「やったぁ!」
「死して屍拾うものなし!」
ぷよぷよ地獄で勝利を収めたのはアルルの方であった。おじゃまぷよに埋もれたハニービーを見て、アルルは悪いとは思いつつも嬉しさを隠せない。
(よし、ライバル一人撃破。)
小さくガッツポーズをとった。そしてスタスタとハニービーに近づくと、ニッコリ笑ってこう言った。
「勝負はボクの勝ちだね。」
「む・・・。」
「やっぱり勝者たる者、敗者に何かしら要求できる権利があると思うんだ。」
「むむむむむ・・・。」
「ボクの要求はね・・・シェゾに二度と近づかないでもらいたいんだ。」
普段の心優しい少女とは思えない黒いオーラを漂わせてアルルが言った。実はドッペルゲンガーじゃないかと疑いたくなるが、その瞳は赤くない。
「り、理不尽なり!」
「うん、そうかもね。シェゾはヘンタイでお間抜けで性格悪いけど、本当は優しくて不器用だもんね。それに何と言っても顔はいいし、魔導師として優れていて頭もいいし、剣も使えて強いもんね。これでモテるなって方がおかしいよね。だから百歩譲って好きになっちゃうのは仕方がないかもね。でも、最後に笑うのはボクだから。」
「お、おぬし・・・実は悪でござるか?」
ノロケとも毒とも取れるような発言をする。アルルさん、実は貴方腹黒タイプなんですか?
「ぐぐぐ、ぐーぐぐ、ぐっぐぐぐー。」
「え?何、カー君。二度と会うなって言っても偶然会っちゃう可能性は否定できない?ああ、それもそうだよね。どうしよっか。じゃあ、とりあえず今日はシェゾと絶対顔合わせないってことで手を打ってあげるよ。」
「い、嫌でござる!今日はシェゾ殿の誕生日でござるよ?妻として夫を祝わずしてどうするでござるか!?」
ハニービーはアルルの要求を拒否した。
「カー君、これ食べちゃって。」
「ぐ〜?」
「ま、ままま待つでござるよ!アルル・ナジャ!?」
カーバンクルに食べさせようとするアルルに流石に肝を冷やすハニービー。
「ダイアキュートダダイアキュートダダダイアキュート・・・(中略)・・・スススススススリープ!」
「り、理不尽でござる・・・。」
ハニービーはダイアキュートを重ねがけしたスリープで強制的に深い眠りへと落とされた。ハニービーがカーバンクルに気を取られた隙の早業であった。流石に見習いといえども魔導師だけあって滑舌はいいようだ。
「さてと、ボクも早くシェゾの家にいかなきゃね。一番にプレゼント渡すんだから。」
それはシェゾがいつもお昼近くまで寝ていることを考えた上でのことである。アルルは意気揚々と歩き出した。
(本当はおめでとうも一番に言いたいけど、それはてのりぞうが先に言っちゃいそうだもんね。プレゼントもひょっとしたら用意してあるかもだけど・・・。うん、てのりぞうの場合は仕方ないよね、先に越されても。でも他の誰かだったら許せないな。絶対ボクが一番にお祝いするんだから!)
決意新たに先を急ぐアルルにこの先何が待ち受けているのか。
さて、再度場面は移り変わり、シェゾの自宅付近。結界の前に仁王立ちしているのはDシェゾである。それに対峙しているのはラグナス・ビシャシ。異世界からきた光の勇者だ。
「ここに何の用だ。」
Dシェゾが言った。
「何って・・・決まってるだろ、シェゾに会いに来たんだよ。」
「オリジナルに何の用だ。」
「用って、あいつ今日が誕生日だって話だから、一応祝いに・・・。」
「誕生日・・・今日は三月十六日だったのか?」
「そうだけど・・・。」
