魔導学園物語3

 

 

 

 今日は七月二十二日、アルル・ナジャとその双子の姉ドッペルゲンガー・アルル(D・アルル)の誕生日である。夏休みに入ってしまったのでクラス中の人に祝ってもらう訳にはいかないが、仲の良い友人の一部は終業式の日にプレゼントをくれた。

「あれ?D・アルルってばどうしたの、オシャレしちゃって。」

 アルルが朝起きると居間でD・アルルが新聞を読んでいた。しかし彼女の服装は紫を基調とした花柄のワンピースに銀のネックレス、髪は赤いリボンが結ばれて、普段の大人っぽい機能性を重視した服装ではなかった。良く見るとうっすらメイクもしているらしい。

「あ、アルル!?今日は早起きだね。」

アルルが声を掛けるとD・アルルはちょっと動揺したようだった。何をそんなに焦っているのか。

「うん、ルルー達がお祝いしてくれるって言うから、今日出かけるの。D・アルルはD・シェゾとデート?」

「え!?」

アルルの言葉にD・アルルの頬が朱に染まった。普段クールな印象の彼女とは思えない反応である。

(可愛いなあ・・・。)

アルルはそんな彼女を見て思った。普段大人っぽい姉が彼女達の幼馴染であるD・シェゾことドッペルゲンガー・シェゾのことになると歳相応の女の子らしい反応をするのである。子供の頃からD・アルルとD・シェゾは仲が良く、アルルは二人の大人っぽい雰囲気に憧れたものだ。アルルにも好きな人はいたが、ちょっと性格に難があり、余り構ってもらえなかった思い出がある。それでも何だかんだ言って優しい彼がアルルは大好きだった。

「べ、別にデートって訳じゃない・・・よ?プレゼント一緒に選ぼうっていうか、僕に選んでいいよって言われたからだけであって・・・。」

何やらどもりがちに説明するD・アルル。

「やだなあ、別に照れなくてもいいんだよ。」

「照れてない!」

D・アルルは赤くなって否定したが、アルルはD・アルルがD・シェゾと付き合っているのを知っていた。

「と、とにかく僕はもう行くから・・・!」

そう言ってD・アルルはそそくさと家から出て行った。

「いってらっしゃーい。」

アルルは手を振って姉を見送った。

「・・・いいなあ。」

 しばらくしてアルルはポツリとそんな言葉を漏らした。僻む気はなかったが、アルルはD・アルルが羨ましかった。好きな人と両思いになって恋人同士でデートをする。学年が違うとはいえ学生なら一緒に居られる時間も多い。

(何でボクの好きな人は社会人なんだろう・・・。)

アルルは密かに溜息をついた。彼女の想い人は海外生活が長かった為、同年代の日本人男性とはちょっと違った生活を送っていたのである。

「今頃何してるんだろ、シェゾ。」

朝食の支度をしながらアルルは想い人であるシェゾ・ウィグィィに思いをはせる。先日アルルは彼を今夜行う予定の誕生日会に招待したのだが忙しいと断られてしまったのだ。因みに今シェゾは何をしているかというと次のような状況にあった。

 

「俺、今から仮眠はいるから・・・ふあああ。」

「お疲れ様でーす。」

「ああ。」

 魔導学園の大学付属研究所。徹夜で実験経過を見ていたシェゾが同僚と役目を交代する。大きくあくびをすると着替えもそこそこにふらふらと仮眠室へむかった。

(起きたら論文の校訂やらねえと・・・それにしても疲れた・・・・・・。)

大分お疲れなのは間違いないようであった。

 

 

 

