*第三話中編*

 

 

 

 さてトラップエリアをクリアした五人は、今度は毎度お馴染み黒い全身タイツと顔全体を覆う変なデザインの仮面のブラック・サンダー戦闘員と戦いを繰り広げていた。

「フリーズ・ブリ●ド!」

コカキィィン

「シャ●ウ・ボルト。」

パチパチパチパチッ

ブルーとブラックの呪文が炸裂する。

「百花繚乱!」

ザァアアアア・・・

「次元斬。」

ギュオオオン

ピンクとグリーンが華麗に舞う。

「蛙ピョコピョコ三ピョコピョコ合わせてピョコピョコ六ピョコピョコ・・・。」

ゲコゲコゲコッ ケロケロ〜

レッドはちょっと情けない。こいつ初期設定では主人公じゃなかったか?(作者が訊いてどうする)何はともあれ雑魚は大方片付いた。

「ま、こんなもんかな?」

「やったね、グリーン!」

「なかなかやるじゃない、チルドレンジャー!」

しかし彼らが勝利の余韻に浸る間もなく、新手が姿を現した。少し高圧的な口調の声が聞こえて、五人は身を硬くした。彼らが声の主を凝視する。それは彼らとそう年が離れていないような少女であった。目元のみ隠す形のマスクで肩まで伸びた金髪が印象的だ。しかも眼球の色は青。言葉のアクセントやイントネーションは完璧だが、日本人でないことは見て取れた。

「お前は誰だ!?」

レッドが叫ぶ。

「あんた達に名乗る名などないわ!」

少女はそう返してきた。

「そんなのずるいぞ!」

レッドの反論。

【ず、ずるいって・・・。】

心で突っ込む外一同。

「馬鹿じゃないの?」

少女はレッドを鼻で笑った。

「何だと!?ムキー!!」

「少し落ち着きなさい。」

ゴィィィイイイイン

瞬間湯沸かし器のように頭に血を上らせるレッドに、どこから持ってきたのかブラックが石油缶で後頭部を殴り飛ばした。

「ほ、ほひがみへる・・・。」(注:星が見える、と言っている)

レッドの周りにはヒヨコが跳んでいた。

「お、おい、ブラック・・・?」

「彼にいちいち付き合っていると話が進みませんから。」

今にも倒れそうなレッドを見遣り、ブルーがブラックに問いかけると、実に薄情な返事が返ってきた。敵である少女もいきなりの展開に唖然としているようだ。確かに傍目に見れば仲間割れをしているように思えなくもない。

「時間がないのは君も分かっているはずでしょう。」

続くブラックの言葉。これは恐らく人質の安否を考慮してのことだろう。事故とはいえ、また結果的に助かったとはいえ、前回あれ程の被害が齎されたのだ。それに比べればレッドの一人や二人怒突き倒す位大したことではないと言えるのかもしれない。

「ちょっとあんた達!何をゴチャゴチャやってるのよ!?来るならさっさと掛って来なさいよね。じゃなきゃこっちから行くわよ!」

少女の声に四人は身構えた(レッドはまだピヨってる)。

「ディック!準備は良い!?」

 

O.K. Kitty.

 

Go!」

少女はイヤホンマイクの相手に向かって声をかけると左腕を振り上げた。

『!?』

突然出現した影がチルドレンジャーに襲い掛かる。そして次々と彼らを後方へと弾き飛ばした。

「こ、これは・・・。」

何とか受身を取ったブルーが自分に突進してきたものを凝視する。それは例えるならばメタルボディの猟犬だった。即ち、ロボット犬である。

H-1、撃ち方用意!」

少女の声。それに反応して背中が開いていく。そしてそこから出てきたのは・・・

「ガトリング・ガン!?」

ブラックが驚いたような声を上げた。回転式自動拳銃、明治時代にはすでに日本に存在した大量殺人兵器だ。もちろんこれは最新型である。

「始め!」

少女のその言葉を合図に銃弾の嵐が彼らに降りかかった。

 

 

 

 

 

