シェゾ・ウィグィィの割と平和な一日?
今日は日の出と同時にサタンが襲撃を仕掛けてきた。ようやく魔法薬の調合が終わって、今から寝ようと思っていたのに何てことだ。
「ふははははは!この闇の貴公子サタン様が貴様なんぞの為にきて・・・。」
「アレイアード・ロン!(当たり☆)」
何やら高笑いを浮かべていたが、とりあえず耳障りだったので吹っ飛ばした。全く何しに来たんだかな。ああ、そんなことはどうでもいいか。とにかく俺は今眠いんだ。俺の眠りを妨げるものは皆滅んでしまえ。
「てのりぞう、俺は今から寝る。誰か来たら追い返せ。俺が起きるまで誰も入れるなよ。」
「ぱお。」
廊下であった使い魔のてのりぞうに指示を出し、俺は自分の寝室に向かった。う〜、眠い眠い眠すぎる・・・。油断するとそのまま意識が飛んでしまいそうだ。それでも何とか寝室のドアを開けると、ベッドに誰かが腰掛けていた。
「おはよう、オリジナル。」
それは俺のドッペルゲンガーこと時空の水晶、D・シェゾだった。
「何の用だ。」
俺は今眠いんだ。くだらないことだったら殺してやる。
「腹が減ったぞ、オリジナル。」
殺す。俺は闇の剣を召喚しDシェゾに切りかかっていた。しかし奴もまたそれを剣で受け止める。
「チッ。」
「いきなり切りかかってきておいて、舌打ちをするな。何を怒っているのだ?」
五月蝿い。俺の眠りを邪魔する奴は死あるのみ、だ。俺はDシェゾの喉笛を狙って突きを繰り出した。
「! とりあえず落ち着け、オリジナル。」
「俺が落ち着く前に貴様が死ね。」
Dシェゾは俺の剣を弾き、攻撃を防いだ。しぶとい奴め。さっさと殺されればいいものを。(最早当初の目的は忘れかけている)
「何があったかは知らんが、そう殺気立つものではない。短気は損機というだろう。」
「いいからとっとと出て行け!これ以上俺が寝るのを邪魔する気なら飯の代わりに貴様を鍋で煮込んでくれる!!」(睡眠不足のあまり思考回路がおかしくなったと思われる)
「オリジナル・・・まさか眠いのか?」
「こちとら昨日から徹夜なんじゃ、ボケ!」(言語中枢にまで支障が来たと推測される)
「わかった。すまない、オリジナル。」
「・・・分かればいいんだよ、分かれば。」
「だが、飯・・・。」
「出ろ!」
俺はDシェゾをドアから蹴り出した。ああ、これでやっと寝られ・・・
「オリジナル!何も締め出すことはなかろうが!?」
ドアの向こうでDシェゾが騒いでやがる。
「やかましい!!俺は今眠いんだ!邪魔をするな!このまま俺の睡眠を妨げる気なら貴様に飯なんぞ二度と作らん!!」
「そ、それは困るぞオリジナル!」(シェゾは料理上手という設定)
貴様の都合なんぞ俺は知らん。
「フン、それならてのりぞうと一緒に俺の眠りを妨げる連中を排除でもしたらどうだ。そうしたら考えてやらんでもないぞ。」
「・・・わかった。」
ドアの向こうが静かになった。これでようやく落ち着いて寝られるぜ。俺は早速布団に潜り込むとすぐに意識を手放した。後で思ったんだが、やはり相当眠かったようだな。
「てのりぞうよ・・・。」
「ぱお?」
Dシェゾはてのりぞうに出されたパンを齧りつつ、徐に言った。シェゾそっくりの容貌の中で唯一違う赤い瞳がギラリと輝く。
「我はやるぞ。」
Dシェゾは言った。
「オリジナルの眠りは我が死守してみせる。・・・そう、我の食の為に!」
Dシェゾの背後で岩に叩きつける大波が見えた・・・ような気がした。かくして、シェゾ(の眠り)を巡った戦いの幕は切って落とされたのだった。
さて、所も時間も変わって、アルル・ナジャの自宅では、家の主でアルルが孤軍奮闘していた。何故ならアルルは自室でいくつもの服を広げてあ〜でもない、こ〜でもないとばかりに自分の体に合わせていたのだ。
「やっぱり、春だしピンクかな?」
ピンク色のブラウスを取り出し、合わせてみる。
「う〜ん、清純派っぽく白もいいよね。」
今度は白いワンピースで鏡を覗き込む。
「意表を狙って黒のゴスロリはどうかな〜。でもメイド服はキキーモラと被るし・・・。」
まるでデートかパーティ前の娘さんのような物言いである。因みにその頃カーバンクルはダイニングテーブルの上で鼻提灯を膨らませていた。
「よし、これにしよう!」
どうやらアルルは着る服を決めることができたようだ。
アルルがいつもよりもおしゃれをして、ちょっとメイクもしたりといった、それなりに気合の入った格好で鞄を背負い街を歩いていると、どこからともなく爆音が聞こえてきた。
「何だろうね、カー君。」
「グ?」
時間にまだ余裕があることもあり、好奇心旺盛なアルルは音のする方へと走り出した。そこで彼女が見た光景とは・・・
「貴女!それを返しなさいですわ!!」
「フン、この先には行かせないよ。」