 さて時間は一気に飛んでお昼過ぎ、アルルは友人数人とともにファーストフードで食事をしていた。

「今日はアルルの誕生日だからあたし達のおごりね。」

「ありがとう。」

ドラコケンタウロスことドラコの言葉にアルルは笑顔で頷いた。しかしどこか陰がある笑顔だった。

「どうかしたの、アルル。何か元気ないわね。」

「ううん、そんなことないよルルー。」

「そうは見えないわよ、一体どうしたって言うのよ。」

ルルーの言葉にアルルは否定するがルルーはそうは思えなかった。普段のアルルは煩いくらいに元気な少女だったからである。

「でも、アルルさんテストが終わってからずっと元気がありませんでしたわよね。ひょっとして成績表が酷かったんですか?」

「アルルが成績悪いのはいつものことじゃない。」

ウィッチの発言をルルーは切り捨てる。結構言ってることは酷い。実際に間違っていないのは切ないことだが。現にアルルはいくつかの科目において追試になっていた。おかげでアルルはシェゾ、D・アルル、D・シェゾによるスパルタ特訓を受ける羽目になった。その介あって夏休み中補習という悪夢を免れることができたのだが。

「でもさ、せっかくの誕生日なのに沈んでるなんてらしくないよ。あたしらで良かったら相談に乗るからさ。話してみなよ、ね?」

「そうよ。」

「そうですわ。」

口々にそう言われアルルは多少ぼかしつつも自分の思っていたことを説明した。

「・・・という訳で、シェゾが参加できそうにないんだ。」

「シェゾ?それってアルルさんのクラスのシェゾ先生?D・シェゾ先輩の弟の?」

「うん・・・。」

 ウィッチの質問にアルルが頷く。シェゾは学校内でも少々珍しい存在なので生徒達にも有名なのだ。因みに教え方は下手な教師よか巧いと評判である。

「あー、あんたの幼馴染とかいうオタク教師ね。全く研究だか何だか知らないけどケチな男だわ。誕生日くらい祝ってあげなさいよ。」

「ちょっと、ルルー。シェゾはオタクなんかじゃないよ!」

「そうですわ!あの方、業界では結構有名でしてよ?」

「オタクの?」

『違う!』

ルルーの言葉にアルルとウィッチが反論し、さらにドラコの言葉にツッコミを入れた。

「てか、何でウィッチまでムキになってるのさ?アルルは幼馴染だからわかるけど。」

「そういえばそうよね。」

ドラコの言葉に皆がウィッチに注目する。

「そ、それは当然ですわ。シェゾ先生は私の憧れですもの。私はおばあさまのように歴史に名を残すような学者になるのが夢ですもの。お父様の話ではシェゾ先生は研究者の間では将来ノーベル賞は確実と言われているそうでしてよ。」

「ウィッチのお父さんが?」

「確かどこかの大学教授なんだっけ?」

「あいつそんなに凄い奴だったの?」

ウィッチの言葉に三人は唖然とする。頭は良いとは思っていたがまさかそこまでのレベルとは皆思っていなかったのだ。

「シェゾってそんなに凄い人だったんだ・・・。」

(流石ボクのシェゾv・・・なんてね。もうボク惚れ直しちゃうよ〜。)

アルルは頬を染め両手を当てて夢見る乙女なポーズをとった。どうやら脳内でルルーのサタン様妄想に負けず劣らずな展開になっているらしい。

「あ、アルル?」

「アルルさん・・・?」

「大丈夫か?」

若干引き気味に尋ねるルルーたちであった。

 

 

 

 因みにその頃のシェゾは何故か学校にいた。何でも二年の数学担当教師が酔っ払って階段を踏み外し骨折して病院に入院する羽目になり、そのためシェゾが補習の担当教官を臨時で代行することになったのだ。

(ろ、論文の時間が足りない・・・。)

内心苦悩しつつもシェゾは二年C組の教室(補習を行う場所)にやってきた。

「シェゾ!?」

「・・・ラグナス!?」

教室に入った途端に声を上げられよく見ればそこにはアルルやシェゾの幼馴染であるラグナスがいた。

「ラッキー☆こんな所で会えるなんてまさに運命?」

感激したラグナスがシェゾに抱きつこうとするとシェゾはラグナスの腹に拳を叩きこんだ。

「このボケナスが!何補習なんて受けてやがる。お前は剣道部のレギュラーだろ。他の部員に迷惑掛けてるんじゃない。」

その場に崩れ落ちるラグナスにシェゾはそう吐き捨てた。

「あー、この阿呆は放っておいて補習を始める。知ってる奴もいると思うが、俺はシェゾ・ウィグィィ。今回担当だったインキュバスが怪我で入院したため俺が代理で監督することになった。プリント配るからこれを解いてくれ。どうしてもわからん奴は教科書をみてかまわないそうだ。」

