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「そういう訳で君達は無事ブラック・サンダーを倒し、地球に平和を取り戻した。その件については非常に素晴らしい活躍であったと僕も思っている。だが、しかし・・・本当の悪は別にいたのではないか?あの頃はまだ小さすぎてわからなかったが、成長すればブラック・サンダーよりも厄介極まりない、真の悪の芽ともいうべき存在が!」
【何を寝ぼけたことを言ってるんだこいつは・・・。】
熱弁を振るう静音に冷めた視線を向ける一同。しかしかれのテンションはますますヒートアップしているようだった。やがて彼はとんでもない事を言い出したのである。
「・・・そして、僕はその悪の芽が君達であると判断した!毒をもって毒を制することができたとはいえ、君達の内に潜んだ悪の魂に気づかなかったのはこちらの責任だ。」
『ちょ、ちょっと待てー!?』
静音の爆弾発言に立ち上がって反論する五人。
「だ、誰が悪の芽だ!?」
「心外ですね・・・。」
「ちょっと、何様のつもり!?」
「大体、ブラック・サンダー[あいつら]なんかと一緒にするなよな!」
「ひどいよ、私悪い事なんてしてないのに・・・。」
「然らば、この僕自らがその芽を摘み取る以外にあるまい。悪に力を与えてしまったせめてもの罪滅ぼしだ・・・。」
何やら感慨深げな口調で語る静音。その一方で五人はあまりの言い掛かりに堪忍袋の緒が切れそうになっていた。さらに静音の口上は続く。
「もちろん君達はすでに悪の塊であるからして、自らの罪にさらさら自覚はないだろう。」
「今度は悪の塊かよ!?」
宙のツッコミがはいる。というか、普通そうしたくなります。
「どんどん扱いが酷くなっていくような・・・。」
緑は何となく嫌な予感がした。
「ここで有無を言わさず君達を滅ぼすのは簡単だ。しかしそうしてしまっては自らの行いに恥じ入り懺悔する事もできまい・・・。正義はかくあるように慈悲深くなければいかんのだ。」
「まったく、何様のつもりですか、この男は・・・。」
瞬平があきれ果てた口調で言葉を吐き出した。
「そこで考えたのだが、君達がこれまで犯した罪状を一つずつ並べ立ててみようと思う。まずはチルドレンジャー・レッドこと赤井武志君。君はかつてこの僕が徹夜で仕上げた研究データを保存する前に見事消去してくれたね・・・。」
「へ・・・?」
静音の言葉に間の抜けた返事をする武志。
「そんなこと、あったっけ?」
どうも当の本人は覚えていないらしい。
「あー、あったあったそんな事。ほら、赤井君がコンピューターのボタンやり方知らないくせに適当に弄ってたら・・・。」
「そうそう、画面が急にブラックアウトしてさ・・・。」
「緑に宙。よくそんな事覚えてるな・・・。」
「覚えてない方がおかしいわよ。」
「私も覚えてるよー?あの時静音さん凄く怒ってて怖かったもん。」
「うー、そういえばそんな事もあったよう・・・な?」
桃子にまでそう言われると何となくそんなような気がしてくる武志であった。
「次にチルドレンジャー・ピンクこと桜島桃子君。君はかつて僕のパソコンにお茶をこぼし、しっかり駄目にしてくれたね。」
「そ、そんな・・・。わざとじゃないのにー!」
「大体、お茶入れてくれって頼んだのお前だろーが!」
「しかも、あんなコードでごちゃごちゃした場所に運ばせるんだもの、躓いて転んだっておかしくないわよ。」
「そ、そんな事あったんだ・・・。」
「本当何も覚えてないですね、赤井。」
「じゃあ、瞬平は覚えてるのかよ・・・。」
「もちろんですよ。」
武志の恨みがましい視線をさらりと受け流す瞬平。
「そしてチルドレンジャー・ブルーこと青木宙君。君は僕がせっかく時間をかけて造ってあげた装備を悉く壊してくれたね・・・。」
「悉くって・・・、そんなに壊してないぞ俺!しかもわざとじゃなくて不可抗力だ!!」
「宙の技は多彩な分、金属疲労や磨耗が激しくなりますからね。」
「そ、そういうもんなのか・・・?」
「そんなもんじゃない?」
時折呑気な会話を混ぜつつも、時間は進んでいく・・・。
「さらに、チルドレンジャー・グリーンこと木田緑君。君は僕が隠し金庫に入れてあったお金を勝手に抜いてくれたね・・・!」
「えー!緑ちゃんそんな事したの!?」
