*これはキリ番200におけるリクエストに対して書き上げた一つ目の作品です。

*取得者である庵様がもう一方の作品をキリ番作品として受け取られた為、こちらは相互お礼として献上しました。

*再掲載に辺り、若干フォント等をいじっております。

 

 

 

 

 

満漢全席を狙え!

 

 

 

 

 

 ある日の魔導学校の図書室にて、アルル・ナジャは閲覧用のテーブル一杯にいくつもの本を広げているシェゾ・ウィグィィを発見した。以前は所構わず例の問題発言をしてくるのでアルルも困っていたのだが、とりあえず現在は、学校内は中立地帯ということで話が着いている。従って、シェゾに何か頼み事をするなら学校を選ぶのが狙い目だ。彼はああ見えて意外と面倒見がいいので、文句を言いつつも引き受けてくれる可能性が高い。

「シェゾ、仕事はどうしたのさ?」

アルルはシェゾに話しかけた。シェゾはその知識を買われこの図書室で司書のアルバイトをしている。しかし彼は普段いるカウンターではなく、生徒もよく利用する閲覧用テーブルを丸々一つ占拠していた。

「ん〜、ちょっとな〜。」

シェゾはアルルの問いに顔も上げずいかにも適当な相槌を打った。

「全く何をそんな一生懸命見てるのさ・・・満漢全席?」

アルルはテーブルの上に広げられた一冊を覗き込んで首をかしげた。満漢全席とは言わば中華料理のフルコースのような存在である。由来は清朝(満州民族の征服王朝。女真族とも言う)の康煕帝の時代まで遡り、積極的に満漢民族の融和を進める政策を採った彼によって、宮中の宴に漢民族の料理を取り入れられたのが始まりとされている。また海の幸、山の珍味など食材は極めて多様で、「山八珍」(熊の掌・猿頭・虎腎・蕨等)、「陸八珍」(駱駝の瘤・茸等)、「海八珍」(鱶鰭・鮑・亀等)といわれる。こうした贅の極みをつくした料理とデザート150品以上を2日、3日もかけて食べるらしい(個人的には本当においしいのか少々疑問だ)。食間にはゲームや踊りなどを観賞しながら贅沢な時間を過ごすとか・・・。健康を維持し、不老長寿を図るという意味もあるとされているようだ(かなり眉唾)。清朝の時代に完成した高級宮廷料理とその宴席である満漢全席は、満州族が築いた清朝と漢の文化が融合して生まれた中国料理の集大成で、中国全土の珍素材を贅沢に使った高級料理の代名詞でもあるのだ。因みに中華料理店では店のメニューの内15〜50品を宴席で提供する形を満漢全席と称している所もあるようだ。・・・と、まあ、本編とは全然関係ない中華料理の豆知識(多分すぐ忘れる)が展開された所で、アルルとシェゾの会話に戻ろう。

「どうしちゃったのさ、キミ。こんなにたくさん料理の本広げて・・・。」

「ああ、たまには凝った料理でも作ってみようかと思ってな。もちろん全部作る気はないが、何かいいものはないかと探していたんだ。」

 実はこのシェゾ、料理の腕はプロ級である。いっそ魔導師引退して料理人にでも転職した方がずっと世の為人の為だ。あのサタンですら彼を自分お抱えの料理人として雇おうかと検討したくらいである。まあ、どうせ性格の不一致で上手くいかなくなることは目に見えていたから実行に移されることはなかったが。

「うわ〜、いろいろあるね。何作るの?」

「だから、今考えている最中だ。」

アルルは興味津々といった感じでシェゾの手元を眺める。

(おいしそうだな〜。中華料理といえばラーメン・餃子・焼売・炒飯・・・ああ、何かボクも食べたくなってきちゃった。今日の夕飯中華にしようかな。)

