スズキのバイクの中でその独特なデザインで突出するのは、もちろんカタナだろう。生産中止の後、再生産される程の人気バイクだが、中免ライダーのためにコガタナまで用意されたのはご愛嬌だ。それまでのバイクのデザインに新境地を開拓したカタナは、その前にも後にも、同種の系統をもたず、それのみで一つの種を形成しているかのようだ。そのためもあって、後継機種にとって代わられることのないカタナは、今でもデザインのユニークさと新らしさは変わらない。
この看板娘は、しかし、スズキのカタナというより、そのデザイナーのハンス・ムートのカタナと言うべきかも知れない。スズキの功績は、むしろこの個性的なデザインのバイクを、実際に採用を決断して、製品として世に送りだしたことにある。見方によっては突飛な外観のこのデザインは、採用するかどうか社内で相当の議論があったと想像する。
スズキのバイクの特徴は、まずレーサーレプリカ路線にあった。RGガンマはレーサーレプリカブームの火付け役のひとつであったと記憶する。4ストでも、GSX-R750はナナハンでありながらレーサー級の軽量化の追求で、中型モデル並の軽さを誇っていた。2ストが消えた今でも、GSX-Rはコンセプトをそのまま現行モデルに引き継いでいる。だが、レーサーレプリカのブームが去った今では、フルカウルの外観にこれといった特徴を認めるのはむずかしい。
最新のモデルのハヤブサは、世界最高速の300km/hを誇るそうだが、その空力を追求したデザインは、スピードの一点にこだわったという意味では、コンセプトはレーサーモデルと共通だ。300kmを出せるのはドイツのアウトバーンくらいだろうが、この風圧のもとでは、伏せていた頭をうっかり上げようものなら、ヘルメットごと首を後ろに持っていかれるのではないかと想像する。
そんな人目を惹くモデルと比べると、ネイキッドモデルのGSF1200はその対極に位置するかのような地味な印象を与える。だが、このモデルのデザイン上の試みは特筆に値する。ダブルクレードルのフレームを、隠すのではなくて、見せるデザインの一部としてうまく処理している。フレームワークそのものに造形美を求めることは、タンクの形状優先の日本車ではこれまであまり成功していなかった。Banditも、その独特のフレームワークが秀逸でユニークなものだ。
このBanditとGSFで、カタナとレーサーレプリカのイメージを払拭したスズキの、堅実でかつスタイリッシュなバイクデザインの方向性を見る思いがする。