五色戦隊チルドレンジャー外伝

カウントダウン・ラビリンス

 

 

 

 誰のものでもない地球―――――――――――――――――の日本の片田舎。某年某月某日(土曜日)、週休二日制の流れはこんな所まで浸透し、某県某市某町某村の、とある小学校で同窓会が行われるに至った。五年程前にこの学校を卒業した赤井武志(十七歳、男)は柄にもなく感慨深げにかつて自分がすごした校舎を眺めた。輝かしき少年時代の思い出が走馬灯のように甦る。幼馴染五人で駆け回った日々がまるで昨日の事のように思い出せた。小学校入学から卒業まで同じ教室で過ごした彼らだったが、中学進学時に一人別れ、在学中に一人転校し、高校進学時に残る三人もばらばらになった。昔は嫌になるほど顔を合わせていた筈なのに、今では道でその姿を見掛ける事すらまずない。しかし幹事の話によれば、今日はあの四人も同窓会に出席する予定だという。武志は自然と高揚を覚える自分を感じていた。

「赤井・・・君?」

 背後から声を掛けられて、武志は慌てて振り返った。目の前に飛び込んできたのは艶やかな長い黒髪の女性。着物か何かが似合いそうな純大和撫子風の容貌の持ち主だった。身長は百六十センチ以上はあるだろう、少し長身でどこか大人びた雰囲気が漂っている。薄緑のシンプルなデザインのワンピースがよく似合っていた。

(うわっ、美人・・・。)

武志は思った。この場にいるからには小学六年時のクラスメイトであることは間違いないだろう。しかし武志には彼女が誰なのか見当も付かなかった。

「赤井武志君・・・だよね?ひょっとして違う・・・?」

何も言わない武志に不安になったのか、彼女は少し心配そうに尋ねてきた。その様子に武志は急いで首を振った。

「だ、大丈夫。俺、赤井だから!それで、いや、ちょっと・・・その・・・・・・。」

「どうしたの?」

口籠る武志に彼女は小首を傾げて見せた。言い難い話であるがいつかは言わなければならないことなので、武志は意を決して相手に伝えた。

「えーと、誰だっけ?」

武志の言葉に彼女はキョトンとする。そしてこう言った。

「私の事、覚えてないの?」

「うん・・・。」

「本当に?」

「あ、ああ・・・。」

そこまで答えた所で、彼女は盛大な溜息をついた。

「何か、本当、赤井君らしいなぁ・・・。」

そう言って彼女はクスリと笑う。彼女は笑い方も綺麗だった。

「緑よ。木田緑。小学校の頃は腐れ縁と思える位一緒だったじゃない。思い出した?」

「木田緑――――――――――?・・・て、あの緑かぁ!?」

「そうだよ、久しぶり〜。」

彼女が誰だか気づき武志は素っ頓狂な声を上げていた。木田緑と言えば、例の幼馴染の内の一人で、中一の秋に転校してしまった人物だった。

(うわー、信じらんねー・・・。)

武志はすっかり度肝を抜かれてしまった。彼の覚えている緑はどこかボーイッシュな印象のクールな少女だった。それがこんな手弱女振りになるとは・・・!?人間、変われば変わるものである。

「今日は、木田。あれ、そこのいるのは赤井ですか?」

 また声が掛けられる。横を向けば氷のような美貌を持つ青年が一人佇んでいた。黒のシャツ、黒のジーンズ、銀のネックレスを身に着けた闇夜を思わせる印象の持ち主だった。

「あ、瞬平。ちょっと聞いてよ。赤井君ってば私のことわかんなかったのよ?」

「え!?」

「まあ、髪型も違いますし・・・。」

「ちょっと待てよ、おい・・・。」

「でも青木君や桃子ちゃんはわかったじゃない。」

「瞬平って・・・。」

「それは確かに・・・。でも、赤井のことですから。」

「何でそんな・・・。」

「それもそっか、やっぱ赤井君だしなぁ・・・。」

「・・・聞けよ、こら(怒)」

自分を無視して会話(しかもかなり失礼な)を進める緑と瞬平と呼ばれた青年に、武志は怒りを覚えた。

「何ですか、赤井?」

平然とした青年の言葉にムカつかなかったと言えば嘘になる。しかし武志は、

(こいつは昔っからこういう性格なんだ・・・。我慢我慢。)

と思い耐えた。『成長したなぁ、赤井も。』と小学校時代の担任の先生が聞いたら泣いて感動しそうな話である。

「今、緑の奴が『瞬平』って言ったよな。黒川瞬平・・・なのか?」

「そうですよ、赤井武志君。」

そう言って彼は武志に微笑みかけた。黒川瞬平もまた、武志の幼馴染の一人だった。彼は私立の中学に進学した為、公立の他の四人と別れることになったのだ。眼鏡をコンタクトにしたせいか武志には別人のように見えた。

