バイクデザイン考: カワサキの場合 (00.9.7)


カワサキのバイクのデザインを論じることは、たぶん多くのカワサキファンにとっては心外なことかも知れない。カワサキのバイクとは、すなわちカワサキらしさであって、うわべや格好とは別次元なのさ。なにがデザインだ、素人臭い。

たしかにカワサキには一種独特の「らしさ」がある。ひとつには、オーソドックスな基本デザインを踏襲したモデルが多いことと、ハーレーのようにその基本スタイルを維持し続けている姿勢のせいだろう。GPZ900Rは、熟成を続けながらその同じスタイルのまま、いまだ現役のロングセラーだ。映画「トップガン」でトム・クルーズがちょっと跨がっただけのニンジャのそのシーンは、ファンを強く印象づけたことだろう。Z1の流れを汲むネイキッドモデルとともに、カワサキの顔にもなっている。

とは言うものの、カワサキにもデザインを強く意識したモデルはある。それが大成功したのがGPZ400Rで、大失敗(おっと、オーナーには失礼)したのがGPZ250Rだ。

GPZ400Rは400ccクラスでたしか2,3年間売上でトップを記録したほどの人気を博した。そのクロスしたフレームをうまく生かしたカラーリングとグラマラスなボディが、フルカウルモデルでありながら、レーサータイプとは違う独特の気品を漂わせていた。とくに赤黒の車体がサイドスタンドにもたれている姿は、「低く身構えたヒョウ」を思わせる、と発売当時の雑誌のインタビュー記事でうまく評されていた。デザインに保守的なカワサキにしては異色のモデルだったと、今でも思っている。余談だが、かつて私はこのGPZ400RにしようかCBX400Fにしようか、さんざん迷った末に、空冷ネイキッドを選んだ。

もうひとつ、今では見かけることが少なくなったが、GPz750Fの流れるような曲線基調のデザインも周囲から抜け出る特異なもので、とくにそのバランスのとれたサイドビューは秀逸だ。ビキニカウルを本体と一体化しようとした当時のデザインの試みのなかで、これはうまくできた作品だと思う。

今カワサキのラインナップは、アメリカンとオフロードを別にして、Z1の流れを汲む空冷ネイキッドのZephyrシリーズ、GPZ系のスポーツツアラーZZ-Rシリーズ、レーサータイプのZX-Rシリーズに大別できようか。かつては、ドラッグレース風のEliminatorシリーズがあったが、250を残して消えてしまった。替わりに、復古調のモデルが追加されているが、これもかつて「カワサキらしさ」の代表選手だったからだろう。

カワサキでなくちゃ、というこだわりのライダーに支えられてきたカワサキは、一方でその路線のままバイクデザインに「らしさ」を保持しつつ、時として斬新なデザインを派生させることでライダーに幅を持たせてきた。私は、その突然変異のような派生モデルに、むしろカワサキらしさを感じる一人だ。



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