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「ピーン。日の出まで、あと五時間十四分。五時間十四分。」
「もう、一体どうなってるのよ!」
「ミミズ嫌ぁあああああ!!」
「随分と性質の悪い罠を仕掛けてくれたものですね・・・。」
「うわぁあああああ!何か上から落ちてきたー!?」
「少し落ち着けよ!」
チルドレンジャー達は早くも苦戦していた。グリーンはなかなか進まない行程に痺れを切らし出し、ピンクは大ミミズの大群に悲鳴を上げ、ブラックはブツブツと呟きながら独りで進み、レッドは何故か天井から落ちてきたコンニャクに絶叫した。ブルー一人ではフォローしきれるものではない。さらに・・・。
ウィ―――――――ン
「危ないピンク!」
機械音と共に降りてきたガラスの壁に気づいたグリーンがブルーの後に続こうとしたピンクを引き戻す。
「な!?」
「何だよ、これ!?」
「まずいですね・・・。」
結果、一行はブルー・ブラックとレッド・ピンク・グリーンのグループの二つに分断された。どう考えても後ろの集団は不安材料が多すぎた。
「ブルー、壊せますか?」
「やってみる。」
ブラックに言われてブルーが拳を繰り出す。
ビギッ
鈍い音がしてガラスにヒビが入った。
「これ、半端な硬さじゃねーぞ!見た目薄いのに・・・。」
「厄介な事になりましたね・・・。」
「何言ってるんだよ。もう二、三発やれば・・・。」
「無理ですね、あの男の性格上一撃でカタが付かなかった場合・・・第二トラップが発動します。」
「第二トラップ・・・?」
ブルーがマスクの下で眉をひそめた。その時!
ガコンッ
何の前触れもなくいきなり床がなくなった。またもや落下を経験する羽目になった二人。
「まあ、こんな感じで・・・。」
「そういう事はさっさと言えぇぇぇぇぇぇぇ・・・!」
ブルーの叫びがこだました。
「宙ちゃん!?」
ピンクが悲鳴を上げた。しかしブルーたちが落ちた穴は彼らが落ちて間もなく閉じてしまった。それでもガラスの向こうに行こうとするピンクをグリーンが制する。嫌な予感がする。首の後ろがチリチリするような感覚だ。何かまずい事が迫っている気がする。
「とにかくこの場を離れた方がいいわ・・・。」
「どうして!?」
ピンクの反論。多分彼女には分からない・・・。でも感覚は次第に強くなる・・・・・・。
「!?」
「どうした?」
レッドが声をかける。その声に耳を貸さず、グリーンは僅かに聞こえてくる振動音に耳を澄ます。
「逃げるわよ!」
「へ?」
「いいから早く!」
「え!?」
グリーンは有無を言わさずピンクの腕を掴むと走り出した。慌ててその後を追うレッド。少ししてレッドの声に振り返ったグリーンの予感は確信に変わった。なんと彼らの後ろには雪崩か土石流の如く押し寄せる水があったのだ!
