。片手は俊介の背中にまわされている。
俊介「霞ちゃん、どうして」
神埼「中学のときね、実は私、俊介くんのこと好きだったのよ、何回も告白しようとしたんだけど結局できなくて、高校別でそのまま。でも、大人になるまで、恋もしなかった。ずっと俊介くんのことわすれられなかった」
俊介「霞ちゃん・・」
神埼「俊介くん、昔から地味だったもんね。いつも一人でぶつぶつなんか言っていたし、女子はほとんど気味悪がっていたけど、私はそんな俊介くんが好きだった。それに私、俊介くんが密かに着ぐるみ好きだってことも知っているんだから。」
そうゆうと、神崎は俊介から一旦離れると、椅子にすわる。俊介も向かいの椅子にすわる。
俊介「そんなことまで知っていたとはね。まったく驚きだな。でも、もういかないとリナが待ってる」
神埼「リナ、そうリナってゆうの。でもしばらくならいいでしょ。俊介くんこの状況悪くないはずよ。こんなに着ぐるみにかこまれて感じない人いないわ」
俊介「だけど、リナは俺の帰りを待っているから」
神埼「なに、さっきからリナ、リナってそんなにあの女がそんなに大事なわけ。私より?」
俊介「なにもそこまで言ってないけど、そんなにムキになることないだろ」

神崎「行かないで。お願い、ずっとここにいて」
 俊介「そうゆうわけにはいかないよ」
 神埼「わかった。じゃあ、もう少しだけつきあって、着ぐるみ着せてあげるから」
 すると神崎はなにやら、奥の部屋から、大きな袋を出して来た。袋を開けると、このパークのマスコットの着ぐるみがでてきた。
 神埼「俊介くんなら、これが似合いそうね」
 俊介「それは?」
 神埼「月の使者、アルテミス。背が高い俊介くんならお似合いかも」
 ブルーメタルの甲冑の女性戦士だ。髪が腰まである女性だ。スタイルもいいし、それになにより美人なのだ。
 俊介「女か。俺にできるのか?」
 神埼「今日、この役の娘は、指定休だし。わたしはここのシフトリーダーだから、俊介くんならできるかなって」
 俊介「わかんないけど・・」
 神埼「私、人に着ぐるみ着せるのが好きなの。さ、着て見せて」

全身を覆う肌色タイツを身にまとい、その上からブルーメタルの甲冑を着ていく。アルテミスは剣と盾も装備している。腰に剣を収納する鞘がとりつけられている。盾は左手ににぎりこむか、背中にかけておくかのどちらかだ。顔の部分が少しくりぬかれたタイツと鎧につつまれる。
 神埼「似合っているわ。俊介くん、かわいい。はい、これお面よ。サイズあうといいんだけど。」
 神崎はアルテミスのお面を俊介に被せる。少しきつかったが、なんとかねじこんではめこんでみる。アルテミスは、羽飾りがついてた兜をつけている。今で言うセレブ系のような顔立ちだ。
 神埼「ほら、自分で自分の姿見てみな。かわいいでしょ?」
 神埼は姿見の前に俊介をつれてゆく。自分の姿をみて驚く。長い髪と女神のような顔がなんともいえない美しさを兼ね備えている。
 俊介「これが・・俺?」
 俊介は、そのかわいい姿にみとれてしまった。しばらく鏡の前から離れられないでいる、いままでに経験したことない感動。昔から着ぐるみが好きで、でも、いつも脇からみるだけだったのが、今はどうだ。自分が脇から見ていた着ぐるみに、こんどは自分がはいっている。
 神埼「どーやら、俊介くんにも種があったみたいね。さ、私も準備しよ。」