「シェゾはさ〜、それいつ作る気なの?」

自分も広げられた料理本の一つを手に取りながら尋ねるアルル。

「ああ・・・多分、今度の週末だな。」

「・・・じゃあ、さ。ボクもお呼ばれしていい?」

「は?」

アルルの言葉にシェゾが初めて顔を上げた。

「だって、シェゾの料理おいしいんだもん。ボクも食べたい。」

「・・・却下だ。」

「何でさ!?」

サタンなら間違いなくデレデレしそうなアルルの上目遣いの可愛らしいお願いもシェゾには通用しないらしい。

「お前が来るともれなく一匹カーバンクルが付いてくるだろう。」

「もれなくって・・・そんなカー君をお菓子についてくるおまけにみたいに・・・・・・。」

「カー公が来ると作る側から料理がなくなっていく。だから駄目だ。」

シェゾはきっぱりとそう宣言した。

「ううう・・・じゃあ、カー君はサタンの所に預けてくからさ。それならいいでしょ?」

アルルはなおも食い下がる。しかしそれだけのことをしても食べる価値があるのだ。シェゾの料理は。

「だが、よく考えてみると俺に何のメリットがあるんだ・・・?」

「まあまあ、一人で食べたってつまらないだけじゃないか。それに自分の食べる分くらいの食費なら出すよ、ボク。」

「ふむ・・・、それならまあいいだろう。」

ニコニコと笑顔を振りまくアルルに知らず知らずの内に丸め込まれているシェゾ。だからいつも貧乏くじ引かされるんだよ、あんた。

「あ、そういや、お前、カー公は?」

「ああ、カー君なら校長先生の所でカレー食べてるよ。」

「は!?」

シェゾはマスクド・サタンなんていう妙な変装でこの学校の校長やってるサタンとその目の前でカレーを踊り食いするカーバンクルの姿を想像し、溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、週末・・・もとい土日休みを間近に控えた、十三日の金曜日。シェゾは司書の仕事を終えて帰宅の途に着いていた。

「クソ、あのツノ校長め!時間外労働もいい所だぞ。絶対後で残業手当請求したる・・・。」

忌々しげに舌打ちする様はどこからどう見ても不機嫌そのものだ。何故なら彼はマスクド校長姿のサタンに学校の見学に来たという某国のお偉いさんの案内をさせられたのだ。その日はスケジュール上午前中で図書室は閉めていい事になっていたのにである。何せ、この男、口と態度さえ気をつければ文句なしのインテリ系色男(?)である。魔族の間でも貴重書と言われるある魔導書を貸すという条件に釣られて引き受けたのだが、予想以上に苦痛な仕事であったらしい。そんな訳でブチブチ文句を垂れ流しにしながら、シェゾは歩いていた。そこへ現れた一つの影。それはシェゾの進路を塞ぐように道に立った。おおお!不機嫌なシェゾの邪魔をするなんて、まさしく勇者だな・・・ん?勇者!?

「シェゾ!」

「・・・ラグナス?」

それは金色に輝く鎧が昼間は何とも目に痛い異世界出身の光の勇者ラグナス・ビシャシであった。余談だが、偶然その光景を目撃したドラコケンタウロスことドラコは『お♪シェゾとラグナスじゃん。また喧嘩かな。これはいいバトルが見れるかも。』なんて思いジュース片手にこっそり観戦モードに入ったらしい。彼女は美少女コンテスト好きのみならずバトルマニアな面も持ち合わせているようだ。

「何か用か?仕事の依頼ならお断りだぞ。」

(それにもう食材の手配しちまったしな・・・。)

 シェゾが名前を呼んでから何も言わずにこちらを睨み続けている(ように見える)ラグナスに言う。彼らは立場上基本的には犬猿の仲なのだが、それでも仕事によっては共同戦線を張ることもあるのである。どちらも実力に関しては折り紙付きだ。だからシェゾも仕事の同行者でも探しているのかと思ったのである。しかしラグナスが次に発した言葉はシェゾも予想外の一言だった。曰く・・・

お前が欲しぃいいいいいいい!!