「勝手にってあんたは言うけどね・・・。着払いの荷物きたんだからしょうがないでしょ!?あんたのアンティーク趣味を悪いとは言わないけど小学生の財布でそんな物が払えるもんですか!!」
「そうですね、統一感無く手当たり次第収集しているのに選定眼だけは確かでしたね。」
つまりコレクションの中身は全部本物ということである。
「そういえば、何で緑、金庫なんて開けられたんだ?」
武志の素朴な疑問。
「俺も場所は知ってたけど・・・。今時レトロな回転式のやつだよな。」
宙の発言。これでは『隠しの』意味が無い。
「ああ、それはね。うん、ちょっと。番号をね、静音[あいつ]の守護霊に・・・。」
『・・・!?』
「そ、それって・・・。」
詳しい話はシリーズ本編参照。
「最後にチルドレンジャー・ブラックこと黒川瞬平君。君という奴は、本当に本当に・・・。マザーコンピューターを勝手に使用して、ペンタゴンやFBIのデータベースにハッキングするわ、ウィルス送りつけて滅茶苦茶にするわで・・・!俺の物を何だと思ってるんだー!!?」
「うわー!静音がマジ切れしたー!?」
「お前、他人の回線でハッキングするのやめろよな。」
「僕は足の着く犯罪が嫌いなんです。それにウィルスに関しては彼の自業自得ですよ。あまりにも僕のコンピューターは素晴らしい、ブロックシステムも完璧だとか何とか自慢するものですから・・・ぜひともその思い上がりを反省していただこうかと思いましてね。」
「瞬平、あんたって人は・・・。」
優雅に微笑を浮かべる瞬平にガックリと肩を落とす緑。どうも一番の悪党は瞬平[こいつ]な気がするのは自分だけでしょうか・・・?(作者談)
そんな時、先程とはまたタイプの違った電子音が聞こえた。続いて聞き覚えが無いが女性の声のアナウンス。
「ピーン。日の出まで、あと六時間三十六分。六時間三十六分。」
『?』
突然のことに戸惑う一同。そして静音はこう宣言した!
「さて、今のが聞こえたかね、チルドレンジャーの諸君。」
「だからその呼び方いい加減にしてほしいんですけど、本当。」
瞬平の呟き。
「日の出までの時間は聞いた通りだ。僕は親切だからカウントダウンの状況はできるだけ告知していくつもりだが、もし君達が日の出までにここから脱出できなければ、この地下施設は自動的に爆破される!」
『何だってー!?』
洒落にならないがこれが本当の爆弾発言である。
「気の毒だが生き埋めを覚悟していただこう。これも君達悪を滅ぼす為だ。一度でも正義に殉じた事のある君達ならきっと解ってくれると僕は信じているよ・・・!」
『解ってたまるかー!!』
即座に五人は叫んでいた。確かにこんな矛盾した発言で説得はできまい。
「しかし・・・もし君達の中に正道への渇望がまだ残っているのなら、チャンスをくれてやらない事もない。」
「なあ、瞬平。『せいどうへのかつぼう』って何だ?」
問い掛ける武志に、『こいつ本当に頭悪いんだな』という眼差しを向ける瞬平。
「何かその目すっげームカつくんだけど・・・。」
「気のせいだろ。」
ウィイイイイイイイイイイン
「あ!」
「扉が開いていく・・・。」
シャッターが横に開くかのように、何もなかった金属の壁に人一人通れる程度の穴が明いていた。その先にあるのは古い炭鉱跡のような土と岩に固められた壁。
「風は通ってるみたいだけど・・・。」
「明かりはないな・・・。」
「コウモリいたらやだなー・・・。」
「大丈夫だよ、桃子。オレがいるから。」
「いるから逆に心配なんですよ。」
「何!?」
入口らしい所から顔だけ覗かせる五人。
「その入口の先は僕が創り上げた地下ダンジョントラップ『カウントダウン・ラビリンス』だ。それと同時に地上へ行ける唯一のルートでもある。そこから無事脱出できたら君達が悪から正義に再び目覚める事が出来たと認めよう!」
「いや、正義かどうかはこの際関係ないんじゃ・・・。」
「そっちこそ、オレ達が悪だと二度と勘違い出来ないようにしてやるぜ!」
そう言って武志はこの場に居もしない静音に指を突きつけるのだった。
「そして苦しんで苦しんで苦しみまくるがいい!これまで散々煮え湯を飲まされたお返しだ!!」
結局何だかんだ言って単にただの私怨だったようである。それにしてもどっちが悪だか判らないセリフだぞ、雪代静音!