「何で緑が瞬平の事知ってるんだよ。」

武志の尤もな問いに二人は意外そうな顔で答えた。

「だって、メル友だもの。」

「小学校の終わり頃からですよね。」

「親のパソコン使ってやり取りしてたのよ、言ってなかったっけ?」

「聞いてても覚えてない可能性が高そうですが・・・。」

こういった会話は昔と変わっていない。懐かしむべきかそれとも怒るべきか、武志は何とも言えない複雑な気分になった。

「宙ちゃーん!緑ちゃん達、こっちにいたよー!」

 そんな時、武志の耳に入ってきたのは可愛らしいソプラノのよく響く声だった。聞き覚えのある声にドキリとする。やがて姿を現したのは薄茶のふんわりした髪の美少女と彼女の騎士[ナイト]のように燐とした印象を持った青年だった。少女の方の名前は桜島桃子。市会議員の娘でお嬢様育ちの彼女は、高校に入る前とほとんど印象が変わっていない。たとえ変わっていたとしても武志には彼女だと分かる(根拠のない)自信があった。何せ、武志は小学生の頃から桃子に筋金入りの片思いをしているのだ。高校も彼女が女子校に進学しなければ同じ高校[ところ]へ行くつもりだった。そして青年の方の名前が青木宙。家が道場で三人兄弟の末子に当たる。武志は宙の兄は怖くて苦手だった。しかも桃子の父と宙の父が親友だとかで、桃子と宙は小さい頃からいつも一緒だった。武志からしてみればかなり気に食わないのだが、流石に勉強面では敵わないので、体育関係ではよく対抗心を燃やしていた(・・・ということを本人は認めたがらない)。因みに宙の進学先は技術系の進学校(男子校)で、自宅から通うには距離がある為、寮生活である。もちろんこの二人も例の幼馴染メンバーだ。

「あ★武志君久しぶり〜!元気だった?」

「よっ、武志。背、伸びたな。」

「あ、ああ・・・。」

こうして、五人は久々の再会を果たす事となった。

 

 

 

 

 

 同窓会が終わって、夕日色に染められつつある道を五人は連れ立って歩いていた。この道はかつては彼らの通学路であった。

「わ〜、懐かしいなぁ〜・・・。」

緑が珍しく年相応の調子で言った。街並みを眺めては昔を思い出すように目を細める。桃子はピ●クハウスのスカートを揺らして楽しそうに言った。

「でも、何かさ、こうして五人でまた帰れるなんて嬉しいよね。」

「今日は緑、桃ん所に泊まってくんだよな。」

「そうだけど?」

宙の言葉に緑が頷く。

「じゃあさ、どこか行ってみたい所ないか?昔遊んだ所とかで。」

「うーん・・・。」

緑が頬に手を当てて考えていると、

「あ!!」

武志が唐突に声を上げた。

「そーだ。せっかくだし、あそこ行かねーか?」

『あそこ?』

武志の言葉に他の四人は異口同音に聞き返した。

「小学校以来行ってないだろ、あの山。」

『ああ!』

彼らの声が重なった。

 

 

 

 

 

「でもさ、思ったんだけど、この時間に山登りって危なくない?」

 一度家に帰ってから着替えて待ち合わせ場所に来た緑は言った。紺のジーパンに白のワイシャツ、髪をポニーテールに結い上げたその姿は先程と異なり活動的だ。もちろん靴はスニーカーである。

「確かにもうすぐ日も暮れますしね・・・。」

「何かこういう格好してっと、昔と変わんねーよな、緑は。」

瞬平は考え深気に同意を示し、武志はいかにも深い考えがなさそうな発言をした。

「だけど、本当ここに来るの久しぶりだよね〜。静音さん元気かな?」

「桃、あんな奴の事、いちいちサン付けで呼んでやる事ないぞ。」

「え〜、でも一応目上の方な訳だし・・・。」

「いらないいらない、そんなの。」

桃子と宙の会話に緑が加わる。

「第一、前からサン付けで呼んでないし。今更そうするのも変だろ?」

「それはそうだけど〜。」

そんな会話を聞きながら瞬平が、

(それ以前に、今まで生きてるか死んでるかもわからないし。)

と思っていたのはここだけの話(笑)

「それにしても、瞬平。」

「何ですか、赤井。」

「お前、服全然変わってないだろ。」

 確かに瞬平の服装は同窓会の時とほとんど変わっていない。しかし武志の言葉に眉一つ寄せず彼は言った。

「靴は変えてきましたよ。」

「うぐっ・・・。」

「そうだぜ、瞬平の事よりお前の格好のほうが問題だと思うぞ、俺は。」

ブルージーンズとTシャツ姿の宙が武志に目を向ける。彼の格好はどう見ても『これからどこぞの秘境でも探険に行くんですか?』と尋ねたくなるような出で立ちだった。

「確かにちょっと恥ずかしいかも・・・。」

ピンク色のブラウスに白のキュロットスカートという格好をした桃子までもが呟く。

「いいだろ、別に!?」

顔を真っ赤にして武志は歩き出した。

「あ!おい、待てよ。武志!」

「ごめんね、武志君。怒らせるつもりじゃなかったの。本当だよ。」

その後を宙と桃子が追いかける。さらに緑と舜平が続き、以下は走りながらのこの二人の対話。

「ねぇ、どうして瞬平は来たの?」

「多分木田と同じですよ。」

「放って置いても勝手に行くだろうから、返ってそっち方が始末に悪いわよ。」

「わかっていて見捨てるのも後々寝覚めが悪いですしね。」

「本当にね・・・。」

「全く・・・。」

『赤井(君)は・・・。』

二人の嘆息は見事に重なっていた。

 

 

 

 

 

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