二輪停止線 (00.5.7)


東京のような大都市圏の主要道路では、信号機のある交差点のところどころに四輪の停止線の前方、横断歩道に接するほどの位置に、二輪車専用の停止線がある。信号で停まっている車の間を抜けて、二輪はこの専用停止線に並ぶ。バイクは出足が早いので、車の先にやってしまおう、という安全配慮から設けられたらしい。バイクにとっては特典だ。

この二輪停止線のおかげで、渋滞のあるときでも、バイクでの通勤はすこぶる効率がよかった。たとえ二輪停止線がなくても、信号では車の列の先頭に出るのが「マナー」になっている。車の先を走るバイクは、車の流れを先導しているようにも見える。だが、この二輪停止位置は専らバイクのためというものでもなさそうだ。

片側2車線の道路で、2台のバイクが車の列の前に並んでいた。後ろには車が連なっている。やがて信号が青に変わり、反対車線の車の動き出すのが見えた。信号の変わるのを待ちかねていたように歩道側の車線にいたオートバイは、青に変わるや否や、飛び出して行った。それに釣られるように後ろの車も動き出そうとした。だが中央分離帯側の車線の左寄りにいたモーターサイクルが1台、動こうとしなかった。ブレーキランプを灯けたままそのライダーは左腕をまっすぐ横に延ばして、隣車線の車の発進を制していた。足取りの遅い年老いた女性がまだ横断中だったのだ。

歩行者用の青ランプがウインクを始めてから赤に変わる短い時間では、足の遅い老人には横断歩道を渡りきることができないことがよくある。そのライダーは自分の前方がクリアになっても、老女の渡りきるまで、隣のレーンと自分の車線の交通を止めていた。小柄な女性の姿が見えなかったのだろう、後方の車何台かがクラクションを鳴らした。

女性がやっとの思いで安全圏にたどり着いたところで、そのライダーは左手を軽く上げて、背後の車に挨拶のサインを出すと、すかさずギアを一速に入れて発進、重いエキゾーストサウンドを残して、あっという間に視界から消えた。二輪停止線はバイクにとって特権ではあるが、ある意味では、歩行者と後続車の安全確保の義務を、ライダーに課しているのだ。



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