さて、セリリの粛清に(だから違うって・・・)出かけたアルルは、道の途中でとうとうセリリに出会う。彼女は道の途中で倒れていた。一体誰にやられたのかと思いきや、単に湖から離れて干からびかけていたようである。殺るなら今だアルル・ナジャ・・・とアルルが思ったかは定かではないが、一先ず水をかけて気づけを行う。

「い、いじめないでぇ〜。」

「セリリちゃん、落ち着いて。ボクだよ、アルル。」

「・・・アルル・・・さん?」

怖い夢を見たのか寝ぼけているのかいつものことかもしれないが、泣き叫びそうになるセリリにアルルは笑顔を向ける。友好的なそれはとても粛清に来た(いや、違うから本当)者とは思えない。人類皆兄弟とか宗教の教祖とか宣教師系な笑顔である(注:これはあくまでネタとしての表現であり、水無月は宗教家等に対して悪意はありません)。

「セリリちゃん、聞いたよ。今日はシェゾのお祝いに行くんだって?」

 アルルの問いにセリリの顔が真っ赤になる。そして、いかにも恋する乙女ですという様でもじもじした。対するアルルは笑顔のまま。でもその笑顔が怖いと思うのは水無月だけでしょうか・・・。

「水臭いな〜、ボクたち友達でしょ。友達ならボクも誘ってくれなくっちゃ。」

若干『友達』の文句を強調しつつ言うアルル。

「あ、アルル・・・さんも、シェゾさんのお祝いに?」

「うん、もちろんだよ。だって友達だもん。やっぱり友達みんなで祝ってあげた方がシェゾも嬉しいよね。」

ニコニコとまるで邪気の無い顔でアルルが言う。怖い、恐いぞアルル・ナジャ。

「それでさ、セリリちゃん。誰に聞いたの?今日がシェゾの誕生日だって。」

「え・・・それは・・・・・・。」

「ボクたち友達だよね?友達なら教えてくれる・・・よね。それともボクたちは友達じゃない・・・?」

不安そうに首を傾げるアルル。これもやはり演技なのか!?

「そ、そんなことないです!アルルさんは私の大切なお友達です。」

「もちろんシェゾもそうだよね?」

「はい!もちろん・・・あ。」

アルルの誘導に引っ掛かる形でシェゾのお友達宣言をしてしまったセリリ。ああ、もう純粋無垢なアルルファンの方すみません。

「それで、だ・れ・に聞いたのかな?」

「あ、あの、その・・・ウィッチさんに・・・・・・。」

(ウィッチの奴〜・・・!)

 恐る恐る口にするセリリを尻目に口の軽い(?)ウィッチに怒りを覚えるアルル。実はウィッチはシェゾへのプレゼントに湖の底に生息する貴重な水草を材料にした薬を贈ろうと、セリリに水草の採取を依頼したのだ。そのときに何故水草が欲しいのか聞かれ、ついうっかりシェゾの誕生日のことを話してしまったのである。セリリにとってシェゾは大切な友達であると同時に自分の人生を変えるきっかけをくれた特別な存在であった。尊敬と憧れがやがて本人も気づいてないような淡い恋心へと変化していったのだが、ある意味一途で健気な彼女をシェゾもまた気に掛けている節がある。アルルやウィッチといったシェゾに想いを寄せている者達からすれば面白くない。それでも二人の仲はあくまで『お友達』だったので、アルルもセリリのことはマークしてなかったのだ。抜け駆けできるような性格でもないし。今回も純粋に友達の誕生日をお祝いしたいと本人が思い込んでおり、また内気な性格が災いしてすけとうだら以外のものと相談することがなかった故の結果である。本人無自覚、これ重要。そのくせ優先順位ランキングは上位をキープ。確かに顔は良いけけれど。セリリに対してはそれほど毒舌じゃないけれど(泣かれると鬱陶しいので)。恐るべし、シェゾ・ウィグィィ。

