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テニスコート(町営)の裏側にある山。ここは小学生の頃よく五人で遊んだ場所だ。当時は知らなかったが、実はここ、立派に私有地だったりする。ここの持ち主の名前は雪代静音といい、ある日、いつものように山に入って遊んでいた五人は、彼に捕まってしまった。この出会いが五人に普通の小学生では有り得ない体験をもたらした訳であるが、当時の彼らが標準的な小学生であったかどうかは未だに疑問の声(誰からの声?)も大きい。それはともかくとして、山の中腹辺りまで来た五人は、少し休憩を取ることにした。地面に腰を下ろしている間も話題は尽きない。
「この調子なら、頂上に付く頃には星が見えるな。」
「ロマンチックでいいじゃない。」
「たまには、天体観測も良いでしょう。」
「こういう時って、街から離れてると得だよねー。」
「このまま御来光まで見てくってのはどうだ?」
「何言ってるのよ、赤井君。日の出まで何時間あると思ってるの。」
「緑ちゃんの言う通りだよ。そんなに遅くなったらパパに怒られちゃう・・・。」
「あら、青木君と一緒なら大丈夫じゃないの?」
「な、何言ってるのよぉ、緑ちゃんってば!宙ちゃんとはまだそんなんじゃ・・・。」
「あ、赤くなった。桃子ちゃんってば、カッワイー♪」
「キャー!キャー!ヤダー!!」
「・・・で、実際の所どうなんですか、赤井。」
「な、何でオレに聞くんだよ!?」
「僕は中学から違いましたし。」
「だから!何でオレに聞くんだよ!?宙に聞けよ!!」
「いえ、何となく・・・。」
(そっちの方が面白いから・・・。)
という本音は腹の中に隠して、瞬平は宙の方へ目を向けた。暗くてその表情は判らなかったが、昔と彼が変わってなければ恐らく照れているのだろう。宙と桃子の仲は小学校の頃からすでに公認のレベルだった。本人達が肯定したことは一度もなかったが・・・。
「そ、そういえばさ!あの人の家もこの辺りだったよね!?」
必要以上に大きい声で桃子が言った。明るければきっと頬が薔薇色に染まっているのがわかるだろう。桃子はクォーターなので肌の色が白く、そういう意味では目立ちやすい。
「というより、秘密基地だよな、あれは。」
「まあ、確かに建築法には引っ掛かってそうな感じではありましたね・・・。」
「なつかしいな〜。ああ、過ぎ去りし我が青春の戦いの日々・・・!」
「嫌な青春もあったものね・・・。」
「何だと、緑!?」
ボソリと漏らした緑に武志が突っ掛かる。
「武志君!せっかくみんなが揃ってるのに喧嘩しないでよ!!」
「それ以前に、今から過ぎ去っていたらまずいでしょう、青春が。」
「瞬平!止めろよ、お前までぇ!?」
「てめぇー!緑!待ちやがれ!!」
「待てといわれて待つ奴がどこにいるってのよ!?」
「ちょっと!二人とも何処行くんだよ!?」
「待ってよ、宙ちゃーん!」
「やれやれ、皆さん、まだまだ子供ですね・・・。」
お前ら何歳[いくつ]だよ・・・とツッコミたくなるが、それはひとまず横に置いといて―――――。こうして五人は獣道から林の奥へ分け入ることになってしまった。それにしても命知らずな・・・と思ってしまうのは自分だけでしょうか?(作者談)
「止めろよ、武志!」
「離せ、宙!」
「それ位でムキにならないでよ!」
「もう喧嘩しないでぇー!」
「木田、らしくないですよ?」
「だって・・・!」
「わかった!アレの日だろ、お前!?だからそんなに突っ掛かってくんだろ!!」
『うわ!?最っ低!!』
「おい、いい加減に・・・。―――――――――!?」
『!?』
暗い中で五人が押し合い圧し合いしていた所、急に地面が崩れ落ちた。自分達の身の上に何が降りかかったのか彼らにはまだ分かっていなかった。突然感じた浮遊感、そして落下感。悲鳴を上げる間もなく、彼らは闇の底へと落ちていく―――――――・・・。
「痛タタタタ・・・。何なのよ、もう!」
「桃!大丈夫か!?」
「何とか〜。宙ちゃんは〜?」
「大丈夫だ。瞬平は・・・。」
「平気ですよ。」
「じゃあ武志・・・・・・て、何やってるんだ、お前?」
「水筒の紐が引っ掛かって取れないんだよ!」
「だから止めろって言ったのに・・・。」