B・キキーモラにほうきを突きつけている見習い魔女のウィッチであった。この二人はあることを巡ってライバル同士なのである。
「この・・・ファイヤー!」
「それくらいじゃ、効かないね。」
ウィッチが放った魔導をあっさりと避けるBキキーモラ。
「なら、これならどうですの!?ホット!!」
「はっ、こんなの効かな・・・。」
「サンダー!!」
「うわっと!?」
ウィッチはホットで呼び出した水を利用し、サンダーで相手を感電させようと狙った。それを何とか回避するBキキーモラ。
「危ない子供だね。これでも喰らいな!」
Bキキーモラは仕込み杖ならぬ仕込みモップのレバーをスライドさせるとトリガーを引いた。
「きゃあああ!?」
マシンガンよろしくモップの先端から弾が飛び出す。
「き、危険人物は貴女の方ですわ!絶対あの方に近づけるわけにはまいりませんことよ。こうなったら・・・メテオー!」
「チッ!」
ウィッチとBキキーモラの戦いにより街は破壊されていった。普段なら彼女達を止めるアルルだったが、今日は別である。アルルもまた彼女達とライバル関係にあるのだ。このまま二人が共倒れすればより良し。そうでなくても、二人が睨み合っていれば、自分は抜け駆けできるチャンスなのだ。ただでさえ多いライバルが潰れてくれるならそれに越したことはないのである。
「よし、今のうちだよ、カー君。」
「グ!」
アルルはこっそりと遠回りをして目的地に向かうことにした。
アルルがしばらく進むと、周囲の景観は次第に街から離れ、木々が多くなってきた。目的地まではまだまだ先である。だが、油断するわけにはいかないだろう。敵・・・もといライバルは多いのだ。
「お注射でござる!」
「うわ!?」
背後からいきなり襲いかかってきたのはハニービーだった。何とか避けるアルル。
「な、何するんだよいきなり!」
「五月蝿いでござる!」
抗議するアルルにハニービーは言った。お前なんて、蜂じゃないか・・・というツッコミはしないように。
「問答無用でござる!」
「わー!?」
再び突進してくるハニービー。
「ぼ、ボクが何したっていうのさ!」
「盗人猛々しいでござるぞ、おぬし!」
ハニービーとアルルの間では意思の疎通が上手くいっていないようだ。
「もう!何なのさ!?」
「とぼけるなでござる!シェゾ殿の元には行かせないでござるよ!」
「!」
ハニービーの言葉にアルルの顔が赤くなった。そう、アルルは今、シェゾに家に向かっている途中だったのである。
「な、何を赤くなっているでござるか破廉恥な!」
ハニービーもまた怒りその他の感情で顔を赤くした。というか、むしろお前が何を想像したんだと突っ込みたい。
「妻であるこのハニービーを差し置いて、シェゾ殿に近づこうなんぞ笑止千万!万死に値するでござる!!」
「つ、妻って言っても、それはキミの自称じゃないか。シェゾに全然相手にされてないくせに、何言ってるんだよ!」
アルルの発言ももっともである。ハニービーはシェゾに近づこうとしては、闇の剣で切り捨てられたり、魔導で吹き飛ばされたりしているのである。それでも元気にシェゾに突撃していくのだから、丈夫なものだ。単に懲りないとか学習能力に乏しいという説もあるけれども。
「愛が痛いでござるな・・・。」
「いや、違うから。」
何やら遠い目をして黄昏るハニービーに突っ込むアルル。
「でも、それが良いのでござるよ。」
「闇の剣で切られても・・・?」
「シェゾ殿の愛刀で切られるなら本望でござる!」
闇の剣、大迷惑。
(ハニービーって実はマゾなんじゃ・・・。)
打たれ強いという可能性もあるが、何となく一歩引きたい気分になるアルルであった。
「よって、夫に近づく悪い虫はこの妻が成敗するでござる!」
「うわあ!ちょ、ちょっと待って・・・!」
またもや攻撃を繰り出してくるハニービーをアルルが制止した。
「何でござるか?降参して二度とシェゾ殿に近づかないと誓うならば見逃してやらなくもないでござるよ。」
「そうじゃなくて!勝負の方法について相談があるんだ。」
「相談?」
「勝負はぷよぷよ地獄で決着をつけよう!」
アルルの提案にはそれなりに意味があった。このまま戦うとなれば、せっかくのおしゃれが台無しになってしまうし、ハニービーは動きが速いから倒すのに時間が掛かりそうなのである。シェゾやルルー、それにラグナスといった達人レベルなら動体視力も鍛えられているので一撃粉砕も可能なのだが、生憎とアルルはそこまでの領域には達していない。ぷよぷよ地獄なら基本的には動かないので大丈夫なのだ。
「ふむ、よかろう。相手になってやるでござるよ。ちこうよれ。」
「いっきまーす!」
勝負開始!
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