7.2000 おしゃべり写真館 第11話
写真と文、手林 進




 

 「吉祥寺諸相」  
                       
 吉祥寺という街に最初に行ったのは、今から30年程前になる。中央沿線に知人がいて、吉祥寺の街を知り、ジャズのファンキーへも行った。しかし、それっきり、ごく希に井の頭公園近くの動物園に行ったくらいだ。 それが、しばしば吉祥寺、井の頭公園に出かけるようになったのは写真をやるようになってからだ。写真を始めてから、いろいろな街に出かけるようになった。その中でも吉祥寺は好きな街だ。武蔵野の自然を感じさせる井の頭公園、そこに集まる人々、露店、ストリートミュージシャン、煙もうもうの焼鳥のいせや、ジャズライブのサムタイム等々。かってのファンキーは今はなく、名前だけが残っているようだ。
 吉祥寺を起点、もしくは終点にして、野川公園、野川河岸、深大寺、神代植物公園、東京天文台等、周辺に魅力的な場所が多い。 秋から冬にかけては、黄昏時の井の頭公園は印象深いし、春は桜、花見の宴も賑やかだ。新緑の季節も良い。大きなアーケードがあり、昔ながらのハモニカ横町というのも残っている。老若男女が街にごったがえしている。かっては若者の集まる街として吉祥寺は名を馳せた。が、近年それらは渋谷・原宿・下北沢等にお株を奪われたかたちとなっていた。ところが、最近は、めっきり若者が多くなった。理由は分からないが、再び吉祥寺に若者が集まりだしたようだ。土曜日に井の頭公園で演奏していた彼らが日曜日には原宿にいるというようなことも見かける。原宿と渋谷は若者が巡回するルートとして繋がっていて、渋谷・下北沢・吉祥寺は井の頭線で結ばれている。案外、そんなことが影響しているのかもしれないし、どちらも露店やストリートミュージックがしやすく、若者が数多く集まる街だ。関東圏を中心に広範囲から人を集めている原宿に対して、吉祥寺は中央線沿線・井の頭線沿線の街という違いはある。原宿はやや大舞台か。  
 吉祥寺駅を井の頭公園側に出たすぐにある、カウンターだけの中華屋さんのラーメンやチャーハンはいける。井の頭公園に入る直前の小さなお店の並ぶ通りにあるグレープフルーツのジュースもおすすめ。その先にいせやがあるのだが、隣の喫茶店では、いつも、橋口譲二の写真が展示されている。聞くところによると、マスターが氏と友達らしい。2、3か月ごとに写真を入れ替えて展示しているようだ。モノクロのオリジナルプリントは見ていて心安まる。 井の頭公園には名物と言える人物達を見かける。カラスを餌づけしている男、鳩の餌やりグループ、素人画家、アコーディオン弾きの女性顔面芝居、太極拳グループ、腹話術の男女、マジシャンの老人、のこぎり演奏家、操り人形師、大きな犬につれられた飼い主、あやしげな露店の外人、インド人のような日本人等々。そして、休日をのんびり過ごす、大勢の人々。私自身も、そんな休日を過ごす一人として、井の頭公園を訪れる。
 そんなある日、ベンチに横になりとても気持ちよさそうに眠る男がいた。カメラなんか持ち歩かずにその男のようにぐっすり眠っているほうがいいなと少し羨ましくも見えた。


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