「世界・不●議発見!の人形みたいな格好してるからよ。」
「ヒ●シ君人形?」
「そう、それ。」
「何でもいいから早く助けろ!宙に瞬平!!」
「はいはい・・・。」
「人にモノを頼む言葉じゃありませんが、仕方ないですね・・・。」
落ちる途中で引っ掛かってしまったらしい武志を宙と瞬平が救出に向かった。全く昔からではあるが、人騒がせな男である。
「ところでさ、ここ、どこだろう。」
人心地付いた後で武志が言った。SF映画に出てくる宇宙基地を思わせる銀色の光沢を放つ壁。埋め込み式の電灯に、壁と同様材質のよく判らない滑らかな床。
「あいつの家にも似てるけど・・・。」
「あそこには継ぎ目もちゃんとありましたしね・・・。」
緑と瞬平が何やら難しそうな顔をする。
「とりあえず明かりがあるのは助かったけど・・・。」
「宙ちゃん、どうしよ〜・・・。」
「登って出る訳にもいかないし・・・。」
「よじ登るのは流石に、桜島には無理でしょうからね。」
「―――――――変身すればできるんじゃないか・・・?」
『げっ・・・!?』
武志の言葉に宙・緑・瞬平の三人が露骨に嫌そうな顔をした。すると・・・
ビ―――ビ―――ビ―――ビ―――・・・
「うわ!?」
「何これ!煩っ!?」
「何なのー!?」
「頭に響きますね・・・。」
「きっつー・・・。」
けたたましいサイレン音が辺り一面に響き渡った。堪らず耳を塞ぐ五人。サイレンの音に隠れて微かな振動音。その変化に彼らが気づいた時にはすでに遅く、音が止んだ頃には、天井の穴は塞がれ、何だか分からない場所に五人は閉じ込められてしまった。
「う、嘘でしょ・・・?」
天井を見上げて緑が呟く。桃子は半泣きの表情で宙にしがみ付いていた。武志は口をあんぐりと開けたまま馬鹿面を晒し、瞬平は早くも別の脱出ルートを探して壁を調べていた。
「まさか、閉じ込められるとは・・・。瞬平!」
「何です?」
宙に声を掛けられ、壁を軽く叩いていた瞬平が振り返りもせず答えてきた。
「壊せそうか?」
「そうですね、材質の判らない事には、何とも言い様が・・・。」
「じゃあ、手分けしてどこか出れそうな場所を探そうぜ。」
「うん・・・。」
「わかったわ・・・。」
「別に変身すれば一発じゃ・・・。」
武志の言葉をさり気なく無視して、一同は脱出ルートの捜索にかかった。
約三十分後・・・、五人は再び一箇所に集まりそれぞれの成果を報告し合った。しかしそのどれもが空振りに終わっていた。
「一応繋ぎ目みたいのもあるんだけど、溶接してある感じで手が付けられないんだよ。」
宙は言った。瞬平も
「とりあえず壁の向こうにも空間があるのは確かなんですが・・・。」
と思案顔だ。続いて緑は
「床にも何かあるみたいなんだけど、それが何かはわからないわ。」
と溜息交じりに話し、桃子は
「ごめんなさい、私こういうの苦手で・・・。」
と俯いた。
「それで武志は・・・。」
「オレにそんな事分かるわけないじゃん!」
何故か誇らしげに語る武志に、『やっぱり・・・。』という顔で緑達は視線を交わした。そんな時だった。
ピーンポーンパーンポーン
どこからともなくチャイムの音が聴こえてきた。思わずキョトンとする五人に続いて聞こえたのは、聞き覚えのある声だった。
「あー、テステステス。只今マイクのテスト中。只今マイクのテスト中。」
「うげ!?」
「こ、この声は・・・!」
「やっぱり・・・。」
「奴でしたか・・・。」
「な、何者だ!?」
『忘れたのかよ!?』
武志のボケに揃って全員がツッコミを入れた所で、放送の続きが流れた。
「ウォッホン!えー、この度はー、チルドレンジャーの諸君、よくぞ我が戦慄の迷宮まで辿り着いた。」
「戦慄の迷宮?」
「何だよ、それ。」
「それ以前に辿り着いてないし・・・。」
「落ちてきただけだもんな。」
「というか、その名前で呼んでほしくないんですけど・・・。」
五人が口々にコメントする。さらに放送は続いた。
「それでこそ声紋付トラップを仕掛けた甲斐があったというものだよ、ハッハッハ!」
『・・・・・・。』
「トラップ・・・?」
「声紋付・・・?」
「えーと、つまりそれって・・・。」
言葉を反芻する三人の顔色が悪い。他にあまりの展開に反応できていない者が一人、初めから会話を理解できていない者が一人。
