T S 病 院 物 語

町外れの小高い丘一帯にその病院はあった。自然との調和をコンセプトに建てられたその病院は、2階建てで、クリーム色に塗られ、建物内のつくりも全てにおいて余裕を持たせて造ってあり、いたるところで、太陽の陽を浴びる事のできるように設計され、明るく暖かな雰囲気を与える病院だった。

そして、もう一つの特徴は、この病院スタッフは全て女性で、そして若く綺麗な女性しかいないことだ。そのためか、この病院を訪れる患者も女性よりも男性のほうが多いのだ。だが、この病院に入るのは、男性が多いが、出てくるのは、女性のほうが多いという不思議な噂があった。だが、それが真実かどうか誰も知る者はいなかった。この病院「天使ヶ丘総合病院」、通称「TS病院」の関係者以外には・・・・

 

第一話 「新人医師 戸田 恵一登場」

僕は、バスをステップしながら降りた。この病院に来られた事に興奮していた。美人の女性スタッフしかいないというこの病院に、初めて、男性スタッフとして呼ばれたからだ。正確に言うと、以前から何人もの男性医師がここに赴任しているのだが、皆全て3ヶ月以内にいなくなっていた。女性スタッフにいびられていなくなったのだと、選にもれた仲間たちは言ったが、そんなやっかみは、決定してからいやというほどに聞かされていた事なので気にもしなかった。

僕を推薦してくれたのは、インターン研修で、可愛がってくれた先輩医師だった。その人も、7ヶ月前にここに赴任して、3ヶ月を待たないうちにいなくなっていた。そんな不安はあったが、僕は、希望に胸含ませて、病院の玄関をくぐった。

広々としたロビー、降り注ぐ太陽の光り。今までになく明るく清潔な温かみのある病院だった。僕は受付で要件を告げた。すると受付の可愛い女の子が、院長室に行くように指示した。院長が部屋で待っているというのだ。病院内は広いので案内するという女の子の申し出を断ると、行き道を教えてもらい、ぶらぶらと歩き出した。これから働く病院内を見ておきたかったからだ。

あまりのきれいさと、清潔で健康的なつくり、窓から見える自然の美しさに見とれて、僕は道に迷ってしまった。廊下は、弾力のあるマットを敷いてあるのでそれほど足は疲れないのだが、いま自分がどこにいるのか、まったくわからなくなってしまった。

あてどなく歩いていると声が聞こえてきたので、そちらのほうに急いだ。それは、医師と、出産を待つご主人との会話のようだった。

「先生、夫は、いえ、妻は大丈夫でしょうか。」

「ご主人は、初産でしたね。」

「ええ、わたしは、一度経験しているのですが、主人が、どうしても、生まれる前から自分の子だということを感じたいと申しますので、ここの精神科の先生にお願いして入替りを・・・」

「そうですか。立派なご主人ではないですか。男性は、生まれてからではないと自分の子としての自覚はもてないのに、女性でも辛い痛みをあえて経験して、自分の子としての自覚を持ちたいなんて。」

「いえ、ただのお調子者ですわ。」

いったいなんの話なのだ。夫の出産?入替り?僕は、怖くなって声のはうから離れていった。そして、しばらく行くと、診察室の前に出た。そして、2メートル近くのマッチョマンが、病室にはいって行くところが見えた。僕は、彼が出てくるのを待つことにした。病院スタッフに道を聞いたら、受付で大見得切って案内を断ったのに迷子になった事が、病院中に知れ渡りそうだからだ。だが、患者なら、知れる確率は少ないだろう。と、大して違わないのに、そんなことを考えながら彼が出てくるのを待った。

15分後、診療室のドアが開いた。彼が出てきたのだろう。僕はドアのほうに近づいた。だが、出てきたのは、細身の綺麗な女性だった。彼女は振り返りドアの中に会釈し、僕に微笑むと、背を向けて去っていった。差し込む太陽に光に、彼女の首筋あたりで何か、光ったような気がした。彼女が出てきたのは、「皮膚科」の診療室だった。

「いったいどうなっているのだこの病院は?」

そんなことを呟きながら僕は先を進んだ。と言っても完全に迷子になってしまった僕には、今の自分のいる位置さえわからなくなっていた。廊下の角を曲がり、少し先に部屋のドアがあいているのに気がついた。僕はその部屋に近づくと中を覗いた。

中には二人の看護婦が立っていた。一人は新人のようで、妙におどおどとしていた。

「どう、すこしはなれた。」

そう言いながら、先輩看護婦は、落ち着きのない新人看護婦の肩に左手をかけた。

「いえ、まだこの身体になれなくって。けっこう重いものなのですね胸って。」

「そうよ、そして、よく感じるところでもあるわ。」

そういいながら、右手で、胸をさすりだした。後輩は感じるのか、顔を赤らめ、声を殺した。

「せ、先輩こんなところで・・・」

「大丈夫だれもこないわ。それより早くこの身体になれないとね。」

そういいながら、右手を下のほうに伸ばし、スカートの中に差し込んだ。

「ここの感触も違うでしょう。」

「え、え、え、ええ。先輩。あ、あ、あ、あ〜〜〜ん。」

いったいなんなのだこの病院は、看護婦が昼日中、病院の空き部屋でレズっているとは、それも勤務中だぞ。僕は、注意を促すために咳払いをした。だが、すぐには気づかなかった。