「どうしましょうか。」

 とりあえず近くにあった部屋に逃げ込んで銃弾をやり過ごすチルドレンジャー五人。外の様子を窺いながらブラックが溜息を吐く。

「とか言いつつあまり困ってないように見えるのは私の気のせいかしら?」

「気のせいですよ。」

グリーンの皮肉を彼はあっさり受け流す。

「でもどうするんだ?このまま出て行っても蜂の巣になるだけだし・・・。」

「あんなの反則だよぉ・・・。」

ピンクはすでに半泣きだ。よほど怖かったらしい。だが彼ら自身の装備や能力も普通に考えたらすでに反則の領域である。

「防御力強化呪文をかけてもどこまでもつか疑問ですしね。」

「男なら特攻だろ!」

「一人で勝手に死ねば?」

無謀な発言をするレッドにグリーンは見捨てるかの如く冷たい視線を向けた。その時レッドは何故か無性に謝りたい衝動に駆られたという。

「とにかくここでじっとしててもいつかは追い詰められます。」

「弾切れを待つなんて気の遠いことは言ってられないわ。」

ブラックの出した結論にグリーンも頷いて肯定を示した。そしてブルーが渋々といった調子で発言する。

「叩くなら命令を出してる女の子の方だよな。あんまりやりたくないけど・・・。」

「・・・。」

「どうしたの、ピンク?」

「何でもない・・・。」

黙ってじっとブルーを見つめるピンクにグリーンは怪訝そうに話しかける。しかし彼女はグリーンからも顔をそらし小さく否定の返事をした。一方レッドは結局の所行き着いた疑問を脊椎反射の如く口にする。

「でもどうやって倒すんだよ?」

「見た所、熱センサーはないみたいですから何とか視界(カメラ)部分を誤魔化して近づけば何とか・・・。」

(何でそんなことがわかるんだ?)

ブラックの言葉に疑問を思ったが、口に出すと怖いのでレッドは黙っていた。沈黙は金なり。その後もしばらく彼らの作戦会議は続いた。

「よし、撃ち方止め!」

 もうもうと煙が立ち上る中、妙にスッキリした顔で少女はそう宣言した。ロボット犬の中に銃が収納される。

「ちょっとやりすぎじゃないか?」

「何か文句あるのディック!?」

「キティ・・・。あえていうなら何で天井の方まで乱射することもないのでは?」

壁の横(階段がある)から出てきたのはキティと呼ばれた少女と同じ年頃の少年だった。よく見ると髪や瞳の色も同じである。ディックの指摘通り床や壁のみでなく天井にも弾痕があった。しかもかなりヒビ等が入っている。

「あんた弟のくせに生意気よ。」

「歳は同じでしょうに・・・人前ではちゃんと気をつけてるから勘弁してよ。」

組織[ここ]では私の方が位が上なんだからね!」

「はいはい、わかってますよキティ様。」

どうやら話を聞くにキティとディックは姉弟であるらしい。因みにディックの方が少し背は高い。

「じゃあ私は止めを刺してくるから。」

「程々にね。」

ロボット犬と共に未だ晴れない煙の中へと足を進めるキティ。そんな彼女にどこかずれた応援を送るディックであった。

 

 

 

 

 

「クソッ、新手かよ!」

「しかもこっちに来たよぉ・・・。」

「やるしか、ないわね。」

「ああ。」

「では手筈通りに。」

 五人は無言で頷くと隠れ場所から一気に飛び出した。大分晴れてきた煙の中から姿を現した彼らにキティは腕を組んだ状態で対峙した。

H-1、ミサイル用意。・・・発射!」

ロボット犬の口の部分がパカッと開いて、ミサイルらしき物体が射出された。

「げ!?」

ミサイルは一目散にレッドへと向かっていく。咄嗟にその場に伏せやり過ごすレッド。

「ふ〜、危ねー危ねー。」

「甘いわ!」

キティの勝ち誇った声。

「レッド後ろ!」

「キャアアアアアア!?」

グリーンの警告とピンクの悲鳴。

(やられる!!)

「我は放つ光●白刃!」

レッドが覚悟した時ブルーが放った光線がミサイルを弾き飛ばす。さらに誘爆。爆風に巻き込まれ吹き飛ばされるレッド。いい感じに焦げて煙をプスプス上げていた。しかしすぐに復活するとブルーに詰め寄った。

「オレまで一緒に殺す気か!?」

「助けるつもりでやったんだよこっちは!!」

「それにしても自動追尾型ミサイルとはブラック・サンダーのくせに生意気な・・・。」

「そういう問題じゃないと思うわ、ブラック。」

「また来るよ!」

ピンクの声。

「赤巻紙青巻紙黄巻紙。」

レッドが唱えると光と共に手の中に紙テープと思しき物体が出現した。すぐさまミサイルに向かって三つの巻紙を放り投げる。赤・青・黄色のそれはパッと広がって蜘蛛の糸のようにミサイルに絡みついた。

