わが国では1960年代に燃料革命といわれる薪炭から化石燃料への転換と田畑における化学肥料の普及が重なり,里山から産出されるバイオマス(薪炭や有機堆肥等)が放棄されると同時に,建築用材生産に特化した森林造成を進める中,安価な輸入木材の急増により森林の荒廃が始まりました。省みれば,大半の里山や森林はすでに荒れ,僅かに市民のリクリエーションとしての場として一部が利用されているのみです。また近年,市民の環境問題への関心と自然志向の高まりから里山や森林の保全・整備活動の重要性が見直され,ボランティアなどの運動が盛んになりましたが,活動に経済的基盤が伴わないため大きく伸びるに至たっていません。

 ところで,里山や森林の保全・整備活動は,治山治水や生物の多様化,市民の憩いやリクリエーションの場を提供するだけでなく,その活動すなわち,枝打ち,間伐,草刈等の作業によって,膨大なバイオマスエネルギーが創出されます。さらに,皆伐地や間伐林に残されるバイオマス量は最大1haあたり80トン(乾燥重量)にも達するといわれ,これらを有効に利用することができれば営林活動や里山・森林保全・整備活動に経済基盤を与えることが可能となります。バイオマスは古くは建築資材や薪炭として,また田畑の堆肥として利用されてきましたが,現在では安価さと使いやすさから輸入材や化石燃料に取って代わられています。このため,森林バイオマスを利用するためには,いかに安価にしかも使いやすく加工していくかが課題であり,しかも極めて重要なことでありますが,森林バイオマスの需要を創出せねばなりません。ヒントはすでに随所で見出されており(例えば,チップやペレットに加工する),今は,多くの情報を精査し,バイオマスの産出から消費までの流れを体系づけ,実践に踏み出していく勇気と意思を示す時となっています。

 森林バイオマスエネルギーの利用が根ざしたあかつきには,持続循環型のエネルギー供給システムが構築され,全国に先駆けた環境にやさしい町づくりのモデルケースとなるだけでなく,将来を担う子供達への環境教育の場ともなるでしょう。加えて,バイオマスエネルギー産出のための里山や森林の保全・整備活動とその利用面で多くの雇用が期待できます。

 さらに,今世紀は環境と食糧問題が最大の課題といわれていますが,特に環境面では,二酸化炭素による温暖化や砂漠化および化石資材等による環境破壊が深刻な問題であり,人類にとって化石資材・燃料の使用低減を図ることが急務となっています。我々はこの化石燃料の使用低減を図るためにも,里山や森林が生み出すバイオマスの利用が有効であると確信し,その保全・整備事業とバイオマスエネルギーを活用した環境にやさしい町づくりを実践すべく,ここに「森のバイオマス研究会」を発足させます。