「ん〜〜ん〜〜あ〜〜〜あ〜〜〜〜あ〜〜いや〜〜〜。」

「あらあら、感じているわね。どう、前の身体に比べて。」

「いい、いい、いい。良いから先輩もっと〜〜〜。」

エスカレートしていく二人の行為に僕はさらに大きな咳払いをした。

「うぉふぉんえへんおふぉん。ごほんごほん。」

力みすぎて本当に咳が出てしまった。それで始めて僕の存在に気がついたのか、先輩の看護婦が、手はそのまま動かしながら、顔だけこちらを向けて会釈した。そのあまりにも自然な行為に僕もつられて会釈してしまった。

「あの、ここは、患者さんや面会の方が来られるところではありませんが、どちらにお越しなのですか。」

「いや、院長室へ行きたいのですが・・・違う。それよりもキミ達の行為だが・・・」

「院長室なら、そのダークグリーンのラインに沿っていかれるとよろしいですわ。新人の先生ですね。院長がお待ちですよ。それでは失礼いたします。」

何事もなかったかのように、先輩看護婦は、左手で後輩の頭を持つと、自分に向け、その、悶える唇に唇を重ねた。

僕は、注意しようとしたが、完全に無視され、立場のなくなってしまった僕は、言われた通りにそのラインに沿って歩き出した。

気づかぬうちに僕は院長をかなり待たせてしまっていた。誰もいないのを確認すると僕は、走った。そのとき、目の前を光るものが走り、壁に刺さった。それは、手術用のメスで、飛んできたほうには、縁なしメガネをかけた赤いハーフタートルネックのTシャツに白衣を着た赤いロングヘヤーの美人の女医が立っていた。

「病院内では緊急の場合以外は走らない。」

「あ、あの緊急なのですが。」

「クランケの様態が変わったのか。それとも、肉親が危篤か。」

「い、いえ。」

「だったら走るな。」

そう言うと、その女医はカラコロと去っていった。

「病院内は確か、下駄も禁止では?」

小さな声で言ったのだが聞こえたのか、下駄が飛んできて僕の頭を直撃した。その下駄は、真っ二つに割れ、僕は、気を失ってしまった。

どれくらい気を失っていたのだろう。気がつくと昼前に着いて歩き回っていたのに、日が傾きかけていた。僕は起き上がると慎重にあたりを見回して、ラインに沿って早足で歩き出した。走ってはいないのだから問題はないだろう。

何とか院長室についたときには、あたりは暗くなりかけていた。僕はドアのノックを仕掛けたとき中で、何か争うような声が聞こえていた。

「陽子、今月はわたしの番よ。」

「なにを言っているのよ、洋子。あなたは、先月どうしてもしたい改造があるから変わってと言ったじゃないの。」

「でも、あれは、一週間だけでしょう。」

「その改造で怪しまれたのはだれよ。お陰で、わたしは弁解にたいへんだったのだから。」

「それはあやまるわ。」

「だから、その後始末もあるから今月もわたしなの。」

「う〜〜〜〜。」

よほどの弱みを握られているのか、洋子と呼ばれた女性は、反論できなかった。僕は、二人の会話が終わったのを確認するとドアをノックした。

「どうぞ。」

綺麗な声がした。さっきの洋子さんの声のようだった。

「失礼します。」

部屋の中には、二人の美女がいた。一人は、マホガニーのデスクに座り、黒のワンピースを着ていた。もう一人は洋画に出てくるメイドスタイルをしていた。どちらもまだ若く。メイドスタイルの女性は、まだ少女といった年のようだった。

「君はだれ。」

「は、はい。僕、いえ、わたくしは戸田恵一。内科にいました猫野岩丸の紹介でこの病院に赴任してまいりました。」

「あれ、そんな話しあったっけ?」

そう言いながら、陽子さんは、洋子さんの顔を見た。やべ、遅れたことを怒っているのかと思ったら、本当に知らないようだった。

「この間話したでしょう。あの改造のときの・・・・で、新しく補充するって。」

「ああ、あれの代わりね。わかったわ。戸田先生いらっしゃい。わたしが、当病院の院長の与野洋子よ。」

そう言うと、デスクから立ち上がると僕に握手を求めてきた。黒のワンピースが抜群のボディにフィットして、僕は鼻血が出しそうになった。

「そしてこれが、秘書の箱根洋子よ。」

「箱根です。よろしくね。この服は、わたしの趣味なの。」

そう言って彼女は、僕を抱きしめた。洋子さんは見かけ以上にグラマーだった。その胸の感触にくらくらとなってしまった。

「だれかれかまわず抱きつくのはおやめなさい。」

「いいじゃないの趣味だから。彼も喜んでいるわ。今度彼を貸してくれない。」

「だ〜め、さて、今日は遅いからこれくらいにして、明日からは、病院に慣れてもらう意味もあって、全科を回ってもらうわ。」

「全科ですか。僕、いえ、わたしの専門は小児科なのですが?」

「院長命令です。いいですね。それでは、寮の準備はまだできていませんのでそれまでは、駅前のホテルを取っていますからそこから通ってください。それではよろしくね。」

そう言うと、院長はデスクに戻ると仕儀とを始めた。僕は洋子さんに案内され、呼ばれたタクシーで駅前のホテルへと向かった。ホテルへと向かうタクシーの中で僕の胸は期待と不安でそれこそ張り裂けそうになっていた。

こえから僕になにが待っているのか。こうして僕の第一日目は終わった。

 

 

第二話

 

あとがき

これから、戸田先生は、この不思議な病院の中に入っていきます。総合病院ですからいろんな科がありますが、ぜひこの科を見てみたい、こんな科はどうだという意見があればリクエストください。(できればどんな科なのか詳しく教えていただけるとありがたいです)医者でも患者でもないわたしが書きますので現実とはかなり違うものになりますがあしからず。

それでは、次回まで、再会。