「あ、あの・・・アルルさんも宜しければ一緒お祝いにいきませんか?」

「え・・・?」

セリリに問われ、少し逡巡するアルル。正直に言えば自分以外の女の子がシェゾをお祝いしプレゼントをあげて、シェゾの中で株が上がってはほしくない。しかしここで断ればセリリは泣き出してしまうだろう。そうすると始末に終えないのだ。

(仕方がないな・・・。)

「うん、わかった。一緒に行こう。」

「あ、ありがとうございます!」

「残念だけど、そうはいかないわよ。」

『誰!?』

 突然の第三者の声にアルルは鋭く、セリリは少し怯えて言った。妖艶な哄笑を上げつつ姿を現した一人の女。ちょっと化粧がケバイけれどプロポーションはアルルよりはっきりしている夢魔サキュバスである。

「サキュバス!何の用!?」

セリリを背後に庇う形で戦闘体勢をとるアルル。サキュバスはやはり淫魔であるから男性であるシェゾを狙っているのは周知の事実であった。やはり魔族といえども不細工よりは美形の方が美味しくいただけるのである。実はサキュバスはシェゾが本当に若い頃から密かに狙ってきたのだが、シェゾの用心深さと闇の剣の防衛のため、これまで一度も夜這いに成功していない。というか、一晩寝たら精を吸われて死ぬか半奴隷化すると分かっていて近づかせる馬鹿はいないだろう。そうやって若い頃シェゾの貞操は闇の剣によって守られていたのだ。偉いぞ、闇の剣。

「言っておくけど、あの坊やは私の獲物よ。だから他の女を近づけるわけにはいかないわ。」

「シェゾはキミの獲物なんかじゃない!」

「ふふふ、今夜こそ私のものにしてあげるわ・・・。」

「そんなことさせないんだから!ほら、セリリちゃんも。」

「え?あ、あのその・・・。」

急にアルルに話題を振られて戸惑うセリリ。

「あいつに襲われたらシェゾ死んじゃうかもしれないんだよ?もちろん普段のシェゾは強いけど、怪我したり病気だったりダンジョン潜って魔導力も体力も落ちていたりした時にやられたらわかんないよね。ここは一つ、友達のボクらが護ってあげないと!」

「は、はい!」

アルルの言葉に頷くセリリ。騙されてます・・・?

「ボクたちで二度とシェゾに近づけなくしてやろうよ!」

「はい!」

ドサクサに紛れて過激な発言が飛び出す。

「冗談じゃないわね。ただでさえインキュバスの阿呆に先越されてるかもしれないってのに・・・。」

「何だって!?」

サキュバスの呟きに反応したのはアルル。インキュバスは両刀使い[バイ]で美形なら男でも女でも構わないらしいという噂があるのだ。心の中で焦るアルル。その肝心のインキュバスは少々前からDシェゾと戦っていたりするのだが、そんなことをアルルたちは知る由もない。

「セリリちゃん、頑張ってあいつを倒そう。」

「はい、アルルさん!」

「ふふ、やれるものならやってみなさい。」

ここでもまた、仁義なき女の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

「オーマイガ〜!?」

「フン。」

 死闘(?)の末、Dシェゾの最後の大技がインキュバスをはるか彼方へ吹っ飛ばした。倒れていたラグナスも一緒に巻き込まれて空のお星様になってしまったが、それはドンマイ。

「流石に疲れたな・・・。」

Dシェゾは手ごろな岩に腰を下ろした。日は大分傾いてきている。そしてシェゾはまだ眠り続けているようだ。六時間睡眠ではすまないレベルであることは確かである。まさかシェゾが平和に睡眠の恩恵を享受している間に、あちらこちらでシェゾを巡った戦いが勃発しているとは欠片も思っていないだろう。

「む、誰か来たな。」

何者かが近づく気配に、Dシェゾは警戒する。いつでも攻撃が仕掛けられるような体勢をとっていると、やってきたのは一人の少女だった。亜麻色の髪に金茶の瞳。シェゾ曰く獲物、本人曰く友達・・・なアルルである。

「やあ、Dシェゾ。」

「何の用だ、アルル・ナジャ。」

「決まってるじゃないか、シェゾに会いに来たんだよ。家にいるんでしょ?」

友好的な態度で話しかけるアルル。

「確かに家にはいるが・・・随分とボロボロだな。」

Dシェゾはアルルの姿を眺め、そう感想を述べた。とても出かける前におしゃれをしてあったとは思えない。

「や〜、来る途中でいろいろあってね。そういうDシェゾこそかなり酷いじゃないか。」

「ラグナスとサタンとインキュバスが来て、こうなった・・・。」

「うわ〜・・・。」

Dシェゾの言葉にアルルは苦笑い。しかし胸の内では

(それじゃあ、インキュバスはDシェゾが排除したってことだね。よし!)

