魔導○物語

 

 

 

 

 

ザァァァァァーーーーー…
降りしきる、雨。
重厚な造りの部屋。窓辺には、男がひとり。
ルビーよりなお深い色をたたえた瞳は、憂いに沈んで雨だけを映し。
輝くエメラルドの髪も、こころなしか、かげって見える。
そして―――男が、ぽつりと一言。
「…つまらん…」
――魔導世界に、大混乱が起こることが、確定した。


ザァァァァーーーーー…
「っいいかげんしつこい!ファイヤー!!」
「いいかげん俺のモノになれ!アイスストーム!!」
降りしきる雨の中、今日も元気に魔導合戦をくりひろげるのは
「もうっ!どうしてキミはそうキケンな言葉ばっかり使うかなあ!?」
天真爛漫(?)魔導少女アルル・ナジャと…
「危険?何を言う。お前は俺のモノだろう」
ご存知、我らがアイドル(笑)闇の魔導師シェゾ・ウィグィィ。
「だからソレがキケンなんだよっ!ダイアキュート!!」
「じゅげむか!?させるかっ!スティンシェイド!!」
「っ!ホホーリーレーザー!!」
バシュッ!!
シェゾの放った爆散闇は、ギリギリのところでアルルの光束魔法により相殺される。
…戦いは今、こうちゃく状態におちいっていた。
(おかしい…いつもならとっくに決着がついているハズなのに…)
アルルは思う。
普段の戦闘であれば―まずお互い軽く攻撃魔法を放ち、ウォーミングアップ(?)をする。
その後本格的な打ち合いになり、魔導力の切れかけたシェゾがあせって大技を仕掛け、そのスキをついてアルルが3,4倍がけじゅげむでふきとばす―そんなパターンであった。
しかし今日は――。
(シェゾの魔導力が、切れない―)
そう。今のシェゾは、異様なほど魔導力に満ちていた。
先ほどから大技を連発しているにも関わらず、一向に魔導力の衰える気配がない。
…そして――
(…ボクも、おかしい…)
アルルもまた、身体中にみなぎる力を感じていた。
いまならじゅげむの100発や200発、平気で打てるような気がする。
ぺろり…。
二人同時に―アルルは、自分をなだめるかのように。
シェゾは、獲物を前にした肉食獣かのように―唇を、舐める。
精神の高揚のせいか、雨粒が、いつになく、甘い。

―次の一撃で決まる―!

「ダイアキュート!!!」
先に動いたのは、アルル!
「アレイアード!!!」
しかしシェゾの攻撃の方が早い。
闇の力は、狙い違わずアルルの元へ突き進む。
「っじゅ…」
アルルも迎撃すべく最大爆発呪文を発動させ…

―青いモノが、空から落ちてくる。

「っな!?」
「!!!リリバイア!!!」
バシーン!!
危ういところで、普段から高速ダイアキュートによって早口言葉が鍛えられているアルルの魔導障壁が、青い物体を守った。
青い物体。それは
「ウィッチ!?!」
「っば…!テメー、死にたいのか!?」
しかし、倒れ伏すウィッチに反応はなく、ぴくりとも動かない。
「ウィッチ、ウィッチ!!」
「当たっちまったのか!?」
急いでウィッチを抱き起こすアルル。シェゾも内心の動揺をあらわすかのように、バシャバシャと音をたてて駆け寄る。
「どど、どうしよう!らっきょにふくじんづけに…」
「落ち着け!まずはヒーリングを…」
「……ご心配には…およびませんわ…」
「っウィッチ!!」
いつの間に目を覚ましたものか、とろんと目を開き、弱々しいながらもしっかりとした言葉を発するウィッチ。
「あーよかったぁー!ケガはない?」
「チッ。まぎらわしいマネを…」
あわてたことに対する照れ隠しか、ぶっきらぼうな言葉とともに背を向けるシェゾ。
…その足が、わずかにもつれる。
「…?」
「シェゾ、どうしたの?」
「いや…」
「…とうとう…アナタ方にも影響が……」
アルルの腕の中で、ウィッチが苦しそうにつぶやく。
「何…どういうことだ?」
「え…ウィッチ、熱!?」
よく見れば、ウィッチの顔は尋常ではないほど赤く染まり、息も荒くなっている。
「…でも…さすがですわね…ここまできて、その程度なんて…」
「無理しないで!早く寝かさなきゃ…シェゾ!」
「チッ、今回は特別だぞ。アルル、ウィッチをしっかり抱えてろ!」
「っお二人とも!!」
シェゾの転移魔法は、思いがけず力強いウィッチの声に阻まれる。
「まだ…わからないんですの…?」
熱にうるんだ瞳でアルルを、そしてシェゾを見つめる。
まるで、恋する乙女のように…
「!?まさか…!」
唐突にアルルが気付く。
よみがえる思い出。あれは確か、今年の春。サタン主催の…
「ウィッチ…キミ酔ってる!?」
「ハアアア!?」
そう。今のウィッチは、花見で酔っぱらっていたときと全く同じ状態であった。
「そして、ボクやシェゾの異常なほどの魔導力…」
「お前もだったのか!」
「そう…犯人は、キミだーーーっ!!!」
ズビシィッ!
そう叫び、アルルが指差した先は…空。
「……ま、まさか…」
ここでやっとシェゾも気付く。

「魔導酒……?」

痛いほどの、沈黙。
「まったく…あきれた…ニブさですわね…」
ウィッチの言葉に、ぐうの音もでない二人。
「でも…今は逆に頼もしいですわ…お二人とも、コレを…」
「これは…?」
「ウィッチ印…強力お酒酔わない〜んZ…?」
「ワタクシは…飲んでも、このザマですわ…でも…お二人なら…!」
「ウィッチ…!」
アルルは、ウィッチの気持ちをも受け止めようとするかのように、力強く小瓶を握りしめる。
「うっ!!」
「おい!どうした!?」
アルルに薬を渡したとたん、苦しみはじめたウィッチ。
「わ…ワタクシはもう、ダメですわ…」
「な、何言ってるの、ウィッチ!!」
「ダメなんてこと、あるわけないだろ!!」
「ふふ…わかりますわ…自分の…身体の…ことですもの…」
「ウィ…」
否定しようとする二人だが、…何も、言えない。
「お二人とも…お願いです…この雨を…この雨を!」
「…っうん!」
「まかせろ…!」
アルルとシェゾの言葉を聞き…
「本当に…たのも…し…」
ガクリ
「え…ウソ、やだ!ウィッチ、ウィッチーーーっっ!!!」
「…クッ…」
とても安らかな顔をして、ウィッチは、旅立っていった…。

「薬ならおまかせ☆」森のトラブルメーカー・ウィッチ、散る…!

「おい…行くぞ」
悲しみを振り払うかのように、シェゾが短く告げる。
その言葉に、アルルは一度ウィッチをぎゅ、と抱きしめる。
「…そうだね…ウィッチの気持ちが、ムダになっちゃう…!」
「ああ。…ウィッチ…お前の仇は、とる!」
「うん!」
アルルは立ち上がり、腰に手をあて薬を一気に流し込む!!
「…アルル、行きます…!」
空の小瓶を投げ捨て、アルルは歩き出す…。

頭に小瓶が直撃したシェゾと戦闘になるのは、3秒後の話…。

 

 

 

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