五色戦隊チルドレンジャー

第三話 馬鹿は死んでも治らない

 

 

 

 ブラック・サンダーが姿を消して三ヶ月を経過した。日本の片田舎に在する、とある小学校の一教室(四年一組)で溜息を吐く少年が一人。彼の名前は赤井武志、チルドレンジャー・レッドの正体である。

「あーあ、つまんねーな。何でブラック・サンダー出て来ねーんだろ・・・。」

「どうかしたの、武志君?」

武志のぼやきに反応して振り返ったのは窓から雨を見ていた桃子。どこか元気のない様子の武志に心配そうに声をかける。

「ほっとけよ、桃。」

そんな二人の横から声がかかる。彼らが声の主を確かめるとクラスメイトの宙が丁度椅子に腰掛けた所だった。

「宙ちゃん♪」

「宙!」

二人は同時に声を上げる。

「そんな事より、お前ら算数の宿題終わったか?先生、今日ノート集めるって言ってたぞ。」

「ゔ・・・!?」

宙の言葉に武志は顔を引きつらせた。それに気づいているのかいないのか、桃子は小首を傾げてみせる。

「え〜、私は一応やったけど―――――あ、でも一個解んない所あったな。宙ちゃん教えて?」

「うん、いいよ。」

「わ〜い、ありがと〜★」

「も、桃子にベタベタすんなー!」

『?』

桃子は宙に抱きついたままキョトンとする。宙も突然叫んだ武志に疑問の目を向けた。

「どうしたの?」

「武志?」

キーンコーンカーンコーン・・・

そんな中鳴り響くチャイムの音。午後の授業開始まで後十分だ。

「アホらし・・・。」

そう呟いて瞬平は視線を本に戻した。タイトルは『株の逆張り必勝法』・・・嫌な小学生である。その隣に座っていた緑はこっそり苦笑していた。

(幼馴染って無自覚なのよねぇ・・・。)

こうして何もかも有耶無耶なまま日々は流れていくのであった。

 

 

 

 さて、武志達も世間様も平和で怠惰な日々が続き、ブラック・サンダーの事など忘却の彼方に消え去りかけた、そんなある日のことである。某県M市(仮)の市役所にて、事件は起こった。

ヒュルルルルル・・・ドカーン グァッシャアアアンッ

ド派手な音と共に人々の悲鳴が建物の中に木霊する。ガラスの破片が飛び散り、[あか]が舞った。様々なサイレンの音が近づく中で、お馴染みの兜とマント姿の男が姿を現した。

「くっくっく・・・はーはっはっは!我こそは悪の秘密組織[ブラック・サンダー]が総帥キング・ジョーカー様だ!!市役[ここ]は我々が乗っ取ったわぁ!!!」

パチパチパチパチ・・・

ジョーカーの宣誓と同時に組織員一同から沸き起こる拍手。ついに沈黙を破り彼らは人々に混乱をもたらし始めたのだった。

 

 

 

 

 

ピ ピ ピ ピ―――――ン

 正午を告げる電子音が電源の入ったテレビから聞こえてくる。静音はふと目を通していた論文から顔を上げた。最近研究に没頭していた為か、身に着けた物が草臥れている。

「おや?もうこんな時間か・・・。」

そう呟き煤汚れた・・・というかぶっちゃけ焦げた、元白衣を脱ぎ椅子の背に架ける。全く何をどうしたらこんなに白衣がボロボロになるというのか。

 

お昼のニュースの時間です。本日午前十時頃、ブラック・サンダーを名乗るテロリスト集団にM市役所が占拠されました。市長以下数十名が人質として捕らわれている模様です。彼らは・・・。

 

テレビを眺めつつ静音はコーヒーを口に含んだ。流れてきたニュースに然して驚くことも無く、浮かべたのは嘲笑。

「フッ、やはり天はこの天才[オレ]の才能を必要としているようだな。」

か〜な〜り自意識過剰なセリフである。こんな事を口走っている彼は本来なら素材がいいのでなかなか決まって見えるのだが、ここまで薄汚れていると威厳も何もあったものではない。

「さて、今回はどうやってチルドレンジャー[やつら]を送り出そうか・・・。」

(いっその事強制的に洗脳して動かしやすくするのも手だな・・・。)

どこか悦に入った彼の姿は素敵なくらいに不気味であった。

 

 

 

 一方その頃、武志達は理科の授業を受けていた。真面目に聞いている振りをして何気に適当に受け流している(理由は簡単すぎるから)瞬平は、突然妙な感覚を覚えた。

「ゔ・・・、何か悪寒が・・・・・・。」

「どうかしたの、瞬平?」

緑が小声で話しかける。

「い、いえ・・・何でもありません・・・・・・。」

とりあえず瞬平は否定した。しかしどうも嫌な予感がする。否、『嫌』というよりはクソ面倒臭そうな事に巻き込まれそうな予感(どんな予感だ?)といった方が正しいかもしれない。そんな時、某教育番組を録画したビデオを見る為に教師がテレビに電源を入れた。

