五色戦隊チルドレンジャー
第一話:渡る世間は馬鹿ばかり
誰のものでもない地球――――――――――の、日本の片田舎。某県某市某町K村(仮)は村と言う割には住宅地がそれなりにある所である。それでも何かと騒がしい都会と違い何となく暢気な雰囲気の漂う至って平和な村だ。そこそこの規模の村役場があり、そこそこのレベルの公共サービスを提供したり、そこそこに寄り合い所としての機能を果たしたりもしている。今日も今日とて村役場の職員
「うーん、良い天気だなあ。」
栄作は誰ともなしにそう口にした。そんな時だった。
ヒュルヒュルヒュルヒュル・・・・・・
何処からともなく音か聞こえてきた。それは次第に大きくなっていき・・・。
ドッカーン!
「!?」
突然の閃光と爆発音。村役場を激しい揺れが襲う。驚きのあまり閉じていた目を再び開けた栄作が見たものは濛々と立ち昇る煙。コンクリートの壁に大きな穴が開いている。壁際の窓ガラスは粉々に砕けていた。不幸中の幸いに、その側に人は居なかった。・・・いや、居た。風が吹いて煙が次第に晴れていく。最初に見えたのはシルエット。牡牛の如く堂々と生えた角。栄作は目をむいた。咄嗟に娘が読んでいたギリシャ神話のミノタウロスを連想した。悲鳴を上げようとしたが声が出ない。まるで喉が嗄れてしまった様だ。風が吹く。煙が晴れる。太陽の光が反射して角が光った。
「あ・・・。」
ようやく口から零れたのは自分でも間抜けと思える呟き。栄作は呆然と煙から出てきた者を見つめた。金メッキであろうテカテカと輝くのは冑。目と鼻と口の部分でT字に露出した顔。牡牛の頭の様に見えたのは冑の飾りのせいだった。冑のデザインそのものは古代ギリシャ時代の兵士の甲冑を思わせる。全身を覆うマントの色は黒。栄作はふと昔テレビで見た特撮ヒーロー番組に出てくる悪役を思い出した。実際そんな感じの服装をしていたのだ。その背後に複数の人影。こうして奴等は姿を現した。
「わーはっはっは。我こそは悪の秘密組織ブラック・サンダーが総帥、キング・ジョーカー様だ!この村役場はたった今から我々が占拠したっ。」
冑の人物が声高らかに宣言する。
「な、何だね、君達は?」
突然の事に自体がうまく飲み込めない栄作を含む村役場職員一同。
「えぇい、問答無用!掛かれぇいっ。」
彼の犬養毅首相を暗殺した将校の様なセリフと供に冑の人物の後ろに居た集団が役場内に押し入ってきた。
「わぁああああああ・・・!?」
今度こそ栄作は声の限り叫んだのだった――――――――――。
『昨日、K村の村役場を占拠したブラック・サンダーと名乗る集団は・・・。』
その人物はテレビのスイッチを切った。ブツンッという音がして画面からニュース映像が消える。男は革張りのソファーに座ったまましばし唸る。彼の名前は
「う〜む・・・。」
そんな呟きと共に立ち上がった彼はテレビとは反対側にあるドアに向かって歩き出した。身長百九十センチ程の長身に身に付けているのは青白い白衣。何故か面白い位に似合っている。美形は何を着ても似合うという説はあるけども。
「そろそろ、俺の出番だな。」
ドアノブに手を掛けニヤリと笑う。なかなかハードボイルドに極まっていた・・・が。
ゴンッ
鈍い音と共に静音はその場に蹲った。額を両手で押さえている。賢い読者はもう何が起こったのかお分かりだろう。因みにドアの高さは百八十センチである。
約三十分後、静音はある部屋に居た。銀色を基調としたSF小説に登場する宇宙基地を思わせる広い空間。ここは彼の研究室だった。その中央に置かれているのは部屋に不釣合いなまでに無骨な鉄の檻。まるでサーカスの猛獣ショーに使用される物だ。その中に在るのはライオンでも象でもない体長百二十センチ前後の五つの影。それらは口々にこう叫んでいた。
「テメーッ、このヤロー!出しやがれっ。」
「勝手にお邪魔したのは悪いと思いますが、いい加減帰していただけます?」
「バッキャロー!出せ出せ出せー!!」
「
「何だよ!
