五色戦隊チルドレンジャー

第二話 馬鹿は死ななきゃ治らない?

 

 

 

 誰のものでもない地球―――――――――――――の日本の片田舎。某県某市S町(仮)はどこにでもありそうな極々普通の町である。人口・面積・産業・その他、どれを採っても至って普通であり、悪く言えば今一つパッとしない特徴のない町である。そんな町の役場職員、田中次郎[たなかじろう](何故か長男)は退屈そうに受付窓口で番をしていた。

「あ〜、暇だぁ〜。」

訪問者がいないのを良い事に机に突っ伏してだらけまくる次郎。この町はほとんど事件も問題もない平和な所で、役場が忙しい時は選挙位である。しばらく前に近くの村でなにやら騒動があったと聞いたが、自分には縁のない事だ。

「平和だな〜。」

(平和が悪い事だとは思わないが・・・。)

退屈である事は否めない。次郎は今日何度目か分からない溜息をついてぼやいた。そんな時だった。

ヒュルルルルルル・・・

どこからか打ち上げ花火の揚がるような音が聞こえてきた。次郎はふやけた思考の中

(あれ?今日どこかで運動会か祭りでもあったっけ・・・?)

ぼんやりとそんな事を思った。しかし平和な日常は爆音と共に終わりを告げ、次郎は平和の有難味を身をもって知ることになる。

「な、なななななな・・・!?」

すぐ側の壁が砕けて爆風に煽られた次郎は引っ繰り返った。突然の事に舌がうまく回らない。噴煙の中彼の目の前に現れたのは牡牛を思わせる甲冑とマントに身を包んだ人物と全身黒タイツのある意味変態コスプレ集団だった。そしてマントの人物は高らかに宣言した。

「ワーハハハッ、我こそは悪の秘密組織、ブラック・サンダーが総帥、キング・ジョーカー様だ!町役場[ここ]はたった今から我々が占拠した。人質の命が惜しくば、我が領土下にこの町を入れるのだー!!」

「総帥、何だかとても悪者っぽいです!私は感動しました〜。」

「そうとも、そうとも・・・、カーカッカッカ!」

 

 

 

 

 

『ねーねー、知ってる?また出たんだって!』

『何がぁ?』

『ブラック・サンダー。』

『今度は町役場に出たらしいよ。』

『マジマジ?』

『うわっ、スケール小っせぇ。』

『世界征服するつもりなら東京狙えよ、東京。』

『国会議事堂とか?』

『そーそー。』

 

 

「というのが、僕の調査の結果、ブラック・サンダーに対する世間の反応だ。」

 スクリーンのスイッチを切り、雪代静音は言った。彼の前には五人の子供達が座っている。彼らの名前は赤井武志・青木宙・桜島桃子・木田緑・黒川瞬平という。彼らは一見普通の子供達だが・・・。

「それにしても盗聴に盗撮とはね・・・。」

と呆れた様に口にしたのは緑。そして宙と瞬平も頷いた。

「犯罪者街道まっしぐらって感じだな。」

「よく平然としていられますね。」

「それ、お前に言われたくないと思うぞ、瞬平。」

「ブラック・サンダーはいいの?みんな・・・。」

さらにツッコミを入れる武志と桃子。い、一応、ただの子供達のはずなんですが・・・。

「はっはっは(怒) 相変わらず大人を敬うという精神に欠けたお子様達のようだね・・・。」

こめかみに青筋を浮かべて張り付いた笑みを浮かべる静音。しかし緑は臆することなく言った。

「余計なお世話よ。」

「いえ、それ以前の問題です。」

しかし瞬平は言った。その言葉に桃子は尋ねた。

「何で?」

「相手が尊敬するに値する対象ではないからです。」

「うあ、キッツー・・・。」

瞬平の爆弾発言に視線をそらしてコメントする宙。

(我慢我慢我慢我慢・・・。)

静音は子供達を度突き倒して回りたい衝動に駆られ、それを押さえ込むよう念じた。その時間およそ一分弱。

「まあ、そういった訳でまたブラック・サンダーが出現した。諸君にはぜひ、今回も彼らを倒しに行ってもらいたい。」

『えー!?』

 改まってそう発言した静音に対し、五人は一斉に声を上げた。思わずたじろぐ、静音。

「な、何だね?五人揃って・・・。」

「だって、今日見たいテレビあるし。」

そう言って頬を膨らませているのは武志。続いて宙と緑が挙手した。

「俺、今日道場の日。」

「宙に同じく。」

さらに桃子は

「私、ピアノの練習しなきゃいけないもん。」

といい、瞬平に至っては

「僕は早く帰って本の続きが読みたいです。」

と、すでに帰り支度を始めている。そんな五人に静音はしばらくワナワナと拳を震わせていたが、突然ブチ切れた。

「き、貴様ら・・・。本当にやる気があるのかー!?大体正義の味方そんなんでええ訳ないやろが!えー加減にせんとしばくぞおのれら!!」

ついでに言語中枢もどこかイカレタらしい。それにしても何故関西風?