「パパ!?」

「お、おじさん!?」

画面に映った映像に桃子と宙が声を上げる。ニュースで流れている顔写真は間違いなく桃子の父、桜島秋人[あきと]のものであった。どうやらブラック・サンダーの人質になっているらしい。それを聞いた生徒達は授業中だというのに騒ぎ出す始末である。担任教師の緊張はピークに達した。

(うぉおおおお・・・い、胃が・・・胃が痛い〜・・・・・・。)

腕で胃の辺りを抱えるように押さえ込み、痛みに耐える教師A。ご愁傷様である。

「パパ!パパがー!?」

テレビの前で悲鳴を上げる桃子。すると瞬平が突然立ち上がりツカツカと桃子に近寄ってきた。そして肩を掴み無理やり自分のほうに振り向かせる。

「少し落ち着きなさい、桜島。」

「痛ッ、黒川・・・君?」

見つめ合う二人。笑顔の瞬平とは対照的に先程とは別の意味で青ざめる桃子。因みに二人の思うことはこのような感じである。

(これ以上手を煩わせるようなら許しませんよ。)

(笑顔で怪力・・・。肩痛いよ〜。眼が笑ってないよ〜。怖すぎるよ〜。)

最近では桃子も瞬平の『恐さ』に少しずつだが気づくようになっていた。大人しくなった桃子に満足したのか瞬平は彼女の肩から手を離し、腹痛に耐えている教師に顔を向ける。

「先生、とりあえず授業を再開しませんか?僕達小学生が騒いだところで状況が変化する訳でもありませんし。」

「あ、ああ・・・。」

瞬平の言葉に我に返ったように授業を再開させる担任。そして桃子や瞬平も席に戻った。

「何でそんなに落ち着いてられるかな〜。」

「性分ですから。」

半ば呆れも混じった緑の言葉に黒い笑顔で答える瞬平。

「宙ちゃん、怖かったよ〜。」

「はいはい、泣かない泣かない。」

愚図る桃子を慰める宙。

(お、おにょれ、ブラック・サンダー。桃子を泣かせるとは許すまじ・・・!)

そんな中、一人心に復讐を誓う武志の姿があった。むしろ泣かした犯人は瞬平だろうというツッコミは勘弁願いたい。

 

 

 

 

 

 放課後、例によって例の如く静音の研究室に集った五人。苛々しながら待機していると静音が白衣(新品)を靡かせ颯爽と部屋に入ってきた。相変わらず何処から来るか判らない自信満々な態度で五人を見下ろす。

「何でワザワザあんな所から入ってくるんだ?」

「馬鹿と変態は高い所が好きだからじゃない?」

口元を引き攣らせる宙に緑が疲れた様子で答えた。静音が立っているのは中二階でテラスっぽくなっている場所だった。

「フッ、やはり来たようだね諸君。予想通りだ。」

「いいからさっさと降りてきなさいよ、時間ないんだから。」

一応律儀にツッコミを入れる緑。正直面倒臭くなってはいたが。

「そうだぞ!これからオレ達は桃子のお父さん助けに行くんだからな!!」

武志が宣言する。

「武志君、本当!?」

沈んでいた桃子の表情がパァッと明るくなる。

「も、もちろんだ!」

(か、カワイイ・・・。)

返事をしつつも赤くなる武志。

「もちろん他の人達も助けないとな。」

「うん、宙ちゃん。ありがとう・・・。」

(何で宙ばっかりお礼言われるんだよ・・・。)

武志は内心面白くなかった。しかしこれも人徳の差というやつだろう。

「この僕を無視して勝手に話を進めないでもらいたいね・・・。」

「ああ、ようやく降りてきたんですか。遅いですよ。」

五人と同じフロアーに降りてきた静音に瞬平が言う。すると緑は言った。

「そう?それなりに早かったと思うけど。」

「〇・五秒で済ませるべきです、あれ位。」

【いや、それは流石に無理だろう・・・。】

瞬平の言葉に心の中で同じ様なツッコミをする他一同であった。しかしさらに問題発言は続く。

「大体、勝手だ何だとおっしゃいますが、そんなのはお互い様でしょう。」

「んな!?」

「今更指摘した所でお互いの認識が改善するとは露とも思えませんし。」

「断言かよ!?」

「第一、小学生相手に大人気ないと思いませんか。」

そう一気に言い切った所でこれ見よがしに溜息。静音は怒りのあまりに絶句している。それにしても瞬平って本当に小学生なんだろうか・・・。

「あまりふざけているとここのコンピュータにウィルス送りつけますよ。」

「瞬平瞬平、聞いてない・・・というより聞こえてないから。」

「・・・仕方ありませんね。それでは勝手に使わせてもらいますよ。」

そう言って瞬平は研究室に設置されたマザーコンピュータに繋がる端末へ手を伸ばす。

「う、動かせるのか?」

「愚問ですね。」

武志の言葉に瞬平は平然と答えた。

「宙ちゃん、本当に大丈夫かなぁ・・・?」

心配そうに言葉を紡ぐ桃子。

「まあ、大丈夫なんじゃないか?だってあいつは―――――――。」

 