神崎は手馴れたように担当の着ぐるみに着替えはじめる。一方、俊介は変わった自分の姿にみいってしまっている。剣を鞘から抜いてブンブンふりまわしてみる。
 神崎「俊介くん、気持ちはわかるけど、剣はあぶないから振り回さないで。でちょっと、後ろのファスナーあげて」
 俊介は神崎のいわれるまま、神崎の着ぐるみのファスナーをあげる。しかし、タイツ越しの手では、イマイチうまくいかない。悪戦苦闘したすえにやっとあげることに成功した。
 神崎「私、前から着ぐるみどうしのからみやってみたかったの。ちょっとこっちに来て。」
 このときアルテミスの中の俊介はもう我を失いかけていた。完全にアルテミスになろうとしている。面を被ると同時に俊介の中のなにかのスイッチがONになったらしい。神崎も面を被る。そして抱きついてみる。不思議な感覚だ。さっきまで生身の肉体だったのに、今はタイツ一枚隔てたあいだでの抱擁はいままでにない感覚だ。
 神崎「ふふ、俊介くんの下半身のほうは心の動きをダイレクトに伝えている。俊介くんは私のものよ。誰にもわたさない」
 神崎は独占欲と嫉妬の塊のような女だ。好きなものを手に入れるためには手段を選ばない。いかなる犠牲を払ってでも手に入れる。俊介はもう魂が抜けたように神崎のすることに全てをゆだねているようだ。そして二人はマスコット準備室をでる。廊下で関係者とであう。神崎はそれなりに愛想を、振りまいている。俊介もちょっと恥ずかしかったが小ぶりに手を振って見る。
 俊介心の声(うわーなんか、すごくうしろめたいな。でも悪くない。着ぐるみは初めてだけどこの感覚はいいなー。そういえばリナも着ぐるみだったな。どうなんだろ、リナの中の誰かもこんな気分なのかな)
 声「あれ?今日ってアルテミス出る日だっけ、それにいつもと違う気がするんだけど」
 とあるスタッフに声をかけられる、一瞬二人に動揺がはしった、神崎も規則違反をしているためうしろめたいが、神崎はそのスタッフになにやら耳打ちをすると、そのスタッフも一瞬こっちを向いて見る。その後、まるでなにごともなかったかのように俊介たちを横切る。
 スタッフ「と、思ったけど、私の勘違いだったみたい、がんばってね、新人さん。」
 神崎はこっちをふりむき、やったねとばかり、Vサインをだす。俊介も緊張がとけて軽く息をはき、Vサインを出してみる。
 そして、ようやく出入り口につく。一旦、神崎が立ち止まる。するとここで待ってみたいなしぐさをとる。俊介はうなずく。神崎はまたなにやら、出入り口のスタッフと手続きをしている。すると、神崎がこっちに来てという合図する。俊介はその方向にいってみる。

スタッフ「あなた新人さんね。でもここはスペースランド。新人かどうかなんてお客さんには関係ないの。お客さんからお金をもらっているの。こっちはプロなの。プロ意識をしっかり持っていってらっしゃい」
 俊介もその言葉を聴いてなんだか、甘えた心がひきしまったように思えた。状況が急にだとはいえ、やっぱり大手の企業は社員一人一人がしっかりプロ意識をもっているようだ。
 俊介心の声(よし、がんばるぞ)
 スタッフ「その意気よ、がんばってね」
 俊介は自分の心を見透かされたようだった。そのスタッフはここのマネージャーで、教育係らしい。だから新人のやることや、思っていることは大抵見抜いてしまうらしい。
 園内を少しまわることになっているらしい。ベテランの神崎と新人もどきの俊介、今回は慣らしのようだ。よく白バイが2台で走っているのと同じで、先輩との路上訓練みたいなものだ。
 外に出るやいなや子供がまとわりついてくる。俊介はそのまま、手をつないだり。なんとなくやっていたが、ふと神崎のほうをむくと、しゃがんで中腰になっている。そう、子供と同じ目線で付き合うのがいいのだ。俊介は立ったまま下をむいて子供と接している。これだと、背の低い客がこっちの顔を見るのに首をあげなければならない。これでは客に負担を与えてしまう。この場面では神崎のように、自分からしゃがみ、子供とほぼ同じ目線で接するのが正しい接客といえよう。