「確かに僕達は不法侵入した事になりますが、貴方のしている事も十分違法だと思いますよ。」
「武志君何でそんなに怒るの〜?」
「武志っ、桃泣かすなよ!」
「一体いつまで私達をこんな所に閉じ込めて置く気なんですか。」
何と檻の中にいたのは十歳前後の人間の子供達であった。五人の内三人が男の子で二人が女の子である。そんな彼らの様子をしばし静音は眺めていた。
「元気そうだね。これなら期待できそうだ。・・・さて、君達!」
『・・・・・・。』
静音の言葉に返ってきたのは沈黙。それでも根気良く待っていると
「・・・何だよ。」
と少年の一人が口を開いた。赤いTシャツに濃いジーンズの半ズボン姿の子供である。
「君達はブラック・サンダーのことは知っているかい?」
静音が尋ねた。
「ブラック・パンサー!?・・・て、何だ?」
「それを言うならピンク・パンサーだろ。」
「何でそんな古いネタ知ってるのよ・・・。」
「じゃあ、ブラック・パンダ?」
「パンダが黒かったらパンダじゃなくて熊になっちゃうよ。」
ヒソヒソと子供達が話し合う。議論が議論を呼び彼らの話の筋は次第に脱線していった。
「そもそもダーウィンの進化論は・・・。」
「でも屋島の縄文杉が・・・。」
「・・・何でティラノサウルスのことをT−REXって言うんだ?」
「・・・だからアウストラロピテクスが・・・・・・。」
もう何が何やら・・・。
「えぇい!知るか知らんかはっきりせんかい!?」
『知ってるよ。』
いい加減キレかけた静音が怒鳴るといともあっさり揃って返事が返ってきた。
「昨日テレビでやってたもん。」
「知らないほうがおかしいよね〜。」
「まったく逆ギレしないでほしいよな。」
「これだから大人って奴は・・・。」
「やれやれ困ったものですね。」
溜息混じりに言われて静音は腹の中で地団駄を踏んだ。完全に舐められているようである。しかし顔には出さず、ワザとらしく咳払いを一つすると彼はこう言い放った。
「フッ、知っているなら話が早い。君達にはブラック・サンダーの野望を打ち破る為に、正義のヒーローになってもらう!」
一方その頃、ブラック・サンダーに占拠された村役場では・・・。
「クックックック・・・フッフッフッフ・・・・・・ハーッハッハッハッハッハッハ。まずはこの村を我が領土にし、ゆくゆくは世界征服を・・・。我らが天下を取る日は近いぞ!あーひゃひゃひゃひゃひゃ・・・アガ?ガゴゴゴ・・・!?」
「総帥、顎が外れてます・・・。」
「ジャック様、これってやっぱり救急車ですか・・・?」
(それ以前に立て籠もりの現場に救急車呼ぶテロリストって・・・。)
人質生活二日目。一晩経てば事件当初のパニックは遥か彼方である。少なくとも栄作はブラック・サンダー達を観察し胸の内でツッコミを入れる程度には落ち着きを取り戻していた。
「大変です、電話がかかりません!」
(そりゃ、あんたらが起こした爆発だか何だかで電話線がイカレタからだよ・・・。)
実はそのせいで警察への通報が遅れたらしい。栄作はトロンとした目つきでワタワタと動き回る彼らを眺めていた。
「えーい、こうなったら無理やり嵌めてしまえば・・・!」
「バ、馬鹿、何をするんだ!」
「グギガゴギゴ!?」
―――――――と、まあ、そんな感じで阿呆な事もありまして・・・。
「そういう訳だから、君達に改造手術を施させてもらうよ。」
「何がそういう訳だー!」
「ふざけんな!」
「何考えてるのよ!?」
「怖いよ〜。」
「・・・・・・。(そろそろ泣き出しそうですね、
静音の聞き捨てならない問題発言に抗議の声を上げる子供達。しかしそれを無視して彼の妄想は止まらない。
「いやぁ、楽しみだなあ・・・どんな機能を付けようか。やっぱりロケットパンチは欠かせないよな。」
「うわ、全然聞いてないし・・・!」
「というか、ロケットパンチって何か違うだろ。」
「・・・マジ●ガーZ?」
「それネタ古いし。」
「あえて言うなら合体巨大ロボットですかねぇ・・・。」
しかしツッコミは間髪いれず入れられた。
「だが目から怪光線も捨てがたいな・・・。そうだ、君達はどっちがいいかい?」
『こっちに聞くなー!?』
確かに改造手術の内容を被験者に聞くのはどうだろう。果たしてこんな奴に全てを任せていい気なるだろうか。作者が疑問の思うくらいだから当然例の五人も納得できるはずはなく、彼らの抗議行動はさらにエスカレートしていった。
「いい加減にしろよ、クソオヤジ!!」
赤いシャツの少年が力任せに檻を蹴飛ばした。ゴワーンという響の中、少年がその場に蹲る。それを見た白いシャツの少年が言った。
「そんなに痛かったのか、武志。」
「全く馬鹿なんだから・・・。」
ポニーテールの少女がボソリと吐き出す。すると髪を二つに分けたもう一人の少女がとうとう泣き出してしまった。
「うわ〜ん、もうヤダ〜。」
「ちょっと!何女の子泣かせてるのよ!?」
ポニーテールの少女がキッと静音を睨み付ける。
「やれやれ、男の風上にも置けませんね。」
するとポロシャツ姿の少年がこれ見よがしに溜息をついて見せた。
「う、うぐぐぐぐ・・・。」
言葉に詰まった静音にさらに追い討ちを掛ける子供達。
「これ以上僕達を拘束する気なら然るべき手段で訴えますよ。」
「まずは基本の警察ね。」
「そうだぞ、マスコミに有る事無い事言い触らすぞ!」
「無い事はまずいでしょ。でも弁護士にはコネがあるし・・・(桃子ちゃんのお父さんが)。」
「むむむむ・・・。」
白シャツの少年が二つ分けの少女を慰めている間に、檻に入った状況にもかかわらず精神的地位が逆転している感じになりつつあった。
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