である。その瞬間シェゾの目は点になり、密かに彼らを眺めていたドラコはジュースを思いっきり吹き出す羽目になった。とうとうラグナスもヘンタイの仲間入りか・・・(遠い目) まあ、元々別の意味ではヘンタイだったけれどね。

「な、ななな、何を考えてるんだ、貴様は!?」

柄にも無く赤くなり動揺するシェゾ。

「もとい、お前の作った食事が欲しい!」

ラグナスはシェゾに向かって指を突きつけそう宣言した。

「はあ?飯でも作れってのかよ。それ、今からか?だとしたらお断りだぜ。というか何でこの俺様が貴様の為にわざわざ飯を作ってやらにゃならん。」

「フッ、何も今日作れとは言ってないさ。」

気取って笑うラグナス。今の彼の思考はシェゾの頭脳をもってしても理解しかねた。恐らくは先程の『お前が欲しい』発言が尾を引いていると推測される。一度回転が止まると再度回し始めた際は回転速度が落ちているのと同じである。どこの回転かは言うまでも無い。

「じゃあ、何だ。」

「お前明日満漢全席作るんだってな。」

何故か自信満々な態度で言うラグナス。

「それは・・・まあ、そうだが。何で知っているんだ。アルルから聞いたのか?」

別に隠すほどのことでもないので素直に認めるシェゾ。それに対してラグナスは意味深な笑みを浮かべる。

「よく言うだろ。『壁に耳あり、ジョージにメアリー』って。」

「それを言うなら『障子に目あり』だ。誰だよ、ジョージとメアリーって・・・。」

「あ。」

シェゾに指摘されて赤くなるラグナス。ベタすぎるボケですみません

「・・・と、とにかく!俺にもお前の料理を食わせてくれ!!」

「あ〜・・・。」

どうやらラグナスも満漢全席をご相伴に預かりたいらしい。少し思案するシェゾ。

「ブラスト!」

「ぐわ!?」

「へ?俺まだ何もしてないぞ・・・。」

 シェゾが何もしていないのにいきなりラグナスが横に吹っ飛ばされた。少々拍子抜けである。シェゾが反対方向を見遣れば黒い服に、銀の意匠をあしらった魔導アーマー、そしてマントに赤いバンダナ。シェゾと同様月の光を集めたかのような銀の髪に血のように紅い瞳。関係者の間では言わずと知れたシェゾのドッペルゲンガーである。

「久しいな、オリジナル。」

「Dシェゾ・・・?そういえば最近見なかったな。どうしてたんだ。」

Dシェゾがシェゾの元へゆっくりと歩み寄る。

「いや、ちょっと小金が入ったんで食い倒れの旅に出ていた。」

「そ、そうか・・・。」

彼の答えにちょっと肩透かしを食うシェゾ。

「だが、お前の作る飯がやはり一番旨いな、オリジナル。」

「そりゃ、どーも。」

Dシェゾはシェゾの横に並んだ。傍目にみると双子の兄弟にも見えなくない二人である。しかし彼らをよく知るものは言う。あれはペットと飼い主のそれに近いと・・・。

「という訳で、あの光の勇者にやるくらいだったら俺にくれ。」

「は?」

Dシェゾが何か寄越せという風に手のひらをシェゾに向ける。

「オリジナルの作った飯は我が食うぞ。」

「ちょっと待て!」

二人の間に復活したラグナスが無理やり割って入る。

「シェゾの満漢全席は俺が食べるんだぞ!」

「いいや、我のものだ。」

ラグナスとDシェゾが睨み合った。

(それ以前に誰もまだ食わしてやるとは言ってないんだが・・・。)

シェゾが内心呆れながら二人の様子を眺める。

(というか・・・。)