「キャー!何これー!?」
ピンクの悲鳴。
「驚いてる暇があったら走りなさい!飲み込まれるわよ!?」
グリーンの叱咤。
「でも、追いつかれちゃうよー!」
「くそ、こうなったら・・・能力発動だ!」
「え、ちょっと待って・・・。」
レッドの宣言。グリーンが制止する間もなく、彼は能力発動の言葉[キーワード]を叫んだ。
「くらえ、水には火だ。バスガス爆発バスガス爆発バスガス爆発!」
「馬鹿!こんな狭い所でそんな技使ったら・・・。」
「キャー!天井が崩れてきたー!?」
「こういう事になるのよ!ボケ赤井!!」
ゴゴゴゴゴ・・・
ガラガラガラ・・・
ドカドカボカーンッ
怒声と悲鳴、その他諸々の音を巻き込んで三文パニック・ムービーよろしく三人を混乱の坩堝に叩き込んだ。なお、チルドレンジャー・レッドの能力は早口言葉である。例えば『生麦生米生卵』と唱えれば生卵が雨霰のように敵に降り注ぐ何とも嫌な技が発動するわけである。食糧危機の国々や養鶏家の皆様には大変申し訳ない技でもあった。そして先程レッドが使用した技は爆発を引き起こすものである。唱える数が多いほど威力も上がるのだが、レッドは素材が良くないので舌を噛んで失敗することもしばしばだ。因みに唱え間違えると発動しない。まあ、こうなってしまっては今更何を言っても遅いのだが・・・。
「まさか、落ちた先に氷の滑り台があるとは・・・。」
「剣山とかでないのは助かりましたけど・・・。」
一方その頃ブルーとブラックはどこに迷い込んだか氷点下二十度の世界にいた。この温度を実感したい人は北海道の『流氷凍[しば]れ館』に行こう!長時間いると寒さでどこかおかしくなること請け合いです。因みに作者一行が訪れた際には一同皆テンションおかしくなりました(実話)
「驚いて能力使う所じゃなかったしな。」
「おかげで現在地がわからなくなりましたよ・・・。」
「相変わらずだな、お前は・・・。」
バトルスーツのおかげで寒さに関しては大した問題にならない。ただ他の三人と分断されてしまったのは痛かった。中身も問題だが、基本的に活用度の高い能力ではないのだ、あの三人は。そういう意味ではブルーとブラックの能力の方が上である。
「瞬間的な爆発力は彼女らの方が上なんですけどね。」
「あー、何にしろ心配だぜ。早く合流しないと。」
「さっきので大分離されてしまったみたいですからね、急ぎましょう。」
「ん?あれ何だ・・・?」
ブルーの言葉にブラックも立ち止まる。目を凝らすと遠くから何かがこちらに近づいてくるようであった。数もそれなりにある感じである。黒と白のコントラスト。周囲は氷の世界だ。
「ペンギン・・・?」
「・・・に、見えなくもありませんが。本物ですかね?」
「この距離じゃ、ちょっとなー・・・。」
それは確実に接近中であった。やがて姿がはっきりしてくる。
「うひゃー、壮観だぜ。少なくとも外見上は本物そっくりだな、こいつら。」
「桜島辺りは喜びそうですが・・・。鳴きませんね、やはり偽物でしょう。よくできているみたいですが・・・ね。」
そこに二十数羽はいそうなペンギンがいた。彼らとの距離はおよそ五十メートルといった所か。そして、そのペンギンらしき物は上を見上げて高らかに鳴いた。
『コケコッコー!』
『・・・・・・。』
ブルーは自分の頭の中が白濁していくのを自覚していた。ペンギンの姿をした鳥が鶏の声で鳴く、それはある意味カルチャーショックだったのかもしれない。気が付けば彼は思いっきりズッコケていた。ブラックは怒りのあまりに気が遠くなりそうなのを必死で堪えて、それでも残る頭痛に頭を抱えていた。
『コケー!』
そんな彼らの苦悩を知ってか知らずか、鶏もどきペンギンはワラワラとこちらに迫ってきた。さらにそれらは口々に叫びながら何かの塊を吐き出してきた。慌ててそれを回避する二人。
「うわ!何だよ、これ!?」
「ドライアイス!?」
「危ねーな、生身だったら火傷してるぞ?」
「コケー!」
「コケコケコー!」
またもや何かを吐き出すなんちゃってペンギン共。しかも今度は液体のようだ。
「だー!?本気で危ねーぞ、これ!!」
「液体窒素・・・。」
こんな物を食らったらスーツで中身は無事でも凍り付いて動けなくなってしまう。
「逃げるぞ!」
「当然です!」
ブルーとブラックは揃って逃げ出した。
「コケー!」
「コケッコー!」
「コケコッコー!」
それを追うもどきペンギン達。こうして『ウサギとカメ』もびっくりの追いかけっこが始まった。
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