「そうだな、天才の僕と違い、出来の悪い君達には理解できていないかもしれないから、説明してあげよう!」
何処にあるかは不明だが、スピーカー越しに聞こえてくる自信過剰な男の声に早くも険悪なムードが漂いつつあった。
「一応この山の何箇所かに密かに登録しておいた君達の声のデータに反応して、落とし穴を作動させる罠を仕掛けておいたんだ。もちろん声変わりした場合も考慮して、君達の身内の声のデータも無断使用し、シミュレーションし、いくつかサンプルパターンもこっちで勝手に造らせてもらったよ。しかもおかげで五人全員引っ掛かってくれたみたいだな。いや〜、実に愉快愉快。」
「何だと!?」
「ぜ、全部貴様のせいかー!雪代静音!?」
「あっの・・・バカガクシャー!!(馬鹿と科学者を掛けてる)」
「これだからマッドサイエンティストは・・・。」
「ひっどーい!何でこんな事するのー?」
そう、スピーカーの声の主は、この土地の持ち主たる雪代静音氏であった。彼の人物は天才科学者を自称するナイスガイだった(黙っていれば)。しかし彼の問題発言に五人からは非難に声が上がっている。
「何はともあれ、こうして声を聞くのも久しぶりだろうから十分に堪能してくれたまえ。」
【何を!?】
心の中でのツッコミは見事に唱和している五人である。
「まあ、せっかくだから少し昔話でもしようか。君達はそこで好きに寛いでくれたまえ。」
「寛げと言われてもー・・・。」
「ここ、何もないんですけど・・・。」
宙と緑が周囲を見回して言った。あるのは落とし穴から一緒に落ちてきた土くればかりである。
「さて、君達が順調に進学していれば、今は高二かな。赤井君もちゃんと高校生になれたかい?」
『ブッ!』
「よ、余計なお世話だー!」
静音の言葉に武志以外の四人が一斉に吹き出す。武志は腕を振り上げて反論した。確かに武志は小学生の頃から理数系が駄目駄目なお子様だった。反対に瞬平はそっち方面が得意だった。何しろ彼はボールではなく機械がお友達だった少年である。当時世間を騒がした某カリスマハッカーの正体が実は小学生の奴であった事を知る者は少ない・・・。
「それにしても、君達がチルドレンジャーとしてブラック・サンダーを打ち倒してから、もう七年近くが経つ訳だ。その節は実にご苦労であった。しかしこれも全てこの天才が発明したバトルスーツ他の力に因るもの!満遍なく感謝したまえ。おかげで諸君らはヒーローとして活躍できたのだからな。ハーハッハッハ!」
ここで初めての読者にも分かるように説明しよう!武志達五人が小学生だった当時、世間にはブラック・サンダーを名乗るかなりお間抜けな(特に総帥が)悪の組織が度々出現し、恐怖と混沌の代わりに迷惑と笑い話を振りまいていた。そんな組織からご近所の平和を守るために結成されたのが、我らが五色戦隊チルドレンジャーである!その実体は妄想持ちの発明家が捕まえた子供達を口車及び賄賂で丸め込み・・・もとい、説得した結果生まれた組織的正義の味方であった。
「発明っていうかさ〜・・・。」
「あの、なんちゃって空中元素固定装置?(永井先生及びにファンの皆様御免なさい)」
「というよりも、登録データが古いんだよね。」
「まあ、発明者の歳が歳ですから・・・。」
宙と緑の会話に瞬平が加わり、
「そうかぁ?オレはカッコイイと思うけど・・・。」
さらに武志と、
「そりゃ、武志はさ〜・・・。」
「でも、全身改造とかじゃなくて良かったじゃない。」
桃子が加わる。
「確かに桃子ちゃんの言う通り、改造実験手術は黄金パターンだったもんね。」
「そうそう、仮面ラ●ダーとか・・・。」
「サイボ●グ〇〇九とか。」
「あ、私、藤岡●ロシさん、結構好きだよ。」
「あー、初代ね。」
「関係ないけど僕達の作者は意外と001がお気に入りだそうですよ。」
いや、何となく奴のキャッチフレーズが気に入ってまして・・・。というような、裏事情はともかく、静音の放送を無視してしばし話し込む一同。この間の彼の言葉は自画自賛か、あまり今回の話には関係ない思い出話なので、聞いていなくとも大して支障はなかった事に一応触れておく。
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