「何でお前まで知ってるんだDシェゾ?」

彼は今までこの町から出ていたのではなかったのか。そもそもシェゾがアルルと話をしたのは学校の図書室であり、校内自体が関係者以外は基本的に立ち入り禁止である。だからこれまでシェゾはラグナスもDシェゾも学校で目撃した覚えがない。それなのに何故彼らが知っているのか。

「ウィッチとかいう見習い魔女がベラベラ話して回っていたぞ。」

シェゾの問いにあっさりと答えるDシェゾ。ウィッチは魔導学校の生徒である。いつの間に盗み聞きされていたのか・・・。

「・・・あの、お喋り魔女が!」

忌々しげにシェゾは吐き出した。図々しい彼らのことだ。ここぞとばかりに自分も食わせろと押し寄せてくるに違いない。

「フッ、バレてしまっては仕方ないな。シェゾの料理はこのラグナス・ビシャシが戴く!」

「オリジナルの飯は我のものだ。」

ラグナスとDシェゾが同時に剣を抜いた。当の料理人には了承を得ずに。

「お、おい、お前ら・・・。」

「勇者に敗北は無い!」

「フン、オリジナルのものは我のものだ。」

Dシェゾの言葉に少々引っ掛かりを覚えたシェゾが何となく聞いてみる。

「・・・因みにお前のものは?

我のものだ。」

お前はジャ●アンか!?

 その瞬間、問答無用で闇一閃が発動した。その直撃を受けるDシェゾとそれに巻き込まれてやはり吹っ飛ばされるラグナス。掛け声一つ無しに技を繰り出すとは掟破りもいい所である。なお、この場合何の掟かは突っ込んではいけない。

「いいかげんにしろよ、Dシェゾ。」

さらにシェゾは吹っ飛ばされたDシェゾを追い、三発程ぶん殴った挙句、倒れた彼をゲシゲシと足蹴にした。

「逆ならいざ知らず何故俺のものがお前のものなんだ、え?」

「す、すまん、オリジナル・・・言葉のあやというか・・・むしろ単に水無月がネタとして使いたかったというか・・・。」

「さり気なく作成者側の裏事情を暴露するなよ。」

おのれ、ダブルシェゾ。言ってはならないことを・・・。

「なら削除しろ。」

ごめんなさい、こちらが悪かったですから地の文と会話しないで下さいシェゾさん。

「よし。・・・とにかく今度そんなふざけた事ぬかしてみろ、簀巻きにして逆さ吊りにした挙句、三食抜いた状態にして目の前で焼肉するぞ。」

踵でグリグリさらに踏むシェゾ。

「なかなか痛いぞ、オリジナル。」

「じゃあ、もっと踏んでやる。」

力を込めてDシェゾを蹴たぐりまわすシェゾ。

「痛い!本気で痛いぞオリジナル!?」

「じゃあ、後は止めにエクスプロージョンだな★」

「何故そこで語尾が★マーク!?」

「何だ?まさかハートマークの方が良かったとか言うんじゃないだろうな。」

「言うか!」

何だか会話の方向性がずれていくシェゾたちの会話。直撃はしなかったおかげで割と早く起きてきたラグナスは展開についていけず、二人の様子を眺めるのみである。でもそろそろ制止した方がいい気がしてきた。

「おい、シェゾ・・・。」

「話の邪魔だ!エクスプロージョン!!」

ぎゃあああ!?

『あ・・・。』

親切にも横槍を入れてきたラグナスにDシェゾに対して使おうとしていた魔導をついうっかり発動させてしまったシェゾ。はっきり言って『うっかり』で済むレベルではないのだが、そんなことをいちいち気にしていてはサタンたちとは渡り合っていけない。哀れラグナスはヴェルダンに焼き上がる。でもギャグだからきっとすぐ復活するだろう。問題ない。

「・・・が、ガイアヒーリング・・・よし!勇者ふっかぁ〜つ!!」

ほらね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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