普通なら文句の一つも出そうなものだがラグナスを一発で沈めたシェゾを恐れてか皆静かであった。

 

 

 

「よし!やっぱりもう一回シェゾに来れるかどうか聞いてみる。」

 いろいろ悩みはしたがやはりアルルはシェゾに誕生日を祝ってもらいたいのだ。そのためにはやはり行動あるのみである。

「でもシェゾ先生は研究所にいらっしゃるんでしょう。部外者が簡単に入れるとは思えませんわ。」

「部外者じゃないもん!」

「ああいう所は研究員の家族ですら部外者扱いですわ。」

ウィッチのツッコミは結構痛かった。

「じゃ、じゃあ電話する!」

「でも取り次いでもらえんの?」

「シェゾは携帯持ってるってD・シェゾが言ってた!」

「へ〜、生意気ね。それで番号は?」

「・・・し、知らない・・・・・・。」

「だめだこりゃ。」

アルルの詰めは甘かった。

「まあまあ、落ち込んでも仕方がないよ。気分転換に次はカラオケでも行こうよ。」

「そうですわね。」

「ほら、アルル行くわよ。」

「う、うん・・・。」

 そうしてアルル達はカラオケボックスへやってきた。アルルはストレス解消も込めて熱唱した。大いに盛り上がり、店を出る頃にはアルルの表情はかなりすっきりしたものになっていた。

 

 

 

 さて、アルルがカラオケで熱唱している頃シェゾは、居残り補習となったラグナスの面倒を看ていた。ただし論文をチェックする片手間に。

「シェゾ〜、俺ここ分からないんだけど。」

「ああ、ここはこうしてだな・・・。」

シェゾが余ったプリントの裏にすらすらと計算式を書き連ねていく。

「それでP30の公式を応用して・・・こうなるわけだ。わかったか。」

シェゾの説明は懇切丁寧なものだったが、生憎ラグナスは聞いちゃいなかった。

「シェゾって字、綺麗だよね。」

「は?いきなりなんだよ。」

「それに手の形綺麗だし、顔は言わずもがなだし・・・。」

今のラグナスはどっか別の世界と電波交信していた。

「ラグナス・・・?」

人気のない校舎、お互い以外誰もいない教室でラグナスはシェゾの手をそっと握り・・・。

「シェゾ・・・俺・・・・・・。」

「ラグナスここかぁああああああああああ!?」

間一髪叫んで教室に飛び込んできたのはD・シェゾだった。

「貴様大会も近いのに何補習なんぞなっとる!あれほど部活に支障のないよう勉強しろと言っておいただろうが!!レギュラーから下ろすぞ!?」

「ちょ、ちょっと、落ち着いてくれよ、D・シェゾ。」

「ふざけるな!」

「ふざけているのはお前だ、D・シェゾ。」

かなりの剣幕でD・シェゾがラグナスに詰め寄るとシェゾが言った。

「シェゾ!?何で・・・。」

「こいつの阿呆は今に始まったことではないが生憎補習中なんでな。とにかくこの阿呆に数学の何たるかを叩き込んでやらねばならん。あと俺がここにいるのはインキュバスの代理だ。」