 

 

 

 

「ふむ、茶が美味いの〜。」

「あ、このソファー座り心地良いわ。」

「ジョーカー様、お菓子買って来ました〜。」

「うむ、ご苦労。」

 市役所内のある一室にてとことん寛ぎまくっているのはジョーカーとその側近達である。こいつらはテロリストとしての自覚があるのだろうか。思い切り平和でほのぼのした雰囲気を演出している。

「むぐー!うーうー!むぐぐー!」

「あら、どうかなさいましたか、市長さん?」

ロープでグルグル巻きにされ尚且つ猿轡を噛まされた市長を面白そうに見つめるのは相変わらず女王様スタイルのミラーである。

「でも、人質なんて市長と市会議員位で十分なんじゃないですか?」

「甘いわね、キティちゃん。日本は官僚社会なのよ。ちゃんと公務員の上役も押さえておかなくっちゃ。」

「ふ〜ん。」

紅茶を口に運びつつミラーに声を掛けた少女キティは相槌を打った。キティは小柄な体格で良くて中学生位にしか見えなかった。

ピピピピピ・・・

突然の電子音。その途端部屋のムードが一変する。キティがノートパソコンのようなものを開いている少年に声を掛けた。

「ディック。」

「屋上に侵入者です。」

「チルドレンジャー?」

「おそらくは・・・。」

「フッ、返り討ちにしてあげるわ。」

キティはスクッと立ち上がった。

 

 

 

「まさかこんな方法があるとは・・・。」

「だったら初めからこれ使っとけよな。」

「そうすれば撃ち落されずに済んだ(第一話参照)のにね。」

 ここは市役所の屋上である。そこに音を立てずに姿を現した五つの影。その正体はもちろんチルドレンジャー達だ。彼らは上空を見上げ口々に言う。

「それにしても、不可視のシールドに、音のほとんどしないヘリコプターなんて、ほとんどでたらめよね。」

「それを言ったらおしまいですよ。まあ、ギャグコメディだからこそ出来る荒業ですかね。」

「何言ってるのさ、瞬平。」

「いえ、何でもありませんよ、赤井。」

「うわ、流石にマスコミが来てるぜ。」

「え〜、目立ちたくないよ〜。」

「とりあえず、敵に見つかる前にさっさと侵入しましょうよ。」

「実はもうバレてたりしてな。」

「やだ〜、レッドってば笑えないよそれ。」

いろいろとイタイ発言がありましたが、こうして彼らは市役所内に侵入を果たしたのでありました。

 

 

 

 

 

「一体全体何なんだ!」

 建物に入っておよそ三十分。焦っているのかブルーはイライラした様子でそう吐き捨てた。グリーンも困ったと言うように彼に同意する。

「・・・て言うか、ここ本当に市役所?」

最上階に行った事がないとは言え、首を傾げたい気分だ。

「何だか忍者屋敷みたいだね・・・。」

ピンクはすでに疲れているようだった。実は市役所に侵入してからというもの、彼らは数々のトラップに見舞われていた。床に油がひいてあったり、足元に釣り糸が仕掛けられていていたり、いきなり消火器が噴出されたり、通路上にピアノ線が張り巡らされたりしていた。微妙に地味且つ鬱陶しい仕掛けが続いたかと思えば、壁から一斉に矢を射掛けられたり、天井からトリモチが降ってきたりもし、さらに何故か落とし穴まであった。しかもそれに悉くレッドが引っ掛かってたりする。

「あんな目に遭っているのに元気ですねぇ、レッドは。」

ブラックは呆れた調子で呟いた。転んでも転んでもへこたれない所は彼の立派な長所です。まあ、それに巻き込まれる周囲の人間は堪ったものじゃないですけど。

 

 

 

 

 

「侵入者がトラップエリアを通過しました。」

 ディックと呼ばれた少年が画面を眺めつつ淡々と告げる。防犯カメラの映像によれば脱落者は一人もいないようだ。キティは舌打ちする。

「フン、やるじゃない。チルドレンジャーも。・・・戦闘員は配置に就いているわね。」

「はい。」

キティの確認をディックが肯定した。

「今から私も出るわ。」

準備はすでに整っていた。

「頑張りなさいよ〜。」

「気をつけるんじゃぞ。」

ミラーとジョーカーが手を振って見送った。

 

 

 

 

 

 

 

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