何やら得心が入ったらしきDシェゾに不審な眼差しを向けるラグナス。何せDシェゾの正体は時空の水晶であり、気の遠くなるような永い時を存在していたのだ。自然と時間間隔は大雑把なものになり、歳月を百年、千年単位で認識していることもしばしばなのである。一年が365日云々の概念は正直、今の姿になってからまともに補握するようになったとも言えた。
「だが、何故わざわざ貴様がオリジナルを祝いに来る。貴様は光の勇者なのだろう。そしてオリジナルは闇の魔導師だ。まさか、祝いと偽り奴を倒す気か?」
Dシェゾの発言ももっともであった。しかしラグナスは肩をすくめて見せる。
「嫌だな〜、俺たち世間様が考えるほど仲が険悪って訳でもないんだよ、これでも。一緒に仕事したことあるし、旅だってしたことある。昔はどうだか知らないけど、最近は俺が退治しなくちゃいけないほどの悪事はしてないみたいだし。それに世間様に迷惑をかけているレベルならサタンの方が上じゃないか。」
「それは確かに・・・。」
サタン云々の点ではDシェゾも納得である。
「そんな訳で、俺は別にシェゾに悪意を持ってここにきたんじゃないんだよ。だからそこ通してくれないかな。」
「断る。」
「どういう意味だい?」
「今、オリジナルは寝ている。我はオリジナルの眠りを死守すると誓った。故に、それを邪魔させるわけにはいかん。」
「へえ、それは是非とも通してもらわないとね。」
「させぬ。」
Dシェゾが剣を抜いた。
「何?俺と戦う気なの?」
「貴様、何か企んでいるだろう。」
「何を根拠にそんな事を言うんだい?」
Dシェゾの言葉にラグナスは目つきを鋭くする。
「普通相手が寝ているとくれば出直すのが筋であろう。それなのに家に入ってこようとするとは、腹に一物ある証拠だ。」
「ははは、流石にシェゾのドッペルだけあって鋭いね。」
「何が目的だ。」
「さて、何だと思う?」
「言わぬのなら、貴様を排除するだけだ。」
「やれるものならやってみろ。」
ラグナスがリアクターブレードを抜き放った。今、男たち二人の熱い戦いが始まる。
ハニービーを倒したアルルが湖までやってくると、すけとうだらの襲撃を受けた。いつものようにダンスの押し売りではなく、普通に攻撃を仕掛けてきたのである。
「ここは通さないぞ!」
「いきなりどうしたのさ、すけとうだら。」
生憎アルルには彼に攻撃を仕掛けられるような覚えは無い。
「いくらお前がセリリちゃんの友達でも、ここから先は通さない!」
「セリリちゃん・・・?」
セリリというのはすけとうだらが思いを寄せる鱗魚人の娘だ。見た目は可愛らしい。しかし、性格は内気で若干被害妄想に陥る癖がある。
「何でそこでセリリちゃんが出てくるのさ。」
「セリリちゃんは・・・セリリちゃんは・・・今日があの銀髪男の誕生日だと聞いて・・・。」
アルルの疑問にすけとうだらが悔しそうに唸った。
(銀髪男って、シェゾのことだよね・・・てことは!)
アルルがカッと目を見開く。どうやら、ここに伏兵がいたらしい。
「悔しいが、俺はセリリちゃんに望みをかなえてやりたいんだ。だから、アルル・ナジャ。お前にセリリちゃんの邪魔はさせない!」
そう宣言し、アルルの前に立ちふさがるすけとうだら。
(セリリちゃん・・・やっぱりシェゾのこと、好きだったんだ。何がお友達だよ。しっかり男の人として意識してるじゃないか。もし、ただのお友達ならこんな抜け駆けみたいな真似しないはずだし。)
自分のことは棚に上げて唇を噛むアルル。
「絶対・・・負けないんだからぁあ!」
「やる気か!?ビッグウェイブ!!」
「うわっと!・・・ダイアキュートダダイアキュート・・・・・・。」
すけとうだらの攻撃に逃げ回るしかないアルル。それでもダイアキュートの重ねがけは忘れない。
(今だ!)