「そうか。で、シェゾ、あとどれくらい掛かりそうか。」

「知らんな。こいつの馬鹿さ加減は俺にもわからん。」

「ああ、愛が痛い・・・。」

シェゾの冷たい言葉に涙するラグナス。

「誰が愛だ、コラ。」

そのラグナスを締め上げるD・シェゾ。

「お前ら漫才やるなら余所でやれ。つぅか、いっそのことお前がラグナスに教えてやれよ、D・シェゾ。その間俺は論文やるから。」

「ええええええええ!?そんなあああ!シェゾがいいシェゾが!!」

「わかった。俺が教えてやる。これ以上シェゾを煩わせるな。」

喚くラグナスを強制的に黙らせD・シェゾは言った。

「なあ、シェゾ。それ終わったら今日来れるか・・・?」

何があるとはあえて言わなかった。それはシェゾもわかっていることだと思ったからである。シェゾは一瞬押し黙り、そして口を開いた。

「・・・最後の方に顔見せくらいはできるかもしれない。」

「そうか、わかった。・・・よし、やるぞラグナス。」

「ぶうううううう。」

太陽は今日もまぶしく輝いていた。

 

 

 

「ただいま〜。」

「おかえり、アルル。」

 アルルが帰宅するとすでにD・アルルが家にいた。母親はキッチンで料理をしているようだ。D・アルルは居間のソファーで古典の教科書を広げていた。

「何やってるの?」

「んー?料理手伝うって言ったんだけど母さんが誕生日だからいいってさ。で、暇になっちゃったから夏休みの宿題。」

「え!もう始めてるの!?夏休みになったばかりなのに。」

D・アルルの言うことにアルルは驚いた。

「だからじゃない。早く片付ければ後半気兼ねなく遊べるでしょ。」

「それはそうだけど・・・。」

「アルルはいつもぎりぎりまで溜め込むからね。でも真面目な話、早目にやっておいたほうがいいよ、アルルも。」

「そ、そう?」

「D・シェゾとラグナスは夏の大会が終わるまでは忙しいけど、そのあとフリーでしょ。それにシェゾだってお盆くらいは休みだろうし。でも宿題片付けてなかったらきっと遊びに付き合ってもらえないよ。一応アルルのクラスの担任なんだから。」

「D・シェゾは受験生なんじゃ・・・。」

「彼なら大丈夫。ラグナスと違って頭いいもの。」

「それは確かに・・・。」

ラグナスには悪いがD・アルルの一言に納得してしまうアルルであった。

「じゃ、じゃあボクも何かやろうかな。分からない所あったら教えてくれる?」

「いいよ。」

「ボク教科書取って来るね。」

そう言ってアルルは二階にある自分の部屋へ向かった。

 

 

 

 数時間後、夜の帳も落ち始めアルルたちに誕生日会が始まる時間となった。チャイムが鳴りアルルとD・アルルは玄関の扉を開ける。入ってきたのはD・シェゾとラグナスだった。

「誕生日おめでとう、二人とも。」

「ありがとう、ラグナス。」

「D・アルルには今朝も言ったが、誕生日おめでとう。」

「ありがとう・・・ね、あの・・・シェゾは?」

アルルが躊躇いがちにD・シェゾに尋ねる。しかしD・シェゾは複雑な顔で首を横に振った。

「そっか・・・。立ち話もなんだし二人とも中は入りなよ!」

「うん・・・。」

「ああ・・・。」

沈みかけた雰囲気を無理やり明るくするようにアルルは元気良く言った。そして二人を居間に招き入れる。その途中の廊下でD・アルルはこっそりD・シェゾに話しかけた。

「本当にシェゾは来れないの?」

「ああ。よくは知らないが研究所の方に緊急招集がかかったらしい。」

ラグナスの補習の後、論文のチェックは完了したのだが、シェゾの携帯に呼び出しがかかり、彼は慌てて研究所へ戻ってしまったのだ。

「まあ、嬉しそうな顔をしていたから悪い知らせではなさそうだと思う。」

「何か新しい物でも発見したのかしら。新種の細菌とか。」

「いや、そういう研究ではなかったと思うぞ・・・。」

「D・シェゾ〜、D・アルル〜、さっきから二人で何やってるの〜?」

「イチャつくなら二人っきりの時にしろよな。」

『ラグナス!』

そして四人は居間の中に入っていった。

 おいしい料理を食べて世間話をして夏休みの計画についての相談をして、ケーキを食べる前にプレゼントの開封をすることにした。

「うわああ、携帯電話だ!」

「ありがとう、父さん、母さん。」

両親からのプレゼントはお揃いの携帯電話だった。アルルはペールブルー、D・アルルはラベンダーである。初めての携帯に嬉しくてでも照れくさい、そんなことを感じつつ彼女達は受け取った。ラグナスからのプレゼントはアルルにはぬいぐるみ、D・アルルにはマグカップであった。