俊介もそれに気がつきしゃがんでみる。最初のうちはどうとゆうことはなかったが、中盤になって足腰が悲鳴をあげてくる。慣れていないのもあるが、頻繁に上げ下げする屈伸運動が膝に大きな負担を与えている。遊園地には子供だけではない。大人もいる。子供ばかり相手をするわけにもいかないのだ。写真撮影などをせがんでくる大人も少なくないのだ。
 そのたびに姿勢やポーズを取り直さなければならない。当然、初めての俊介はそんなにやったこともない。しかもついさっき着せられたばかりの着ぐるみでポーズもなにもあるわけがないのだ。これに関していえば、やはり毎日、着ぐるみを着ている神崎は自分の身体のごとく着ぐるみを操っている。かわいく見える角度なんかも徹底研究されているため、その引き出しは数が知れない。やっと少し開放されて、歩いていると、どこかで見た景色だ。俊介は少しまわりを見回してみると、いた。リナが待ちくたびれたようにふさぎこんでいる。
 俊介心の声(やべ、リナだ、きっと俺の帰りを待っているに違いない。帰らないと)
 と引き返そうとしたとき、リナがこっちに気がつき、とことこ走りよってくる。
 リナ「あー、さっき写真とったやつだ。それと、わからないけど別のもいる。」

タイツ一枚隔ててのリナとの接触は逃げ場のない状況に追い詰められていた。リナは当然、アルテミスが俊介だとはわからないわけで。
 リナ「さっきのもかわいいけど、この青い髪の女の人も美人だなー。それにしても俊介まだかなー」
 俊介は、自分の名前を呼ばれちょっとびっくりする。リナに悟られるとまずいので、リナの目をみるのは避けた。するとリナはハンドバックから携帯電話をとりだす。
 リナ「俊介に電話してみよう」
 俊介心の声(マジか?)
 俊介の携帯電話はマスコット控え室においてあるのだ。なかなかでないのでリナもあきらめたのか困ったような顔をする。
 リナ「あのね、リナね、彼の帰りまっているの。トイレに行って来るっていってもう30分以上になるんだけどなかなか帰ってこないの。迷っているのかなー。」

リナは、アルテミスの俊介にそうつぶやいた。俊介は自分の帰りを待っているリナのことがかわいそうになってきた。写真をとって、すぐにでもリナのもとに帰ろうと思ったが、そうはうまくはいかない。神崎がリナのことに気がついたのだ。神崎としては、リナはいわば恋敵なのだ。俊介を奪うメスネコをよせつけない。

リナが通りすがりの人に頼んで、俊介のアルテミスとふたりだけで写真を撮ることになったのだが神崎にしてみれば、この状況はあまりいい状況ではない。無理やり二人のあいだに割り込む。でもリナはその事に気がつかない。むしろよろこんで神崎をむかえて三人で写真を撮る。
 リナと別れて、もうじきこの状況ともお別れかと思っていたが、こんどは指定休をとっていた、アルテミスの役の女の子が現れた。
 女「あれ?なんで?アルテミスがでている。」
 彼女は、さすがに動揺した。俊介はもとの役者の顔を知らない。これに動揺したのは神崎のほうだった。本人に黙って俊介にアルテミスを着せてしまったのだ。3人は急遽、マスコット準備室に行く。俊介も部屋に帰る。神崎はアルテミス役の女の子に言い寄られている。
 女「ねえ、なんで?神崎さんでもやっていいことと悪いことがありますよ」
 神崎「ごめん、勝手に使わせたことは謝るから。でも見て、どう?なんかあなたがやるより背が高いし、びっくりしないで。いま、アルやっているの男よ」
 女「え〜マジ、なんか悔しい。私より細くない?」
 神崎「俊介くん、お面とっていいよ」

俊介は面をとり、彼女の前にでる。間接的ではあるが、自分も神崎の陰謀に加担したことに多少なり罪悪感があった。
 女「あらー、マジで男なんだ。あ、でもよく見るといい男じゃない」
 俊介「ほんとすみません」
 女「声も渋くてかっこいい。神崎さん、彼フリー?」
 神崎「どうかなー」
 俊介「彼女いますよ」
 女「えー、残念。フリーだったら私がいただくつもりだったのに」
 神崎「だめよ。私と俊介は運命の赤い糸で結ばれているのよ」
 俊介「赤い糸って・・」
 女「で、神崎さん。私に黙っていたことどうするの。よくマネージャー騙せたわね」
 神崎「他の人には新人だって言っておいたの。まさかあなたが来るなんてね」
 俊介「ほんとに、すみません。じゃ、俺、人を待たせているんでこれで失礼します」
 神崎「あ、待って俊介くん。まだ話おわってないのよ」
 後ろ髪をひかれるが、自分の帰りを待っているリナをこれ以上待たせるわけにはいかない。俊介は、断腸の思いで部屋をあとにする。