「・・・ジュジュジュ(中略)ジュジュジュジュジュゲム!!」
すけとうだらの隙を突き、これでもかというくらいダイアキュートを掛け捲ったジュゲムが炸裂した。
「ぎょぼぎょばぎょぼ〜!?」
「やった!」
空の彼方へ消え去るすけとうだらをバックにアルルは勝利のポーズ。
「よし。行くよ、カー君!」
「ぐぐ!」
そしてカーバンクルを抱えて、アルルは駆け出した。いざ行かん、セリリ粛清の場へ(違)
一方その頃のDシェゾとラグナスは当初の目的を忘れて死闘を繰り広げていた。Dシェゾがアレイアードを放てば、ラグナスがメガレイブで応酬する。Dシェゾが剣で切りかかれば、ラグナスもまた受け止める。結界が震えるくらいのレベルで行われる戦いに、シェゾの自宅内で待機しているてのりぞうは気が気ではなかった。万が一結界が崩壊しシェゾを起こすことになってしまったら、待っているのは阿鼻叫喚の地獄絵図である。それくらい、睡眠不足で寝起きのシェゾは気が短いのだ。
「フン、なかなかやるではないか。」
「そっちもな。」
二人が再び切り結ぼうとしたその時である。
「おのれあのヘンタイ魔導師〜!このサタン様がせっかく誕生日を祝ってやろうというのに、いきなり呪文で吹っ飛ばすとは何てことだ。おかげで、マントが駄目になってしまったではないか!」
文句をブチブチ呟きながら、サタンがテクテクと歩いてきたのだ。彼は今朝、シェゾに呪文で吹っ飛ばされた後、いろいろ大変だったのである。まず、落ちた先が深い森で、サタンは木に引っ掛かってしまった。しかもその森は魔力の使えない封印がされた森であり、ほとんど丸腰のサタンは森から出るのも一苦労であった。まあ、森から出てしまえば転移が使えるので問題ないのだが。そんな訳で、再びやってきたサタンである。Dシェゾとラグナスは何となく声のした方を向き、即石化した。そりゃあ、もう、見事なまでに、二人揃って。その原因はサタンの姿にあった。何故なら、サタンはサンバカーニバルの衣装で現れたからである。しかも女性用だ。その光景はまさしく変態が森を歩いていると言って差し支えなかった。しばし硬直したままサタンを見続けるDシェゾとラグナス。それでも何とか我に返った理性を総動員して目の前のゲテモノ・・・もとい、サタンから目をそらした。そして二人の目が合う。その時、某有名少年サッカー漫画のゴールデンコンビもびっくりなアイコンタクトが二人の間で交わされた。それは世の為、人の為、そして何より自分の為に、あの目の前を行く変態をこの世から抹消すべきであるという了解であった。
「アレイアード・スペシャル!」
「ファイナルクロス!」
二人の奥義とも言うべき必殺技がサタンに襲い掛かる。その技は彼に悲鳴を上げる暇さえ与えず直撃した。
「全く。春先には変態が増えるというが、あれも相当なものだな。」
「というか、サタンは一年中変態だから。」
Dシェゾの呟きをラグナスがやんわりと訂正する。爽やかに毒を吐く正義の味方。実は悪ラグナスか黒ラグナスではないかと勘繰りたくなってくる。無銭飲食53回、スカート捲り31回の俺様勇者だ。
「それはそうと、貴様は何故オリジナルを祝おうと思ったのだ?」
最初より、やや柔らかな口調でDシェゾが尋ねる。共に変態を倒したせいか、警戒心が少々緩んだようだ。
「それはもちろん俺とシェゾは友達だからね☆」
爽やかな笑顔で答えるラグナス。
「・・・言ってて寒くないか?」
「うん、ちょっと・・・。」
少し間をおいてDシェゾに言われた言葉に、ラグナスの顔が口元を引くつかせた笑いになる。
「笑えない冗談を無理に言うのは苦しいぞ。」
「ははは・・・実は言ってて寒イボ出そうだったよ。でも毛嫌いしている訳じゃないよ、これホントー。」
「棒読みだぞ。」
流石にシェゾのドッペルゲンガーだけあってツッコミも上手いようである。シェゾはああ見えて、ボケとツッコミの両方をこなせる器用な男なのだ。ボケの方に関しては本人に自覚はないようであるが。
「本当だって。それにシェゾは仲良くなって損じゃないだろ?あいつの作る御飯、美味しいし。」
ラグナスの言葉にDシェゾがピクリと反応する。
「繊細なのに、強さがあって。素材の味を生かしつつも、単調にならない味付け。口に中に広がる絶妙のハーモニーが何とも言えないんだよね。」
「まろやかさを追求し、コクがあるのに、後味はすっきりしている。薄味のものは決して淡白ではなく上品な味に仕上げているな。」
「うん、そうそう。その辺の店屋よりずっと美味しいからね。」
二人して納得しあうDシェゾとラグナス。
「・・・して、本当の理由とは何だ。」
「ああ。それはさ〜、俺の誕生日が今度四月にあるんだけど、今日一応シェゾ祝っといて恩を売っておけば、俺の誕生日の時に料理作ってくれるかな〜と思ってさ。」
やっぱり黒い・・・?
