―――――――――――ブルーの証言

 氷点下の世界の出口をブルーのゴーレム作成術で蓋をし、雪崩にはとりあえず栓をすることが出来た。そのまま岩を刳り貫いた洞窟のような場所を進んでいくと次第にどこかの遺跡を思わせる感じになってきた。

「本当にここ、あの山の一部なのか?まるでイ●ディ・ジョーンズに出てくるような場所だぞ。」

ブルーは言った。すると一緒に走っていたブラックが突然立ち止まる。彼の行動が理解できないまま慣性の法則に沿ってブルーはブラックを追い越した。その途端。

 

ガッタンッ

 

床がなくなった。ワンパターンな展開だが落ちた方はやはり慌てるものである。

「うをおわあああぁああああっつ、レ●テーション!」

パニックを起こしかけて、それでも必死で空中に浮く呪文を唱えた。下を見れば情け容赦ない勢いで剣山が生えていた。しかも所々錆付きである。これでは刺さり所が悪ければ間違いなく死ぬし、掠っただけでも破傷風の危険性がある。

(あ、あの野郎・・・。本当に殺す気か!?)

ブルーは背筋が凍りつく思いがした。

「ああ、やっぱり・・・。」

ところがブラックはさも当然と言わんばかりに一人頷いている。

「お、お前・・・。まさか、気づいてたのか?この罠に・・・・・・。」

「ええ、それがどうかしましたか?」

「ならさっさと教えろー!!」

平然と聞き返してくるブラックにブルーは怒鳴り返した。

 彼らの珍道中はさらに続く。

「ちょっと待ってください。」

そう言ってブラックはブルーの膝の後ろを軽く蹴った。俗に言う『膝カックン』というやつである。

「うお!?」

バランスを崩して尻餅をつくブルー。

 

ヒュゴッ

 

そしてその横を矢と思われる物体が猛スピードで通り抜けた。

 

ヒュンヒュンヒュンヒュン・・・

 

まだ人がいない場所にも矢は真横に飛んでくる。

「成る程。時間差ですか・・・。」

一人納得しているらしいブラック。

「どうもここは地面を踏むと矢が連続して飛んでくる仕掛けのようです。」

「・・・た、助かったけど、今度はもう少し早く頼むな?」

「いいですよ、気が向きましたら。」

「おい!?」

ブラックの極道な発言にブルーが声を上げた。しかし彼らの苦難はこれだけではなかったのである。

 床から竹槍が出てきたり蛇が這いずり回る穴に落ちそうになったり天井から蠍が降ってきたりしながらも彼らは地上を目指して駈けずり回った。

「な、何て嫌な仕掛けだ・・・。」

流石に息が苦しくなってきたのか、かなりへばった様子でブルーは進む。一方ブラックはいつものポーカーフェイスだ。

「何で、そんなに普通なんだよ・・・。」

「さあ、君が代わりに驚いてくれてるからじゃないですか?」

ブルーの言葉にいけしゃあしゃあと返すブラック。

「お、お前はどうして、こう、いつも、そうなんだよ!」

 

ガコンッ

 

「え・・・?」

ブルーは苛立ちを壁にぶつけた。拳を岩に叩きつける、硬くて鈍い音がするはずだった。痺れる様な痛みと手応えが残るはずだった。しかし、ブルーが聞いたのは何かが抜け落ちるような音。感じたのは手応えの無さ。手元に目を向ければ、レンガ一つ分程の石が経込んだ跡。正確には押されて引っ込んだ跡・・・。

「う・・・。」

振動音。床も壁も震えている。何かが転がる音。それが近づいてくる音。

「!?」

それを見た時、ブルーは小学校の運動会の大玉転がしを思い出した。そう、大玉。巨大な球状をした岩石がこちらに転がってくる・・・!