と密かにガッツポーズ。

「それで、ボクはシェゾに会いたいんだよ。だから・・・通してくれない?」

シェゾの家に向かおうとするアルルの道を塞ぐDシェゾ。

「駄目だ。」

「一応、聞いておくけど何でさ。」

「オリジナルはまだ寝ている。我はその眠りを死守すると誓った。もしオリジナルに会いたいなら奴が起きるまでここで待つがいい。」

Dシェゾの言葉にしばしアルルは考える。Dシェゾは変な所もシェゾに似たのか頑固で融通の利かない面がある。こうと決めたら梃子でも動かないのだ。

(ああ、せっかくセリリちゃんが尊い犠牲になってサキュバスと相打ちになってくれたのに、こんな所で足止め食らうなんて・・・。)

アルルは舌打ちしたい気分になった。正確にはセリリとサキュバスの止めを刺したのはカーバンクルビームの乱射だったりするのだが、それはそれというやつである。

「待ってあげてもいいけど・・・。」

シェゾの寝起きが不機嫌なのはアルルも知っていたから、下手に起こして怒られるよりは待ってみるのもいいかもしれないと感じる。せっかくシェゾの誕生日なのだから、とことん自分の株を上げてみるのもいいかもしれない。

「グー!」

「え?カー君お腹空いたの??困ったな、ボクもう食べ物なんて持ってないよ。」

「我がてのりぞうに聞いてみよう。少し待っていろ。」

カーバンクルの主張を聞き、Dシェゾがシェゾの家に引っ込む。空腹のカーバンクルが暴れ出したら、結界所かシェゾの家まで破壊されかねない。そして怒り狂ったシェゾとカーバンクルの戦いが始まるだろう。そしてそれを聞きつけたサタンその他が乱入し、周囲一帯が焦土と化すのである。その光景はアルルにもDシェゾにも容易に想像できた。従ってDシェゾは大人しく、食料提供の方向に動いたのである。

 約十分後、Dシェゾはパンと鍋を持って現れた。鍋の中身は匂いからしてカレーのようである。

「昨日のカレーの残りだそうだ。作ったのはてのりぞう自身だから好きに食べていいらしい。ただし、夕飯は出せないと言っていたぞ。カーバンクルの腹を満たすだけの食材は用意してないそうだ。」

「あははは、いきなり来たんだし、それはしょうがないよね・・・。」

「ぐー!」

Dシェゾの説明を聞いているのかいないのか、カーバンクルはカレーとパンへ舌を伸ばす。アルルは苦笑いを浮かべるしかない。その後食事を片付け、辛抱強くシェゾの目覚めを待っていると、どこからともなく地響きのようなものが聞こえてきた。

「何だ・・・?」

「さあ・・・?」

「ぐー?」

三者三様に首を傾げる。その正体が判ったのはある声によってだった。

「見つけましてよ!アルルさん!!」

「げ!ウィッチ!?」

「抜け駆けしようなんてそうはいかないね!」

Bキキーモラ!?」

前半相争っていた二人がとうとうここまでやってきたのである。

「メテオー!」

「死にな!」

「うわあ!?・・・この、ジュゲム!」

いきなり攻撃を仕掛けてくる二人に応戦するアルル。ついに三つ巴の抗争が勃発か!?

「ぐー!」

そこへカーバンクルビームが炸裂する。どうも攻撃で砕けた岩の破片が激突して痛かったらしい。Dシェゾはさっさとイクリプスを唱え傍観を決め込んでいる。意外とちゃっかりしてるな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

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