リナは俊介の帰りをずっとベンチで待ち続けている。もう夕暮れだ、園内の外灯にチラチラと明かりがともりだす。
 リナ「俊介。遅いな、もう3時間もトイレにいったままなんて。」
 すると遠くのほうから自分の名前を呼ぶ声がする、リナは声のする方向を向くと、小さいが手をふりながら、こっちに近づいてくる物体をとらえた。
 リナの隠された能力。特殊超小型レーダーが内臓されているため、一定範囲内の物体の接近を瞬時に捕捉し、接近する物体との相対距離を測ることができる。この機能は戦闘用として実験的に仮設置されたもので、日常生活をいとなむ上ではなんの役にもたたない。
 俊介「リナ、ほんとにごめん、こんなに待たせてごめん。」
 リナ「遅い、何時間トイレに入っていたのよ。」
 俊介「お詫びになんでもゆうこと聞くから許してくれ。」
 リナ「えー、どーしよーかなー。リナもう、くたくたなんだからね」
 俊介「ごめんよ」
 リナ「いいよ、許してあげる。でも・・」
 俊介「でも・・?」
 リナ「朝はリナがご奉仕したでしょ。だから俊介は、夜のご奉仕してね」

それから2日後(リナ活動限界まであと2日)

  朝から降り続く雨。俊介とリナも次第にうちとけてきていた。リナの体内シグナルが危険領域の紫を示していた。石の備蓄エネルギーもあと48時間しかない。それと同時にリナの動きもだんだん鈍さをましてきた。視力がなくなり始めていたのだ。
 ガチャン、皿が割れる。

俊介「どうしたリナ」
 リナ「あ、ごめんなさい。ちょっと手が滑ったの」
 俊介「大丈夫かい?最近おかしいよ。どっか悪いんじゃない」
 俊介心の声(顔色なんてみたってわかるわけないし、額に手をあててもわからない。きっとリナの中の人病気なったんだ。でもどうすることもできない)

ふと俊介はリナの方を見ると、皿の破片を拾おうとしているようだが、なぜか、ぎこちない。なにもないところを触ったりしている。
 俊介「リナ、そこにはないよ。もっと左だよ」
 リナ「あっそうか。えへへ、リナどこ探しているんだろうね」

どことなくぎこちないリナ。破片を何とか回収したかと思うと、いろいろなところへ理不尽にぶつかりはじめる。まるで前が見えてないように。
 俊介「リナ、きみもかして、目が見えてなんじゃないか?」
 リナ「ううん、見えてるよ」
 俊介「リナ、そこの新聞とってくれないか?」
 俊介にそういわれたので、リナは探しはじめる。リナの目は現段階ではほとんど見えていない。補助システムのレーダー機能は機能していない。温熱感知システム(サーモグラフィー)がかろうじて機能しているだけだ。体温や熱に反応するシステムだから、俊介の体温を感じとってはいるが表情などはまったくわからない。まして、ガラスや紙など熱反応がないものは、ほとんどわからないに等しいのだ。リナはいくら探しても新聞がみつからないためあせっている。
 俊介「もういいよ。新聞なんかはじめからないんだ。リナ、やっぱり、目がみえてないんだね」
 リナ「・・・」
 俊介「なんで話してくれなかったの。目が見えてないって。」
 リナ「リナを騙したの?」
 俊介「ごめん。でも俺はリナにこれ以上無理させたくないんだよ」