(下り坂が続くんでどこか怪しいとは思っていたけど・・・。)

ブルーの叫び。

「こんなのありかよ〜!?」

ありです(笑)

「今回は僕のせいじゃありませんよ。」

「何平然と自己弁護してるんだよー!?」

今度は岩球に追われて逃げまくる二人。一生にここまで一晩の内に走り回る事はまずないだろう。そういう意味では貴重な経験なのかもしれない。

「何かないのかよ!この岩どうにかするような呪文とかさ!?」

「そうは言いましても・・・。結構不便なんですよね、狭い所で使えるものが少ないから。」

ブルーの訴えをあっさり受け流すブラック。

「本当にないのかよ!?あ、そうだ!ル●ラとかは!?移動魔法!!」

「あれはダンジョンでは使えないでしょう?」

しかしブルーはなおも食い下がった。

「じゃあ、リレ●トは!?」

ダンジョン脱出専用の呪文の名前を言われて、ブラックは走りながらポンッと手を叩いた。

「ああ、そう言えば忘れてました。リ●ミト。」

「あ、馬鹿!俺を置いてくな・・・!?」

サラリと呪文を唱えて、ブラックはその場から姿を消していた。

「く、黒川の裏切り者ー!!」

ブルーの悲痛な叫びに答えたのは迫り来る岩の音だけだった(気の毒にな・・・)。

 

 

 

・・・・・・そんな訳で、回想終了。

「な、何て瞬平らしい・・・。」

 グリーンは感心していいやら呆れるべきやらで何とも複雑な気分であった。ブラックは基本的にクールな二枚目タイプだか、時々狙い済ましたかのように恍けた事をしてくれるのである。もう十年以上の付き合いなのに未だに彼という人物がグリーンには分からなかった。

「それで、結局岩はどうしたの?」

「ああ、ダム・●ラスで砕いたよ。結構賭けだったぜ・・・?」

「それってすごく度胸いるわね・・・。流石青木道場の息子。」

「確かにあのおっさんなら素手で叩き割りそうだよな。」

「い、いくらおじ様でも素手は無理だと思うけど・・・。」

グリーンの問いに答えたブルーの言葉にそれぞれコメントする三人。

「あ、そうだわ。貴方達はいつ合流できたの?」

「えーとね、クイズエリアって所にいたんだけど・・・。」

 

 

 

――――――――――レッド・ピンクの証言

「第十二問、日本の三代随筆とその作者を答えなさい。」

「清少納言の枕草子に、吉田兼好の徒然草、それから鴨長明の方丈記!」

ピンクが一気に答える。

「ピンポーン、正解です。それでは次の問題。キリンと人間の首の骨の数はキリンの方が多い、○か×か。」

「○!」

今度はレッドが即答した。

「ブッブー、残念でした。答えは×で、数は同じなんだよー。と言う訳で、ペナルティー。いっくぞー?」

 

ゴワ―――ンッ

 

天井から落ちてきた金盥がレッドの脳天に当たり景気のいい音を立てる。まるでド●フターズのコントのようだ。

「第二十四問、古代ローマ帝国の五賢帝言えば誰の事?」

「ネルヴァ・トラヤヌス・ハドリアヌス・アントニヌス=ピウス・マルクス=アウレリウス・アントニヌス。」

ピンクが答える。スラスラと答えが出てくるピンクをレッドが褒め称える。

「すげ〜、よくそんな事知ってるな。」

「よくそんな事って・・・、高校の授業で出てくるじゃない。」

「正解です。さあ、いよいよ二十五問目だよ。二十世紀を代表する科学者と言えば、アインシュタイン博士は確実に入るよね。でも、このアインシュタインって何語か知ってる?ヒントは主にヨーロッパで話されている言語だよ。」

「え!?何これ!!」

「そ、そんなのわかんねーよ!」

ピンクとレッドの間に動揺が走る。

「・・・三、二、一、ブッブー。時間切れ〜。少し難しかったかな?答えはドイツ語。一つの石っていう意味さ。面白いもんだろ?でもペナルティーはちゃんとあるよ。今回は水でもかぶってもらおうかな!」

 

ザバ――――――ッ

 

こうしてレッドとピンクはドラム缶一杯分はありそうな大量の水を頭からかぶることになったのである。他にも間違える度にパイを顔に押し付けられたり、大量の粉が天井から降り注いできたり、墨汁を顔の引っ掛けられたりと笑えそうで実際受ける側は笑えないペナルティーを経験する羽目に陥った。挙句の果てに・・・。

「残念でした〜★今ので十個目の間違いだよ。失格!」

そんな言葉と共に床が下に開いた。

「きゃあああああああ・・・!?」

「うわあああああああ・・・!?」

暗闇の中へ堕ちていく二人。そして急に光の中に放り出された。

『あああああ・・・!?』

「・・・だあああああああ・・・・!?」

やがて三人の声が重なった。

 

 

 

 

 

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