「あー、もう!煩いな〜。」

「やりゃー良いんだろ、やりゃー・・・。」

「しょうがないなぁ・・・。」

「これだから年寄りって嫌なのよ。」

「全くですね。」

静音がいい加減鬱陶しくなったのか、五人は口々に言って立ち上がった。

 こんな状態ではありますが、彼らは一応、自称天才可学者と悪と戦う正義の味方チルドレンジャーの正体なのであります。『こんな奴等に日本の平和を守られたくない!』と思ったそこの貴方、貴方の感覚は正常です。

 

 

 

 

 

「―――――へっプシ。」

「総帥、風邪ですか?」

「いや、きっとどこかで噂でもされとるんじゃろ。わしらも有名になったもんじゃ。」

「良かったですねえ、総帥(涙)」

 さて話は町役場に戻り、そこでは加藤茶の芸のようなクシャミをキング・ジョーカーがし、ジャックはハンカチでそっと目頭を押さえていた。そして彼らの前ではSMの女王様のような格好をした女が高笑いを上げている。その光景を目の当たりにした次郎は確信した。

(コイツ等絶対変態だ!!)

もはやテロリストでさえない。そんな中、ミサイルによって破壊されたこの町役場において、町長は悪に屈しようとしていた。

「ホーホホホ!さあ町長、この書類にサインなさい。これでこの町は我らブラック・サンダーの物ですわ。」

「ううう・・・。」

サインを迫る女。唸る町長。

(もはやこれまでか・・・!)

彼が諦めかけたその時である。

『ちょっと待ったー!』

突然かかった制止の声に、その場に居た一同の視線が集中する。彼らの前に現れたのは五つの小さな影。

「選挙もしないで町を治めようなんて・・・。」

「民主主義の無視もいいところです。」

「ご町内の平和を守るため・・・。」

「そして世のため人のため・・・。」

「・・・・・・。」

「武志く・・・じゃなくてレッド。セリフは?」

小声で隣に居た武志ことチルドレンジャー・レッドの脇をつつく桃子ことピンク。

『・・・・・・。』

気まずい沈黙。

【たぶんセリフ忘れたんだろうな〜・・・。】

その場に居たほとんどの人の心の声は不思議と同じだった。

「・・・しょ、消費税アップ反対ー!!」

ドンガラガッシャン

『何じゃそりゃぁぁぁああああああ!?』

レッドの叫びにギャラリーの約半数がズッコケ、残りは即座にツッコミを入れていた。素晴らしい漫才体質である。

「ま、まあ、何はともあれ・・・。」

『五色戦隊チルドレンジャー参上!』

「何を小癪な!者供掛かれぇい!!」

「は!デビルアーマーA&Bを出せ!!」

『イェッサー!』

こうして再び彼らの戦いは始まった。

 

 

 

 

 

(う〜ん、意外と厄介ね。雑魚多いし、ロボットは二体もいるし・・・。)

 緑ことグリーンは戦いながら考えていた。雑魚の戦闘員だけなら問題ないのだが、デビルアーマーの攻略法が見当もつかない。以前使った謎の木刀はどうやって出現させるのか緑には分からなかった。

「さて、どうしようかしら・・・?」

「グリーン!危ない!!」

「!?」

宙ことブルーの警告に振り返る間もなく、グリーンは背後から殴られた。凶器は金属バットである。戦闘中に考え事をしてしたせいだろうか。油断大敵火の用心である。

「痛ぁあああいぃいいい!!」

グリーンは頭を押さえてしゃがみ込んだ。普通金属バット[こんなもの]で殴打されたらひとたまりも無い気がするのだが、静音の作った強化スーツのおかげか頭蓋骨や脳も無事なようである。彼も伊達に天才と自称しているわけではないということだ。その証拠にグリーンを殴ったバットの方がひしゃげている。呆然とする黒尽くめの平戦闘員にグリーンの怒りの回し蹴りが問答無用で炸裂した。

「いきなり何するのよ!?」

「そうだぞ、卑怯者!」

グリーンに続いてレッドが叫ぶ。

(いや、悪の組織なんだしそれくらい当たり前だと思うけど・・・。)

彼らのやり取りを見て次郎は思った。なかなか的確なツッコミである。

「大丈夫でしたか?」

「痛い?痛い!?」

「揺するな、ピンク。頭に響くぞ。」

瞬平ことブラックにピンク・ブルーも駆け寄ってきた。

「えぇい!怯むな!掛かれ掛かれ!!」

ジョーカーの号令に戦闘員達が襲い掛かる。彼らの運命や如何に!?

 

 

 

 

 

 そんな中で町長に迫る一つの影があった。先程、彼にサインを強要していた女である。踵の高いヒールに真っ赤なルージュ。顔の上半分を仮面で隠し、唇を歪めた。

「お取り込み中申し訳ありませんけど、町長さん?」

これまでの高飛車な物言いとは違う猫撫で声で彼女は話しかけた。青ざめる町長。

「サイン、していただけますわよね。さもなければこちらにも考えがありますわよ。」

「か、考え・・・?」

「そう、もし承諾していただけない場合はそれなりの覚悟をしていただかなくてはいけませんよ。」

「な、何!?ま、まさか・・・私を殺す気か?」

「クスッ、そんな野蛮なこといたしませんわ。」

女は肩を竦めた。

町役場[ここ]を破壊したことは野蛮じゃないのかよ・・・。)

チルドレンジャー達の戦いも気になったが、割と近くに居たため町長達の会話が聞こえていた次郎は思った。

「ただ、貴方の秘密をほんのちょっぴりバラさせていただくだけです。」

女はとても楽しそうな声で言った。

「な・・・!?」

声を詰まらせる町長。

(秘密・・・?)

次郎はこっそり首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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