「可愛い〜、ラグナスありがとう!」

アルルはぬいぐるみを抱きかなりご満悦である。

「ラグナス、いいの?これブランド品でしょ。」

一方D・アルルは結構有名な陶器メーカーの製品にラグナスの財布の事情の心配をした。

「大丈夫だよ、アルルのぬいぐるみと同じくらいの値段だし。」

それでも千円以上するのだが。

「それならいいけど・・・ありがとね。」

D・アルルはラグナスにお礼を言った。そしてD・シェゾからのプレゼントはアルルには参考書と文房具だった。

「あ、あの・・・これ・・・・・・。」

「この参考書はわかりやすくてお勧めだ。夏休み明けもテストなんだから頑張って勉強するように。シェゾも心配していたぞ。」

「そうなの?」

「二学期もあの成績だと進級が危ぶまれるらしい。」

『え!?』

「ちょっと、それはどういうことなのアルル!?」

「母さん落ち着いて・・・!」

「ほ、本当なのそれ、D・シェゾ・・・。」

「いや、冗談だ。」

D・シェゾの言葉に脱力する一同。しかし次の一言に凍りついた。

「うちの学校は一年まではどんなに成績が悪くとも進級できる。問題なのは二年からだ。な、ラグナス。」

「・・・お、俺なの!?」

「ぼ、ボク、夏休み必死で頑張るよ・・・。」

ラグナスがショックを受ける中、アルルは悲壮な決意を固めた。

 その後お決まりのイベントであるケーキに立てた蝋燭を吹き消して、皆でケーキを食べゲームに興じ、楽しい時間が過ぎた。そしてとうとうお開きとなったのである。結局シェゾは間に合わなかった。

 

 

 

 誕生日会が終わり、入浴も済ませ、アルルは髪を乾かすと、自室で一人黄昏ていた。もらったプレゼントをボーっと眺めて、そしてまた溜息。

(あーあ、シェゾにもお祝いしてもらいたかったな。)

プレゼントが欲しいなんて贅沢言わない。直接会って言って欲しいというのが本音だけど、我が侭は言いたくない。でもせめて電話越しで良いから声が聞きたかった。あの、低く優しい声音で『おめでとう、アルル』と言って欲しかった。

「シェゾぉおおおおお・・・。」

視界がぼやける。目頭が熱い。アルルは堪えきれず涙を流した。D・アルルが羨ましかった。D・シェゾが帰る時、家の前二人がこっそりキスをしているのを部屋の窓からアルルは見てしまったのだ。幸せそうな彼女達が羨ましかった。それでもやっぱり自分はシェゾの事が好きで大好きで彼以外の人は考えられないのだ。

(シェゾが好きシェゾが好きシェゾが好き・・・会いたいよぉ・・・・・・。)

時計の針は十一時四十五分、あと十五分で七月二十二日は終わる。アルルの誕生日は終わってしまうのだ。十六歳の誕生日。子供の頃は十六歳になったらシェゾのお嫁さんになると恥ずかしげもなく宣言していたし、当時の自分にとっては本気の夢であった。実際にはシェゾは早生まれなのでまだ結婚できる年齢ではないのだが、心のどこかで幼き日の夢の実現を期待していたのかもしれない。とにかくこの日はアルルにとって特別な、大切な日になるはずだったのだ。

ピリリリリ・・・

 突然部屋に響いたコール音。驚いたアルルが辺りを見回すとそれは今日もらったばかりの携帯電話からだった。ナンバーディスプレイの数字は見慣れないもの。そもそも番号を知っているのは今日の誕生日会に参加したメンバーだけである。では一体誰からだというのだろうか。恐る恐るアルルは電話に出た。

