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ピチョーン・・・ピチョーン・・・・・・
水の滴り落ちる音にグリーンは目を覚ました。どうやら濁流に巻き込まれた際、意識が飛んでいたらしい。立ち上がると頭がクラクラした。
「うー・・・?」
辺りを見回すとどうやら鍾乳洞を思わせる場所に自分がいる事がわかった。
「ほ、本物・・・?」
偽物だったらそれはそれで凄い事なのだろうが、グリーンにはこんな場所に心当たりはなかった。子供の頃からこの土地に住んでいたのに存在すら知らないとは・・・。
「不覚だわ。」
その言葉には悔しさが滲み出ていた。少しして、グリーンは三度程深呼吸を繰り返した。
「さてと。どうも他の二人とは離されちゃったみたいね・・・。」
その声色はすでに落ち着いたものになっていた。
(まあ、その方が良かったのかもしれないけど。)
「多分、こーれーは、静音の仕掛けとは関係ないんだろうけど・・・。」
唐突に生暖かい風が吹いてくる・・・。
(ひょっとして、わざとこういう設計にしたとしたら・・・?)
「うわっ、最低ね。」
グリーンが吐き捨てるように言い放った。
「ピーン。日の出まで、あと三時間八分。あと三時間八分。」
(時間もないし・・・。)
「いいわ、相手してあげる。まとめてかかってきなさい!」
何かがざわめく音。彼女以外にも聞こえる音と彼女にしか聞こえない音が同時にした。マスクの下でグリーンは瞳を細くする。
「臨[のぞ]める兵[つわもの]闘う者、皆、陣裂[やぶ]れて前に在り!」
グリーンが発動の呪を唱える。彼女の手元にエメラルドグリーンの光が集まる。光は間もなく細長い形状を取り、やがて確かな形に具現化した。それは木刀だった。グリーンの能力は思念エネルギーの具現化である。彼女の獲物が何故木刀なのかというと、中身の人物が剣道の有段者だからだろう。道場には小学生の頃から通っており、腕は相当のものである。
「う〜ら〜め〜し〜や〜」
ひゅ〜どろどろどろどろ・・・
白単、すなわち日本古来の死装束を纏った女が姿を現す。その後に続くのは長目な黒いマントにタキシード、犬歯が不自然なまでに鋭い男。さらには包帯グルグル巻きの性別年齢不詳人間、人間の服を着た二足歩行の狼や、キリン並に首の長い和服の女・・・。それはまさに『古今東西世界のお化け大集合!』とでも呼ぶべき光景だった。
グリーンにはこれらの多くの出所が分かっていた。おそらく原理は自分の能力と同じであろう。保存しておいた思念エネルギーを利用してあらかじめプログラムしておいた妖怪等の姿を具現化したのである。これは別に問題ない。同じ思念エネルギー同士だ、相殺できる。向こうの総エネルギー量がこちらの精神力等を上回らない限りは。ただ厄介なのは・・・。
(エネルギー体[こいつら]に釣られて本物まで集まっちゃてるのよね・・・。)
こればかりは他の四人には出来ない仕事だ。
「それじゃあサクサク祓うわよ〜!」
グリーンは木刀を前に構えた。
「ひ〜ん、緑ちゃんどこ〜・・・?」
「な、泣くなよ、桃子。な?」
グリーンと逸れたレッドとピンクは再び最初と同じSFチックな金属風の通路を進んでいた。すっかり素に戻っている二人であったが、ようやく辿り着いた先は行き止まりであった。正確には何かモニターのようなものとボタンがいくつか。上下左右を示しているボタンや○×タイプのものはわかりやすいが・・・。
「何だ・・・これ?」
何の考えもなくレッドは一番右端にある大き目の赤いボタンを押した。すると電源が入ったのかモニターの画面が作動する。そして・・・。
「チャラチャッチャラーン♪(効果音) やあ、今晩は。クイズトラップエリアにようこそ!早速ルールを説明するよ。一回しか言わないから注意してね。この先の道にはいくつも扉があって、その扉ごとにこうしたモニターがあるんだ。そして扉ごとに五問ずつクイズが出されるよ。三問正解でその扉はクリア!ただし一問間違えるごとにペナルティーがあるから気をつけてね。クイズは全部で五十問から百問位。見事全問正解すれば天国行き、つまり地上への直行便さ★もちろん扉をクリアしただけでもかなり出口に近い所まで行けるよ。でもトータルで十問以上間違えたら地獄行き〜!迷宮の相当奥まで戻ってもらいまーす。それじゃあ、心の準備は出来たかな?クイズを始める場合は〇ボタンを押してね。」
子供の声でアナウンスがされる。しかしレッドとピンクの動きはぎこちない。緊張しているのだろうか。
「い、今の声・・・。」
「うん・・・。ブラックの・・・というか、黒川君の・・・。」
そう、それはブラックこと黒川瞬平の声変わりする前の声・・・すなわち小学生時代の彼の声だった!あの頃でさえ敬語で話していた彼の声で女の子のような可愛らしい喋り方をさせるとは・・・。彼を知るものにとっては果てしなく怖い代物だった。
「ピーン。日の出まで、あと四時間十一分。四時間十一分。」
もはや時間の猶予はない。二人は決断した。
「あ、何か物凄く腹立たしい事があったような・・・。」
ペンギンもどきから逃げながらブラックがふと思い出したかのように口にした。しかし隣を走るブルーにはそれを聞き咎めている余裕はない。
「ここはもう腹くくって能力使うか・・・?」
ブルーは自問した。・・・というか、まだ迷ってたのか、お前は?