急にリナが泣き出す。これには俊介も驚く。するとリナはそのまま表に飛び出して行ってしまった。あわてて追いかける俊介。
 俊介「待ってくれ」
 リナはどしゃぶりの雨の中を迷走し、灰色の景色のなかに消えてしまう。俊介は後を追いかけたが途中で見失ってしまった。
 俊介「まずいぞ。リナは今、目がみえていないんだ。それなのに、まったくそれらしくない」
 俊介はリナが行きそうな所をしらみつぶしに探しはじめる。すると後ろから俊介を呼ぶ声が聴こえる。それは、リナにプレゼントするときによった店の前で出会った警官である。
 警官「よう、青年、どうした?こんな雨の日に傘もささずに、どこへいく?」
 俊介「ちょっとね、人探し」
 警官「なに?人探しなら本官の仕事だ。どんな人だ?もしかして例の彼女か?」
 俊介「うん、ちょっと傷つけちゃって」
 警官「おお、なんて罪深き青年よ。よし、本官も手伝うから、特徴は?」
 俊介「青のワンピースに白いエプロンをしていて、髪にはカチューシャつけています」
 警官「なになに、青いワンピースに白いエプロンだ。まるでメイドだな。」

俊介は警官と二手にわかれてリナを捜索することになった。警官と別れて、ふと街外れの公園にさしかかったときのことである。
 噴水が目印の公園だ。この雨で、人もまばらである。昼間だが雨のせいで、薄暗いため一部外灯がともされている。俊介は、ふとここにリナの気配を感じとったのか、そのまま公園の中に入っていった。しばらく歩くと、ベンチに誰か倒れこんでいるではないか。俊介は駆け寄ってみる。案の定、倒れていたのはリナだった。全身を雨でぐっしょりぬらしていた。
 俊介「リナ、しっかりしろ、今、家につれてかえってやるから。」
 そのまま、リナを背負い、急いで家にかえることにした。途中で警官に出会う。
 警官「おお、青年、見つかったんだな。なんだ、めんこい娘っこじゃないか。でも相当、弱っているじゃないか。救急車を呼んだほうがいいんじゃないか?」
 俊介「いえ、これは俺の責任なんです。俺に任せてくれませんか?」
 警官「おお、それでこそ真の男だ。がんばれよ、青年。」
 やっとのことで、部屋に連れて帰る。リナ本人の意識レベルが低下したため、石の力も衰えている。石が光りだす。すると、リナの着衣がスーっと音もなく消えてしまう。タオルで全身を拭いて水気を完全にとりさる。今、リナはなにも着ていない状況になる。こんな状況なのにいけない妄想が俊介を襲う。そう、リナは普通の人間ではないのだ。非常に精巧にできた着ぐるみなのだ。前々から気にはなっていた中の人間の存在。リナは今、完全に気を失っている状態で動く気配もない。
 俊介心の声(い、今なら、今なら、リナの中の人間が見れる・・けど)
 今の自分がやろうとしている行為が本当に正しい選択なのか、心のなかで激しく葛藤していた。それと同時に下半身の息子も興奮を伝えている。
 俊介心の声(しょうがないんだ。こんな状況だし、きっと中の人だって苦しいんだ。もう6日くらい、なにも食べていないんだし、生きてること事態不思議なのに)
 罪悪感にみちた手がぶるぶる震えた。なんの抵抗もできない人間に対して手をだすことにためらいがでてくる。でも、見たい。誰がリナを演じてきたのか、ものすごく気になっていた。
 リナの身体をコロンとうつぶせに転がせてみる。以前一回だけ見た切れ目のラインが見える。普段は石の力がスーツの開閉を防御していたために触れることもままならかったが、今はリナの意識がないため防御反応がない。
 本当に見ていいものなのだろうか。見た先になにがあるのか。俊介は急に不安になってきた。そう思うと手がそれ以上進むことはなかった。俊介も急に意識が薄れてきた。雨にうたれたため風邪をひいてしまったのだ。

6日目(リナ活動限界まであと24時間)