「な!?」

キティが驚愕する。絡みついたテープによりミサイルが空中で動きを止めたのだ。

「・・・色不異空、空不異色、色即是空!」

それをホームラン宜しく出現させた木刀で打ち返すグリーン。何かもう出鱈目だ。

「嘘!?」

「そんなのあり・・・?」

キティとディックは呆然とした。残念ながらこのお話ではそういうこともありなんです。

「キャアアアア!」

「うわ!?」

打ち返したミサイルは天井にぶち当たった。只でさえ先程の銃乱射で脆くなっていた天井である。見事に穴が開いて上の階と繋がってしまった。

「今だ!太●拳!!」

ブルーから放たれた閃光が周囲の視界を白く覆う。それと同時にブラックが駆け出した。

「な、何なのよもう!!」

光と爆煙が収まり、光にやられた視力がようやく回復する。キティは怒りに任せて叫んだ。

H-1!こうなったらレーザーよ!!」

しかし何も起こらなかった。

H-1!?」

「無駄ですよ。」

思ったより近くで聞こえた声にその反対方向へと飛びのくキティ。そこにいたのはチルドレンジャーブラックで、何故か片手にドライバーを持っていた。

「い、いつの間に・・・!?」

「それはもちろん先程のドサクサに紛れて、ですよ。」

「そんなことより、H-1は・・・て、ええええぇぇぇえ!?」

「まあ見て判る通り分解しました。」

ブラックの足元でH-1―――――ロボット犬は見事なまでにスクラップになっていた。

「これ結構面白い構造になってましたよね。今度設計図見せてくれませんか。」

「・・・・・・。」

余程分解されたのがショックだったのか反応のないキティである。仕方なくブラックは後方の四人の元へ戻った。レッド達も急いでブラックの所に集まってくる。

「こんな短時間でよく壊せたな、あの犬。」

「ブラック、すごいよ。」

レッドとピンクが賞賛の声を上げる。

「でもどうやったんだ?」

「それは企業秘密です。」

(何の企業よ・・・。)

ブルーに質問に対するブラックの答えにグリーンは心の中でツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

「ディックあれ貸して!」

「は?キティまさか・・・。」

「いいから貸しなさい!絶対あいつ等泣かしてやるんだから!!」

「趣旨が変わってるし・・・。でも駄目だよ。あれは試作品でテストもまだなんだから。」

「とにかく寄こせー!!」

「ちょっと!?」

 一方ブラック・サンダー側ではキティが復活し、彼女を心配して近くに来たディックに絡んでいた。傍目に見ていると仲間割れをしているようにも見える。もう少し詳しく言うとマーモセットのぬいぐるみを取り合いをしているように見えた。因みにマーモセットとはやたらと[]まい猿の仲間である。図鑑や動物園によってはあるかどうかわかりませんが、少なくとも静岡の日本平動物園にはいます。気になる人は見に行ってみよう!

「ねえ、何だか向こうモメてるみたいだし、このままこっそり行っちゃうの駄目かなあ?」

キティ達の様子を見てピンクが控えめに提案した。彼女としては早く父親を助けたい気持ちで一杯なのだ。

「うーん、それでもいいんだけどレッドがねえ・・・?」

グリーンには彼が敵前逃亡を納得するとも思えなかった。まあピンクの頼み方次第では何とかなるかもしれないが。そして彼らが傍観している間にますますキティ達の争いはヒートアップしていた。

「ディックー!離しなさいよぉ・・・!!」

「キティは我儘すぎるんだよ!」

「私の方が頭良いもん!」

「デザインセンスは僕の方が上だ!」

「あんたは姉さん[わたし]がコケにされたままでもいいって言うの!?」

「その喧嘩っ早い所何とかしろよ!?」

ギャーギャーギャーギャー散々モメた挙句、終幕は突然訪れた。

「あ、何か外れた。」

キティが勢いあまって何かを引き抜いてしまったらしい。

「キティ、それ安全装置!」

「へ?・・・な、何の!?」

「じ、自爆装置・・・。」

『・・・・・・。』

二人の顔色が蒼白になる。

「わー!キャー!どうすんのよ、これー!?」

「こっちに投げないでよ!」

「ディックが何とかしてよ!」

「外したのはキティだろ!?」

「作ったのはあんたじゃない!」

パニック状態に陥った二人はお互いに向かってぬいぐるみを放り合う。

ピーピーピーピー・・・

そしてぬいぐるみから電子音。それは自爆三秒前の合図だった。ディックは天井の穴に向かってぬいぐるみを放り投げる。

ドッカアアアアン

轟音、爆煙が周囲を包み込んだ。

「ゲホゲホッ。ディック〜、大丈夫ぅ・・・?」

「危ない!上!!」

「え?・・・キャアアアアアアアア!?」

 煙を吸い込んだのか咳き込むキティ。その彼女に警告したのは敵であるはずのグリーンだった。キティが反射的に上を見上げると今まさに天井が崩れ落ちようとしていたのだ。悲鳴を上げるキティ。果たして彼女は瓦礫の下敷きになってしまったのか!?

 

 

 

 

 

 

 

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