「おい、やるぞ。」
「了解、ブルー。」
軽く目配せした後、二人は叫んだ。
『能力型(パワー)検索(リサーチ)!』
二人の体を白い強い光が包み込む。光の中でブルーはゴーグル越しに見える検索画面からリストアップされたものを選び取る。ブラックも基本的システムはブルーのものと同様だ。そして彼らの能力が発動される。ブルーが言葉を紡ぐ。
「型[タイプ]・スレ●ヤーズ。」
そしてブラックも。
「型・ド●ゴンクエスト。」
「それじゃーいくぜ!フ●イヤー・ボール!!」
「メ●ゾーマ。」
炎がメカペンギンに襲い掛かる。そう、彼らの能力は・・・ブルーが漫画や小説の、ブラックがゲームに登場する技の具現化であった。
「いきますよ、ブルー。」
「おう!」
「ピオ●ム。」
ブラックが唱えた呪文は機動力を上げる為のもの。
「フリ●ズ・アロー!」
そしてブルーが氷で攻撃する。
「イオ●ズン」
ブラックの呪文と伴に爆裂音。
「やりすぎだー!」
ブルーの叫び。
「さて、逃げますよ。」
ブラックの飄々とした声。それに混じって何かが崩壊するような音・・・。
「な、雪崩が起きてるじゃねーかー!?」
「そうですねぇ・・・。」
三十六計逃げるにしかず。ブルーとブラックは氷点下の世界から全力で逃げ出したのだった・・・・・・。
「ピーン。日の出まであと二時間。あと二時間。」
グリーンは鍾乳洞らしき場所から再び炭鉱らしき場所に戻っていた。レッドとピンクを探しつつ地上を目指す。ブルーとブラックならきっと大丈夫だろうと思っていた(実際はあんまり大丈夫じゃなかったみたいだが・・・)。何はともあれあと二時間。日の出まで百二十分しかないのだ。このままでは徹夜は確実である。疲労と睡魔と戦いながら彼女が走っていると・・・。
ボコッ
そんな音と共に壁が抜けた。
『!?』
ドシーンッ
歪な直方体が通路に倒れこむ。グリーンは慌てて足を止めた。危うく抜けた壁に挟まれる所だった。
『グリーン!』
「レッド、ピンク、ブルー!?」
何と壁の穴から姿を現したのはレッド・ピンク・ブルーの三人だった。
「よかった〜、大丈夫だった?」
そう言ってピンクがグリーンに抱きついた。
「うん、私は平気だけど・・・あれ、ブラックは?」
よく見ると、ブルーと一緒にいたはずのブラックがいない。グリーンはブルーの方を見つめる。
「あいつは・・・多分もう外だと思う。」
ブルーは言った。
「は?」
グリーンは彼の言うことが理解できなかった。
「逃げたんだよ、一人で!」
腹立たしそうにレッドは言った。
「逃げたぁ!?」
「でも、わざとじゃないと思うの・・・。」
驚くグリーンにピンクが恐る恐る意見を述べた。
「一体、何があったのよ?」
『実はー・・・。』
グリーンの問いに彼らは口を開いた。
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