「そんな訳だからさ、通してよ。」
「オリジナルは今寝ていると言ったはずだが?」
「いいじゃないか、別に寝顔を拝むくらい。減るもんじゃないんだしさ。」
「起きたら怒るぞ。」
「それに、シェゾの寝顔って結構可愛いから高く売れるんだよね。風呂上りや着替えなんかも露出度高いから高く付くんだけど。」
シェゾさん、狙われてます(シャッターチャンスを)。
「・・・・・・。」
ラグナスに言葉にDシェゾは考えた。ラグナスはシェゾの写真を売りさばこうとしている。それをシェゾが知ったらどう反応するか。とりあえず、怒るだろう。いや、儲けの八割くらいを寄越せと言うかもしれない。もし、彼が不機嫌になった場合、それを見過ごした自分にもとばっちりが来るかもしれない。
(もし、飯抜きになったら・・・困る大いに困るぞ我は。)
時々尋ねてくるDシェゾにシェゾは何だかんだ言いつつも食事を出してやっていた。傍から見ると餌付けされているようなのだが、当の本人達にはその自覚はない。
(ドサクサに紛れて殺る・・・か?)
密かに怖いことを考えるDシェゾ。ラグナス、生命の危機?Dシェゾがそんなことを考えていると、彼の方へ何かが飛んできた。咄嗟に隣にいたラグナスの頭を掴み、盾にするDシェゾ。これぞコメディにおける万国共通(?)の技、人間バリアーである。スコンッといい音を立てて、ラグナスの頭に薔薇の花(の茎の部分)が突き刺さった。
「あつっ!?」
「ん〜、なかなかやりますね。流石シェゾのドッペルゲンガーだけのことはありまーす。」
ラグナスが悲鳴をあげる中、登場したのはインキュバスであった。
「貴様は・・・。」
盾にしたラグナスを放り棄てて、インキュバスに向き直るDシェゾ。因みにラグナスは薔薇が刺さった所から噴水のように勢いよく血液が噴出していた。それはもうドピューッと言わんばかりに。
「何の用だ。」
インキュバスに剣を突きつけるDシェゾ。
「OK、キティ。そんなに知りたいなら教えて・・・。」
インキュバスが言いかけた所で、サクッと剣でその頭を割るDシェゾ。というか、今時『分かったよ、子猫ちゃん』なんていう男はいろんな意味で厳しいと思う。
「NOOOOOOOOOO!?血が!血が!?」
「五月蝿い。」
騒ぐインキュバスにまたもや剣が入る。おかげで彼の頭は三つに割れてしまった。ちょっとこの辺りいろいろグロくてすみません。
「いきなり何をするのですか、Dシェゾ。」
「何をしにきた。」
「・・・決まってるじゃないですかー。今日はミーのシェゾのバースデーですよ。OUCH!」
「誰が貴様のオリジナルだ。」
インキュバスの頭が四つに割れた。そこからはやはりドクドクブシューっという感じに血が景気良くダバダバと出ている。それでも倒れないのはやはり魔物だからか。
「マイスイートハニーのバースデーを二人きりで祝いたいからでーす。」
「・・・・・・。」
「ミーのシェゾはとってもビューティフォーですから。それでいて性格はベリーキュート。その上、さり気ない仕草がプリティね。それがユーとは違う所でーす。」
ペラペラと喋るインキュバスを見て、Dシェゾはどんな方法で滅殺しようか思案し始めた。
「お、俺を忘れるな〜!」
その時、ゾンビの如く立ち上がった男が一人。手には薔薇を一本握り締め、怒りのあまり握り締めた拳により、その茎はへし折れていた。金色に輝く鎧は自らの返り血(若干インキュバスのそれも混ざっているようだ)に赤く染まっている。
「フゥ〜、なかなかしぶといですねー、ラグナスさん。」
「よくもやってくれたな、Dシェゾ!」
「薔薇を投げたのは
指を突きつけてくるラグナスに冷静に受け流すDシェゾ。
「問答無用!究極の一げ・・・ガッ!?」
リアクターブレードを抜き切りかかってきたラグナスが急に倒れた。何やら体を痙攣させ、ピクピクしている。
「ブラボー!ようやく効いてきたようですね〜。ミー特性痺れ薬。」
「まさか・・・さっきの薔薇か。」
「イエース!ザッツラーイト。さあ、Dシェゾ。ユーもカモン!」
薔薇を指の間に挟みポーズを決めるインキュバス。
「エクスプロージョン。」
それに対し魔導を放つDシェゾ。
「おっと。」
「ぎゃあ!?」
反応は二つだった。インキュバスが避けて、ラグナスに当たっていたのだ。ラグナスがちょっといい感じにコゲコゲになってしまったが、生憎そんなことを気にするDシェゾではない。こうして(Dシェゾにとっての)戦いの第二ラウンドのゴングは鳴ったのだった。
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