 俊介はふと、気がつく。カーテンの間から日差しが差し込んでくる。その光に導かれるかのように起き上がる。
 トントントン ふと台所を見ると、いつもの聞きなれた音がする。ストーブにかけてあるやかんがお湯がわいたことを知らせる。
 リナ「俊介さん、おはようございます。目が覚めたんですね」
 俊介「リナ、俺は・・・」
 リナ「朝ごはんできましたよ」
 俊介がテーブルにつくと、焼き魚、ご飯、卵、味噌汁などがでてくる。いつもはトーストやゆで卵、コーヒーなど洋食なのだが、今日は違っていた。
 ふとリナをみるといつもの青いメイド服ではない。和服に白い割烹着になっていた。
 俊介「あれ?リナいつものメイド服は?」
 リナ「なに言っているの。私いつもこうじゃない」
 俊介「あれ?リナは自分のこと、名前で呼んでなかったっけ?」
 リナ「私は前からこうじゃない」
 俊介「そっかな、おかしいな」

食事がおわり、休憩をしていた。しかし、いまいち部屋がなじめない。昨日までの記憶がないのだ。しかしはっきり覚えているのはリナが着ぐるみだということだけだ。
 すっかり片付けを終えて俊介のもとにくる。目の前で正座するリナ。
 リナ「さ、俊介さん今日はなにします?」
 俊介「なんだろう、俺の知っているリナじゃないよ。」
 リナ「そんなことないわ。私はいつも通りよ」
 俊介「そっかな、いつもと違うよ。こう、なんていうのかな、とにかくちがうんだ」
 薄覚えの記憶しかないが、だんだん思いだしてきた。俊介は前にもこうしてリナを問いただし、追い詰めたのだ。
 俊介「そうだ、リナ、お前たしか目がみえなかったんじゃなかったのか?」

 リナ「え?」
 俊介「そうだよ。目が見えないリナが料理なんてできるわけない。きみは偽者だ」
 リナ「そんな、俊介さん。なに言っているんです。私が偽者なんてありえない」
 俊介「実はな リナ。俺は気がついていたんだ。リナが着ぐるみだってこと」
 リナ「そ、そんな、俊介さん私が着ぐるみだなんて。ほら私は人間よ」

あくまでも白を切るリナだが、あきらかに挙動不審な態度だ。動揺している様が手にとるようにわかる。
 俊介「きみはだれだ?俺の知っているリナはどこだ?」
 すると、逃げ切れないと悟ったのか開きなおるリナ。
 リナ「ふふふ、そう、私はリナであってリナじゃない」
 俊介「なに、そんな。じゃあ、本物のリナはどうしたんだ?」
 リナ「あなた、事実を知ったら絶望するわ」
 俊介「どうゆうことだ」
 リナ「あなたは、リナの秘密をなにも知らない」
 俊介「リナの秘密?」
 リナ「そう、あなたリナの身体の模様が日で変わるのは知っている?」
 俊介「ああ、それはわかっていたけど、それがどうゆう意味かはわからなかった」
 リナ「最初は赤、黄色、青、緑、紫、茶色、黒の7色があるの。あなたが言っていたように私の身体は人間じゃない。着ぐるみね。だけどここ6日間、リナがなにも食べてないことに違和感なかった?」
 俊介「そうだな、それは気になったよ」

リナ「私のエネルギーはこのエネミーストーンと呼ばれる特殊鉱石に備蓄されているの。そのエネルギーも、いつまでもあるわけじゃない。もって7日。それ以上になると私は生きていけない」
 俊介「ってことは、まてよ。もう6日じゃないか。もう時間がない。助ける方法はないのか?」
 するとリナは立ち上がる。6つの石が光ると、着物が消えて、なにも着ていない状況になる。リナの体内シグナルは茶色になっている。
 リナ「私に残された時間はもう残り少ない。私は・・」
 俊介「どうしたら助けられるんだ。」
 リナはそのまま力なく倒れる。あわててうけとめる俊介。俊介の腕の中でうすれゆく意識の中で小声でつぶやく。
 リナ「俊介さん、私・・リナもう動けない、さよならだね」
 俊介「だめだ、逝かないでくれ。俺、まだなにも本当のこといってないよ」
 リナは弱弱しく手をかざし、俊介の頬をなでる。
 リナ「短かったけど、リナとっても楽しかったよ」