「というわけで!早速みんな変身だ♪」
武志が声高らかに宣言する。それを半眼で見つめる宙・緑・瞬平の三人に気づいてない桃子は言った。
「何か物凄く嬉しそうじゃない、武志君?」
「そ、そんな事ないぞ、桃子。ピンチの時こそチルドレンジャーの出番じゃないか!」
「自分達のピンチでもか?」
宙の声には棘があった。
「うっ・・・。でも変身した方が絶対早く脱出できるぞ!」
「それは・・・。」
「さっさと行かんと爆発するぞ?」
「煩い、静音。」
「やはりもっと前に息の音を止めておくべきでしたね・・・。」
瞬平の眼は据わっていた・・・。正直言って恐いです、この人。これまでの経験上・・・(作者談)
「おい、どうする緑?」
「どうするって・・・、あんな恥ずかしい真似この歳になってできないわよ。」
「俺だってそうさ。あんな時間がなくてその場のノリと勢いで決めた名前・・・。」
「大体赤井君のネーミングセンスが変過ぎるのよ!」
「それに比べたらまだマシってレベルだからな・・・。」
「何向こうでヒソヒソ話し合ってるんだよ、宙に緑。」
「こっちの話だから気にするな。」
少し離れた所から声をかける武志に宙が答えて、彼らは密談を再開した。
「でも本当の所、爆破ってどうなんだ?」
「やるんじゃない?だってアイツ馬鹿だもん。」
「そうだよなー、本当紙一重の馬鹿だもんなー・・・。」
「そうすると、やっぱりやるしかないのかしら?・・・嫌だけど。」
「嫌だけどな・・・。」
「瞬平は・・・?」
「・・・雪代静音――――――次に会った時には必ず滅ぼす・・・・・・!」
(嫌ぁあああああ!瞬平が切れたぁああああああああああああ・・・!?)
緑は怯えている。彼から立ち昇るドス黒いオーラが感じられた。
「ピーン。日の出まで、あと六時間。六時間。」
しかしこうしている間にも時間は確実に過ぎていくのである。ついに渋っていた三人も決断を下した。恥か生かと言われて恥を選んだのである。雪代静音への復讐を心に誓いながら・・・・・・。
武志を筆頭に彼らは変わった意匠の腕時計を身につけた。一応思い出の品であることには変わりないので話の肴にでもしようとこの場に持ってきていたのだ。御揃いのデザインのそれは、実はかつて静音が造って彼らに与えた変身装置(改)である。通信機能も付いているそれは、文字盤の色がそれぞれの変身カラーであった。因みに普通の時計(防水加工済み)としても使用できる。
「それでは・・・。いくぞ、チルドレンジャー出動だ!」
『オー』
やる気に欠ける返事と共に武志は叫んだ。
「変身!」
眩しい光が五人を包む・・・。そして光が収まった時、バトルスーツに身を包んで姿を現したのは――――――――まぎれもなくかつてヒーローとして戦ったチルドレンジャーであった。サイズの違いはとりあえずどこかに置いといて(笑)
こうして元戦隊ヒーローと自称天才科学者の戦いの幕は切って落とされた!
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