「・・・も、もしも・・・し?」

『アルルか?』

聞こえた声に心臓が跳ね上がった気がした。聞き間違えるはずも無い声。例えどんなにそっくりでもアルルは彼とその兄を間違えたことはなかった。

「シェ、シェゾ・・・?」

『今家の前にいるんだが出てこれる・・・か?』

その言葉に慌ててアルルがカーテンを開け窓の外を覗くと確かに門の前に人が立っていた。

「す、すぐ行く!待ってて!!」

アルルは携帯電話を握り締めて部屋を飛び出した。階段を駆け下り、サンダルを引っ掛け玄関から外に出る。月明かりと外灯が照らし出すその姿にアルルは急いで駆け寄った。

「シェゾ!」

「アルル。」

 アルルはそのままシェゾに抱きついた。嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。夜遅くにとかそういったことは気にならなかった。彼が会いに来てくれたという事実がただひたすらに嬉しかったのだ。時計の針は十一時五十一分。ギリギリではあるが間違いなくまだ二十二日である。

「な、何で来てくれなかったのさ、馬鹿馬鹿シェゾの馬鹿ぁ・・・!」

「悪い・・・。」

泣きながら怒りポカポカとシェゾの胸を叩くアルル。シェゾにとっては痛くなかったが、流石にここまで泣くほど誕生日会に来て欲しいとは思ってなかったので、アルルの様子に少し悪いことをしたなと反省した。

「ふにいぃぃ・・・。」

シェゾはアルルの背中に手を回し軽くポンポンと叩いて落ち着かせる。アルルはシェゾに抱きついたまま頬を彼の胸に押し付けた。

(あ、心臓の音・・・。)

シェゾの心音と体温が徐々にアルルの心を落ち着かせる。

「ねえ、シェゾ。誕生日おめでとうって言って・・・。」

「誕生日おめでとう、アルル。」

「もっと言って。」

「おめでとう。」

「もっと・・・。」

繰り返される心地好い声にアルルの心が満たされていく。

(大好き、シェゾ・・・。)

「アルル、十六歳おめでとう。」

時計の針は十一時五十九分を指していた。

 

 

 

 

 

<後書き>

 魔導学園物語第二弾。ほとんど学校が舞台じゃないのが難だけど、前回でアルルが言っていた誕生日の話です。ちょっぴりシェアル風味ですね。ていうかアルルさんの乙女度高し。基本はアルル→シェゾ←ラグナスだから。それにしても正直ラグシェを書く日が来るとは夢にも思っていませんでした。コンビは何となくありかと思っていましたがね。でも他の方の作品を読んでいてギャグのシェゾ受はそれほど抵抗感を抱かなかったんです、何の偶然か。それでまあ別の話なんですけど、シェゾ総受ネタ・・・もといシェゾ争奪戦を書いた時(初期設定ではアルルが勝者)、思ったより書いてて楽しかったんですよ。それでラグシェとDシェシェはいけるかな・・・と。このシリーズではコメディ要素の一環ですがね。DシェゾはDアルルと付き合っているわけだし。因みに今回あの二人は午前中デートです。プレゼントもその時もらってます。午後はDシェゾが部活なので。運動部ですから、大会が終わるまで夏休みはないのですよ。それにしてもラグナスが大分お馬鹿さんになってしまって格好いい彼が好きという方には申し訳ないと思います。

 次はちゃんと夏休みだと思います。五人で遊びにいきます。シェゾへの愛がてんこ盛りな内容になるかと思いますが、どうなんでしょうね。海とか行ったらシェゾの水着姿にラグナスが壊れそうだなあ・・・(苦笑)

 あ、シェゾのプレゼントについて書くの忘れた!(アルルにはネックレスでDアルルには洋書です)

 

 

2005/07/22 UP

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のシェゾとアルルの様子を覗いてみる?

おまけ