俊介「リナを初めて見つけたとき、すごくわくわくしたんだ。これからすごいことがあるって思った」
  リナ「リナも最初はあんまりわかんなかったけど、俊介さんいろいろ、助けてくれたし」
  俊介「汗ふきのかわりに台拭き渡したり、金タワシだったり」
  リナ「ごめんなさい。あれ、わざとだったの」
  俊介「わざとかよ」
  するとリナの手から力が抜け、だらんとなった。首が力なく横にたれる。あわててゆすってみる。
  俊介「おい、リナ、なんだよ。冗談だろ。嘘っていってくれ。俺を置いて逝かないでくれ」
  すると、リナがまた目を開ける。
  リナ「なーんてね。びっくりした?」
  一瞬、安堵の息がでる。そして笑いだす。
  俊介「ははは、なんだよ、本当に逝ったかと思ったよ」
  リナ「ごめんね、でも、もうじき本当にうごけなくなるわ。俊介の顔が見えないのが残念だけど、リナ、俊介の腕の中でなら・・」

俊介「なにバカなこといってんだよ。生きろ、生きてればきっと」
  リナ「私は、俊介の心の中でいつまでも生きつづけることができるから」
  リナの身体が発光し始める。茶色のマーキングが黒に変化してした。
  俊介「いやだ、逝かないでくれ」
  リナ「俊介、一つだけ私を生かせる方法があるの。だけど、それは俊介が俊介じゃなくなるし、成功するかもわからないの」
  俊介「俺はリナと離れたくない。俺はどうなってもいいんだ」
  リナ「今なら私の意思が弱いからエネミーストーンを取り外せるはずよ。そうすれば」
  謎の声「活動限界、生命維持困難」
 俊介は急いでリナの身体にあるピアス、腕輪、脚輪を取り外す。すると、リナの身体から顔や髪が消えていくではないか。あっと言う間にのっぺらぼうの全身タイツになってしまった。俊介はおそるおそる、その物体に触れてみる。人間の筋肉の感触がある。とうとうリナの中の人間が誰かわかるのだ。しかし、あまりに急激なエネルギーの放出に生身の人間の身体が耐え切れなかった。膨らんでいたはずのスーツから中の物体が消えてなくなった。石の力が強大すぎて生身の人間の身体が耐えられなかったのだ。スーツの開封口がパクッと開いた。封印していた石がなくなったからだ。
 俊介は開封口を開くが中に人はいなかった。生命エネルギーを全て使いはたしてしまったため、中の人間は灰になってしまっていた。
 俊介「どうして、どうして、リナ、きみの本当の姿をみたかった。それよりも、好きだって言えなかった」
 しばらく、一人で泣き崩れる。するとなにを思ったのか、すっと立ち上がる。
 俊介「リナが最後に言おうとしていたことって、まさか」
 俊介は、服を全て脱ぎ捨て、スーツを身につける。薄い特殊ゴムスーツを着込み、顔も被る。開封口をぎゅっと押し当ててみると自然にくっついた。そしてピアス、腕輪、脚輪をする。
 俊介「きっとリナもこれを望んでいたに違いない。こんどは、俺がリナだ」
 石に意識を集中させる。リナのことを一心不乱にイメージする。石が光を放つ。のっぺらぼうの顔に表情がでる。青い髪が生えてくる。スーツが俊介の筋肉組織を激しく変化させる。これには激痛がはしる。

最終回
 
 まばゆい光を放ち、俊介の身体は男性から女性に変化していく。
 俊介「うわああ、痛い、全身の筋肉が引き裂かれるようだ」
 しばらくして、痛みが引いていく。身体のところどころから火花がほとばしる。石の力が定まっていないのだ。新しい肉体を得て力を抑えきれないのだ。余剰したエネルギーが体外に放出しているのだ。その影響で、金属がまがり、電球やガラスが破裂する。あまりに強い変化に脳にダメージをうけ、記憶がとんだため、今の意識は俊介のものではない。不思議そうに自分の身体をみる。
 謎の声「データ、リロード完了」
 リナ「私はリナ、ここはどこ?」
 大家が非難するよう俊介の部屋に飛び込んでくる。が、そこにいたのは、俊介ではない。
 大家「あなた誰?北沢さんは?」
 リナ「だめ、こないで、私、壊れる」
 エネルギーが暴走し、大爆発を起こした。

 第1章 終わり