コーヒーブレーク「ケタはずれの世界」 (01.5.21 / 追記 03.2.21)


バイクのホイール径が16インチだ、18インチだという議論は、別にメートル法に換算しないからと言ってそんなに目くじらを立てることはないだろう。それが、どう回転性能とブレーキングに関係するか、分かることが大切だ。ただ、スピードメーターがkm/h ではなくて マイル/h だったら困る。逆輸入車に乗っているライダーは100キロに相当する目盛りのあたりにマークでもしているのかしら。

ノートパソコンの画面の大きさだって、13.3インチだ、いや14.1インチだとカタログで知っても、それは14.1インチは13.3インチよりちょっとばかり大きいという意味以上のものではないだろう。1インチは正確に何ミリなのか、それほど気にする人がいるだろうか。実際に計って比べて買う人など見たことない。そもそもどこからどこまでがモニターサイズなのか一般に知られているのだろうか。

以上は単位系の話だが、では 2,199,023,255,552円 っていくら?と聞かれてすぐに言える日本人はどれだけいるんだろう。英語圏の人間でも戸惑うかも知れないが、アメリカ式なら、2 trillion, 199 billion, 23 million 255 thousand, 5 hundred and 52 Yenと言うのが普通だろう。

日本語圏なら、2,1990,2325,5552 とコンマ取りすれば、この金額は小学生にだって一目瞭然だ。2兆1990億2325万5552円 だ。いや、おれはそんなことしなくても読めたよ、という人は、では、 18,446,744,073,709,551,616 っていくつか分かるだろうか? コンマ区切りが混乱させているだけで、こんな数字なんでもない。1844,6744,0737,0955,1616は、1844京6744兆737億955万1616 と読むだけの話だ。読めるだけではない、それがどのくらいの「量」か、概念的にわかるはずだ。1844の一万倍の、一万倍の、一万倍の、一万倍だ。ちなみに、京はケイと読む。

そう、問題は、なんで日本語圏でいながら、数字を3桁ごとにコンマで区切るのか、という話なのだ。デパートの値札は3桁区切りだ。なぜだろう? そもそも現在の学校の算数では、数字を何桁まで扱っているのか。私の小学生の頃は、算数の教科書だったか算盤の練習帳だったか、覚えていないが、数字は4桁取りで表記されていた。きっと、敗戦後の教育の刷新の中で、そのような教育を目指した試みがあったのだろう。だから、デパートの値札がいつも桁取りを間違えていたのを、子供心にヘンに思ったものだ。英語を知って初めてその理由が分かった。分かっただけではなく、英語で読み上げるには、3桁取りしないと混乱してしまう。私は今でも、英語で数字を議論するときは「換算」に時間がかかってしまう。「市場規模は4500億円、ということは、10億がビリオンだから、えーと450ビリオン円になって、ドル換算で約4ビリオン$....」うーん、電卓が要る。

日本語の数字の桁取りが4桁であるという、こんなだれもが分かっている事実が、議論もされずに蓋をされている。多分明治の頃、輸入された商業簿記かなにかの伝統ではないかと思っているのだが、まだこれに言及した研究書にめぐりあっていない。これは、一つには、日常生活には大きな数字と縁がないこともあろう。バイクのカタログや雑誌で価格はどのように表示されているだろうか。バイクの価格帯は10万円から200万円くらいのものだ。だが、下3桁はたいてい0だろう。つまり1000円が「価格単位」だ。だから、カタログでは669,000円と印刷されていることが多くても、バイク雑誌では66.9万円、または66万9,000円、さらに66万9000円という表示まである。編集者も苦労があるようだ。

私たち庶民が、デパートで高額の買い物をするときだって、せいぜい数万円のレベルだ。スーツの値札が、56,000であっても、まだ混乱は少ない。56万円のはずがないから(デザイナーブランドは別だけど、おれたち「庶民」だし)。車を買うときも、200万円のアコードと2000万円のフェラーリの価格を間違える人はまずいない。

私が4桁取りにこだわるのは、日本語の数の体系がそうなのにもかかわらず、ヨーロッパ語圏の3桁取りのサルマネをするには、なぜそうするのか、説明があってしかるべきではないか、ということだ。私はこれまで、誰が、いつ、なぜ、3桁取りを「国家採用」したのか、聞いたことがない。たとえ決算書関連の文書であっても、日本語で66万9千円を、669千円などと表記する精神構造は、私にはとうてい理解できない。表計算ソフトで作った表に、「単位千円」となっているせいか。

ところで、コンピューターの世界の情報量の単位、バイト、は、金額表示のように数字を長く連ねない。桁取りはしないで、キロ、メガ、ギガ、テラと単位を変えていく。これは1000で桁取りしているのではなくて、たまたま2の10乗が1024と1000に近いので、1024バイトを1Kバイト、1024Kバイトを1Mバイトとしている。冒頭の 2,199,023,255,552は、単位を通貨ではなくて、バイトとするなら、通常は2 テラバイトと簡単に呼ばれる量だ。




追記(03.2.21):『Googol』と『無量大数』 

はじめて Yahoo! が登場したころ、「ヤッホー」と読むのかな、なんて思ったりしました。今では検索エンジンとしては Google(グーグル) がすっかり代表格ですが、この Google の名前の由来は意外と知られていないようです。

google.co.jp のサイトに「Google の名前の意味 」の説明があるように、googol (ゴーゴル)をもじったもので、googol とは10の100乗という数です。とは言っても、ある数学者の遊び心による造語だそうです。google.com にはもっと立ち入った説明があって、「What Google means」によると、この宇宙にはこの数字の対象となるものは一切ない、そのくらいの「大きな」数のWeb上の情報を相手にすることをミッションにいしている、と説明があります。

翻って日本語の数詞を思うと、万、億、兆、京に続いて10の68乗の『無量大数』までは、事典などで簡単に調べがつきます。ただ、これらは数学の理論というより、「より大きな数」くらいの意味しかなかったことでしょう。「大きい数の言い比べ」の遊びでは、相手がいくら大きな数を言おうとも、「君のその数に1を加えた数」と答えれば勝ちになります。そのプラス1の代わりに、乗数を増やしただけのことですが、その忍耐づよさの成果が「無量大数の彼方へ」で一覧できます。不可説不可説転、まるで呪文ですね。

英語では、milliion の次の billion, trillion くらいは実際に使うことがありますが、その上の単位はほとんど衒学的な対象でしかないでしょう。関心のある方は「Names for Large Numbers」をどうぞ。centillion (10の303乗)と googol が解説の最後にあります。ちなみに、これらのサイトは Google で探したものです。




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